第1話:入学
楽しんで頂けたら幸いです。
第一話:入学
朝、俺、黒瀬十夜は普段と変わらず、いつも通りに目が覚めた。
時刻は午前六時。
今日は、高校の入学式であり、皆、期待と不安を胸に新たなる生活に心躍らせているだろう。
でも、俺は違う。
「ああ~。高校行くのだりぃ。マジで今日サボろうかな・・・」
これは別に思春期特有の、本気出すのかっこ悪い病ではない。純粋に俺は学校に行くのが億劫なのだ。
半ば本気で、二度寝に入り、学校の入学式をサボろうと思っていたが、初日から怠いという理由で学校を休むのはいささか評判に響く。
初っ端から「あいつは不良だ」と思われるのは流石に勘弁だからな。
「仕方ない。学校行くか」
俺はベッドから出ると、風呂場に行き、そこでシャワーを浴びる。
これは俺の習慣の一つだ。これをしなければ頭がスッキリしない。だから、個人行動が大幅に制限される学校の修学旅行などは毎年必ずサボった。
俺の中学は公立だった為、修学旅行自体がしょぼく、部屋も大人数部屋。しかも部屋に個室の風呂は付いておらず、大浴場も早朝はやっていないカスッぷりだった。
だれがそんなカス旅行に行くか。
メシだって俺が作る方が遥かに上手いしな。
シャワーを終えると、俺は新しい高校の制服に着替えた。新品な為、少し違和感があるが、その内無くなるだろ。
俺が通う事になった高校は、私立白峰学園。全校生徒約三千人の超マンモス校。敷地の総面積は東京ドームのおよそ一千倍。
もちろん普通ならそんな馬鹿でかい敷地などこの日本では手に入らない。しかしこの学園の凄い所は、無ければ作ってしまうという所にある。
そう、作ったのだ。島を。人の手によって。そしてそこに学園を立てたのだ。
その為、この学園に通う生徒は全員寮に入る。もちろん寮は完全個室で、広さは十七畳のリビングに、八畳ものスペースをふんだんに使ったキッチン。風呂は大の男の大人でものびのびと入れる程大きい。もちろん冷暖房も完備され、床暖房もバッチリだ。しかもかかる費用は寮の部屋代だけで、光熱費や水道代の一切が無料なのだ。
そして俺も今その学園生専用に寮に居る。
「改めて見るけど、この部屋マジでヤバいな」
昨日初めてこの部屋に来たときは、柄にもなく思いっきりはしゃいでしまった。
「特にこのキッチンは感動モノだ」
俺は恍惚とした表情をしながら部屋に備え付けのコンロを触る。
コンロは全部で四つもあり、IHとガスがそれぞれ二つずつ。それに用意されている包丁やフライパンなどの調理器具はどれも超一流品ばかりだ。
料理が趣味の俺としては嬉しい限りである。
「くそ、昨日来たばかりで食材が無いのが恨めしい・・・」
先程も述べたが、俺はここに昨日、それも夜中に着いたので、まだ冷蔵庫に入れる食材などは買えてないのだ。
仕方ないので、俺は準備を済ませ、一階にある食堂に向かう。
「ここが食堂か。分かってはいたがやはりかなりデカいな・・・」
昨日の内に渡された学校案内には約千人を一度に収容出来ると書いてあった。
そんな事を思い出しながら、俺は席に着いた。
この食堂、よくある学生食堂のようにセルフサービスではなく、席に着くと、ウエイトレスが注文を取りに来るのだ。
当然俺の所にも来る。ちなみに食堂(この学園ではレストランと呼ぶ)に働いているウエイトレスは全員美人だ。男のスタッフも全員美男。
ま、どうでもいいが。
「お早うございます。ご注文はいかがなさいますか?」
丁寧に礼儀正しく聞いてくる。流石色んな意味で凄い学校だ。従業員の教育も徹底している。
「モーニングセット一つ」
「お飲み物はいかがいたしますか?」
「コーヒーをブラックで」
「かしこまりました」
ウエイトレスは、小さくを頭を下げると、注文を厨房に伝えに戻っていった。
さて、この食堂、いやレストランの味はどんなもんかな。
俺は微かな期待を胸に、料理が来るのを待っていた。
しばらくして来た料理は、見た目は至って普通だ。パンが三つに、スープ、オムレツ。コーヒーは食後に持ってくるらしい。
とりあえず、食ってみた所、かなり上手かった。流石の俺もビビったね。
まあ俺の方が上手いのだが。
料理を食べ終え、俺は食後のコーヒーを飲んでいた。
「このコーヒーが一番美味いな」
これからは、コーヒーだけ飲みに来ようと心に決め、俺はまたカップに口を付ける。
そこでふと視線を感じたので、目だけをこっそりと向けると、一人の女子生徒がこちらをジーっと見ていた。
俺は直ぐに視線を自然に外した。
(なんだ?まさか俺のカッコよさに一目惚れしたのか?確かに俺は自他共に認めるイケメンだ。いやしかしだからと言って―――)
俺はもう一度、その女の子の方に視線を向けた。そして思いっきり睨みつける。
「――――――ッ!!?」
ガタッ!
女の子は怯えた表情をすると、その場から立ち上がり、そのままレストランを出て行った。
「これぐらいでビビるとは。最近の若者はマジで根性が足らんな」
そして俺は再びコーヒーを飲み始めた。
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「はあっはあっはあっ・・・」
動悸が止まらない。
「・・・彼は一体何・・・?」
私はあれほど濃密な殺気は感じた事が無かった。
朝早く、誰もいないレストランで朝食を取っていたら、一人の少年がやってきて、少し遠い所に座った。
私はその人の歩き方を見た瞬間に確信した。
――――彼は私と同じ世界の住人だ、と。
だから私は彼に少し強めの殺気を当ててみた。少し強めといっても、普通の人間なら気分を悪くするレベルだ。
彼は案の定私の殺気に気付いたのか、私に視線を一瞬だけ向けた。あくまで自然を装ったのだろうが、私にはバレバレだ。
それに彼の醸し出す雰囲気から、同様しているのは見て取れた。どうやら私の殺気に当てられたみたいだ。
なんだ、あなたの結局期待外れだったのね・・・。
私は何度目かになる失望感を味わいながら、彼から視線を外そうとした。すると、その瞬間、彼はいきなりこちらを向いた。
―――そして、尋常ならざる殺気を私にぶつけてきた。
あの時、私は完全に「死んだ」と思った。いや、それ以上に自分が彼に一瞬で殺される明確なビジョンが見えた。
息がつまり、私の中を、今まで一度も感じた事のない「恐怖」という感情が支配した。
「――――ッ!!?」
気付いたら私はその場から立ち上がり、その場から立ち去っていた。
今、私はその時の私に心から感謝している。
そう、それほどまでに彼の殺気は凄まじいものだった。
「・・・出来れば、もう出会いたくない」
しかし、同じ学園に通っていて、それに彼の雰囲気からすれば、おそらく一般生だろう。ならば自分と会う事も十分考えられる。
もし、次に出会って、その時私たちが敵同士だったなら・・・―――。
「・・・私が勝つ」
呟きながら、私は今日から訓練内容を増やそうと心に決めた。