第1話:ウサギ?の水炊き
「お、ラッキー。かかってるかかってる。」
今、俺の目線の先にはウサギ…らしき生き物が罠にかかっている。
らしき、という前置きつく理由はその見た目にある。
ぱっと見はウサギそのものだし、行動パターンもウサギと変わらないが…色が、毒々しいショッキングピンクなのだ。
味は普通のウサギと変わらないし、毒などもない。だから、色は気にしないでいるのだが…とりあえず、俺はこの生物をウサギと呼んでいる。
やつがかかっているのは、足を輪状にした縄で縛るという古典的なブービートラップ。だが、野生動物ごときにこの罠は脱出できないだろう。
俺はウサギ?に近づきながら、ポケットから取り出した十徳ナイフの刃を展開する。
「すまんな、俺も生きたいんだ。お前の命、ありがたくいただくよ。」
しばし手を合わせてから、ウサギ?の首根っこを押さえつける。刃渡りこそ心もとないが、切れ味は研ぎ石のおかげで抜群。たいして苦労もせずにウサギの喉を切り裂いた。
縄を使って、ウサギを木の枝にぶら下げて放血させる。これが上手くいかないと、肉は一気にまずくなるので念入りに。
血が出なくなってきたら、切り裂いた喉を起点に尻まで切れ込みをいれてやる。そして、その切れ込みから足の先に向かってさらに切れ込みをいれて、毛皮を一気に剥ぎ取る。
この一連の作業を済ませて、一旦ウサギ?だったものを木の枝から降ろす。そのあとはもう簡単だ。腹を掻っ捌いて取り出した消化器系の内臓は近くの茂みに投げ込み、肉と骨、内臓だけになったウサギを水辺へと持っていく。
水辺には、簡易式だが調理台を物質生成してある。
そこで、獲物の解体を仕上げる。まずは腿の根元に切れ込みをいれ、関節を逆方向に引っ張る。これだけで簡単に脚をもぎ取れるのだ。もぎ取った脚はずた袋に突っ込んでおく。
肋骨は力技で無理矢理もぎ取る。お世辞にも良い方法とは言えないが、まともな解体方法の知識などない素人にはこれがせいぜいだ。
肉を部位ごとに大まかに分離したあとは、火を起こす。
火種の上に適当に乾燥させた草をのせて、その上に薪を組み上げてやる。なかなか上手くいかないことも多いが、今回は運良く一回でできた。
鍋の中におさまるサイズに切り分けたウサギ肉を放り込み、水で煮込む。効率ははっきり言うと悪い。だが、焼こうとしたら生焼けだったり、黒焦げだったりでダメにしてしまうので、煮て食べることにしている。生で食う?そんな腹壊しかねない真似できるか!
味付けも何もない、ただ水で煮込んだだけの肉。味気ないなんてものじゃない。ミネラルや塩分は獲物の血を飲んでなんとかしのいでいるが、下味のついた料理というものがいい加減懐かしくなってくる。
この森林地帯でサバイバル生活を送ること、おおよそ一ヶ月。これまで、上空に飛行機等は確認できず。
…ここはどこの星系なのだろう。炭素系生物を中心とした生態系のおかげで、何とか食い繋いでいるが…
まさか、宇宙進出していない、なんて事ないよな…?
西暦2463年。銀河暦3096年。
地球人類がようやく火星の一部を地球化させることに成功し、銀河連邦が規定するところの『宇宙進出第4段階』に到達。銀河連邦による技術・文明的介入が開始された。
当初、地球側は大いに混乱した。自分達が生まれた星が、すでに他の星系国家群によって取り込まれていた、といきなり言われたのだから当然だ。
だが、銀河連邦もだてに連邦を名乗っているわけではない。
同じような混乱を経験した星系の出身者たちが、地球人に対して親身に対応してくれたおかげで混乱は最小限で済んだ。
そこからの地球の発展は、もはや脅威的と言えた。
かつて類を見ないほどの適応力を示し、技術を吸収し、挙句それを二、三世代ほど発展させてしまったのだから。
そして今や、地球は連邦でも指折りの研究惑星だ。
そんな地球でも、星間旅行は人気のレジャーだ。一週間程度で太陽系を一周するお手軽なものから、数年間をかけて連邦の主な星々を巡る銀河一周旅行まで様々なコースがある。
そして、とある学校はそんな宇宙旅行を修学旅行でやるのが売りなのだが…遭難事故が発生した。
学生のほとんどは救助されたが、付近の惑星に降りてしまった一部生徒達の生存は絶望的だった。
『未開拓後進惑星』
知的生命体はいるものの、文明レベルは宇宙という概念すら無い惑星。なんの特殊技能もない一般人が生活を送るには、あまりにも過酷な星…なのだが。
少なくとも一人、ここに生存者がいた。
この物語は、主人公たる彼が素人レベルのサバイバル技能で、ヒィヒィ言いながらも命をつなぎつつ、救出を待ったり現地住民と交流する、なんちゃってアドベンチャーである。