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朔に咲く白ゆり  作者: Last Ortus
第1章 リンネ
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第1章 4話 レリス騎士団第8部隊

「みんな!撤退するよ!」


第八部隊の権力はかなり強いらしく、ノアにそう言われて、撤退し始めるみんな。

その後ろを、敵兵が詰めてくる。

前線で戦っていた自国の騎士達は次々と切り倒され、私の後ろにはほとんど人がいない。


「このまま国まで走れ~!」


ノアの指揮でギリギリ国まで逃げることに成功したのは、撤退を開始してからおよそ2時間後だった。

後方から聞こえた悲鳴から察するに、ノアの声が届かずに、逃げきれなかった仲間が何人かいるようだった。


「犠牲者は?」


ノアがそれぞれの部隊の隊長に問う。

ノアは、誰よりも犠牲人数を気にしていた。


「前衛で、第2部隊から3人、第7部隊から7人。合計10人だ。」


ノアは、少しだけ安心したような、だけども悲しそうな表情をして、つぶやいた。


「...敗戦にはなったけど、その割には少ない犠牲ですんだわね。」


謝らないと、そう思った。

いや、どう考えても謝って済む問題じゃない。

そんなことわかってる。

私がちゃんと魔法を使えていたら。

私が少しでもあの敵兵を殺すことができたら......その10人は、死ななかったかもしれないのに。


死んだ命は戻らない。


「......ご...めんなさい......」


意識して口から出すわけでもなく、気がついたら謝っていた。

もう一度私自身を諭した。

謝って済む問題じゃない。

すっかり崩れそうになった心を辛うじて支えた言葉。


「いや、リンネのせいじゃないよ。撤退命令出したのはボクだし、魔法を使えるっていうはやとちりしたのもボク。リンネの責任じゃないよ。全ての責任は...ボクにある。」


あれだけ自由奔放の化身に見えたノアの声と顔は、悲壮感に満ちていた。

涙の混じったような声が静かに消える。


「ノア。今回の件の撤退は、流石に上に報告せざるを得ない。俺から報告させて貰う。でついでに言えばその態度もいい加減直せ。一騎士として愚かだ。」


冷たい声でノアに突き刺さるその言葉は、規則や命令を破った者へ対する軽蔑とも見れた。


「た、態度については少しずつでも変えてみせる。...だから処分だけは、それだけは待ってくれ。今作戦では、どう考えても......リンネの魔法の不具合で、命に関わる問題だったんだ!ボクは...作戦や命令よりも人の命を大事にする。」


改めて自分の魔法が原因だったのを確認させられて、支えられていた支柱が折れたような気がした。


「...ダメだ。俺は上には逆らわない。」


「アラタさん、騎士って、なんですか。」


サクノさんが口を挟んだ。

それもいとも容易く。

騎士、それは人の命を守る、選ばれた人材だと、私は思った。


「......」


「騎士って、人の命を守るのが仕事じゃないんですか?」


その言葉が騎士としての立派な心構えをしているアラタさんの心に刺さった気がした。


「.........わかった。今回だけだ。だが、次の命令違反は騎士追放だ。つまり、クビだ。」


「...わかってる。」


ノアは、今にも泣き出しそうなくらい目に涙を浮かべて言った。

あんなに昼間は楽しそうだったのに...人の心の綺麗さを知った気がした。


「次はないからな。」


そう言って部屋から出ていくアラタさんを見てか見ないでか、ノアはいっそう深く悲しい表情をしていた。

ノアはそのまま、「帰るね。」と言い残して、部屋を静かに出ていった。


...私は、今作戦でなんの意味も成さなかった。

魔法も失敗して、命令を待っているだけの、役立たずだった。

ただ、魔法が制御できたら、少なくともあの10人は死ななくて済んだのだと、改めてそう思った。

それと同時に、魔法が使えるまで待ってくれなかったノア。

彼女に怒りの矛先が向きそうになった。

思わず涙が出そうになる。

でも、私がこの程度で泣いてたら。

ノアはきっと、もっと苦しい思いをして、もっといろんなことを考えているはずだから。

だから私は、涙を堪えた。


「嫌な天気………。」


窓の外は分厚い雲で覆われて、陽の光は差し込んで来なかった。

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