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魔女になるための心得

作者: まなつ

 箒にまたがり空を飛ぶ。空にはいろんな色のキャンディーが散らばって、大きな河を作っていた。紫色の薄気味悪い空に綿菓子みたいなピンク色の雲が浮かんでる。チョコレートの川がスポンジケーキで出来た渓谷を流れて行く。

 クリーム色のおさげ髪を風に揺らしながら、箒にまたがるのはシフォンという今年で十二歳になる女の子。この国では十二歳になると一人前の魔女になるための儀式がおこなわれる。シフォンはその儀式がおこなわれるという大魔神さまのお屋敷に向かっている最中だった。

「魔女の儀式っていったい何をするのかしら……。」

 不安げに呟くシフォンは、眼下に広がる不気味な蝋燭の光の海を見下ろした。

 その時、光の海の中でこちらを見上げている人影にシフォンは気がついた。シフォンの背中に寒気が走る。今日は年に一度のお祭りに町中が沸き立っているというのに、その人影はどこか悲しげで、恨みのこもった目でこちらを見ている気がした。

「だれ?」

 気になったシフォンは、ゆっくりと下に降りていく。

 人影が白髪交じりのひげを蓄えたおじいさんだと気づくころには、箒のコントロールが利かなくなっていた。吸い寄せられるようにおじいさんの元へ降りていく。シフォンは恐ろしくなった。

 降り立ったシフォンにおじいさんは口を開いた。

「かぼちゃが足りんのだ。」

「かぼちゃ?」

 思ってもみなかったおじいさんの言葉に、シフォンも思わず口を開いた。

「そう、かぼちゃだ。」

 おじいさんは笑顔で答えた。でも、その笑顔の奥に恐ろしい何かがあるようでシフォンは顔をひきつらせた。町の中央に建てられた時計塔を見上げながらシフォンは焦った。早く大魔神様のお屋敷に行かなければ、儀式に遅れてしまう。

 おじいさんには悪いが、先を急ごう。そう思い口を開こうとした瞬間、ずっと前におませなショコラという友達から言われた言葉を思い出した。

「おじいさんもしかして、大魔神さま?」

 シフォンが尋ねると、おじいさんは驚いたように目を丸くし、せき込んだ。そんなおじいさんにシフォンは確信する。きっと大魔神さまが私を試すために、おじいさんに化けているのだと。シフォンはおじいさんに顔を近づける。おじいさんはどこからか取り出した帽子を目深にかぶり、シフォンから距離をとるように一歩下がった。

「私は大魔神ではない。」

「うそ。大魔神さまのことはちゃんと“大魔神さま”って呼ばなくちゃいけないのよ? 先生が言っていたもん。だから貴方、大魔神さまなんでしょ?」

 おじいさんもとい、大魔神は、痛いところを突かれ、動揺を隠せない様子で咳払いをすると、シフォンに背中を向け、歩き出した。

 シフォンも後をついていく。

「……なんで、ついてくる…?」

 額に汗をにじませながら大魔神は後ろをついてくるシフォンに言った。

「今から、箒を飛ばしても儀式の時間に間に合わないわ。大魔神さまと一緒なら怒られずに済むでしょ?」

 そう言って笑うシフォンに大魔神は呆れたように肩を落とした。

「だから私は大魔神…さま、ではないと言っているだろうが。」

「今“さま”忘れてたでしょ!」

 大魔神はその言葉に飛び上がる。確かに、不自然な間があったことは認めるが、私を大魔神だと気づいているなら少しぐらい気を使え、と内心思っている大魔神は、今も自分の後ろを意気揚々と付いてくるシフォンを盗み見た。

 しかし、大魔神ともある自分が十二の小娘にそんな事を言えるわけがない。このままではどこまでも付きまとわれると観念した大魔神は、ふと立ち止まった。

「どうしたの、大魔神さま?」

 なんの悪びれもなく“大魔神さま”と口にするこの少女には、どうやっても勝てそうにはないと大魔神はうなだれた。

 すると、大魔神はすっとその場から姿を消した。

「大魔神さま!?」

 急に姿を消した大魔神に、シフォンは目を丸くした。蝋燭の灯が不気味に揺れる石畳の細い路地に一人取り残されたシフォンはきょろきょろと辺りを見回した。

 すると、紫の空から一枚の紙切れがひらひらと落ちてくる。

 そこには一言『合格』の文字があった。

 一応、コメディーという位置づけで書いてみましたが、果たしてこれはコメディーなのでしょうか(苦笑)

 「ハロウィン」というお題をいただき、それに従いハロウィンっぽい世界観を出してみました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ポップで可愛らしい感じがして、ついつい和んでしまいました。ショコラさん、合格できてよかったですね。おめでとうございます。
2014/11/01 20:05 退会済み
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