ライバル
続きです。
二人は覆面をしていた。ルルアはいつもの大剣を持っており、動きやすそうな服を着ている。下はズボンだ。モモは最初に山で見たロッドを持っている。紫色の、フード付きのローブ姿だった。
「オウカ。準備はいいか?」
俺はベッドから起き上がっていた。準備は出来ており、ロングソードと盾を背中に担いでいる。
「いつでもいいぞ」
「よし、行こう」
「オウカ様、お願いいたします」
「分かってる」
俺は頷いた。
「クーニャン」
俺は掛け時計の上にいる彼女を呼んだ。
「はいはーい」
クーニャンは降りてきて、俺の肩に座った。
「絶対勝つぞ」
ルルアが言い聞かせるように息を吐く。
「ああ」
「ええ」
「余裕っしょ。オウカは強いから、裸でも勝てると思うけど」
「チビ、うるさいぞ」
ルルアが口の端を吊り上げる。
「あっ、チビって言った。許さないぞ。オウカ、やれっ」
「俺はお前の子分かよ」
俺たちの間に和やかな空気が流れる。クーニャンを除いた三人が苦笑した。
「よし、行こう」
俺は蝋燭の明かりを消す。そしてルルアを先頭に部屋を出た。廊下を歩き、階段を下りる。食堂に出て、玄関から外へ。夜道は明るかった。月明かりで照らされる村は、まるで隠れて逢瀬をする男女を祝福しているかのようだった。しかし俺たちは違う。これから襲撃に行くのだ。もしかしたら人を殺すかもしれない。前世で人を殺した経験は、あったような無かったような。思い出せなかった。戦国の時代に兵士として生まれた経験があれば、気持ちの持ちようもまた変わっただろうに。
「こっちだ」
ルルアが歩いて行く。道を右に折れ、左に折れ、真っ直ぐ進む。村の門とは反対、奥の方へと進んで行った。やがて、木の柵で囲まれた豪奢な館が見えてくる。
「あそこか」
俺は訊いた。
「はい、あれです」
モモが小声で言う。
俺は館を見上げた。直方体の大きな建物であり、木造であった。小さな旅館ほどの大きさがある。何人でここに住んでいるんだろう。蝋燭の明かりがあった。まだ住人は起きているようである。ふと空気ににじんで火薬の匂いがした。危険な香りである。武器庫か火薬庫でもあるのだろうか。爆弾でも投げつけられたら、俺は大丈夫でもモモやルルアは死にかねない。これは、心してかからねばならない。
俺は一つ、心の中で決め事をした。戦いが終わったら、ルルアとモモのレベル上げをしよう。そして、ライフポイントを上げてやろう。
「いいか、二人とも」
ルルアが声をひそめた。
「正面から突破する。オウカは先陣を頼む。あたしはモモをガードするから、モモは魔法で敵を攻撃してくれ。」
「分かった」
「私は? 私は?」
クーニャンが人差し指をあごに当てる。
「チビはオウカの援護だ」
「あ、またチビって言った。許さないぞ」
「クーニャン、今は許してやってくれ」
「ぷー」
クーニャンが頬を膨らます。
「それじゃあ、オウカ。行ってくれ」
「分かった」
俺は木の柵の中心の門をくぐり、庭へと移動した。小さな池があり、鯉が飼われているようだった。鯉が飛び跳ね、水面を揺らす。
玄関の前に来た。ドアノブを握り、扉を開く。中は赤い絨毯が敷かれており、燭台には火がともっていた。燭台はいくつもある。そしてすぐそばに階段があった。そこには、腹のでっぷりとした男が座っていて、何か飲み物をグラスで飲んでいる。ワインだろうか。ムイムイはタキシードを着ていた。胸ポケットには一輪のバラがさしてある。
「おっ、モモたん、来てくれたか」
俺は背中のロングソードを抜いた。盾も取り、左手に持つ。
「あれえ、なんで覆面? 男もいるし」
俺はどしどしと玄関からホールに上がった。こいつを殺せばイベント攻略だろうか。ならば話は早い。
「ちょ、ちょっと待ってよ。俺を殺す気?」
「死ね」
俺は右手でロングソードを振りかぶった。ムイムイに切りかかる。彼は立ち上がり、背中を見せた。逃げようとする彼の右手を切り裂く。
「ぐわああああああああああああああっ!」
ムイムイが大きな悲鳴を上げた。体から右手が無くなった。切り口から血が噴出している。クリティカルが出る必要も無く、俺の力は強かった。
「おい」
俺は半身だけ振り向いた。ルルアに尋ねる。
「殺していいのか?」
ルルアは小刻みに頷く。
「分かった」
俺はロングソードを構える。
「グランツ兄ちゃん。助けてくれええええええええ!」
ムイムイが叫んだ。
二階の一部屋が音を立てて開き、筋肉質の背の高い男が出てくる。彼はズボンを中途半端に履いていた。寝ていたのだろうか、ズボンを上げて、ベルトを締める。
「ムイムイ、俺が女抱いてる時は静かにしろって言っただろ」
「に、兄ちゃん。俺の、俺の腕が」
「お前、何があった!?」
グランツは急いで階段を下りてくる。すぐに状況を飲み込み、俺を睨み付けた。中々のイケメンである。しかし悪人面ともとれる。髭をたくわえていた。
「お前がやったのか?」
「そうだと言ったら?」
俺の胸は緊張でバクバクと鳴っていた。
「俺の可愛い弟をこんなにしやがって、殺してやる」
グランツは両手の平を叩いた。大きな音が鳴る。
「カイナ! 来てくれ」
彼は助けを呼んだ。俺は苦笑する。
「兄弟そろって、自分では戦わないのか? 似ているな」
「お前、死ぬからな」
グランツはただごとではないような形相で睨み付ける。
一階の奥の扉が開いて、今度は黒装束に身を包んだ背の高い男がやってきた。瞳が鋭く、カラスのような男だと思った。こいつは強そうだ。俺は見ただけで、それを感じ取っていた。そして驚いたことに、このカラスのような男の後ろには、妖精がついてきていた。
「おい、クーニャン。あれは?」
俺の肩にしがみついている彼女に声をかけた。
「妖精付きね。貴方と同じ、ゲームプレイヤーよ」
「それは、どういうことなんだ?」
「だから、貴方と同じで、レベル1でこの村に来た、勇者ということよ」
「そ、そうか」
グランツは自分の右袖を切り裂き、ヒモ状にしてムイムイの腕の付け根に固く結んだ。ムイムイの右手から噴出する血がゆっくりと止まる。
「どうした? グランツ」
カラスのような男が訪ねる。
「カイナ、曲者だ。退治してくれ」
グランツは俺たちを右手で示した。
「了解した」
彼はカイナという名前らしい。カイナは持っていた金属製の大きな爪を両手にはめる。
「あれ、クーじゃん」
カイナの妖精が、クーニャンを見つけて目を丸くしていた。
「おお、メルディーだ。へいやっぴー」
「やっぴー」
二人は気さくなやりとりを交わした。お互い右手を上げている。
「カイナとか言ったか?」
俺は話しかけた。
「何だ?」
低い声音である。
「どうしてこいつらに味方する? こいつらは、悪い奴らだろ?」
俺は左手でグランツとムイムイを示した。
「俺は戦う者だ。戦いをくれる者に従う。グランツは俺に戦いをくれる。だから従う。前世でもそうだった」
「ふーん、じゃあ明日から私が戦いを貴方にあげる」
クーニャンが緊張の無い声で言った。
「お前からは戦いの匂いがしない」
「うそーん」
クーニャンが両手で自分の頬を挟む。
俺は尋ねた。
「おい。お前も前世で愛を一億ためたから、このゲームをプレイしているんだろ?」
「そうだ」
「戦いで愛を貯めることができるのか?」
「無知だなあ」
カイナが笑った。ふと、横ではグランツがムイムイの体をかつぎ、奥の部屋へ連れて行くところだった。
「無知?」
俺は眉を寄せる。
「教えておこう。人を一人殺せば犯罪者だ。だが、人を一万人殺せば英雄になる」
「……なるほど」
俺は納得した。確かに、戦争で人を一万人殺したのであれば、それは賞賛に値する。自国の民からは絶賛されて愛されることだろう。
「だが、悪の味方をする理由にはならないだろう」
「無知だなあ」
カイナは、今度は表情を歪めた。
「無知だと」
「戦いという者は、いつでも勝者に正義があり、民の祝福がある」
「おい、オウカ」
後ろでクーニャンが肩に戻ってくる。ルルアとモモはしゃべらない。声を出さないことを約束していた。
「こいつとは分かりあえない。やっちゃおう」
「そうだな」
俺は右手にロングソード、左手に皮の盾を構える。
「俺はお前を殺そうと思うが」
「俺もお前らを殺す」
「最後に聞かせてくれ」
「何だ」
「なぜ戦いを欲する」
「リンゴは赤い。なぜだ?」
「なぜ? 知らん」
「リンゴは赤い。その理由を考える者などいないだろ?」
「そりゃあ」
「同じだ。俺は戦う。そこに理由など要らない」
「くー、分かりあえねえ」
クーニャンが俺の肩から飛び立った。
「戦闘狂のカイナね。オウカ」
「わ、分かった」
俺は覚悟を決めた。
「行くぞ」
カイナが右手を振るう。大爪を俺は剣で防ぐ。
「悪いが、本気で行かせてもらうぞ」
俺は宣言した。
「じゃあ我も、本気で行こうか」
俺とカイナの攻撃が交錯する。
ズバーン。
クリティカルが決まった。カイナの大爪が折れる。
「何?」
カイナが焦ったような声を出す。
「悪いが、俺の勝ちだ」
俺は突きを放つ。カイナは後ろに飛びあがって避けた。
「会心の一撃だと?」
「俺は三発に一回はクリティカルが出るんだ」
俺はニタニタと笑った。
「カイナ、お前に勝ち目は無い」
「そうかな?」
カイナが両手の大爪を交差させる。ふと、折れた部分が再生していく。
「何っ」
「我の爪は、ミオンザメの歯で出来ている。ゆえに、折れても、何度でも生えてくる」
「マジか……」
俺は驚嘆した。これでは、クリティカルが出ても相手の武器を破壊できない。
「落ち着きなさい、オウカ。貴方のステータスは相手の何倍もあるのよ」
クーニャンがぴしりと言った。
「でもプレイヤースキルはあんまり無いようね」
メルディーが言った。俺の方に両手の平を向けている。手の平からは黄色い光がこぼれている。
「うっそう、こいつ、レベル52だ」
俺のレベルがばれてしまった。
「何年この村の周りで狩りしたんだろ」
「メルディー、下がれ」
「カイナ。やばいよ、負けるかも」
「立てる私に、敗北はありません」
ふと、ルルアが隣に並んだ。大剣を両手で構えている。
「すまん、手伝ってくれ」
後ろではモモがロッドを一回転させ、構える。
「我一人に対し多人数とは、卑怯だな」
「何とでも言え。俺は勝たなきゃいけないんだ」
「メルディー」
カイナは妖精に言った。
「墓を三つほど掘ってくれますか」
「了解よ」
「俺たちを埋めるってか?」
俺は挑戦的に言った。
「女を殺すのは好きではありませんが」
カイナが床を蹴った。飛びかかってくる。
「仕方ありませんね」
カイナが大爪を振りかぶる。
「ハイバースト!」
俺は唱えた。目の前の空間が大きく炸裂する。カイナはひどい勢いで吹っ飛んで行った。遠くの壁にぶつかって、床に転がる。
「うおっ」
ルルアが声を上げている。しかし息を吐いたような音だった。魔法の威力に驚いたようだ。ちなみにオーラバーストも覚えているが、これは今は使えない。自分の周囲を炸裂させる範囲魔法だからだ。味方にも当たってしまう。
「こんなもんか」
俺自身も、自分の力にびっくりしていた。
「げふ、仕方ありませんね」
カイナは起き上がった。口を切ったのか、唇に血の糸が引いている。
「おい、クーニャン。相手のレベルが分かるか」
「ちょっと待ってね」
クーニャンはカイナに向けて両手の平を突き出す。手の平からは黄色い光が起こる。
「レベル8よ」
「負ける通りが無いな」
「我が負ける? そんなことはあり得ない」
カイナの顔が変質していた。黒い毛が生え、口からはたくましい牙が伸びる。両腕の筋肉は膨らんで、黒い服が弾けるように千切れた。カイナは、獣へと姿を変える。両手に装備していた大爪を捨てた。
「クーニャン、あれは何だ?」
「変身ね。ユニークアビリティよ」
「マジか」
「ここが貴方たちの墓場です」
完全に黒い獣へと姿を変えたカイナが、ゆっくりと歩いてきていた。身長は伸びていて、二メートルはありそうだ。
「オウカ、もう一発」
クーニャンが言った。
「分かった。ハイバースト!」
俺は右手をカイナに向けて突き出す。空間が炸裂した。しかし黒い獣は床に爪を立てて魔法に耐え、こちらへ飛びかかってきた。
「くっ」
俺は驚嘆した。
ルルアが走り出した。大剣を振るう。カイナが右手を振りかぶる。二つの攻撃は交差し、ルルアは横に倒れた。
「ああっ」
「火柱!」
モモが小声で唱えた。カイナの立っている床が爆発し、真っすぐ上に火柱が起こる。カイナは横に飛んだ。火柱を食らっても、飄々としている。ダメージが無いはずは無いが。
「何て使えないの、この姉妹は」
クーニャンがぷんすかと怒っていた。
カイナが床を蹴る。そして天井に飛びあがり、天井を蹴って、まっすぐ俺に向かってきた。まるで弾丸のようなスピードである。
「ガードウォール」
モモがまた小声で唱えた。俺の前に灰色の壁が現れる。カイナは壁に着地し、壁を殴る。しかし魔法で作られた壁は壊れなかった。
「ナイスだ、モモ」
俺はガードウォールの効果が切れるタイミングを見計らって、カイナの腹に剣を薙いだ。
ズバーン。
俺の頭上に軽快な音が響く。
「なっ!」
カイナはまたも吹き飛び、壁に当たって崩れ落ちた。感触からして、肋骨が折れただろう。これ以上の戦闘は、カイナが傷つくだけだった。
「おい、あきらめろ」
俺は言った。
カイナは腹を押さえて立ち上がる。
「強者よ」
カイナの声は変身前とは違って変質していた。しかし聞き取りづらいということは無かった。
「俺は、修行する」
「逃げるのか?」
「そうさせてもらう。メルディー」
「ほいさあ」
「撤退です」
「うん。仕方ないね。だって、相手はレベル52だし」
「オウカ!」
カイナは大声を出した。
「何だ?」
「お前の事、覚えたぞ」
「勝手にしろよ」
「ではな」
カイナは右手でメルディーを握り、こちらへと歩いてきた。ルルアは立ち上がっており、大剣を構えている。俺も警戒した。モモは玄関から移動して、俺の後ろに隠れる。俺たちの横をどうどうと、カイナは過ぎ去って行った。玄関を出て、扉が閉まる。
ブックマーク、ありがとうございます。とてもうれしいです。
実は私は、戦闘シーンを書くのがとても下手だと、自分では思っています。
でも、読者様は、鮮やかで濃密な戦闘シーンを読みたいですよね。
下手な話をしたので、じゃあ得意なものは何なんだ? って思いますよね。
すいません、得意なところは自分では分からないです。
へたれ登場ですね。
ささ、こんなところで、今日は更新を終えます。明日も良い一日でありますように。読者様も。




