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第3話:会長の家とバトルメイド

この話しから三人称視点に変えます。


スイマセン。

 十夜が目を覚ますと、そこは知らない場所だった。

「まあ、知らない場所って言ってもこの島に来たの昨日だから、基本どの場所も知らない所なんだけど」

 そう一人ごちて今の自分の状況を確認する。

 今十夜は、ベッドの上に寝転んでいる。おそらくあのチビッ子に蹴られた後、運ばれたのか、と、十夜はそこまで考えて、その瞬間ある事を悟り、ベッドから上半身を勢いよく起こした。

「まさか今俺がいるこの場所ってもしかして――――」


「そう、私の家よ」


 そう言って現れたのは、白峰結衣。

「やっぱりか」

 十夜はしまったとあの時の自分の行動を後悔した。

(あの時はあのチビッ子の蹴りをワザと食らうんじゃなく、多少目を付けられても躱すか受け止めるべきだった)

 心の中で反省すると同時に十夜はあの時のチビッ子・・・結菜の蹴りを思い出す。

(あの蹴りは中々のモンだったな。あの独特の蹴り・・・カポエイラか?)

 先程の事を自分なりに分析する十夜。しかしそれは結衣によって遮られる。

「ねえ黒瀬君、夕食まだなんでしょ?良かったら一緒にどう?」

 思わず「結構です」と言いそうになるのを寸での所で思いとどまった。

 せっかくタダ飯が食えるのだ。時間も今確認したら既に九時を超えている。それに十夜自身、超一流の人間が食べる食事に興味があった。

 ならば十夜の答えは既に決まっている。

「分かった。謹んでご馳走になるよ、生徒会長殿」

 十夜が言うと、結衣は、少しだけ考えた後、頬を赤らめ、意を決した様子で、

「・・・・・・結衣」

 そう言った。

「は?」

 何のことか分からず、十夜は思わず素で返してしまう。

「だから、私の事はこれから結衣と呼んで。私もあなたの事は十夜って呼ぶわ」

「やだ」

「なっ!なんでよ!私の名前を呼べるなんて光栄でしょ!?」

 結衣は信じられないといった感じで叫ぶ。

 それもそうだろう。結衣の事を下の名前で呼べる男子などこの学園には一人もいない。そんな学園の全男子が憧れるモノを十夜は拒否したのだ。

 しかし、十夜にもキチンとした理由は存在する。

「俺がもしお前の事を下の名前で呼んでいるのを他の生徒に見られてみろ。俺の学園生活は一瞬で塵と消えるわ」

 結衣は間違いなく学園のマドンナ。男子にしてみれば決して届かない高嶺の花だ。そんな結衣を下の名前で呼んでいる男子をそのまま放っておくわけがない。

「だから言ってるでしょ!?その時は私が皆に言うって!」

「だから何でそんな所だけ無駄に純粋なんだよ!そんな簡単に人が変わるか!」

「大丈夫よ!絶対言えば分ってくれるわ」

 十夜の言葉にも全く耳を貸さない結衣の姿を見て、そこで初めて十夜はこれが少しおかしい事に気付いた。

 結衣は、人と人はきっと分かり合えると思っているのだ。

(でも、金持ちの娘なら多少は人の汚い面を見る事だってあったはずだ。生徒会長になれる程の女だ。世間知らずのお嬢様ってわけでもないだろ)

 何かある。しかしそれが何なのか、十夜であってまだ一日も経ってない十夜には分かるはずもなかった。

「とりあえず結衣って呼ぶのはナシだ」

 結衣の中に何があるのかは少し気になったが、今は呼び方の話しを切り上げるのが先決だ。

「じゃあせめて二人きりの時は結衣って呼んで」

 その言葉の意味は分からなかったが、そもそも目の前の女と二人きりになる事自体滅多に起こらないだろうと考え、十夜はその提案を呑んだ。

「よし、契約成立ね」

「別に契約でも何でもないけどな」

「あ、それと私は十夜君って呼ぶからそのつもりで」

「おい!それはおかしいだろ!」

 十夜の突っ込みを結衣はシカトし、手を二回パンパンと鳴らした。すると、部屋の扉が開き、そこから、料理が乗ったカートを押しながらあのチビッ子メイド結菜が出てきた。

(やっぱりあのチビッ子はこの女の専属の使用人だったのか。つか使用人にしては強過ぎるだろ。あれか?今流行りの戦うメイドさんか?)

 そこまで思って、とりあえず十夜は、このちっちゃいメイドに話しかける事にした。ちなみに今結菜はテーブルに料理を配っている。

「おいそこのバトルメイド。お前何いきなり人様の顔蹴ってんだよ。せっかくのイケメンが台無しだろうが」

 すると、結菜は十夜の方に向き直り、小さく頭を下げた。

「申し訳ありませんイケメン(笑)様。確かにあなた様のイケメン(笑)は台無しですね。色んな意味で」

「喧嘩売ってんのか?」

「いえ、ただ事実を述べただけでございます。イケメン・・・・・っぷ」

 無表情のまま結菜は笑う。明らかにワザとやっている。

「上等だことクソチビメイド!表出ろ!」

「分かりました。地獄を見せて差し上げます」

 そう言って結菜は腰を落として構える。

「はい!止めなさい!ストップ!」

 一色触発の空気の中、それを破ったのは結衣であった。結衣は二人の間に入り、互いに向けて両手を突き出している。

「今はくだらない喧嘩をしている時じゃなくて夕食を食べる時間よ。わかったら二人とも席に着きなさい」

 その言葉でシブシブ二人は席に着く。

 そこで十夜はある事に気付いた。

「つかバトルメイドも一緒にメシ食うのかよ。普通メイドは後ろが別の所で主が食い終わるのを待ってるもんじゃねえの?」

「結菜は私の家族も同然よ。だから一緒に食べるのは当たり前なの。それにこんな広い家で一人で食べるのも落ち着かないでしょ?」

 十夜の疑問に結衣が答える。

 それに納得したように頷く十夜。

 そしてそれを見た結菜が、ジト目を十夜に向けながら、

「まさかお嬢様と一緒にお食事をして一体何をしようとしていたんですか?・・・はっ!まさか飲み物に薬でも入れて襲うつもりでは!?」

「え!?そうなの十夜君!?」

 結衣は胸を両手で隠しながら椅子ごと勢いよく後ろに下がる。

「ちげーよ!何とんでもない勘違いしてんだ!」

 十夜は叫んで否定する。もちろんそんな事などする気もないし。元を辿れば十夜は無理矢理連れて来られたのだ。もしそれすらも見越していたならそいつは間違いなく超能力者だろう。

「嘘です。あれは獲物を狙うオオカミの眼・・・!!」

 しかしチビッ子バトルメイドは止まらない。これ幸いと煽る。そして変な所で純粋な結衣は、その言葉を鵜呑みにし、顔を真っ赤にさせてどんどん後ろに下がる。

 途中、「でも、十夜君になら・・・・」という呟きは誰にも聞こえる事はなかった。

「もう勘弁してくれ・・・」

 十夜はうんざりしながら、目の前にある料理を口に運んだ。


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