目覚め
俺が目を覚ますと、そこは森だった。地面があり、土の匂いがした。天気は快晴で、温度も高く温かい。藪が生い茂る獣道の真ん中で、俺は倒れていた。上半身を起こして体を確認する。灰色のジップパーカーを着ていた。ズボンはレザー製のもの。背中に小さな剣を背負っている。抜いて確認すると、刃が銀色にぎらりと光った。刀とは違う。両端が刃になっている。ブロードソードというものだろう。俺は剣を鞘に戻す。
「ここが、ゲームの中か?」
何だろう。小さい頃にアニメで見たような、バーチャルリアリティ式のゲームということだろうか。
俺は地面に両手をついて立ち上がる。自分の身長は高いようで、170cm以上はありそうだ。それは前世の自分よりも身長があるということだ。俺はうれしくなった。とりあえず鏡が見たい。そして自分の顔を確認したい。イケメンだろうか。ブサイクだろうか。前者であってほしい。ふと、近くの木と木の間から小さな人間が降りてきた。人間というより、なんだろう。 小さすぎる。妖精と言うのが正しそうだ。羽がある。
妖精はくるくると回り、
「くるくるくるん、ちゃっちゃ。へい、やっぴー」
俺の顔の前に停止すると、ぱたぱたと羽を振動させた。妖精は女の子であり、気さくに右手を上げている。
「や、やっぴー」
俺も右手を上げた。続けて、
「誰だお前は」
「私? 私は最後のボスよ。貴方が退治するところのね」
妖精は両手を腰に当てて、薄い胸を張った。
「最後のボス?」
俺はさすがに面くらった。最初から最後のボスに会うなんて、ついてない。ここは逃げた方がいいんじゃないか。
「なーんて、嘘嘘攻撃でしたー。どう? キュンとした?」
「嘘なのか?」
「私は真の姿はアドバイザー。貴方のゲームプレイングを補佐する説明書よん」
妖精は肩で切りそろえられている緑色の髪をかき上げた。髪が風になびく。彼女の格好は、薄い黄色の服の上に、鉄の胸当てをしている。下はミニスカートだ。ひらひらとしている。腰には羽ペン携えている。
「君君、まず、名前を設定してくれるかな」
「名前?」
「君の名前だよ。私が決めてもいいけど、エロリンチョとかにするわよ」
「名前? そうだなあ。前世ではサクラの木だったことがあるし、桜花でいいよ」
「オウカね。なにそれ、女みたいな名前ね。キャハハ、ぷぷー」
妖精は口元に両手を当てる。
「笑うなよ」
「笑うわよ。それより、聞きたいことがあるんじゃないの?」
「聞きたいこと?」
「このゲームのこと。色々教えてあげるわよ」
「とりあえず、これからどこに向かえばいいのか分からない」
俺は右手を顎に当てた。
「それは私も分からない」
彼女は左手を顎に当てる。
「使えないな」
「あ、馬鹿にした? いま、私のこと馬鹿にしたでしょ」
「してない。それじゃあ、一応聞くけど。お前の名前は?」
「クーファンよ。クーニャンでいいわ」
「クーニャン? まあなんでもいいけれど。クーニャン、俺のレベルを教えてくれ」
「永遠の1」
クーニャンは人差し指を立てる。
「マジか」
「永久の1とも言う」
彼女は反対の手も、人差し指を立てる。
「俺、ゲームやめようかな」
「なーんて嘘嘘。どう? キュンとした?」
「……してない。でも、レベルは1なんだよな」
「正解。でも、何よその実は知ってました、みたいな言い方。ひどくない?」
「いや、だって今ゲーム始めたばっかだし」
「ゲーム? 何言ってるの。ここは地獄よ」
「……は」
「だ~か~ら~、貴方は天国に行けなくて地獄に落ちたのよ?」
「嘘だろ?」
「うん。ピース」
クーニャンが右手でピースする。
「おい、さすがに怒るぞ? 今の冗談はひどいだろ?」
俺は右手を上げてグーにした。
「あー、とうとうキュンとしたみたいだね。逃げるが勝ち!」
クーニャンは上空へと飛び去って行った。何だろう、あの妖精は。なんだか無性に疲労感がある。何であれがアドバイザーなのだろうか。
「まあ、ひとまず、どこか人の集まる場所を探さないと」
俺は独りごとをつぶやいた。近くに村や町があると思う。ゲームなんだしあるだろう。そこへ向かおう。だけど、クーニャンを置いて行ってもいいのだろうか。
俺は仏頂面になった。
「待つ、か」
俺はまた頭上を見上げた。
その時だ。
「きゃああああああ!」
少し離れたところで女性の悲鳴が聞こえた。クーニャンの声とは違う。何だろう。何かイベントが起こったのだろうか。
「待ってろよ」
俺は助けに向かうことにした。