つんつん、ぽったん
娘と私の、《たかいたかい》をめぐる攻防
この話は、テレビ番組を観ていた娘の、一つの要求から始まった物語である――
私の股の間に座る1歳半児。彼女はテレビに夢中である。
彼女は時々立ち上がり、テレビに合わせて踊る。その動きはまだぎこちなく、時々バランスを崩しながらも、必死に身体を動かす。
ふと、その小さな身体が私に向かってつんつんしたあと、手を広げてくる。
何をしてほしいのだろうか。これは、抱っこを求めているのか?それとも、いないいないばぁか?
テレビを見てみる。
N◯Kの、犬の着ぐるみが登場するコンサート番組では、「音楽に合わせて《たかいたかい》をしよう!」といっている。
彼女の目がどんどん輝いていくのがわかる。これはどう見ても、私に《たかいたかい》をしろと脅迫している目だ……。
天使のような笑顔で、悪魔のような要求をしてくる。言っておくが、私は力がないのだ。そして彼女はそれを知らない。
もう一つ、私が《たかいたかい》をしたくない理由がある。
彼女は重い。
彼女の腕は、ぱんぱんに膨れ上がり、足もちぎりパンのようにムチムチだ。
そんな彼女が、《たかいたかい》を求めている。
ふと、彼女の顔から下方向に目線を移すと、決壊寸前に膨れ上がったズボンが目に入った。
これは……漏れそうじゃないか!
急いで、新しいおむつに替えようと棚に目を移す。しかし彼女は、動こうとする私の腕をつかんで離さない。
この娘は、《たかいたかい》をするまで、私を離さないつもりだ。
私は、寸前で迷ってしまった。
彼女の瞳に溜まる水が決壊するのが先か、下のダムから水が決壊するのが先か、選ばなくてはいけなかった。
《たかいたかい》の時間は、もうすぐそこまで来ている。
その時、手が届きそうな目の端に映ったのは、たたんだばかりのふわふわなタオルだった。
「くっ…仕方ない!」
覚悟を決め、そのタオルに手を伸ばす。
私はそれを、居合のような素早さで彼女のお尻の着地点へと滑り込ませる。
そして――
「たかいたかーい!」
満面の笑みと共に、彼女の笑い声が響く。
プルプルと震える腕で、必死に彼女を頭上まで持ち上げる。私の腕は、彼女の重さで悲鳴を上げていた。
刹那、彼女の股下から、……ぽたり……と一粒の涙が、滲むズボンからこぼれ落ちた。
その涙はまるで、砂に水が染み込むように、用意したタオルに吸い込まれ消えていく。
それを見た私は、選択の結果に降りかかるであろう洗濯の苦労に思いを馳せた。
そして過重労働を重ねた腕で、彼女をタオルの上へとゆっくり着地させた。
そのタオルの上で優しく微笑む彼女は、息が上がって肩が震えている私に向かって、拙い言葉で話しかけてきた。
「もういっかい!」
読んでいただいてありがとうございます
日常の一コマをエッセイにしてみました
楽しんでいただけたなら幸いです




