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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
6章

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6-6 ヘイマー家の長男

あけましておめでとうございます!

 黒髪で金色の目というだけである種の特別感があるのに、顔が良くて立ち姿も見栄えがして声も良いと来た。この世界が物語だとすれば間違いなく主人公。そんな俺の弟が今目の前に立っている。


「驚かないのか」


「……。そりゃな」


 そもそも俺がなんでテオがいないことに慌ててたのかと言えば、あれを仕組んだのがテオの可能性が少しだけあったから。友達付き合いか知らないが、危ない団体に出入りしていたことを俺は知っている。別に俺はテオが死のうがどうでもいいさ。ああ。俺は自分が無事ならそれでいいのだ。


 この迷宮にあった既視感、それはテオが昔作ってたパズルだった。昔テオがいくつか作っていたものと似ている。相手を煽るためかショートカットを入れてんのもそのままだ。俺も暇つぶしに1つか2つ解いたような気がする。そういや姉貴にサクサク解かれてて半泣きになってたっけ。


「ほら帰るぞ」


「嫌だ」


 ……一応話だけ聞くか。


「なんで兄さんは迷宮を壊すの?ダンジョン好きなんだよね?正式な手順で踏破、するべきなんじゃないの?」


「今それどころじゃないから」


 まあそうじゃなくても速く攻略できそうなら壊すけどな。正しい手順通りに攻略ってのはやりたい人がやればいいのだ。

 俺は向いてないことはしない。


「さて、帰るつもりがないなら、俺と戦うことになるがいいか?」


「兄さんこそいいの?」


「ははっ」


 なんだかおかしい。笑う。でもそりゃそうだ。ここはテオのテリトリーってことなんだろう。その中じゃ俺が挑戦者ってわけだ。


「かかってこいよ。俺の本気を見せてやる」


 そんな適当なことを言いながらデヴィンを掴む。


「……っ、いいだろう、その余裕ぶち壊してやる!」


 迷宮の壁が崩落する。俺を下敷きにするつもりらしい。


 俺はデヴィンを両刃剣にし、両手で掴み直した。

 その動きを頭に浮かべ、そのままトレースして振るう。轟音とともに、崩落した壁が粉になった。


「それ、姉さんの、お前!」


「よく分かったな」


 そう、姉貴の剣だ。姉貴はこれを片手でやるんだよな。姉貴の動きを再現するには両腕が必要だった。衝撃で腕が痛え。


「まあ模造以下の劣化版だよ。剣が粉々に壊れるほどじゃねえ」


 姉貴の剣戟の肝は、振るった剣より届く長い距離に届く攻撃のリーチと一撃の重さだろう。隙だらけに見せかけて、ちょっとでも間合いに入れば力任せに叩き斬られる。そう、正に“叩き”斬るが正しい。姉貴に斬られたモンスターはだいたいぐちゃぐちゃになる。


 それって上位互換なんじゃ……というテオの呟きが聞こえる。そうだったら苦労しねえんだよなあ。額に汗が浮かぶ。姉貴の剣を再現しようとすると、体に負荷がかかる。俺は治癒が速いからなんとかなるとはいえ、剣を振るう度に体が軋む。疲労もたまってきたしこの辺が限界か。剣を構え直す。


 テオが指を天井に向けると、上から羽が生えたデカいライオンの像が出現する。


「これはどうかな」


 そうテオが言うと、その像は咆哮をあげた。なるほど次はこいつと戦うわけね。今度はデヴィンを片刃剣にする。

 像が向かって来た瞬間、その勢いを利用して腕を切り落とす。断面は滑らかだ。

 像は苦悶の表情になるが、今されたことが信じきれないのかもう一度立ち向かってくる。俺はそれをあざ笑うように羽を切り落とす。


「……リーヌス兄ちゃんの剣」


 そうだよ。


 しかし、像にも意思がありそうだな。高い知能を持ったゴーレムってことか。初めて見た。信じられないような顔でこちらを見ているライオンの頭を切り落とす。


 この動きもリーヌスの劣化版でしかない。あの男なら相手が反応する前に全て片すし、断面ももっと滑らかだ。対象に切られたことすら気づかせない。剣に愛されてるってのはやつのような人間のことを言うのだろう。


 さて。


「そう言えばお前は知らなかったな。俺は元々これで有名になったんだぜ?」


 テオが物心ついた時には自分の才能の無さにほとほと嫌気がさして、人の猿真似をしまくることをやめた。それからは色んな剣術を自分がやりやすいようミックスさせていた。同年代には負け無しだったと言われることもあるが、剣技で勝っていたというわけではない。単純に見たことない剣術で相手が対応できないって言うのと、人が嫌がる距離感を演出するのが上手いだけ。年齢が上がってけばやがて勝てなくなるのは目に見えていた。


「お前の剣も真似してやろうか?」


「やめろ」


「ははっ、まあそう言うなよ。他人がやってんの見たら参考になるかもしんないだろ」


 テオは俺と違って要領がいい。そんで器用だ。でも真面目なとこもあって、基本は型に忠実。真似はしやすい部類。デヴィンを軽めの両手剣にして構える。


 テオは一瞬顔を顰めた後、また指を天井に向けた。今度は頭が狼の剣士の像が降りてくる。


「行け」


 テオがそう言うと、剣士がこちらに斬りかかってくる。

 当然それを受け止める。と、剣を手首ごと回して下から突き上げて剣を落とそうとしてくる。

 ……これ、俺がたまにやる動きだな。そのまま剣を落としてあっさり勝てたりするのよな。真面目なやつによく効く。俺みたいなでかいヤツの手首が柔らかいと思い至らないのだ。


 まあテオなら落とすかもな、と思いつつ、俺はテオではないので剣はさっさと外してがら空きの胴に蹴りを入れた。


「今のどう見ても僕の動きじゃないだろ!?」


「まあ学習外は俺のオリジナルってことで」


 しかしいくつも像を造れるなら大量にけしかけてくればいいのに律儀に一体ずつって何がしたいんだ。


 盗賊が使ってた治安の悪い剣術はお気に召さないらしいので、違うのを混ぜよう。真面目なテオにはいい刺激になると思ったんだがな。

 じーちゃんの剣術を混ぜるか。一見すると騎士が使うまっすぐな剣筋に見えて貴族とかには受け良いっぽいから、いいだろ。よく見ると殺意高すぎて喧嘩殺法も涙目の殺人技だけどな……。


 ということでヤケクソになってた頃の俺みたいな動きをする像の剣を避けながら急所を的確に突いていく。俺の動きをするってことは俺にはその弱点も分かってるわけでなあ。というか奇抜なことして不意打ちを狙う動きばかりなので、気にせずいつも通りの対処をすればいいだけなのだ。そんでリーヌスには負け越したと。思い出したら腹立ってきた。


「じいちゃんみたいな動きすんな!」


「昔のテオってこんな感じだっただろ?」


「……」


 テオがお望みなので、次はじーちゃんで行くか。


 振るわれた剣を上空に飛んで避ける。高い身体能力に任せて全避けするんだよなじーちゃん。それが華麗だとかなんとか言うやつもいたが本当にそうか?と思う俺だ。


「俺もじーちゃん好きだから、サービスしてやろう」


 剣を構える。事象に届きうる一線。全てを切り裂く一撃。じーちゃんの動きも、感情も完璧にトレースする。周囲の空気が、魔力が、巻き込まれていく。そしてそのまま剣を振るえば、目の前の像は元からそうだったかのように真っ二つ。床も天井も切り取られ、そして届くはずのないテオの首の皮一枚も切り裂いた。


「それ……」


「じーちゃんの必殺技だな。まあこれも劣化版だけど」


 これを見せたら父親の目の色が変わって、俺は迷宮に連れ回されるようになったんだったなぁ。本当に見せなきゃ良かった。


 幼少期には距離だけだったから一応成長してるっちゃしてる。とはいえ時間すらも切り取るのがじーちゃんの剣なので、3次元空間で右往左往しているようじゃ辿りつけることはないだろう。何が足りないかはなんとなく分かっている、俺には絶対に手に入らないものだ。テオなら行ける気もするが。


 テオが固まって動かないので、俺はため息をついてもう1回同じ剣技を放った。衝撃に耐えきれず床と天井が崩落する。俺は肩を回しながら1個下の階層に着地した。狙い通りネクタイが切れたテオも一緒に落ちてくる。


「は……?それ、じいちゃんが調子良い時1回しか使えないって……」


「言ったろ?劣化版だよ。粗悪品もいいとこだから何回も放てる。覚悟も信念もなんもない、ただ動きと表面的な感情の動きを再現してるだけだからな」


 もう一度剣を構える。


「ああ……俺の才能の無さには、ホント嫌になるな」


 ため息をつく。

 今見せた俺の曲芸は全て、仕組みが分かっていれば対策可能だ。真に才能がある人間特有の、あの理不尽さまでは再現できない。


「本気で言ってるのか?」


 テオが信じられないという顔で俺に何かを訴えようとしている。

 感情が揺さぶられる。こんな状態じゃもう一度あの技は使えない。剣を下ろす。


「当たり前だろ。ゴールが見えてんだよ、俺は剣使わない方が強いってな。こんだけ時間をかけて集中して観察して工夫して頭を使って、模倣して!!?それでできることがこの程度ってか!?はは、ふはっ、はあ、あっはははははは!笑いが止まんねえ!!……あー、バッカみてぇ」


 時間の無駄もいいところ。まあそんな話はどうでもいい。


「いい加減帰ろうぜ?したら許してやるよ」


 剣の切っ先をテオに向ける。弟が何を考えているか全く分からない。分からないから、俺は弟をまだ諦めない。今まで剣で戦ったのはその意志を示すためだ。じゃなかったらこんなだるいことするかよ。


「嫌だ」


「どうして?」


 俺がそう問うとテオは何故か口角を上げる。


「それは───────世界を救うためだ」


 ……めっちゃ溜めたな。


「そうか」


 そういうお年頃だもんな。


「おい!本気で聞いてないだろ!」


「えー?俺はいつでも本気だけど?」


「僕をバカにするのもいい加減にしろよ」


 地団駄を踏んでいるテオを見てやっぱまだまだガキだな……と思った。


「ふん!せいぜい追いかけてくることだな!」


 俺が生暖かい目で見ていると、テオがそのまま消える。え、もしかして最下層行った?追いかけるの、嫌だな……俺は床に座り込んだ。


「アルマー!!!!!」





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