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色々分類に困ってしまいました、短編集達です

幸福の王子とその仲間達

作者: 茶屋ノ壽

 私こと、椿黒冬華は解雇されました。今年に入って、3度目でありました。

 本人の性格は良く、能力も決して低くはありません。会話能力も普通で、空気を読めないこともないのです。

 肉体的にも、問題はなく、容姿も、貧乏であるのであまり装飾にお金はかけてはいないが、並程度はある、と冬華自身は思っていました。年齢的にも、昨年成人していて問題はありません。

 それでも、解雇され続ける問題はなんであるのかというと?

「……犯罪者の子供って、結構社会的に問題があるのかなー」という、愚痴に集約されるのです。

 

 冬華の父親は、稀代の犯罪者であり、ここ数十年の内では、十本の指に入る、悪辣で鬼畜で非道な存在で、無垢な人々を混乱と、恐怖に陥れた、社会の敵でありました。

 その、実子である冬華も、暴走したマスコミやら、社会的不安の解消すると自称する、善意の一般人のやらかした、顔写真、本人が特定できる動画の流出事故、というか、それは既に犯罪じゃないのかな?という、悪意に満ちた暴露で、かなり、顔が知られてしまいました。


 身元を完全に偽って働くと、色々と面倒なことになると、相談に乗ってくれた弁護士のお兄さんの助言に従って、犯罪者の子供という現状は、相手が引かない程度には説明して、お仕事をさせてもらっているのです。が、正直、足下を見られて、ヒドい労働条件を提示されて、遠回しに断られたり、また、現場の責任者には了承をえられても、その上役から、雇用を控えるようにと、根回しされたり、はたまた、同僚から深刻ないじめとか、無視とか、まっとうに仕事ができない程、阻害されたりとか……

「……悪意の展示会を延々と見せられたような、そんな感じでしたね」


 すでに、姓は祖父祖母時代にものに、変更していて、目立たないようにだて眼鏡で印象をかえているのですが、わかる人にはわかるようです。

 さらには、被害者の数グループが、執拗に嫌がらせを行っているようで、冬華の居場所を特定するやいなや、職場に迷惑がかかるレベルの騒動が巻き起こっているのでした。

 そのせいで、最初の方は、同情的であった周囲の人間も、余計なトラブルに巻き込まれまいと、遠巻きになったり、積極的に冬華を排除したりと、とにかく、早く遠ざけようと、冷たくあたっていったのでした。

「……むしろ、最初の優しげな人が、豹変していくのがね、もう、しんどくて、いっそこれなら最初から疎んじられていたほうが良かったな、と、かなり後ろ向きに考えるほどです」

 そういって、何度か相談をしている弁護士のお兄さんに、話す冬華。

「すいません、残念ですが、実はこのたび担当を代わることになりまして」かえってきた台詞はまた、冷たいものでした。

 

 曰く、数度相談にのった後で、そのことが周囲にバレたらしいのです、で、有形無形の嫌がらせを何者かにされたということでした。その嫌がらせは、命の危機にまで発展しそうだったそうです。

「愛車に細工された時はねー、さすがについていけなくなりました」

というか、既に命の危機でした。

「正直、正義感がないわけではないですし、職業倫理的にも問題はありまくりなのですが、弁護士の能力の範疇を越えているというか……、私という弁護士個人が特定された段階で、既に負けが決まっていたようなわけです」

 これから、一切の接触を立っても、見逃してくれるかどうか……かわいた笑を浮かべながら、弁護士のおにーさんは言いました。警察もあまり役に立たないようです、というか、むしろその事故を積極的に利用しかねないという……。この世界は、意外にデンジャーのようです。

 まあ、そういう警察関係者ばかりということではないのでしょうが……いくつか、脳裏に、優しくはされなかったまでも、不当に辛くあたらなかった、お巡りさんの顔が浮かびます。でも、組織全体としては、利を追求するのでしょうね。


「……苦み少なく、この世からおさらばする方法を真剣に考えてみるべきでしょうか?」

「弁護士にそういう答えづらい問いかけをしないでください……」

 

 さすがに、このまま見捨てるのは、寝覚めが悪いと、弁護士のおにーさんは、1人の人を紹介してくださいました。なんでも、裏の社会では結構な実力者だそうです、裏といってもまっとうな裏だそうですが……、健全な裏社会というのは、なんとも奇妙な表現だと思いませんか?

 つまるところ、裏社会の知識はあり、一定の影響力はもつが、もろに犯罪者ではないということですか?という質問に対しては。

「ええ、まだ前科はありません」と、にこやかに、返してくれました

「それは、まだ立件されてないとか、謎の権力で犯罪自体をもみ消しているとかという意味ですよね?」弁護士のおにーさん、眼をそらさないでいただきたいのですが。

 意外……でもないですか、稀代の犯罪者の血縁者の私に関わるくらいには、この弁護士のおにーさんも、ダーティでした。


***


「おまえ、ぼくのあたらしいおもちゃにしてやる」

目の前の人物から衝撃のひと言をいただきました、ええと、これは雇用用件を満たしたので、雇うことにしました、ということでしょうかね?


 裏社会に通じる人に、接触をしたあと、適当な雇用主がいるということで、面接をすることにいたしました。ちなみに、裏社会に通じた人は、スキンヘッドにサングラスにアロハシャツという、なんとも安っぽい人に見えましたが、なんでしょう、自分も他人もかなり安く扱いそうな、危うい雰囲気を感じました。後で聞くと結構人情深く、安っぽい雰囲気はポーズなのだそうですが、たまに人権を無視するそうです。


……どちらかというと、あの方の人に対して抱く情というのは、飼い主がペットに向けて持つそれではないかしらね……。


 教えて下さった部下?の女性の方は、うっとりとした顔でそう言っていました。いえ、私にそういう趣味はありませんから、同意を求めないでいただけるでしょうか?お姉様?


 その裏社会の方から、紹介されたお仕事ですが、『住み込みの家政婦みたいなもの』だそうです、外出は制限されていますが、社会から隠れるという点ではうってつけでしょう、とのことで。衣食住は補償されていて、業務内容は、簡単な肉体労働ということだそうです。

 ええと、だから、体のラインが良くわかる服を着用させられた上に、そういう、商品を見るような目でこちらを見ないで下さいませんか?……いえ意味はわかりやすいですが……

「貞操を売るにしても、相手を選びたかったです……」

「あんしんしろ、たぶんそーゆーことにはならない」雇い主が言います

 確かに、齢10にもならなそうな少年が雇い主ですから、そうゆう心配はなさそうではありますが……


 お仕事の内容は、家事手伝いでした。たまに、というか結構な頻度で少年ご主人様に甘えられるというか、スキンシップを求められるとか、添い寝をさせられるとかありますが。おおむね、食事の準備や、お屋敷の清掃の手伝いや、洗濯などで一日が潰れます。お給金はそこそこです。守秘義務はあります、というか、この情報他に漏らしたら、命があぶないなー、というデンジャーな情報を、こちらに伝わるように置いておかないでくださいませんか?……ええ、雇用試験のようなものでしたのは納得しましたが、本気で命の危機を感じましたよ。

 前任者は、どうもその辺りで失敗したようで、退職させられたそうです。今は何をしているのでしょう?と聞くと、

「さあ?そのあたりは、みぞぐちにまかせてあるから?まあ、もんだいないのはたしかだよ」執事みたいな立ち位置の青年の名前を少年ご主人様は言います。

 その溝口さんから、笑いながらのひと言。

「頭のてっぺんから、つま先まで、有効利用させていただきました」とのこと、というか、その笑みが冷たいですよ。世の中デンジャーですね。


 少年ご主人様は、王子という通称で活動している、経営コンサルタントだそうです。なんでも、経済に関しては天才的な勘が働くのだそうで。この国の経済は既に破綻していなければならないほどヒドいのだそうですが、それが曲がりなりにも、健全な体を持っているように見えるのは、少年ご主人様の詐欺まがいな活動が要因の一つだそうです。

「もっとも、そうゆうごまかしをしているあいだに、けんぜんなかつどうへもどってもらわないとこまるのだけどね」ものすごい早さで、各種資料を読み込みながら、少年ご主人様は言います。平行して、なにやら、文章を書いているようです。どこぞへの指示書でしょうね。ちなみに、少年の作成する文章は漢字まじりで平仮名だけではありません。

「ところで、かなりの時間お仕事をしていますので、そろそろ休憩にいたしませんか?」このように、適度にブレーキをかけるのも私のお仕事だそうです。

「……そうしたいのだけど」少年ご主人さまが言うには、指示書を他言語で書く必要があるそうです。経済畑には突出した能力をもつご主人さまです、資料を読み解くくらいの主流他言語の読解くらいなら、すらすらとできるようですが、さすがにマイナーな言語は難しいようです。まあ、時間がかかる程度の問題なのですが。

 後日にされたらいかがでしょう?という提案に対しては

「このぶんしょうを、この、たいみんぐ、でとどけることにいみがる」とのことです。でしたら、

「訳しましょうか?たぶんこの文章量なら数分あればいけると思いますよ?」

「……できるのか?」驚いた表情をされました。少し気分が良いです。

 前職ではあまり披露できませんでしたが、私は語学力には少し自身があるのです。……親のお仕事?の影響であちらこちらに連れ回されていましたから、そして、父親の立場が立場でしたので、お話ができないと命の危機に直結するという状況も少なくなかったわけで……今思うと、私の幼児期はかなりデンジャーだったのではないでしょうか?ともかく、文字の意味通り死にそうな目にあいながら、語学を習得していったのです。

「やりましょうか?」

「……ためしに、きょかしてみる」


 結果、即日で、業務内容が家事手伝いから、秘書よりにシフトすることになりました。秘書というか、通訳でしょうかね?ああ、添い寝とかのスキンシップ業務はそのままでしたが。


「ご主人様とは違う分野ではありますが、天才的な才能の持ち主ですね、ほぼ全ての言語を把握しているのではないですか?」

「……おもわぬひろいものであった」

 あとで、執事みたいな溝口さんと、少年ご主人様が考察していたのですが、私の言語能力は暗記のたまものだけではなく、少ない語彙の組み合わせから、試行錯誤をすっとばして、直感的に、未知の言語を復活させるようなレベルのものだそうです。ええと、そんなにすごいことなんでしょうかね?だいたい一時間くらい会話を聞いていれば、おおよその言語の文法とか、意味はつかめてくるものでしょう?というか、そうでないと危なかったからなー。

「……幼少時には、気がつくと"私"の商談が始まっていたりしましたからねー」遠い目になります。


「すすずめひゃくまでおどりわすれず?」

「もうそこまで来ると、異能とか超能力の部類だと思われますが?」


***


「そういえば、何故、このように、破綻しかけ、というよりは、実質破綻している経済を裏から支えようとしているのですか?」慌ただしく過ぎる仕事時間の合間に少年ご主人様に尋ねてみます。

「ひとことでいえば、しゅみだな」軽く言う少年ご主人様。

 少年ご主人様が言うには、どこをどうすればごまかしがきくのがわかるうえ、放っておくと、数千万単位で人が首をくくらなければならなくなる現状がわかってしまうので、放っておくのが気持ち悪いのだそうです。

 同情とか、憐憫とか、そういうのではなくて、目の前に穴だらけのクロスワードパズルがあるので、つい埋めたくなる気分という感覚だそうです。

「……確かに、趣味ですねー」

「しゅみだからこそ、いのちをかけられる?というきもちもあるのかもな」ひょいと小さな肩をすくめながら。

「まあ、ご自分の時間ですし、好きについやせば良いと、私も思いますが……あまり無理をされませぬようにお願いいたします、早死にされるといささか困りますので」心配そうにお茶を入れながら言う、執事のような立ち位置の溝口さんです。

「再就職が難しい昨今でございますから」続いて言う台詞が結構台無しです。まあ、茶目っ気たっぷりのウインクで相殺しているつもりのようですが、それ本気ですよね。

「どちらにせよぼくはながくはいきられないよ」淡々とした口調でした。少年ご主人様はどうもお体に問題があるうようでして、成人するまではもたないだろう、と言われているそうです。

「まあ、ぼくがいなくなってもだいじょうぶなようにはしておくよ」

「ええ、確かに、執事業よりは、そちらのサポートが私の本業でありますから」今は、執事的な立ち位置の溝口さんが、小さく笑ながら言いました。


 少年ご主人様こと”王子”が息を引き取ったのは、そのような会話を交わした2年後の雪が降る季節でした。


***


 現在です、少年ご主人様は、執事的な立ち位置の溝口さんのちょっとした技能によって、その経済的な手腕を電子的な頭脳に移して相変わらず、趣味に没頭しています。記憶の連続性はなく、あくまでも経済的な一種の超能力じみた勘働きをもつ、新しい個性としての、人工知能としてですが。

「ぼくこじんは、やすらかにねかせてくれたまえ」という遺言?のようなものの結果です。個人的には好ましい個性だと思っていましたので、少々残念ではありましたが、故人の意志が尊重されました。

 ちなみに、あたらしい人口知能の個性は女性で、王子の後継者とういうか、未来の形なら王様だろう?という安易な発想の少し斜め上をいきまして、女王様になってしまいました。経済界を調教してさしあげるそうです。少し怖いですね。

 執事的な立ち位置の溝口さんは、その立ち位置を、人口知能の技術者であり、研究者というものにシフトして、引き続きここで働いています。良かったですね、職にあぶれなくて。


 それで、私こと椿黒冬華ですが、なぜか露出の高い衣装、パーティードレスというのですか?色は漆黒のそれを身につけて、なんだかものものしい部屋の、玉座?みたいなところに座っています。

「あー、何か、悪の秘密結社のボスの部屋のようです……」ぽつりと呟きます

「そのままだと思いますよ、私の愛しいお嬢様?」執事的な立ち位置の溝口さん、から、人工知能の技術者にシフトした溝口さんを経て、悪の秘密結社の狂的科学者という立ち位置に収まった青年は、流し目をくれながら言ってくださいました。


 数年前から、少年ご主人様は、経済的に破綻していしまっていた世界をどうにかごまかすために、悪の秘密結社を立ち上げて、世界征服事業に乗り出すことにしたそうです。どう試算しても、このままではエネルギー資源の枯渇が免れなく、社会が破綻することが決定したから、だそうです。……もっとも

「しゅみてきにはこれがいちばんてんしょんあがる」という生前の言葉が象徴するとおり、趣味100%の可能性が高い、というか、まんま趣味でしょうけれど。

 

 それで、稀代の犯罪者の娘という立ち位置であった、私に目をつけたということでしょうかね?少年ご主人様の考えでは、いくつかうってみた、手の一つではあったようですが、思ったより、私にはカリスマがあったようです。で現在、悪の秘密結社の象徴、ボスとか帝王というものとして君臨することになりました。うーん、これは安定した職業と言えるのでしょうか?


 で、我ら悪の秘密結社(笑)の陣容は、

 

 経済的には超能力的な手腕を発揮する、もと少年ご主人様の能力を受け継ぐ人口知能の”女王”

 執事的な物腰で、常識を”ぽい”している科学力を振りかざす、溝口さんこと狂的科学者”教授”

 

 で、昔助けていただいた弁護士のおにーさん。善意の人物(笑)の襲撃で死にかけていたのを助けまして、ついでに命をつなぐために、改造手術をいたしました……本人の意思確認はしているのかな?これ?

 で、新生弁護士のおにーさんこと、改造人間、戦う弁護士の”法力王”、ちなみに分厚い法律辞典で相手を撲殺するのが好み、という設定だそうです……いーのかなー?


 という、三人?が三幹部ということだそうです。そのうち1人増やして、四天王とかに成長させなければならないのでしょうかね?

 軽薄なサングラス、アロハシャツの口入れ屋にも声をかけているそうですので、四天王説はあながち間違いではないようですが……。


「最初は犯罪なんて、好みじゃなかったのですけどねー」ため息です。

「いえ、良くお似合いですよ?」溝口さん。

 

 思えば私の父も、結構状況に流されて、悪の道をひた走っていたような気がします。そうであれば、やはり血は争えないということでしょうか?……嬉々として悪役をしていた父と同じというのは、こう気がめいりますが。

 

「ともあれ、悪の秘密結社を立ち上げるにあたって懸案事項が一つありますね」

「……一つどころではないような気がしますが、何?」

「組織の正式名称をどうしましょう?」

 私は頭をかかえます。

「平凡に生活して、幸せなお嫁さんになりたかったなー……」遠い目をしてしまいます「何を間違えて、”私の思いつく最強の悪の秘密結社”を現実的に、組織しないといけなくなったのでしょうか?」

 しかも、目的が人類社会の救済です。もろにはき違えた崇高な目的に邁進する、全てが、間違った集団ではないですか?厄介なのは、周囲の状況次第では、社会的な立ち位置を確保しそうなことです。悪の秘密結社が社会システムに組み込まれた世界というのは、一体どうなってしまうのでしょうかね……。

 あれ、少しわくわくしている私がいるのがショックです。毒されてきましたかね?


 ともあれ、私こと、椿黒冬華の就職活動はこのような形で落ち着いたわけです。

 ……落ち着いているのでしょうか?


「ところで、首領の通称は、”闇の聖母”と”黒の未亡人”、どちらがよろしいでしょうか?」

 

 ……勘弁してください






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