やっと進み始めるストーリー
季節は夏を迎えていた。暦で言うと七月の終わりであり、宿屋の庭では夏椿が白い花を咲きほこらせていた。狩場ではモンスターの動きが活発になり、強いモンスターが山から下りてきていた。山菜を取りに行くために、ボディガードを頼む村人もいるという話だ。
俺は202号室のベッドに座り、クーニャンと対面になって会話していた。彼女は空中に停止し、羽をせわしなく振動させている。
「なあ、そろそろイベントを進行させた方が良いと思うんだが」
「そうね。もうあの洞窟に行ってもレベルは上がらないし、というか私としてはさっさと進めてくれって気分なんだけど」
クーニャンは両腕を組んだ。
「で、どうすればいいんだ?」
「は? 分かんないの?」
「分からん」
イベントは、どうすると進行するのだろうか。
「馬鹿じゃないの? この宿屋に来た時、モモとかいうあの娘が言ってたじゃん。思い出して」
「何か言ってたっけ?」
俺は思考を巡らす。あの時モモは確か。
「分からなければゲームセット」
「いや、思い出した。確か、モモに用事があるなら厨房へ来てくれと言ってた気がする」
「うん。行ってらっしゃい」
クーニャンが両腕を解いて、腰に当てる。
「用事は無いんだが」
「早く行けっ」
「わ、分かったよ」
俺は立ち上がり、部屋を出た。後ろからクーニャンもついてくる。廊下を歩き、階段を一つ降りる。食堂はいつものように人混みが多かった。俺は厨房の方へと行く。そこではこの宿屋の主人である爺さんと、モモが一生懸命に料理をしていた。俺はモモに話しかける。
「よお、モモ」
俺は右手を上げた。
「あ、オウカさん。何か用事ですか?」
「じ、実はお腹が空いて」
「そうですか。では、すぐにお作りします。食堂で待っていてくださいな」
「あ、ああ。分かった」
俺は食堂へと移動する。空いてる席はカウンターだけだった。椅子を引いて座り、食事が来るのを待つ。すぐにモモがやってきた。ウェイトレスのエプロンをしており、頭には白い三角巾が印象的だった。
「オウカさん。お水です」
「ありがとう」
「ご注文は、何がよろしいですか」
「オススメで」
「かしこまりました」
「後、ハチミツも」
俺はクーニャンの大好物がハチミツであること、この三か月の間で知っていた。
「クス、そっちのカワイイ方の分ですね」
「ああ、お前、いま馬鹿にしたなあ。小さい私を笑っただろう」
「いえいえ、笑ってなどいません。それじゃあ、作って参りますね」
モモはいそいそと引き返していく。俺とクーニャンはしゃべりながら待った。
「ねえオウカ。あの女、絶対オウカに惚れてるよ」
「いや、無いだろ」
「いや、あるでしょ」
「何でそう思うんだ?」
「私はね、目がいいの。それでね、相手の瞳孔の大きくなったり小さくなったりするのが分かるのよ。あいつ、オウカとしゃべる時だけ瞳孔が大きくなるわ」
「瞳孔の大きさで、人の好き嫌いが分かるのか」
「分かるよ」
「ふーん。まあ、女性に好かれるのは悪い気はしないけどな」
ふと、俺の隣の席を引く者があった。俺は顔を見上げる。
「隣いいか?」
その人は女性であり、筋肉質な体をしていた。女性にしては身長も高そうだ。髪をポニーテールに束ねており、赤いシュシュをしていた。誰かに似ている。それは前世の地球での芸能人だったろうか。思い出せずに頭がモヤモヤとする。
「ええ、どうぞ」
俺は言った。彼女は腰かける。
「お前、山でこの宿屋の娘を、キングベアーから助けたんだって?」
「あ、はい。そんなこともあったような」
「三か月前のことだからね。あんまり覚えてないわ」
クーニャンがコップに抱き付いて水をすすった。
「お前、妖精付きか」
「まあ、そうですけど。珍しいですか?」
「いや、このプートゲールはリアラでも始まりの地って呼ばれてる。若い人間の妖精付きが来るのはしょっちゅうだ」
「リアラ?」
「お前、この星の名前も分かんねーのか」
「あ、この星はリアラと言うんですね」
「くー、妖精付きってこれだから嫌だ。何も分かんねーんだもん」
女がやれやれと両手を開いた。
「……はぁ」
きつい口調だった。ボーイッシュと言えば聞こえはいいが、どこか嫌味を感じる。
「それで、お前はモモのことをどう思うんだ?」
モモのことは呼び捨てだった。もしかしたらこの女はモモの友人かもしれない。
「どうって、どうも思いませんけど」
「嘘つくな。あたしゃ分かるんだ。お前が下心を持ってモモのことを助けたってことぐらいな」
「下心なんてありませんが」
「嘘つけ。モモは可愛い顔をしてる。お前はモモをこの宿屋から連れ去って、あわよくば狼になる気だろう。そうだろう?」
「いえ、違います」
「面白い女だな」
そこでクーニャンが宙に飛び立った。続けて、
「おい、オウカ。こいつムカつく。ぼこぼこにしてやろう」
「おい、クーニャン、それはまずいだろ」
「いいだろう」
ボーイッシュな女も立ち上がった。その時初めて、彼女の背中には大剣がささっているのに気づいた。両手剣である。俺たちの会話を聞きつけたのか、食堂の客がざわめきだす。
「おっ、喧嘩か?」
「お、やれやれー」
「ルルアちゃん喧嘩っ早いんだから」
この女はルルアと言うらしい。
「俺はルルアちゃん50メル」
「ずるいぞ、俺もルルアちゃんに300メル」
「ルルアちゃん、頑張れー」
賭け事まで始まっている。ここで退いては、俺はチキンであったと評判になるだろう。そして俺のプライドに傷がつく。
「やってやるよ」
俺は立ち上がった。
「へい、オウカ。ルルアなんてやっちまいな。オウカに全財産!」
クーニャンが賭け事に参加していた。俺の腰から銭袋を取り、テーブルに持って行く。
ルルアは大剣を抜いた。そして両手で構える。
「来い」
「まあ、やるかあ」
俺はルルアから一定の距離を取り、背中からロングソードを取った。構える。
「お前なんてけちょんけちょんにしてやるよ。そして村中にお前の噂を広めてやる。戦闘で女に負けたって、噂をな」
俺はどこかでルルアに悪いことをしたのだろうか。そこまで言われるとは。
「うるせーな。脱がすぞお前」
「なっ!、やれるもんならやってみろよ」
「いいから、かかって来いよ。そんななまくら、へし折ってやる」
「でかい口叩いたな。殺してやる」
「来い」
俺とルルアの間に緊張が走った。先にしびれを切らして動いた方が、先手を打たれる。
「姉様、何をやっているのですか!?」
両手でオボンを持ったモモが、厨房から出てきた。オボンの上には食事がのっている。湯気が立ち上っていた。彼女は驚きに口を開ける。
「モモ、黙っとけ。こいつは俺を脱がすと言ったんだ。ちょっと、身の程を教えてやらないといけん」
「姉様?」
俺は頭を傾けた。ルルアはモモの姉だったらしい。誰かに似てると思ったら、モモに似ているのだ。そう言えば、山で薬草を取ったモモは姉が病気だと言っていた。もう治ったのだろうか。
「オウカ様。そんなことを言ったのですか?」
「い、いや、まあ、その、売り言葉に買い言葉で」
「姉様。剣をお納めください。その方は、恩人ですよ」
「知るかっ!」
ルルアが俺に向けて剣を振り下ろした。突然のことで、俺はロングソードで防ぐしかない。金属音が鳴る。
「卑怯だぞ」
「なんだ? お前、魔物にもそう言うのかい?」
「はっ、やってやるよ」
頭に来た。俺はロングソードで突きを繰り出す。ルルアは大剣の腹で受け止める。残念だが、ルルアには勝ち目がなかった、なぜなら俺の攻撃は、三発に一回の確率でクリティカルが出るからだ。
俺の剣とルルアの大剣が交差し、火花を散らす。
ズバーン。
俺の頭上に軽快な音が響いた。会心の一撃。俺の剣はルルアの大剣の硬度を貫通する。大剣の上半分が折れた。
「なっ!」
ルルアは驚きを隠せない様子だった。
「残念だったなあ、ルルア。お前を殺そうと思うが、この場で服を脱げば、許してやるぞう」
俺はニタニタと笑った。最低野郎登場である。
ふと、後ろから俺の頭がオボンではたかれた。金属音が響く。
「オウカ様、おやめください」
俺は後ろを振り向く。
「モモ、離れててくれ」
「いいえ離れません。お姉様は、病み上がりです。本当はベッドで寝てないといけません」
「ちっ、おいルルアとやら」
俺が前に向きなおった時、
「戦闘中によそ見とは、遅れを取ったな。オラあっ!」
ルルアが俺の股間を蹴り上げた。ズバーン。彼女の頭上で軽快な音が響く。急所をつかれた。それはクリティカルだった。
俺はひどい痛みに悶絶し、剣を手放して床に転がる。両手で股を押さえる。
「あああああああっ」
「へいルルア、今のは卑怯だろ?」
クーニャンが宙に飛びたち、両手に羽ペンを構えていた。
「妖精か、ふんっ、お前はモンスターにもそう言うのかい?」
「あったまに来た。私が、やっつけてやるんだから」
クーニャンが羽ペンの先を突き出し、特攻する。
「ふんっ」
ルルアは片手でクーニャンをはたき落した。
「キャンッ」
クーニャンも床に転がる。
「ふん、勝ったぞ」
ルルアは右手を上げて、食堂のお客さんにアピールした。
「おおおおっ」
「やっぱルルアちゃんすげえ」
「こ、この銭袋、皆で山分けすることになるのか」
俺の全財産が危機だった。
「お、ね、え、さ、ま」
モモの怒りの声が室内に響き渡る。
「な、なんだよモモ。怒るなよ。俺は武器を破壊されたんだぞ」
「一週間、ご飯抜き」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、モモ。そもそも俺は、こいつと親睦を深めようと思ってだな」
「今のが、親睦を深めあう交流だったと?」
「そうだが?」
「水抜き」
「ま、待ってくれよ~モモー」
「お姉さま、餓死するまで反省してくださいまし」
「ぐすんっ」
ルルアが頭を抱える。妹には弱いようだ。そしてそれからも二人の姉妹喧嘩は続く。俺は立ち上がれないでいた。ルルアの蹴りが効きすぎていた。
ブックマークありがとうございます。後書きは苦手ですが、何かしら書いて行こうと思います。毎日、どれくらいになるかは分かりませんが更新します。




