第4話:急展開
サブタイトル通り急展開です。
翌日、十夜はまたいつも通り朝の六時に目が覚めた。
「相変わらずこの癖だけは抜けないな」
十夜は苦笑しながらベッドを出て、日課であるシャワーを浴び、制服に着替え朝食を作る。
今日のメニューは、昨日のレストランで出たモノと全く同じにしてみた。
それを十夜は素早く口に運ぶ。
「うん。俺の方が圧倒的に美味い」
これは強がりではなく純粋な事実だった。十夜は基本的に嘘つきであるが、こと料理に関しては嘘は吐かない。
食事を手早く済ませた十夜は、歯を磨き、カバンを持って部屋を出ようとした。
その時、ズボンのポケットに入れていたスマートフォンが振動した。この振動のパターンから、電話だと分かった十夜は、一瞬でテンションが低くなった。
十夜の携帯に電話を掛けてくる人間などこの世界に五人しかいないからだ。そしてその五人共が、十夜にとっては忌み嫌う人間だ。
しかし出ないという選択肢を持ち合わせていない十夜は、仕方なく通話のアイコンをスライドさせた。
「もしもし」
発せられた声は、今までの十夜とは比べ物にならないくらいの威圧感を内包していた。
『十夜か』
そこから聞こえた声は、十夜にとってまだマシな者からだった。
「鏡夜か。なにか用か?」
さっさと話しを切り上げたかった十夜は不機嫌さを隠しもせずに要件を問う。
『ふっ、相変わらず黒瀬の人間は、夜姫以外嫌いのようだな。これでも俺はお前の兄だぞ?』
「黙れ。誰がお前を兄だと認めるか。それと、さっさと要件を言え」
『くく、まあいい。来週、その学園に五十人、家が子飼いにしている殺し屋を放つ』
「なにッ!?」
それはあまりにもいきなりで、あまりにも驚愕の内容だった。
『ターゲットは一人、その学園の理事長の愛人の子でありながら学園の生徒会長を務める―――』
まさか―――。ただ一瞬、混乱する頭の中で思い浮かんだのは、昨日一緒に食事をした一人の少女。
『―――白峰結衣だ』
呼吸が止まる。
頭の中を様々な思考がごちゃ混ぜになって漂う。
「ど、どうして白峰結衣を?」
『ははは!混乱してるな十夜!久しぶりに聞いたよお前のそんな声』
「いいから答えろ!!!」
ありったけの声で十夜は叫ぶ。
『それは、その女を見事守りきったら教えるよ。ちなみに一つだけ情報をやる。放つ殺し屋は全員一等級以上の実力をもっているからな。では、健闘を祈る、愚弟よ』
そして、通話は切られた。
「―――――――――――――クソッ!!!」
十夜は壁に向かって携帯を壁に思いっきり投げつけた。
バキィィィン!!
激しい音を立てて、携帯は粉々に砕ける。
そのおかげか、少しだけ冷静さが戻ってきた。
(そうだ、焦るな。落ち着け・・・)
このような経験は過去にも何度かあった。
十夜は基本的にすぐ人に情を持つ。もちろん親愛という意味でだが。その為、その人間に大きな危機が訪れると、十夜は一瞬で冷静さを失う。これは昔からの十夜の短所だ。
(とりあえず今ある情報を確認するか)
今ある情報。
一つ、今から一週間後に白峰結衣をターゲットに黒瀬家から五十人の一流の殺し屋が送り込まれる。
二つ、白峰結衣は白峰学園学園長の愛人の子供である。
三つ、送り込まれる暗殺者は全員一等級以上のレベルを誇る。
ちなみに一等級というのは、黒瀬家が飼っている殺し屋をランク分けする時に使うものの一つだ。
下から、三等級・二等級・一等級・上一等級・最上一等級となっている。ちなみにその上に黒瀬家直系が存在する。
「黒瀬家か・・・。はは、やっぱそう簡単に縁は切れないか」
黒瀬家。
それは数百年前から存在する日本最強の戦闘集団一族の事を指す。〈王閃流〉と呼ばれる古流刀術を主に使用し、その戦闘能力は三等級で一個中隊を軽々殲滅出来る力を持つとされる。
しかし真に恐ろしいのは黒瀬の直系であり、彼らの中の最弱の者であっても一人で軍の五個師団を相手取る力を持っている。
そしてそのような化け物を育成する為に、黒瀬家の訓練はまさに地獄の様相を呈する。毎年訓練中に数百人単位で命を落とすのだ。
そんな異常な家の四男、そして六番目の子供として生まれたのが十夜だった。
黒瀬家は生まれたばかりの子供には名前は付けず、十歳になるときまで番号で呼ばれる。十夜は「六番」と呼ばれ、幼少期を過ごした。
何故番号で呼ぶかというと、もし産まれた子供に戦闘の才能が無かった場合、処分するためだった。
幸い、と言って良いのか分からないが、十夜の兄弟や姉妹達は全員ある程度の才能を持っていたので処分されずには済んだ。
そして、十歳になり父親である、「黒瀬千夜」から「十夜」の名前を与えられたのだ。
黒瀬家は代々、直系には「夜」の字を名前に入れるのが風習だ。
現在の黒瀬家直系にも全員「夜」の字が入っている。
祖父である黒瀬厳夜。祖母である黒瀬夜世。父である黒瀬千夜。母である黒瀬夜雪。一子で、長男である黒瀬天夜。二子で次男の黒瀬鏡夜。三子で長女の黒瀬夜宵。四子で三男の黒瀬神夜。五子で次女の黒瀬深夜。六子で四男の黒瀬十夜。七子で三女の黒瀬夜姫。八子で五男の黒瀬一夜。
これが現在の黒瀬家直系の全てである。
歳は、子供の中では、一番上が現在21歳で、そこから一つずつ下がる。
閑話休題。
とりあえずここまで情報を整理して思ったことは、
「あの女理事長の娘だったんだ・・・」
変な所で理解の遅い十夜だった。