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朔に咲く白ゆり  作者: Last Ortus
第1章 リンネ
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第1章 7話 レリス騎士団本部本館

「え?」


驚きの声くらい出る。

当たり前だ。

それくらい変な状況なのだ、今、この時間は。


「あ、起きた?おはよ〜」


うん、おはよ〜と言ってしまいそうになるほど流暢に流れ出た朝の挨拶。

違う、そんな挨拶なんかしている場合じゃないのだ。


体勢が────、押し倒されている。

あろうことか、上官でありながら同性、女性のノアに。


「...なに?この体勢。」


寝起きから解き放たれ、腕が彼女に掴まれていることに気付く。

襲われる。

確信したその時。


「いやぁ、ごめんねぇ〜。ちょっと色々あって。てへ。」


可愛く舌を出すノア。

驚きから軽蔑の目に変わってしまう私。

いけない、こんな顔を上官に向けてはだめだと思うが、今さっきまで掴まれていた腕が囁く。

「上下関係とか嫌いだったからいいんじゃない?」

よくぞ言った両腕、ということで顔はそのままにしておいた。


「いや、なにか勘違いしてると思うんだけど!?」


「知らない!」


その直後に見せた彼女のあの顔。

悲愴感に濡れた顔だ。

10人の騎士を失った時よりかは幾分かましな気もするが、なにか辛いことがあったのは予想できる。

全く、隠し事が下手な人だ。


「なにか隠しているんでしょう?」


「え。」


当たりだ。

記憶の始まりからそう経っていない脳がそう言っている。

どこかで体験したのだろうか、考えないようにした。


「いや...なにもないよ、ボクは何も知らない。」


あまりしつこく聞くのも野暮だ、ここらで引き上げようとしたその時。

ベッドから立ち上がったノアがふらついた。


「危な────」


「い!」


まだ騎士という職業の慣れていないためか、柔軟だけが取得の体は固まって動かなかった。

機械で言うところのフリーズによく似た感覚だった。


「あっぶなかったぁ〜」


運良くノアは後ろ側に倒れ、ふかふかの羽毛布団が優しく、優しく彼女をキャッチした。


「大丈夫!?」


見た限り、怪我はなさそうだけど...


「......」


「ノア?」


「あぁ、だ、大丈夫大丈夫。たまにあるんだ。足腰が悪いのかなぁ、あはは。」


最後の乾いた笑い声は、ノアの嘘を表していた。

隠し事が下手なだけでなく、それなのに多い、変な人だ。


「そうだ、アラタに話があるって聞いたんだ。リンネも一緒に行こうよ、君も呼ばれてるはずだよ。」


呼ばれた覚えはなかった。

なのに、何故か胸がざわついた。


......................................................


「ここがレリス騎士団本部の本館だよ。大事の時に集まったりするから、今までの道のり、全部覚えててね。」


あまりに無茶な要求だ。

覚えたのは覚えたが...この記憶力の良さには感謝するべきだ。

ノアだから、反発して覚えられないと言っても怒られないはずだが、違う上官からの命令ならばこの記憶力は役に立つはずだ。


正面口から左に曲がる。

コンクリートの床と、コンクリートの壁と、コンクリートの支柱。

そして支柱の奥、本部の庭と言える部分には小さな池と、その水を吹き出す小さな噴水があった。

歩くこと約2分、やっと本館の内部に入れるようだ。

厳重に警備された中門には魔法使いと思われる上級らしい制服を着た人間が立っている。

その人たちの前に止まり、ノアが身分証明書のような物を左の大男に渡す。

すると男は、針で刺されたかのように姿勢を伸ばし、手を指先まだ気を付けした。

そして言った。


「お目にかかれて光栄です!月神乃彩様!」


様付けで呼ばれるノア。

またあの決まり文句が小さな口から飛び出すのだろうか、とその時を待っていたが、ノアは証明書を受け取ると静かに中に入っていった。

追いかけなくちゃ。

駆け出すと、警備の男達が鬼のような形相で叫んだ。


「お待ちください!身分証明書を見せてもらわないと!」


「え...でも、そんなのありませんよ...」


歩みを止めたノアが振り返り、笑顔を作って言った。


「ボクの同行人さ、本部に用があるからボクが連れてきた。入れてあげて。」


また姿勢を伸ばし、


「はっ!」


中門の警備が退いた。

私は、音も鳴らさずに滑り込んだ。

歩みを進めたノアが、今度は顔だけこちらに振り向いて言った。


「あの子達皆言うこと聞かなくてさ、ごめんね、怖かった?」


怖かった。

一瞬何をされるかと心だけで身構えたのだ。

ノアには本当に感謝の2文字だけしか浮かばない。

今は、の話だが。


「うん、怖かった......ノア、ちょっと機嫌悪い?」


思ったことを口にした。

さっきから表情の変化が激しいし、いきなりぼーっとしたりする。

朝の件からずっとその調子だから、心配するのも無理はない。


「え?そう見えた?ごめんよ〜、ちょっと考え事しててさ。」


なんだ、それだけか。

ちょっとホッと、安心した。

だがその安堵は次の彼女の表情で掻き消された。

ノアの目に、涙が浮かんでいた。

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