雨の日と、偶然
夜、雨の中、出会った女の子。
悲しそうな眼をしていたから、思わず傘に入れてしまった。
「え?迷子?」
俺のTシャツと半ズボンの姿、頭にかかっているタオルで表情の見えない彼女は、こくりと頷いた。
彼女はミヤと名乗った。
どうやらこの町に旅行に来たらしいのだが、歩いているうちに迷ったのだと言う。
電話を借りると言って廊下に出た彼女は、すぐに戻ってきた。
「…どうだった?迎えに来てくれるって?」
「ええ、大丈夫だって。道路が込んでて遅くなるけど、来るらしいわ」
「そう。良かったね」
「ありがとう。見ず知らずの私にここまで親切にしてくれて」
「気にすんな。あ、何か食う?簡単なモノなら作れるけど」
「いえ、遠慮するわ。減ってないもの」
立ち上がりかけた俺を、彼女は止めた。
また座りなおすが、沈黙が流れる。
「…えっと、ダイチ君は一人暮らしなの?」
「いや、引っ越すんだ。もうすぐ。両親は今夜は引っ越し先に行ってる。俺は荷作り中だったんだ」
「あ、そうなの…」
「……………」
「…………………」
また沈黙。
「…あー、ホットミルクかココアでも飲む?身体、冷えたろ」
「え、でもシャワーまで借りて…」
「気にしない気にしない。で、どっち?」
「…じゃあ、ミルクで…」
「りょーかい」
俺は一旦台所へ入り、彼女から見えなくなったことを確認してから…大きく息を吐きながらうずくまった。
(うああああ!緊張する…!気の利いた会話とかできねぇし…)
とにかくミルクを作ろうと冷蔵庫の中から牛乳を取り出し、火にかけた。
ちょうどいい感じになったら蜂蜜を混ぜる。
「おまたせ…って、あれ?」
彼女の姿が見えない。
よく見ると、ソファの上で寝ていた。
(安心したのかな…?)
タオルケットをかける。
しばらくすると、彼女が身動きしたので冷めたミルクをレンジに入れ、ボタンを押した。
戻ると、寝ぼけ眼で辺りを見回している。
「おはよ。目が覚めたみたいだね」
「…あ!私、眠って…!?」
「うん。安心したんじゃないかな?ほら、ちゃんと連絡できたし」
「あ、お父さん、まだ来てない?」
「うん、まだみたいだね…あ、ちょっと待って」
チン、という軽快な音が聞こえ、俺は二つのカップを持っていった。
「はい。熱いから気をつけて」
「あ、ありがとう」
「なんか、テレビでも見よっか。面白いモノはやってないかもだけど…」
つけるとちょうどホラー系の番組がやっていた。
(あー、夏だからなぁ…)
そう思った途端。
「やっ…!」
背中に軽い衝撃。
一瞬頭が真っ白になった。
(え?え?え?)
カタカタと微かに震える手の感触と、首に当たる髪の感触に我に返った。
「あ…もしかしてこういうの嫌いだった?ごめんね?」
急いで番組を変える。
「…い、いや…少し苦手なだけで…」
「無理しなくていいよ。俺も別に好きなわけじゃないし…あ、そういやお笑い番組録画したやつ見てないや。一緒に見ない?」
笑いかけると、何とか笑顔を返してくれた。
まだ震える身体に手を回す。
「大丈夫大丈夫…」
安心させるように肩を軽く、一定のリズムで叩くと、震えは収まった。
「…も、大丈夫。ありがと…」
「ううん。さ、見ようか」
お笑い番組を見ながらも、内容は俺の頭には入ってこなかった。
お気に入りのコンビが出たが、それよりも隣で笑っている存在の方が気になった。
番組も終盤の頃。
玄関のチャイムに出ると、見知らぬ男がいた。
「…あの、ミヤがここにいると伺ったんですが…」
「ああ、いますよ。今呼んできます…ミヤー!迎えが来たぞー!」
「えっ…!?」
小さな声と共に、ミヤが小走りで出てきた。
父親の姿を見て、涙が目じりにたまる。
「お父さんっ…!」
「ミヤ、心配させるな、まったく…」
しばらくすると、落ち着いたミヤがこちらに近寄ってきた。
「ありがとう。色々と親切にしてくれて」
「別に。気にしないでってば。じゃあな」
「ええ、じゃあね」
そうして、ミヤは父親と共に去っていった。
俺の心の欠片を持ちながら…。
「剣崎さん、今日からあなたは…」
担任となる先生の説明を受けながら、俺は外の雨を見た。
雨で思い出すのは、あの夜のこと。
「…じゃ、呼びますから、それまで…」
そう言って先生はまだ騒がしい教室へ入っていった。
名前を呼ばれ、入っていく。
俺の説明をされている時、俺は教室を見回し…ある一点で目を見開いた。
目があった相手も同じように見開いている。
「な、なんで…?」
俺とミヤは呟きあった。




