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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
1章

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1-8 アルマの職場見学

 その後俺は何事も無かったかのように寝た。というところまでは覚えている。久しぶりに快眠だったようだ。アルマに連れ回されて疲れてたからかな。


 のびをしながら体を起こす。


 先生は悪魔におんぶされてどこかに行った。軽そうだしそういうこともある。知らんけど。


「さあてデヴィン。アルマの所に行った方がいいかな?」


 そういえばアルマによって破壊された学院は、そんなことは無かったかのようにすっかり元通りだ。


『その前にこの建物探索しない?』


 デヴィンが好奇心の滲む声で言った。今は皮袋に包まれた短剣になっている。おかげで声が二重だ。分離しても大丈夫なのどうなってるんだろうな。


「さすが俺の相棒。天才すぎる」


『でしょー』


 扉を開けて、廊下に出る。

 地下迷宮の攻略はあんまり好きじゃないが、探索自体は結構好きだ。最短ルートを探し当てるとやっぱり楽しい。俺以外の誰かに攻略させて俺は遠隔で指示っていうのが1番理想かもしれない。


 それにしても、新築でもないだろうに綺麗な建物だ。


「ああ!あなたがヘイマーさんですね?」


 上品な雰囲気の老婦人がハッとした顔をした後俺に近づいて話しかけてくる。俺だって即バレするのは……目立つからか。


「はい」


「昨日はすみません。私が手違いを起こしたばかりに……」


 ってことはこの人が副学長か。魔法使いは女性が多いので、要職が女性で占められているのも珍しくない。


「いえいえ。どちらかと言えばアルマのせい……ビュトナー学長に責任があります。お気になさらず」


「私に気を使わなくてもいいんですよ?」


「いやー……」


 今まで会ったことのないタイプでやりづらいぞ。ちょっとだけばーちゃんに似てるかなとも思ったが、そんなことはなく普通に癖のない良い人そうだ。アルマに振り回されて大変だろうなぁ。


「そういえば俺、ここに雇われる可能性があるんですか?」


「……もしかして学長からお聞きになっていない?」


「ですね」


「そういうことですか。ちょっと待っていてくださいね。今すぐ書類をお持ちしますから」


「えっ」


 俺ここで待たなきゃいけない感じか?

 し、仕方ない。デヴィンと遊びながら待つか。


「デヴィン、お前犬とかにはなれるのか?」


『犬?んー、いけるかな?』


 するとデヴィンはたちまちメタリックな子犬になった。ツルツルに光り輝いていてかわいいね。撫でると嬉しそうにワン!っと言ってきた。相変わらずノリいいな。


 俺が一歩踏み出すとまとわりつくように周りを走り回って俺を見てくる。


「さすがデヴィン。なんでもできるな」


『でしょ!変形して武器になる機能付きだよ!』


「それは……いらねぇかな」


 武器としての本分を忘れない多機能変形武器。昨日なってたブローチも地味に小さいナイフだったっぽいし。


「口からビーム出る感じの方がいいよ」


『ふむふむ』


「おおーいい感じじゃん」


 デヴィンが口を開くと、中に筒ができている。ここからビームが出るのだろう。思ったよりいいな。犬と武器。意外と相性がいいのかもしれない。


「……何をしてるの?」


 デヴィンと楽しく遊んでいたら、廊下を歩いて来たらしい女性が俺に声をかけてきた。

 俺より少し年下くらいか。目に覚めるような鮮やかな青髪を、腰に届くくらいまで伸ばしている。身長は俺から見ても高い。手足は細いが肌は健康的なつやがあるように見える。表情は、つり目だが、それを打ち消すくらい優しげな印象の笑みを口元に浮かべている。

 いい感じの妙齢の女性だ。少し背筋が伸びるが、今の状況を説明するのは難しいと気がついて顔が引き攣った。


 前学生達がデヴィンのせいで昏倒した事件もあったしな。精進が足りんということでどうにかなったが、いい顔をしない人もそりゃいるだろう。で、この女性は学生なんだろうか。講師なんだろうか。どちらにも見える。


「副学長にここで待つように言われてまして。この多機能変形武器と戯れていたところです」


 正直に全てゲロった。


「へえーってことはあなたがヘイマーさん?」


「そーです」


「同い年くらいの先生!待ってたよー!皆私より年上でさ」


 きゅ、急に馴れ馴れしい。まあでもこの急に感情がブレる感じは魔法使いによく見る。


「あっ、敬語はなしでいいよ!だって私たち対等だもの!」


「は、はあ。でも俺まだ講師になるって決まったわけじゃ……」


「ナタリー先生!こんにちは!」


 女子生徒と思わしき少女が走って、俺が今まで話していた女性に話しかける。少女の顔は楽しそうだ。どうやら生徒から好かれる先生らしい。俺はこういう先生になるのは無理だろうな。


「あれ?男の人といる?わ、デカ!ナタリー先生より大きい!」


 え?もしかして俺話しかけられてる?ティーンエイジャーの女子と何話したらいいとか分かんねぇしやめてくれよ。


「こんにちは」


 とりあえず笑顔で挨拶をしておいた。


「もう!これからあなたたちの先生になる人なんだから、そんな失礼なこと言ったらダメ」


「ごめんなさーい」


 いやまだ決まったわけじゃないぞ。


「えーお似合いだし彼氏だと思ったのに」


「はは……」


 名字分かんねぇけどナタリー先生ー!助けてー。こういう時の気の利いた返しなんて分かんねぇよ。見るがにこやかにしているだけだ。はぁ。


「ま、俺が魔法使いに見えないってのは分かるぜ?講師になるかはまだ決まってないが、なったらよろしくな」


「はーい」


 よし、なんとか切り抜けられたか。

 そのまま女子生徒は走り去って行った。


「迷宮関係って選択授業だよな?」


「そうなるだろうねー」


「だよなぁ。そういえばデヴィンが気になってたんだったか?」


 床でじーっと見ていた犬形態のデヴィンを抱き上げる。そういえば女子学生が見れば何かしら言及がありそうなもんなのにスルーだったな。気配を上手いこと消していたらしい。


「気になってはいたけどそれって危ないものだよね?」


「まあ否定はしないが。それだけ警戒心強いなら大丈夫だと思うぞ。コイツは使いこなしたいとか思った瞬間牙を剥く。ガタイのいい傭兵達が度胸試しに触ってバタバタと倒れていく様はおも…悪夢だったな」


「ほーん。お手」


 デヴィンが片手を、差し出された手の上にのせる。

 ナタリー先生が嬉しそうに笑った。それから何かに気がついたのか俺の方に向く。


「そういえば私ヘイマーさんの論文読んだよ?」


「……なんだって?」


「迷宮を作ったってすごいね?もっと注目されてもいいと思うんだけど再現にめちゃくちゃ金かかるのがやっぱ良くないのかな。私も再現断念したし」


「ありがとう。エネルギー問題に関してはいずれ現れる天才に期待ってことで。したら俺にも注目集まるだろ多分」


「そういう考え方かー。目の付け所がいいよ。今は迷宮を自ら攻略して調べたってところに注目が集まってるけどそれだけで終わる男じゃないね、やっぱ」


 なんかすごい褒めてくれるし、ついでに俺の今の評価も教えてくれるし親切な人だ。俺も彼女の論文を読んでおこうかな。


 俺の研究分野は、迷宮において現れる幻の再現だ。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚全てを安定して騙すことのできる技術を確立するのが目標だ。何に使うの?って言われたら難しい。別に魔法でも再現できるしな。


「いいところにいるじゃないか」


「!アルマ!?」


 向かいから急にアルマが来たので思わずいつも通り名前で呼んでしまう。サプライズアルマ。


「調べ終わったから私の部屋に来るように」


「副学長からここで待つように言われてんだけど……」


「……。私が後から言っておくよ」


 書類はどうやらもらえないらしい。アルマは本当に俺を雇いたいのか疑わしくなってきた。俺を動揺させて楽しんでるだけじゃねえの。


「ブシェ先生はどうしてここに?」


「……」


「どうしましたか?」


「!すみません!少しぼーっとしてて……」


「いいですよ」


 どうやらナタリー先生の名字はブシェと言うらしい。今度からはブシェ先生と言おう。しかし、ブシェってこの辺りではあまり聞かない名字だな。もしかして引き抜きか?


「どうしてここに……ええと、私は何をしにここに来てたんだっけ……?」


「備品室に用があったのではありませんか?授業で精密機器が必要とおっしゃっていたと思いますが」


「そうだ!ありがとうございますビュトナー学長!あとヘイマーさん、またね!」


 そうやって言いながらブシェ先生は走り去って行った。


「随分仲良くなったようじゃないか」


「ああ、まあ……気さくな人だね」


「そうかもね。じゃ行こうか」


「はい……」


 アルマの健脚は健在で、躊躇う俺を横目にスタスタ歩いて行ってしまう。俺は足が長いから追いつけるけどな!……背が高いからな。


「結局どうだったんだ?」


「何が?」


「いや、あの枝」


「なかなかいい資料だね」


「魔導書の代わりになりそ?」


「いやー、魔導書ではないだろう」


「ええー」


「ええーじゃないよ」


「俺の実績にはなりそうなんだろ?」


「……一応ね」


 なのにまだ解放されないのか。どうして。まあこれで終わりでも、俺のためだけに迷宮に行ったのか……ってなって散々行くのを渋った罪悪感が大きくなりそうだからいいけどな。


「お前のおかげで事象そのものを燃やせる炎の魔法が完成したよ」


「へえー」


「ちょっとそこの鳥を燃やせないか試していいかい?」


『ピュイ!?』


 突然のデヴィン。

 俺の肩にとまるためか、いつの間にやら犬から鳥になっていたようだ。


 まあ確かに普通じゃない炎を試すにはちょうど良さそうだが。基本溶けないし。


「羽根の先ならいけそうじゃね」


『いいわけないよ!?』


「その心は?」


『ボクは繊細なんだよ?一分子だけでもどれだけの技術が詰め込まれてるか!』


「へえ」


 デヴィンの新しい情報ゲットだぜ。こういう時でもないと、デヴィンはあまり自分自身のことを語ってくれない。企業秘密ならぬ武器秘密とか言って。あんまり上手いこと言えてないのが愛嬌か。

 で一ブンシって何?


「現在過去未来に干渉するとか言ってたしこの学院燃やしてみないか?自動修復系の魔法でもかけられてるんだろ?」


 前アルマが燃やしていたが、今はすっかり元通りだ。


「あのねぇ。……自動修復系の魔法?そんなものはかけられてない。そんな魔法存在もしていないはずさ。少なくとも私は聞いたことないね」


「へ?」


 おかしいな。どこかでその類の魔法を昔見たことがある気がするんだが。


「これはブシェ先生が直しているんだよ。壊された後にね」


「へえ!」


 やっぱすごい人だ。

 壊したのはアルマじゃないのかという言葉は飲み込んだ。


「じゃあ、何か、例えば杖とか?をさっき言ってた魔法で壊してさ、そんでブシェ先生に直してもらおうぜ?直せなかったら成功ってことで!」


「……相変わらずだねぇ。でも研究の協力ってことにするなら悪くないかもね」


 アルマが少し呆れたように眉を動かした後そう言った。


「その言いぶりだともう魔法を試す方法を思いついているのか?」


「そりゃそうだろ。なんのためにお前をここに残らせたと思っているんだ」


「職場見学じゃねぇの?」


「……」


 その無言は何?違うの?


「はあ……行くよ」


 アルマはどこに向かうのか言わないまま、また歩き出した。俺も行くの?





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