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ステップ0:神サマはお嘆きのようです

「さあ、追い詰めたぞ。観念しろ!」

「ま、待ってください!話、話を聞いて!」

「お前は“魔王”なのだろう?ならば問答無用!」


 煌びやかな鎧を身につけた美青年が、これまた燦然と輝く剣を大きく振りかぶる。彼の目の前に倒れるのは、ボロボロの黒いマントを纏った中年の男。ただ、その赤黒い肌や尖った耳は人間のそれとは明らかに異なっていた。彼は頭を抱え、自身に迫る死に怯え震える。


「お待ちください!勇者サマ!」


 美青年が今まさに剣を振り下ろそうとしているところに、神官服を着た冴えない青年が割って入った。魔王と呼ばれた中年男は思わぬ救いの手に顔を上げる。


「そうか、私を助けて——」

「私にこの魔王を殺させてはくれませんか」


 急転直下再び地獄に落とされた魔王は口をポカンと開けたまま、地面にへたり込んだ。「こいつ何言ってんの?」という彼の視線を無視して、勇者サマとやらと神官服の彼は物騒な相談を始める。


「私はこれまで後方での回復に徹していたため、他の皆さんと比べて戦いの経験が乏しいのです。なので、せめて魔王へのトドメは私に刺させていただきたいのです!」

「それはお前が即死魔法しか使おうとしないからではないか」

「攻撃魔法をそれしか知らないのです。頼みます!勇者の仲間だというのに敵を一度も倒したことが無いなんて、笑い者になってしまいます!」

「うーん、そうだな。……分かった、お前に譲ろう」


 二人の間で話はついた。「“せめて”って何だ。魔王を倒すのはメインディッシュじゃないのか」と魔王は思うも、その言葉を飲み込んで素早く地面にうずくまった。その体勢のまま、よよよと涙を流す。最後の抵抗、情に訴えかける作戦だったのだが、勇者とその仲間たちは魔王に目もくれていなかった。身内で何やら話し合っている。


「……で、どなたか武器を貸して頂きたいんですが」

「私の勇者の剣は私以外に扱えない。誰かいい感じの刃物とか持っていないか?」

「私の剣はどうだろうか」


 際どい防具を着た女戦士が、神官服の彼に立派な剣を手渡す。しかし、受け取るなり彼はそれを返却する。


「いや〜、コレはちょっと重いですね。使い難いですし、コレじゃあ魔王を倒せてもイマイチ格好がつかなさそうというか……」

「そうか……。それなら仕方ないな」


 女戦士は納得して剣をしまうが、魔王は「格好つかないってどういうことだ!魔王を倒したのなら、なんでも格好つくだろう!」と叫び出したくなる。しかし殺されたくないので黙っていた。どうせ殺られるというのに無駄な足掻きである。そして、そこで引き下がってしまうような自分に“魔王の威厳”なんて物が無いことに早急に気付くべきである。

 勿論勇者と愉快な仲間たちは魔王の内なる思いに気付くことなく、心底どうでもいい相談を続ける。


「では、他に誰か良い武器はないか?」


 勇者が尋ねるが、他の仲間は魔法使いらしい老人とお下げを垂らした武闘家少女。それと遊び人。神官服の彼に渡せるような武器は持っていなさそうだ。 しかしそこで意外にも遊び人が進み出た。


「コレ、こないだのカジノの景品で手に入れたんだけど、使えねえか?」

「おお、それは……。ソレなら軽くて使えそうです!」


 神官服の彼は意気揚々とそれを受け取り、何度か試しに振るってみる。使い心地は上々だった。どうやら決戦武器はソレに決めたらしい。遊び人に礼を言うと、膝を抱えて不貞腐れている魔王の方へくるりと振り返る。


「さあ、追い詰めたぞ。観念しろ!」

「いいぞー!頑張れー!」

「ファイットー!」


 勇者と呑気な仲間たちから応援の声が上がる。魔王はそういう体育会系のノリが嫌いだった。    幼い頃から運動が苦手で、それを理由に片思いの相手にフラれた事があったからだ。そしてその相手は「そんな簡単に人をぶち殺せるなんて、カッコいい!抱いて!」といって友人に持っていかれた。この悲しい過去は今生忘れることはないだろう。その今生が今まさに終わろうとしているのはともかく、魔王は胸を痛めながら表情を険しくさせる。そして神官服の彼が持っている武器を見て、更に険しくさせる。


「待ってくれ。まさか、それでトドメを刺す気か?それでいいのか?語り継がれるんだぞ?」

「ええい、問答無用!お命頂戴する!きえええぇぇぇぇぇ!」


 自分のキャラを忘れ、武人のように襲いかかる神官服の彼。手にした得物がブスリと突き刺さり、魔王はあえなく絶命した。勇者と気ままな仲間たちは拳を突き上げて勝ち鬨を上げる。さして苦労はしていなくとも、盛り上がれるチャンスがあれば盛り上がっておくのだ。体育会系のノリでああった。

 ともあれ、こうして勇者と魔王の戦いは決着を迎えたのだ。






「いやいやいや!待て待て待て!これで終わりとか嘘だろう!?ちょっと待って頂戴よぉ!」


 そんなどうしようもない魔王討伐の光景を離れた場所、天の上、というより別の次元、何処までも真っ白な空間の中から見ていた男は頭を抱えてうなだれる。彼の名を語る者はいないが、彼という存在を表すのはたった一言で足りる。

 そう、彼こそ、この世界を管理する神サマである。

 その神サマがお嘆きの理由は色々あるが、最も気に食わなかったのは神官服の彼が掲げている武器だった。自然の温かみを感じる、植物由来の環境に優しい天然得物。


「それ竹槍じゃねえかよ!農民に殺られる落ち武者じゃねえんだからさ!仮にも魔王だぞ?言うならば信長だぞ?この決まり手はねえよ……」


 ぶうたれながら、神サマは分厚い冊子に今回の戦いの記録を残していく。たくわえた顎髭が何とも胡散臭い風貌だが、神サマとしての仕事はちゃんとこなしていた。自分の管理する世界と、そこに住む人々を神相応に愛して守ろうとは思っているのだ。思っているのだが、この神サマこそ勇者と魔王の戦いを引き起こしている張本人であったりする。

 少しして神サマは記録をつけ終えた。そしてその冊子をパラパラと捲る。


「しかし、もう随分と続いてきたな。どんなコンテンツも長く続けば廃れるもんだが……それにしても最近のは酷すぎるだろう。もうちょっと盛り上がってもらわんと……」


 神サマは大きくため息をつく。手にしている冊子は、これまで幾度となく繰り返されてきた勇者と魔王の戦いの全てが記録されているものであった。今さっきコンテンツなどと口走ったが、神サマが世界を愛しているのは本当である。彼がこの戦いが盛り上がってほしいと考えているのも世界のためであるのだ。本当であるのだ。


「総合戦績は勇者の勝ち越しか。まあそれはいい。ただ問題は……」


 神サマが開いたページはここ最近の戦いの記録。その全てが魔王の黒星であった。それも健闘の末の敗北などではない。蹂躙、いじめ、リンチ、舐めプ、お遊び、「サッカーしようぜ!魔王がボールな!」など様々な比喩表現が思いつくくらいの圧倒的敗北であった。


「これ、流石に何とかしねえとなあ……。原因はなんだったか」


 神サマはページをめくって探してみる。そして見つけた。今回から十二回前の戦いの記録だ。そこに記された勇者と屈強な仲間たち。その能力がは歴代の勇者の中でも群を抜いて高かったのだ。その写真も載っているが、筋骨隆々で、勇者というより悪役レスラーのような出で立ちですらあった。人目見て「勝てない」と確信する圧倒的迫力である。対する魔王も弱くはないが、勇者にはとても及ばない。戦いの勝敗は既定路線を辿り、勇者側の圧勝で幕を閉じたと記載されている。

 そしてこの大敗が、魔王側の者達——魔族の戦いに対するモチベーションを著しく下げることになった。それが生むのは再びの敗北。敗北は更なるやる気の低下に繋がり、それが新たに敗北を呼ぶ。その負の循環が続き、気がついた時にはやる気のない弱っちい魔王しか生まれなくなってしまっていたのだ。

 つまり魔王が死ぬほど弱い原因は遠い過去の出来事。今更それを取り除くことなどできようはずもなかった。


「魔族らのモチベーションを上げようともしたが効果はイマイチだったし……やっぱり魔王を何とか強くしねえとどうしようもねえな。だが、俺がいたずらに干渉するわけにもいかねえしなあ……。誰か俺に代わって魔王を育ててくれねえかなぁ。こう、魔王のエキスパートみたいな奴がいればいいんだが……」


 「なんて、いるわけねえか」と自分の発言に苦笑しつつ、神サマは立ち上がる。大きく伸びをして、自分の顎髭をぴろぴろと触る。

 諦めたような発言をしつつも、神サマの頭には何かが引っかかっていた。妙案が喉まで出かかっているのに、勿体つけて出てこない。スッキリしない感覚に苛立ちつつ、神サマは自分のベッドへ向かう。他にやるべきことがあったのだが、一旦ふて寝を決め込むことにしたようだ。神サマもお疲れなのである。


「ん、こりゃ何だったっけ」


 そこで神サマはベッドの上に置きっぱなしになっていた、ある物に気づいて拾い上げる。それは別の世界の神サマが貸してくれた物だった。その別世界で流行している、携帯ゲーム機である。刺さっているゲームソフトは、これまた別世界で大人気の王道RPGのリメイク版である。


「あー、昨日寝落ちしたんだったか。いいよなー、アイツの世界は文明が発達してて。こっちの世界にはこういう娯楽なんて無いから、アイツに借りないといけないんだよなぁ。……ん?」


 携帯ゲーム機をまじまじと眺めつつ、神サマは首をひねる。床に放り投げられていたゲームソフトのパッケージも手にとって見てみる。主人公たちパーティが駆けるカッコいいイラスト。そのバックに描かれた、如何にも悪人であるという男の笑い顔。それを見た瞬間、神サマの脳内に電撃が走った。


「そうだ!魔王に詳しい奴、いるじゃあないか!山ほど!さすが私、名案だぁ。となれば、早速話をしなければ!」


 神サマは自分の素晴らしい発想に拍手すると、携帯ゲーム機をその手に握りしめる。そして瞬間移動で真っ白な空間から消え失せた。閃いた案を実行に移すために、別世界の神サマに会いに行ったのだ。

 同じような白い空間に再び姿を現し、神サマはそこにいる別の神サマへ声をかける。


「おーい、元気?ちょっと、ゲーマーを一人ほど貸して欲しいんだけど」

こんな感じで連載初めて行きたいと思います。

サッと読んでパッと忘れる、でも皆さんの24時間のウチの数分を彩れる、そんな小説を目指しております。

どうか肩の力を抜いて、横にでもなってお読み下さい。

よろしければお付き合いをば。

初回は一挙四話投稿!

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