第七話 『まっちゃんと共に』
第七話 『まっちゃんと共に』
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「お電話、ありがとうございます.コールセンターCo.でございます」
「今日届いた商品についてなんですけど・・・・・・」
今日も今日とて電話業務である.余談ではあるが、このバイトには大体、週3~4日ほど入っている.研修中はもっと入っていたが、なにぶん、大学生の身.バイトばっかりというわけにも行かないのが現実である.とは言いつつも、電話の対応もまだまだ初心者.わからないことがあればリーダーさんを呼ばなければいけない.
「話中です」
保留ボタンを押し、手を挙げて声を上げた.
その時にいつも率先して来てくれるのが、スーさんである.身長は私より少し高く、標準体型で(少し化粧が厚く)、仕事がバリバリできていそうなキャリアウーマンである.
私は問い合わせ内容について軽く説明した.
「マニュアルあるでしょ.ここを確認してっ!」
マニュアルと共に、対応方法について説明をしてくれた.これからのことを考えてもためになる説明である.何ともありがたい.
私はスーさんに指摘された箇所を確認し、その通りに案内した.
これだけで終われば良かった.現実はそうはいかなかった.
マニュアルには載っていない、本質とはそれほど関係ない質問をされたのだ.お客様からすれば、気軽に聞いた内容なのだろう.しかし、初心者の私としては、なんと答えたら良いのかわからなかった.
一瞬悩んだあと、隣から声が聞こえた.スーさんである.スーさんはリーダー席の電話機から、こちらの会話を聞いていたのだ.恐らく、こうなることを予想していたのだろう.隣からのスーさんの指示に従って案内をし、なんとかその電話を終えた.
「スーさん.ありがとうございました」
「いえいえ.でも、マニュアルはちゃんと確認しておいてね」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい」
私は不満ありげに、そっぽを向いて言った.特に意味はないが、こういう怒られ方が余り好きじゃないである.マニュアルを見ない私が全面的に悪いわけであるが.
今日は電話が少ない日のようで、割と暇な時間が多かった.
「今日は暇ですね」
「そうね」
私は隣に座っていたまっちゃんに話しかけた.初心者同士の私たちは、席を近くに配置されることが多い.リーダーさん達からするとフォローし易いからなのだろう.
「そういえば私、うっとうしい電話取ったよ」
「どんなんですか?」
こういう仕事をしていると、当然(私たちからすると)鬱陶しい電話をとることが増える.コールセンター内部での雑談といえば、電話業務と全く無関係の話か、電話相手の珍談が中心となる.
ある意味、こうしてオペレーター同士の仲が深まっていくのだから、それはそれでいいのかもしれない.
「あ、そうだ.今晩一緒に飲みに行きませんか?」
こうして、私とまっちゃんは二人で飲みに行くことが決まった.
「スーさん.今日はまっちゃんと飲みに行ってきます!」
「あら、仲良いわね.程ほどにね~」
スーさんからも許可を頂いたので(いらないけど)、行くことになりました.
「もうすぐ終わりですね」
20時58分.
「そうですね」
20時59分.
「もうすぐですね」
21時
「終わりましたね」
業務時間が終われば後は早い.マニュアル等を棚に収め、退勤届けを提出し、リーダーさんに挨拶をしてオフィスから出るまでわずか2分半.
オフィスを出て、ロッカーで荷物を取り、会社を出て、送迎のタクシーに乗り込んだ.
「今日はどこに行きます?」
「ここら辺は12時頃に閉店する場所が多いからね.もう少し遅くまでしてる居酒屋があれば良いんだけど」
タクシー内でまっちゃんと交わす会話.
「そうですね・・・・・・.そんなに居酒屋は知らないんですよね」
「それなら、あそこはどう?この前言って美味しかったので」
「わかりました.そこに行きましょう」
今晩飲む居酒屋が決定した.タクシーから降り、目的の居酒屋に向かった.
居酒屋ではどんな話をしていただろうか.
家族は何人くらい、どんな構成になっているか.母親ないし父親と一緒にする習慣のようなものはあるのか.どうしてコールセンターで働き始めたのか.趣味はなんなのか.などなど、色々な話をした.
まっちゃんがどういう人なのか.どういう人生を歩んできたのか.根掘り葉掘り出来る限り聞いた.同じように、私も根掘り葉掘り話した.
初めのうちは少しドギマギしていたが、話している内に、意気揚々と会話が止まらなくなって、どんどん話した.
居酒屋の閉店時間も過ぎ、追い出されたが、私たちはまっちゃんの家の前に着くまで、喋り続けた.
本当に、有意義な時間だっただろう.
「次のシフトはいつ?」
「次は火曜日に18-21時です」
「同じね.それじゃぁ、また」
「はい.おやすみなさい」
そうして、その日の初まっちゃんとの飲み会は終了した.まっちゃんがどう思っているかはわからないが、私としてはまっちゃんと少しでも仲良くなれた気がして楽しかった.
是非ともまた飲んでみたいと思った.