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プロローグ

プロローグ


 俺は死んだ。


 死因は老衰である。享年78歳。

 俺は病院のベッドで寝ていた。夜であり、妻が寝泊まりに来ている。看護師がやってきて、俺の脈が無くなったことを告げた。妻は右手で俺の頭にそっとふれた。


「頑張ったね」


 俺は小さな光の玉になっていた。自分の体から浮き出し、辺りを見回す。妻は流れる涙を拭くこともしなかった。看護師は医者を呼ぶために部屋を出て行った。俺が思ったことは、なるほど死ぬと、このようになるのかということだった。光の玉になり、どんどん上へと昇っていく。


(じゃあな)

 俺は妻に心の中で別れを告げて、高く高く昇っていった。天井を透き通り、病院の屋上からまたさらに天空へと上がっていく。星空が輝いていた。雲の上に出ると、空中に黄色い渦が発生し、そこから天使が出てきた。4人ほどいる。ルネサンスの絵画のような神々しい姿をしていた。彼らはラッパを持っており、それを吹くことで、俺が人生を全うしたことを祝福していた。もしかした、俺は天国に行けるのかもしれない。彼らに導かれるままに、黄色い渦の中へと入って行った。


 渦の先に待っていた空間は、一言で言うと宇宙だった。何人もの光の玉が列を成している。なるほど、彼らは俺と同じように、死んで光の玉になった人たちだ。俺も最後尾に並んだ。この列の先頭には何が待っているのだろう。ふと気づけば、天使たちは姿を消していた。


 五年が過ぎた。


(早かったな)


 俺はとうとう列の先頭に来ていた。


 俺は光の玉になってからというもの、時間の感覚を無くしていた。そして、列の先頭で待っていたものは、巨大な大仏だった。金色をしており、鎌倉の大仏よりも大きい。だが俺は疑問でしかたなかった。地球には色んな宗教がある。しかし死後に大仏と出会ったということは、宗教の中でも仏教が正しかったということだろうか。俺は訊いた。


「私は、貴方が見たい姿に見えるようになっているのです」


 大仏はそう答えた。なるほどな。日本の仏教の家に生まれた俺は、神が大仏に見えるようである。そう思うと、疑問は立ち消えた。


「貴方」


 大仏が語り掛ける。俺はじっとしていた。


「貴方は、地球で何度も生まれ変わり、修行をしてきました。時にはアンモナイト、時には桜の木となり、幾度も寿命を全うしました。貴方。貴方の集めた愛の量は、ついに一億を超えました。よかったですね。これで、天国へ行けますよ」


 俺はまた疑問をぶつけた。地球で愛を一億ためて、大仏に払うと天国行けるということだろうか。


「その通りです」


 大仏の左手の平に、ここに来た時と同じような黄色い渦が生まれた。


「貴方。さあ、お入りなさい。ここが天国ですよ」


(ありがとうございます)


 俺は恭しく礼を言って、渦の中へと移動する。やった。ハッピーエンドだ。俺の物語は、ここで終わる―――。


 その時だ。


 俺があと少しで渦に届こうとしている時、渦の中から一人の天使が現れた。


「神様、もう天国は人でいっぱいだよ」

「そうですか」

「だから、後の人は、地獄に行くしかないよ」

「分かりました」

「うん。じゃあね」


 最後に天使は俺を見て、ぺろりと舌を出し、渦の中へと戻って行った。


(どうしてくれるんですか)


 俺は頭に来た。大仏に食ってかかった。


「貴方。貴方は大丈夫。ここで待っていればいいんです。待っているうちに、天国に飽きた人が出てくるでしょう。その時に入ればいいのです」


(いつになるんですか?)

「分かりません。それは」

(早くしてくださいよ)

「貴方。貴方は待つしかありません」

(何もすることが無いんですが)

「それでは、ゲームをしながら待てばよいでしょう」

(ゲーム?」

「ええ。これです」


 大仏の左手の平に赤い渦が生まれる。


「Mission Fantasiaと言い、中々面白いと評判です」

(ふーん、分かりましたけど」

「プレイ料として、愛を10ほどもらいます」

(愛をとられるんですか?)

「貴方。貴方の愛の量は、一億五十万ほどあります。10ほど失ったところで、天国へ行けなくなることはありません」

(そ、そうですか)

「ええ。さあ、お入りなさい」

(言っておきますけど。ちゃんと次の番になったら、俺を天国へ行かせてくださいよ?)

「分かりました」

(お願いしますよ)

「ええ」

(じゃあ、ちょっとやってみようかな)


 俺は赤い渦の中へゆっくりと移動した。そこで意識が途切れる。


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