第7話:作戦
「ところで、武器はどうするんですか?」
あの後、多少ごたついたが、何とか落ち着いた。
ちなみに結菜は、十夜達に協力するようだ。主である結衣が危険なのだから当然と言える。
「ああ。それが今回最大の問題なんだよな」
武器・・・つまりはBFをどうやって調達するか。それが出来るか否かが、結衣を守れるかどうかに直結すると言っても過言ではない。
それ程BFの性能は凄まじいのだ。
あと、結菜とリリィの二人はBFの事を知っている。というか、BFは一応世間一般には公表されていないが、多少は裏の世界に関わりのある者や、軍人なら誰でも知っている代物だ。
「・・・銃で遠距離から狙撃」
リリィがそう言ってきた。
「いや、もし防具系BFを装備してた場合狙撃は意味がない。それに黒瀬家の一等級以上なら、狙撃銃の弾速にも余裕で対応してくる」
そう言って十夜はリリィの意見を却下した。
ちなみに、防具系BFとは、戦闘の補助を目的とした兵装の事である。防御に特化したものや、機動力に特化したもの、どれも平均的にしたものなど武器系同様その種類は多岐に渡る。
もちろん値段は同じくらいするが。
唯一の欠点は、稼働時間に限界がある事と、非常に重い為、稼働限界を迎えると動けなくなってしまう事だった。
「でしたらなおのことBFを手に入れる事が最優先ですね。黒瀬さん、何か当てはあるのですか」
結菜は十夜の事を「黒瀬さん」と呼ぶ。これから一応は協力するのだから、名前で呼ぼうと思ったのだ。ちなみに十夜は結菜の事を「バトルメイド」と呼ぶ。
結菜のその問いに、十夜はもちろんだという風にドヤ顔を向けた。
その顔に思わず「うざっ」と思った結菜だったが、これ以上話しを伸ばしたくなかったので、内心で呟くだけにしておいた。
結菜は空気を読める女なのである。
「この学園島の地下には、生徒が使用出来ない、本島に渡る為のリニアモーターカーがある」
「それがどうかしたのですか?」
だから何だという風に聞いてくる結菜。あと、言葉に出さなかったが、この三年間この学園で生活してきてそんなものがあるなんて全く知らなかった。
なぜこの少年が知っているのか気になったが、後で聞けばいいだろうと思い、聞きに徹する事にした。
「俺たちは今日の夜七時に、そのリニアモーターカーをジャックして本島に渡る。リニアは本島の自衛隊の地下基地に着く」
「まさか・・・」
そこまで聞いて、結菜は目の前の少年の計画を理解した。
「そうだ。自衛隊の基地になら必ずBFは存在する。しかも最新式もいくつかあるだろう。それを今夜拝借してくる」
それを聞いて、流石の結菜も絶句した。隣に視線を向けると、リリィも同じようにポカンとしている。
てっきり結菜は、黒瀬家の時のツテでBFを入手するのだと思っていた。
しかし裏を返せば、何のことはない。ただ盗んでくるというのだ。しかも日本の自衛隊基地から。
「バカじゃないんですか?自衛隊基地に侵入してたらわたくしたち一生日本から追われるハメになります」
BFは現在、作れる人間、BFマイスターが極端に少ない。その為、どこの国でもBFはかなり貴重な武器なのだ。それを・・・しかも最新式を盗まれたとなれば国はそれを許してはおかないだろう。
「仕方ねえだろ。そうでもしなきゃBFなんて手に入らないんだよ」
「あなた独自のツテというものは無いんですか?」
「無い。つか今は使えない」
それはどういう事ですか?そう尋ねようとした結菜だったが、深く追及する事もないと思い、口を閉ざした。
「・・・使用者設定はどうするの?」
黙っていたリリィが尋ねる。
使用者設定。BFはそのあまりにも高い殺傷性能から、基本的に使用者を登録する必要がある。それにより、第三者に使われるという事態を防ぐのだ。
「それは問題ないから心配するな。一番重要なのはどうやってBFの保管庫まで辿り着くかだ」
当然ながら、十夜達三人はその基地の詳細な内部地図など持ってはいない。つまりは完全な出たとこ勝負なのだ。
「ハッキングとかは出来ないのですか?」
結菜が聞くが、十夜はそれに対して首を左右に振った。
「駄目だ。現在の自衛隊は公共の回線とは完全に別の物を独自に構築して使用している。外部からのハッキングは不可能だ」
「・・・でも、基地内にPCくらいはある筈。なら・・・そこに行って基地内の内部地図を入手すればいいと思う」
リリィのその言葉に十夜と結菜は思わずリリィの顔を見た。
「・・・なに?」
リリィは可愛らしく顔を傾げる。
「いや、その事をすっかり忘れていたと思ってな。たしかにそれなら十分に勝算はある」
「そうですね。でも問題はどうやってそのPC内部の情報を閲覧するかですが」
「それは問題ない。適当にそこら辺にいる奴を拷問すればいい」
「またぶっ飛んだことを言いますね。でも殺しは駄目ですよ?」
拷問については黙認なのが、この少女も頭おかしい証拠である。
「・・・拷問は得意」
無表情ながらも、少し誇らしげに言うこの少女も頭がおかしいのである。
「まあ、拷問はその時考えるとして、今から詳しい作戦を決めていくぞ」
そう言って、十夜は立ち上がると、机に置いてある自分のパソコンを立ち上げた。そして、デスクトップにある「エロ画像」のファイルをクリックする。
ファイルを開くと、そこにはこの学園島の地図が無数に保存してあった。
その中から、地下に関する地図をクリックしてアップする。
「ビックリしました。いきなり自分の性癖を暴露し始めるかと思いました。それにしても分かりやすいカモフラージュですね。普通に一発で気付きます」
「色々うっさいぞお前。黙って見てろ」
言いながら、次々と関連する画像を開いていく。
その数凡そ三十枚にまで及ぶ。
「よし、大体こんなもんだな。お前ら、いまからこの地図を印刷して渡すから、二時間で覚えてくれ」
「わかりました」
「・・・了解」
二人は、素直にそう返し、十夜が印刷し終わるのを待つ。
三十枚というのはかなりの数だが、この二人・・・十夜を含めた三人には、大した量ではない。
「ところで黒瀬さん」
少し時間が出来たので、結菜は十夜に聞きたい事を聞こうと思ったのだ。
「なんだ?」
「どこで学園の地図を手に入れたのですか?」
「貰ったんだよ。ここを卒業した姉からな」
「・・・え?」
それは予想外の答えだった。
「お姉さんがこの学園の卒業生だったんですか?」
「ああ。名前は黒瀬夜宵。今は十九歳だったかな」
「そうなんですか・・・」
「意外か?」
結菜はそれに頷く。
「はい。少し。家族仲は悪いと勝手に思っていましたので」
それを聞いた十夜は小さく笑う。
それのそうだろう。全体を見るなら確かに家族仲は悪いのだから。
「ま、家族仲が悪いといっても、仲の良い奴くらいはいるさ」
そう自嘲気味に言う十夜は、どこか苦しそうに結菜には見えた。
そして、会話が途切れ、室内を嫌な空気が支配する。結菜は何とか話題を探そうとしてみるが、何をいっても「頑張って話題探しましたよ感」がする気がして、口を開けない。
人に恥をかかすのは好きな結菜だが、自分が少しでも恥ずかしい思いをするのは我慢出来ないのである。
そんな時、地図のコピーが終わった。
出来ればもう少し早く終わってほしかったと内心愚痴りながら、結菜は自分の分の地図を取る。
十夜は、二人が地図を持ったのを確認すると、今までより一層眼を鋭くして、言った。
「これから作戦を説明する。お前らきちんと頭に叩き込めよ?」
暗殺者が来るまであと五日。今日を除けば四日しかないのだ。
「ところで、『作戦を説明する』って言ってて恥ずかしくないですか?中二病みたいで」
シリアスブレイカー結菜が発動した瞬間だった。
「結局お前はオチ担当なのな」
十夜のうんざりした声に反応する者は誰もいなかった。