第6話:バトルメイドとの語らい
楽しんで頂けたら幸いです。
次の日の朝。
この日は日曜日で、学校は休みである。十夜はベッドに寝転び、作戦的な事を考えていた。
これから黒瀬家の暗殺者と戦う為には、武器が必要になる。そう十夜は考えていた。
しかしそこには問題が一つ。
「武器と言ってもあいつらが使う武器はBFだからなあ」
BF・・・正式名称バトルフレーム。それは、数十年前に発明された武器の総称である。形状は多岐に渡り、武器は基本的に接近戦の物が多い。その構造は、素粒子を電子で結合させ、さらにそれを超振動させることにより、非常に高い殺傷性能を誇る。
もちろんそんな武器を使う相手に普通の武器では対抗出来ない。
「でも、値段がなあ・・・」
そう。BFはかなり高価な武器なのである。その値段は、例えばナイフ型のBFを買おうとしたら、戦車一台分くらいはする。
そんなものを一介の高校生に買える訳がない。
そう、例え並外れた戦闘力を持つ暗殺者であったとしても。
「・・・普通の手段じゃ手に入らないなら―――盗むしかない」
いきなりとんでもない事を言い出した。
「とんでもない事言いますね。さすがエロオオカミ。アレですか?お嬢様の貞操を盗むとかそういうのですか?」
聞き覚えのある声に十夜がベットから上半身を起こし、声の主の方に視線を向けると、そこには白峰結衣専属のメイド、結菜がいた。
「なんだ、アホ会長専属のバトルメイドか。それと誰がエロオオカミだコラ。そして何で俺の部屋に勝手に入ってきてやがる」
結菜は、十夜の寮の部屋の窓から入ってきたのだ。
ジト目で言う十夜に対して、結菜は鋭い視線を向ける。
「わたくしの事は百万歩譲って良いとしても、お嬢様の事を悪く言うの許しません。また蹴り伏せられたいんですか?」
「今度地に伏せるのはお前の番だバトルメイド」
上から目線を貫く結菜に、イラッとした十夜は、挑発的な言葉を投げる。
そしてその言葉は次には結菜の気分を一気に下げさせた。
「出来るんですか?あの時全く反応出来ずに私に蹴られたあなたに?」
結菜は体から微かに殺気を滲ませる。
「やってみるか?チビ」
そう言って十夜も殺気を滲ませる。しかし十夜の殺気は結菜より遥かに濃密だ。
「―――ッ!」
結菜の顔が驚愕に染まる。
結菜には信じられない事だったのだ。先日、いとも簡単に蹴り伏せた少年が、これほどの殺気を出すことに。
(わたくしが完全に呑まれる程の殺気ですか・・・。あの時はワザと蹴られた、という事ですか・・・)
その事実に結菜は気分が悪くなる。
―――思い知らせてやる。
そんな思いが結菜を支配する。
「どうする?泣いて謝るなら今の内だぞ?」
完全に悪役のセリフだ。しかし十夜には思いのほかよく合っている。
「ふざけないで下さい。あなたに屈するぐらいなら死を選びます」
しかし結菜は認めない。自分が目の前の少年より劣っている事を。
それは、結菜が唯一持っている誇り―――プライドだ。
(わたくしは屈しません。たとえ絶対に勝てない相手でも・・・!)
結菜はあの日、結衣に拾われ、結衣の家族になったあの日、誓ったのだ。
―――結衣お嬢様の使用人である間は絶対に誰にも屈しない、と。
(わたくしが負ければ誰がお嬢様を守るんですか・・・!)
だから―――
「わたくしはここでもう一度、あなたを蹴り伏せます―――!」
結菜は、殺気を全開にして、構えを取る。
そして十夜は、その言葉を聞いて、口元を小さく歪めた。
「そうでなくちゃな。来いよバトルメイド。格の違いを教えてやる」
いい感じで壊れてきた十夜は、結菜に右手の人差し指を向け、それを内側にクイクイと曲げる。
その瞬間、結菜は一歩で十夜との距離を詰め、高速の後ろ回し蹴りを顔めがけて放つ。
(速い―――!)
先日とは違い、今度はより注意深く結菜の蹴りを見る。それにより、結菜の蹴りがどれほど高い領域に至っているのかが良く分かる。
暗殺者になれば間違いなく超一流のレベルになれるだけの才能を秘めている。
(だが、まだまだ遅い)
十夜は結菜の蹴りを片手で掴み受け止める。
「―――なっ!?」
自分の最高の蹴りを容易く止められた事に驚愕をかくせない結菜。
「何を驚いてるんだ?俺とお前の実力差は明白だろう」
「くっ・・・!」
結菜は身体を支えている片足で、床を蹴り宙に浮かぶと、そこから思いっきり体を回転させ、掴まれた足を振り解くと同時に、再び十夜の顔に向かって蹴りを数発放つ。
「だから全部見えてるって」
しかし十夜はその蹴りを全て躱す。その動きには、一切の淀みがなく、結菜は不覚にも美しいと思ってしまう。
(でも、まだ・・・ですっ!)
結菜は横になった状態から器用に体制を整え、次に、足に仕込ませた小さな針を蹴りの動きと同時に飛ばす。
これには流石に反応出来まい。
そう確信した結菜だったが、
「だから―――無駄だって言ってんだろ」
その直後にした動きは、結菜には全く見えなかった。かろうじて、十夜の右腕が一瞬ブレた様に見えただけだった。
しかし、それは直ぐに理解と同時に結菜の眼に入ってくる。
「―――そんな。あの針を・・・全部素手で掴んだというのですか・・・?」
十夜の右手・・・正確には右手の指の間に、結菜が飛ばした針が全て挟まっているのだ。
まさに神業だ。
(そんな!針は全部で五十本は飛ばしました。しかも彼に届くまでに、半径五十センチの円の形にまで広がっています。そんな広範囲を飛んでいる針を全部掴み取るなんて―――!!)
―――化け物。
まさに今の結菜の眼に、十夜はそういう風に映った。
「今度はこっちから行くぞ」
そう告げて、十夜は、結菜に向かって一歩を踏み出そうとした、その瞬間。
ダァァン!
部屋に恐らく銃声だと思われる音が響いた。
「・・・喧嘩ダメ」
銃を撃ったのは、昨日十夜に仕事の依頼をされて、一時的に仲間になった神崎リリィだった。
ちなみにリリィも窓から勝手に十夜の部屋に入ってきたのだ。
「・・・わかったよ。止めるからとりあえずその銃を下ろせ」
職業柄、銃口を向けられていると落ち着かないのだ。
「・・・わかった」
リリィは、十夜の言葉を信じて、銃を下ろすと、そのまま胸に―――内ポケットか何かだろう―――にしまった。
リリィの乱入で、ある程度落ち着いた十夜は、小さく溜息を吐くと、ベッドに腰掛け、部屋に勝手に入ってきた二人の美少女を見る。
結菜は何が起きたのかイマイチ追いついていない様だが、それは今とりあえず無視だ。
リリィは、一週間後―――既にもう五日後だが―――に控えた仕事の打ち合わせに来たのだろう。現に、リリィの眼は「・・・この子も仲間?」と訴えている。
「って何声に出してんだよ」
「・・・そういう仕様だから」
「いや意味わからん」
「・・・それより、敵戦力を詳しく教えて」
なるほど、今日はそれが目的で来たのか。
納得した十夜は、今度は、結菜に向き直った。
「なあバトルメイド。お前に言っておかなくちゃいけない事がある」
「・・・なんですか?」
十夜の雰囲気から余程の事と感じたのだろう。茶々も入れず素直に次を促す。
「五日後、お前の主である白峰結衣をターゲットに、五十人の一流の殺し屋がこの学園島に送り込まれる」
「・・・・・・・・・え?」
「だからお前には―――」
「ち、ちょっと待ってください!信じろっていうんですか?そんなバカみたいな話」
「そんな事言ってもこれはマジだ。だいたいこんなつまらん嘘付くわけねえだろ」
確かに。結菜は目の前の少年の事が嫌いだが、この少年は人が殺されるなんて趣味の悪い嘘を吐くような人には見えなかった。何となくだが、命の重みを分かっているように思えるのだ。
そして、だからこそ理解出来てしまった。
自分の命を懸けてまで守ると誓った主の命が今、とてつもなく危ないという事を。
「・・・なんでお嬢様の命が狙われる事をあなたは知っているのですか?」
それは至極当然な疑問だった。
目の前の少年。恐らく私を子ども扱いしたあの超絶の戦闘技能は、並の訓練では手に入らない。余程厳しい訓練を行ったのだろう。
だからこそ気になった。この少年が何者なのかを。
「そうだな。この際だからお前らに教えとく。俺が何者なのかを―――」
そうして、十夜は自らの事を語りだした。
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十夜は、あの後、一時間程使って、簡単に自分の家の事などを話した。
リリィと結菜の二人は時折驚いたような表情をしていたが、最後まで黙って聞いていた。
「黒瀬家ですか・・・。聞いたことがありません。そんな暗殺集団がいるなど」
「・・・私も」
リリィと結菜は、黒瀬家の事を知らないようだった。
「いや、それも無理はねえよ。黒瀬家は完全に社会から隔絶された一族だ。そこに属する暗殺者達も、個人や別の名前で売り出してる」
その説明を聞いて二人は納得すると同時に、少し理解出来ない思いもあった。
普通に考えれば、多数の暗殺者を子飼いにしている組織は、その組織名を前面に押し出す。なぜならその方が知名度も上がり、仕事が多く入るからだ。それにより、金が多く手に入る。
裏社会の人間の目的など基本が金だ。後は名声や女。
しかしそれらを無視して、ひたすら組織自体の秘匿に走るのは珍しい。まあ、テロ組織とかならあるかも知れないが、十夜の説明からはそう言った感じはしなかった。
(とりあえずそれは置いとくとしまして、今はやる事があります)
結菜は、おもむろに立ち上がり、十夜の目の前に移動する。
「ん?どした?おしっこか?トイレならこの部屋を出たむこ―――ぐべらっ!」
結菜は十夜が言い終わる前に、十夜に蹴りをブチかました。
少しシリアスな空気の時で、完全に予想外且つ、トイレの方に視線を移していたので、反応が遅れたのだ。
吹き飛び、壁に叩きつけられた十夜は、「ぐおぉぉぉ」と気持ち悪い声を上げながら悶絶している。
「お嬢様が狙われるのはあなたのせいではありませんが、とりあえずケジメとして蹴らせて頂きました」
そうドヤ顔で告げる結菜。
正直本音を言えば、十夜のせいだという気持ちも無いではない。目の前に悶絶している少年がこの学園に来なければ、結衣が危険になる事もなかったのだ。
(でもそれは余りにも自分勝手な考えですね)
結菜は、そんな考えをする自分が嫌だった。確かに結菜は、結衣をあらゆる物事の優先順位としている。その為には、例え親であろうと恋人であろうと見捨てる覚悟が結菜にはある。しかし、それに傾倒し過ぎれば、その思いは、覚悟は、誇りではなくただの言い訳に成り下がってしまう。
そう結菜は考えていた。
「お嬢様の為」。それを人を殺す言い訳に、誰かを見捨てる言い訳にしたくなかったのだ。
自分の思いは、何よりも崇高で気高いものでなくてはならない。
だからこそ、本音と誇りの折り合いをつける為に、結菜は十夜を蹴ったのだ。これからも自らの誇りを貫く為に。
「それにムシャクシャしてる思いも収まりましたしね」
「てめ、ぶっちゃけそれが理由の七割くらい占めてるだろ・・・」
床に倒れながら十夜は言う。
それに対して結菜は小馬鹿にしたような笑みを向けるだけだった。