絶体絶命
俺たちは再び逃げていた。後ろから追いかけてくるジャイアントスパイダー。魔物の足は速く、俺たちに攻撃をしかけては、また追ってくる。
「きゃー!」
クーニャンが俺の髪の毛をひっぱりながら、前へと飛んでいた。しかし彼女の力は弱く、その程度では俺の足は加速しない。ただ髪の付け根が痛いだけだった。
「ど、どどど、どうする?」
「逃げて、早く、逃げて」
「分かってるよ。狩場を出よう」
「駄目よ。もうこの一帯はどこも魔物の匂いがするわ」
「ど、どどど、どうすれば?」
「死ぬしかなーい!」
「く、くそう」
俺は前に走りながら半身だけ振り返り、
「バースト」
唱えた。
空間が炸裂し、蜘蛛は地面に伏せる。
「キュウッ」
モンスターは痛そうな声を上げるが、再び走り出す。追いかけてくる。
「おい、効かないんだけど」
「知らなーい!」
俺はもうライフポイントもマジックポイントも少ししか残っていなかった。走っていると地面が終わっていた。崖である。
「おいっ」
俺は足で地面にブレーキをかける。
「あほう、そのまま飛んでっ」
クーニャンが髪の毛を引っ張る。
「飛べば死ぬだろう」
「止まっても死ぬわ」
「戦えば倒せるかもしれん」
「無理無理無理無理」
「くそう、どうすれば」
「飛んで。私が完全感覚フライヤーを使うから」
「わ、分かった」
俺は決死の思いで崖から飛び降りた。空中で、右手でクーニャンを捕まえる。
「おいっ」
「死んだね。おめでとう、オウカ!」
「完全感覚フライヤーは!?」
「何それ、私知らなーい」
「嘘っ?」
俺は落下していく。下には林が見えた。
「くそっ」
俺は崖を向いた。ふと、少し下に岩が突き出ているのを見つけた。俺は逆さになり、クーニャンを離す。そして両手で岩に向かって唱える。
「バースト!」
空間が炸裂し、俺たちの降下スピードにブレーキがかかる。そのままきりもみして、岩に落下した。
「痛って!」
「キャアア!」
クーニャンも飛ぶことを忘れて岩の上に転がっていた。俺は痛む体をそのままに、上を見上げる。崖の上ではジャイアントスパイダーが口惜しそうに、こちらを見ていた。やがて引き返していく。あきらめたようだ。
ふと、岩の前、崖の斜面には人間一人がちょうど入れるような横穴があった。そしてあの時の匂いは、鉄のサビのような香りはここから流れている。どうやら幸運なことに、メタルサーチの場所に着いたようだ。
俺はクーニャンに近づく。
「おい、平気か」
「頭打った」
クーニャンは両手で頭を押さえている。痛そうだ。
「お前にもライフポイントはあるのか?」
「……無いけど」
「ふーん。それより喜べ。メタルサーチの目的地が見つかったぞ」
「嘘?」
クーニャンが頭を押さえながら顔を上げる。
「本当」
俺は横穴を指さす。
「ここが。なるほどね。こんな場所は誰にも見つけられないわ」
「行ってみよう」
「待ちなさい」
クーニャンが腰に両手を当てて宙に浮いた。
「休憩してから。あんた、自分のライフポイントと、マジックポイントが残りいくつか分かってるの?」
「そ、そうだな」
「まったく、私がいないとどうしようもないんだから」
クーニャンはやれやれとため息をついた。
お前だって、さっきは俺が死ぬ選択肢しか見つからなかったくせに。その言葉を俺は飲み込んだ。争ったってしょうがない。それより今は、ワクワクしていた。