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第2話:生徒会長

ただ今、絶賛入学式の真っ最中である。

 コーヒーを飲み終わった後、既に準備も出来ていた俺は、部屋に戻り、カバンを持ってそのまま学校に向かった。

 何かあるかな?と思って歩いていた通学路は、しかし朝が早く誰もいないという悲しい理由により、何も無かった。

 カワイイ女子との出会いを楽しみにしていたんだが、どうやら神様は俺に奇跡をくれる気はないらしい。

 その後、教室で時間まで寝て、そして今に至るという訳である。

 入学式は、学園の体育館で行われる。しかしこの体育館、かなり広い。そりゃそうだ。一学年千人、全校生徒は三千人で、教員は五百人いる。トータル三千五百人を一辺に収容しなくてはならないのだから、大きくて当たり前だ。

 さすがにこの大きさには驚いた。

しかしそれもすぐに詰まらないものになる。

 正直入学式は、全く面白くない。もちろん、入学式というモノは基本面白く無いものである。

 俺だってメチャクチャ面白い入学式というものがあるのなら是非見てみたい。

つまり何が言いたいかっていうと、早く帰りたいという事である。早く帰って、島にあるスーパーに行って、かなりマニアックな食材を買って、部屋で新作料理を作りたい。

 ちなみに俺の料理のレパートリーは数千に上り、ジャンルも和・洋・仏・伊・中など、基本作れないものは無い。

 当然ながらデザート作りも行う。

『次は、生徒会会長からの激励です』

 今日の料理について思いを巡らせていると、どうやら最後の項目にいったようだ。

「生徒会会長の激励」。これはこの学園の入学式最大の目玉である。

 理由は、この学園のシステムにある。この学園は完全な実力至上主義を敷いている。仮にテストを見てみると、学園のテストの方式は特殊で、一年が三年のテストを受ける事が可能なのだ。運動にしても、芸術にしてもそうだ。この学園は、個人が好きなレベルのテストを受ける事が出来る。

 しかし学年は変わらない。これは、優秀な人間を妬んだ上級生が、下級生を虐めない為である。ほとんど意味を成さないらしいが。

 学園側も、「虐めに負けるようなカスは我が学園には必要ない」と言っているし。

 閑話休題。

 つまり、能力の低い者は、能力の高い者に従うという事だ。それが例え年下でも。

 そして生徒会長とは、その全能力の総合において、この学園ナンバーワンの者が付ける役職なのだ。要は「完全無欠」の称号を持っているのだ。

 故に生徒会長とは、この学園にいる者にとっては憧れであり支配者でもある。

 学園の歴史を振り返っても、生徒会長になった奴の人格が悪かったせいで、様々な問題が起こった事もあるらしい。

 幸い今期の生徒会長は、「歴代最高」と呼ばれているらしい。

 そして、今、「完全無欠」を背負った「女」が、檀上に上がった。

「皆さん、ご入学おめでとうございます。私がこの学園の生徒会長の、白峰結衣です」

 圧倒的存在がそこには居た。腰まである美しい黒髪、少しつり気味な目に、きれいな緑色の瞳を持つ圧倒的美しさ。それに、背は、高すぎず引くすぎず、胸も、はっきりとその存在感を示し、美乳である事が一目で分かる。腰もくびれ、お尻も美尻というにふさわしい。少し短めのスカートから伸びる長くすらっとした美脚は、黒タイツによりその美しさをより一層高めている。

 この体育館にいる生徒の全て・・・といっても上級生は生徒会の人間しかいないが・・・が全て、あの「完全無欠」な美少女にくぎ付けだった。

 それも男女問わずだ。

 それほどまでに、生徒会長・白峰結衣の存在は圧倒的だった。

(まあ、あんだけ美人ならそれも仕方のない事だよな)

 そして白峰(もう呼び捨て)は、檀上でベラベラと新入生に向かって激励を述べる。ぶっちゃけて言うと、俺はその言葉を全く聞いていなかった。そんな事より今日の夕飯のメニューをいかに素晴らしいものにするかの方が重要だからだ。

 周りの感極まった様子を見ていれば、それなりに良い事を言っているんだろう。

 でも、俺は、話しに全く興味を向ける事なく、ただひたすらに今日の夕食の献立を考えていた。

 だから俺は気付かなかった。白峰がこちらを定期的に見てきている事に。



 入学式が終わり、割り当てられたクラスに行き、教師から説明を受けて、その日は解散となった。

 すぐさま俺は寮に帰り、財布を持って、島にある商店街に向かった。

 この白峰学園島―――通称白峰島―――には、三千人に及ぶ学生の為に、ありとあらゆる施設が存在している。

 この商店街もその一つである。ここは所謂、「庶民の味方」といった感じの場所だ。置いてある商品は全て割合と安く、多少金銭的にキツイ学生でも無理なく買える。

「さて、買いまくるか!」

 俺は基本面倒くさがり屋なので、一週間分くらいは一度に買う。もちろん一週間分の朝昼晩のメニューを考えながら。

「さて、とりあえず今日の晩はフレンチで行くか」

 俺はメニューを考えながら食材を買っていく。

 買い物を始めておよそ二時間。ようやく一週間分の食材を買い終わった。

「完璧だ」

 思わずそんな事を漏らす。

「それは良かったわね、十夜君」

 いきなり背後から声を掛けられ、俺は振り向く。

「白峰か」

 そこに居たのは、入学式で挨拶した、学園の生徒会長、白峰結衣だった。白峰は俺の真後ろに立っていて、こちらに笑顔を向けている。

 つかこの距離まで近づかれるとは・・・。これは俺の悪い癖だ。ガチで買い物を始めると、周りが見えなくなる。危険な場合は問題ないんだが。

「コラ、私一応先輩でもあり生徒会長でもあるんだけど?」

 つまりは敬語で話せ、という事か。

「あんたが両手の人差し指と親指で円を作って、それでチクビームをしてくれたら喋り方を敬語に直そう」

「さ、さすがにそれは無理かな」

 白峰は顔を引きつらせながらそう言った。

 っち、ゆとり世代が。

「で?俺に何のようですか?ご丁寧に名前まで調べてきて」

「たまたまここを通りかかったら君がいたから何してるんだろうなあって思ってね」

 そんなクソ下らない理由で俺に話しかけてきたのかよ。まあいい。買い物も終わったし、少しだけ付き合ってやるか。

「・・・そうですか。ところで、生徒会長になるってどんな気持ちですか?」

 めんどいので敬語に直す。

 白峰は俺の方から質問してくるとは思わなかったのか、少し驚いたが、すぐに笑顔になった。

「そうだね。これから生徒みんなの為に頑張ろうって感じかな」

 うわっ!一番つまんない答え返しやがった。

「ところで十夜君は、今日私が話しているのを見てどう思った?」

「そうですね・・・―――かわいそうだなって思いました」


 その瞬間、白峰の笑顔が凍りついた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味かな」

 白峰は俺にそう尋ねる。

 口は笑っているが、目は完全に据わっている。

 普通の人間ならこの段階でビビってどうしようもなくなるだろうが、生憎俺はこの程度は全く問題ではない。

「だってそうだろ?『完全無欠』でもないのに『完全無欠』を背負わされてるんだ。それが可哀そうじゃなくてなんて言うんだ?」

「別に私は周りから『完全無欠』を背負わされても別にそれを苦だとは思ってないわ」

 それを聞いて俺は思わず笑った。

「・・・何がおかしいの?」

 既に白峰は不機嫌さを隠そうともしない。

「そういう事を言いたいんじゃねえよ俺は。ただ、あんたみたいなすげぇ人間が自ら自分の限界を設定してるみたいだからそう言ったのさ」

 俺のその言葉に白峰は分からないと言った風に首を傾げた。

「なに、簡単な事だ。『完全無欠』っつうのは、欠点が無いという事。じゃあその現時点がそいつの限界ってことだろ?つまりあんたは自分で今の自分の能力が自分の限界だと言ってるようなもんだ。まあこの考え方は人それぞれだから気にする必要ないんだけどな」

 言い終わって白峰の方を見ると、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 目を見開いて驚いていた。

 でも流石は美人。それでも絵になる。

「どうした?そんなビックリした顔して」

 白峰は俺に言われてハッとしたように表情を直すと、少しだけ笑って言った。

「少し驚いていたのよ。たかが補欠合格の人間がそんな考え方をしているなんてね」

「そりゃどうも。つーかあの聖人君子みたいなキャラはどこに行ったんだ?」

「ああアレ?あなたの前でキャラ作りするの面倒だから素の自分で行くことにしたわ。この私は嫌い?」

 白峰は小悪魔的な笑みを浮かべる。

「いや、今のあんたの方が百倍は魅力的だな」

「そ、そう。ありがと。・・・というかそんな真顔で言われると照れるじゃない!」

 真っ赤になって言ってくる白峰だが、既にそこには「完全無欠」を背負う生徒会長ではなく、普通の女子高生だった。

「なんでそこでキレる・・・。っと、そろそろ俺帰るから」

 スマートフォンで確認すると、既に時刻は六時を過ぎている。

「あら、何か用事でもあるのかしら?」

「単に寮に帰ってメシ作るだけだよ」

 その瞬間、白峰の目が嫌らしく光るのを俺は見逃さなかった。

「なら私もその夕食にしょうた―――」

「だが断る」

「・・・ちょっと、まだ全部言ってないじゃない」

「うるせえよアンポンタン。なんで俺がお前を・・・というか特別生を招待しなくちゃいけないんだ。一般生ですら招待したくないのに」

 とんでもない事言い出すなこの女。

「あら、別に特別生が一般生と仲良くしてはいけないなんて校則には書いてないわよ?」

 この学校には大きく分けて全部で四種類の生徒がいる。普通に受験で入学した一般生。学力や運動面を学園側に認められて入学した特待生。

 まあこの二つはどこの学校でも見られる。ただ名前が付いているだけだ。だが、後の二つは違う。

 その一つが特別生。これは、学園側に莫大な資金援助を行い入学した生徒だ。世間一般では裏口入学といわれる方法だが、この学園は「金は力だ」と言い、それを容認している。もちろん支払う金は数千万~数億に及ぶと言われている。

 そして、特別生と、特待生には、様々な特権が与えられている。例えば、寮は一般生とは別の寮で、部屋は超一流ホテルのスイートルームよりデカい。それに生徒一人につき、必ず世話係が二人付く。もちろん個人的な使用人を個別で雇っても構わない。食事は毎回部屋まで運びに来るし、風呂はどこの大浴場?みやいなのが付いてるし、テレビは映画館にあるスクリーン並にデカい。

 そして最後のは、まあ今はいいだろ。

 つまり、そんな奴を一般生の寮なんかに呼んでみろ。俺は一躍有名人だわ。

「うっさい。校則とかそんなん関係ねえよ。それにお前は今日の入学式で一年にも顔が知られてる。そんな奴を一年の俺が部屋に入れたら明日には俺は死んでるね」

 既にこいつのファンクラブに入ってる一年を俺は見た。太った男だった。

 それに一番マズイのは上級生・・・しかも特別生の上級生に知られる事だ。もし知られたらそいつらが卒業するまで俺は嫌がらせを受ける羽目になる。

「なら私の部屋に来なさい。私これでも特別生かつ特待生だから一軒家を与えられてるの。それなら一目に付く心配は無いわ」

「なるほど。その発想はなかった―――って駄目に決まってるだろうが。つかお前一軒家ってどんだけだよ」

 流石アホな学園だ。一生徒に家一軒与えるとかマジでバカだろ。

「なんでよ。別にご飯食べるくらいどうってことないでしょ?」

 白峰はいくらか不満気だ。

「いやそりゃね?お前は別に良いかもしれないよ?でも俺がマズイんだっつてるだろ?お前の事が好きな奴とか、お前のファンクラブに入ってる奴とかに俺がいじめられたらどうすんだこのヤロー」

「大丈夫よ。その時は皆に言えばきっと分かってくれるわよ」

「なんで無駄にプライドと能力が高いくせにそんな所は純粋なの!?」

「???」

 可愛らしく首を傾げやがってこの女。

「はあ、とりあえず俺は自分の寮に戻る。食事に誘うなら同じ特別生か特待生を誘え。じゃあな」

 それだけ言うと、俺はさっさとその場を立ち去ろうと、振り返った。

「お嬢様のお誘いを断るとは不敬な輩ですね」

 そこには、メイド服を着た、見た目中学生のちっこい女子が立っていた。

 黒髪をポニーで纏め、肌はやや褐色だ。南米系とのハーフだろうか。とりあえず普通に美少女だ。

「なんだチビッ子。俺は急いでんだよ。さっさとそこどけや。スカート(めく)るぞ」

 少しドスの効いた声で言う。

 子犬ですらビビって逃げるこの俺のハスキーボイスにこのガキんちょも同じように逃げ出すだろう。

「お嬢様の誘いを断るだけでなくわたくしの事をチビと言いましたね?死刑確定です」

 そう言った瞬間、チビッ子は、俺の顔めがけて蹴りを放った。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 十夜の頭が、いきなり何かに当たったかのように右へズレたかと思ったら、今度は十夜がいきなり崩れ落ちた。

 それが、白峰結衣が見た事だ。

 恐らく自分の専属のメイドである結菜が何かをして、それで十夜が倒れたのだろう。

「何をしたの結菜(ゆな)?」

 結衣は目の前に無表情で佇む専属メイドに向けて問いかける。

「ただ顎に蹴りを入れて気を失わせただけです」

 結菜は何でもない風にそう答える。

 全くこの子は・・・。

 毎度の事ながら結衣は内心溜息を吐く。

 結菜は、結衣が十年前に南米を旅行していた時に見つけた孤児だ。当時の年齢は六歳だったと記憶している。結衣は母親に無理を言って、その孤児を引き取り、自分の字を入れた結菜という名前を与えた。

 結菜は、南米系と日系とのハーフだ。なので顔は日本人寄りだが、肌が少し褐色だ。

 いつも無表情で、彼女の感情の機微を性格に理解出来るのは結衣くらいだ。

「いつも言ってるでしょ?いきなり見ず知らずの人に暴力を振るうのは駄目だって。それに私たち、かなり目立ってるわよ」

 結が注意すると、結菜は少しだけ申し訳なさ気な表情をした。

「申し訳ありませんお嬢様。このブ男が余りにも無礼だったもので、つい」

 どうやら結菜はあまり反省はしていないようだ。それを感じた結衣は、これ以上は無駄だと思い、説教するのを止めた。

「とりあえず結菜、この人を家まで運んで。話しはそれからよ」

 その言葉に結菜は一瞬反対するような視線を結衣に向けたが、すぐさま綺麗に一礼し、どこにそんな力があるんだと思う程、軽々しく十夜をかついで、商店街の入り口に前もって停めてあった車に向かった。


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