クリティカル
横穴の中は、思ったよりも広さがあった。とは言っても人間三人が並んで歩けるぐらいのもので、狭いと言えば狭い。天井は高かった。穴というよりも洞窟と呼ぶのが適していそうだった。湿気があり、水滴が鍾乳石を作っていた。それはつららのように天井から何本も垂れている。
俺は両手で剣を構え、そろそろと前進していた。ライフポイントとマジックポイントは全快している。クーニャンは俺の肩に乗り、怖いのか両手をこれも俺の首につけている。
「ねえ、強いモンスターが出たら逃げるのよ」
「分かってる」
俺は胸の高鳴りを隠せなかった。嫌でも頬が吊り上がる。経験値の多いモンスターを狩るのは喜びだった。もっと強くなりたい。もっと。
歩いて行くと、ゴブリンのような魔物の影が目に映った。ものすごい速さで奥へと移動して行った。
「今のは?」
俺は訊いた。
「メタルゴブリン、で間違いないわね。経験値が丘のモンスターに比べて100倍はあるわ」
「マジか」
「オウカよだれ出てる。きしょいんですけど」
俺は右手で口元を拭った。
「あ、ああ、悪い」
俺は気を付けてそろそろと進んだ。やがて開けた場所に出る。そこにはメタルゴブリンが何匹もいた。他にも、同じ色をしたモグラ、蛇がいる。魔物は俺の姿を見つけると、そのほとんどが奥へ逃げて行った。
「やっばい、あの蛇は強いわ」
「そうなのか? 気を付けないとな」
魔物は9割ほどいなくなったが、残りの1割は勇敢に立ち向かってきた。メタルゴブリンが2匹である。
「狩ってやる」
俺は体に喜びがみなぎるのを感じた。
「なんだこいつ」
なんと魔物がしゃべった。
「人間だよ。あたい、見たことある」
「どうして人間にこの穴の場所がばれたんだ」
「あたい、そんなこと分からないよ」
「とりあえずやっつけるぞ」
「うん」
「ファイア」
「ファイア」
二人のメタルゴブリンが炎の魔法を撃ってくる。俺は盾で防いだ。火花が散った。クーニャンが腕をぶんぶんと振る。
「ほら、オウカ。早くやっつけないさい。逃げられるわよ」
「分かった」
俺はモンスターに近づき、右手で剣を振り下ろした。しかし、俺の攻撃はメタルゴブリンに擦り傷一つつけられず、はじき返された。
「痛っ」
メタルゴブリンが顔をしかめていた。効いていないと思ったが、ダメージはあったようだ。
「ねえ、逃げよう」
「そうだな。こいつら、強いよ」
「待て」
「さいなら、人間の兄ちゃん」
「あたいたちを追ってきたら、許さないんだから」
二匹は素早い動きで逃げていく。
「くそっ、待てこらああ」
俺は剣を振りかぶる。力が余りすぎて、剣が右手からすっぽ抜けた。剣が真っ直ぐ飛んで行く。その時だ。
ズバーン。
俺の頭上で軽快な音が響いた。
「うわあ!」
メタルゴブリンの絶叫。
パンパラパーン。
レベルアップの音が鳴った。
「やったね。オウカ、一匹倒したわ」
「あ、ああ、そうみたいだ」
俺は驚きで両手がふるふると震えていた。
「今の音は?」
「クリティカルね」
「会心の一撃か」
「そうとも言う。防御力を貫通した、回避不可能の攻撃よ。一定の確率で出るわ」
「そうか」
俺は両腕を組んで、自分の剣を取りに行く。剣はメタルゴブリンに刺さっていた。モンスターは青白い光になって消える。ドロップ品のメルが落ちた。
俺はクーニャンを振り返った。彼女は笑顔で両手を腰に組んでいた。宙に浮いている。
「なあ、俺、いま思いついたんだけど」
「何々?」
「クリティカルって言うのは、どれぐらい確率で出るんだ?」
「運による」
「それは、ステータスの運ってことか?」
「そうよ」
「分かった。クーニャン。俺のスキルポイントを運に全振りしてくれ」
「は?」
クーニャンは口を大きく開けた。
「だから、運を全部上げようと思う」
「もしかして、クリティカルのために?」
「そうだ」
「馬鹿じゃないの? クリティカルなんて、運が500ぐらいないと、あまり出ないわ。とてもじゃないけど、信用できる攻撃とは言えないと思うんだけど」
「いいんだ」
「もしかして、この洞窟でメタル系のモンスターを狩るためにそうするって訳?」
「良く分かったな」
「うーん」
クーニャンが右手をおでこにつけた。
「一つ聞いていい?」
「ああ、何でも」
「オウカは今2レベル上がって、11LVになったけど。なんLVになるまで、ここで狩りをするつもりなの?」
「もちろん、99LVまでだ」
クーニャンは乾いた笑い声を上げた。
「何年がかりになるわよ」
「別にいいと思うが?」
「ちなみに、教えてなかったけど、最高LVは99以上あるからね」
「そうなのか?」
「うん」
「じゃあ、999まで」
「馬鹿じゃないの?」
クーニャンは苦笑した。
「まあ、飽きるまでやればいいわ。じゃあ、スキルポイントが丁度100あるから、運に全振りするからね」
「頼む」
「仕方ない人だなあ」
クーニャンは両手を俺の頭にかざす。両手が黄色く光り、俺のステータスは更新された。これで俺の現在の運は、135になった。そしてそれからというもの、俺はレベル上げのために毎日毎日洞窟へ通った。もちろんあの洞窟に行くには崖から飛び降りなければいけない。しかし恐怖よりも好奇心が優っていた。俺は調子に乗っていた。
そして月日が過ぎていく。




