6-5 迷路
「ここに来て迷宮探索かー。デヴィン、なにか暇つぶしに面白いこと言ってよ」
『ええ?うーん……。ラウルがイケメンって言ってた吟遊詩人いたじゃん?』
「うん」
『あれ女の子だよ』
「……はあ!?」
な、なんだと?見分けがつかないと一般的に言われるエルフの男女の区別すら完璧だった俺が、間違えた、だと。
言われてみれば肌もきめ細やかだったし女に見えなくも……。つってもそれは職業柄気をつけてるだけでは。
『冗談だよ』
「ほ、本当に?」
『さあ?』
デヴィンがケラケラと笑う。
からかわれただけか。良かった。俺は首を振って作業に戻る。
『異世界人の子いるじゃん?』
「うん」
『あれ男の子だよ』
「冗談だろ?」
『うん』
あんな細い男がいるか。声は……まあ高いやつもいるよな。でもあの骨の細さは説明がつかない。
もう一度同じ手には乗らんぞ。
『他人種には疎いねえラウルは』
「はあ?」
人種?種族とは別か?
『こっちの話。暇つぶしになった?』
「あ、ああ」
動揺しまくってそれどころではないが、デヴィンなりに俺を楽しませようとしてくれたのか。感謝しておくべきかな。
「とりあえず今んとこモンスターはいない、か」
たまに罠のつもりなのか武器が降ってきたりとか射出されたりとかしているが、俺にとってはなんてこともない。余裕で避けきれる。
『……』
「どうしたデヴィン?」
『なんでもないよ』
デヴィンはそう言うが、怒ってるような悲しんでいるような声色だ。
そうか。この武器ってこの倉庫にもともとあったものが使われてるのか。なるほどな、馴染みの武器たちが雑に扱われているもんな。
この罠に使われてる武器をできるだけ優しく扱うかことにしよう。
飛んできた槍を手で掴み、床にそっと置く。
『ラウルはどんどん人間をやめていくね』
「ドラゴンだし」
『そうだった!』
デヴィンがあははと笑っている。気分が多少晴れたみたいで良かった。
それはそれとして。
「……探っても探ってもゴールが見えない」
魔法でできる限り下へ下へと探っているのだが、最下層にたどりつかない。
これ、100階層くらいあるんじゃないか?どうしてじーちゃんの倉庫にそんなものが。この前透明化の布を引っ張って来た時はまだ普通の倉庫だったよなぁ。
まあ100階層あったとしてもモンスターがいないなら大したことないな。穴でも開けてさっさと降りるか。
……あ、そうだ。
体重だけ一時的に竜に戻す。
それで思いっっきり足を踏みしめてみる。
「は、はははははは!」
いいじゃんいいじゃん!一気に落ちてる。
床が次々に破壊されていく。強度が低すぎるな!急に作ったからか!?着地点どうしようかなぁ!?
とりあえず鉤爪のついた縄にしたデヴィンを天井に引っ掛けて、減速するのを待つ。いくら俺と言えども急に体重を軽くしたらどうなるか分からんからな。
「よし」
体重を軽くしてから床に降りる。
意外と上手く着地できたな。
ここは……70階層くらいか。罠自体少なくなっているし、本当にただ下に階層があるだけの迷宮って感じだな。と思いながら歩いていたら、道が二手に別れている。一応迷路にはなってんのか。
……思ったよりムズいなこの迷路。もしかして階層下がるごとに迷路の難易度を上げてる感じ?確かにそういう迷宮があってもいいな。
そうだなぁ、この迷宮でRTAをやるなら、道覚えるとこからスタートだな。地味に楽しそうというか俺が好きなタイプの迷宮かもしれない。今こんな状況じゃなければじっくり探索したいところだ。まあ迷宮面してドロップ品も何も無いってのはいただけないが。
「そうだ」
デヴィンは超高性能だし正しい道分かるんじゃね?紙とペンは当然持ち合わせていないが、見たものは記録できるデヴィンなら床をなぞるだけで地図を把握できたりするんじゃない?そう考えるとすごいなデヴィン。新しい一面を見た気分だぜ、ははは。
「今から上空から見て壁があるところを足で書いていくから見といてな」
『ん?うん、分かった!』
黙々と床の上で俺が把握できている壁をなぞっていく。ううむ。足でやっているから範囲が広くて虚無だな。デヴィンに枝かなんかになってもらえば良かったか?書くスペースが狭ければ地図書くのも速く終わる。デヴィンって情報を見るのに位置とか関係なさそうだしなぁ。……もう遅いか。しゃーない、今更過去は振り返らないぜ。
「こんなもんかな」
『地図にしたよー』
デヴィンの中で地図を作成してくれたらしい。便利だな。この機能使えば他の迷宮のマッピングも楽にできるだろう。もっと早くに試しておけば良かった。
「正しい道教えてくれよ」
『…………?』
「……」
……あれ?
『ボクにそういう機能はないよ?』
「え。じゃあ分かんねえの?」
『うん』
「だー!」
よく考えたらそりゃそうだよなぁ!!
迷路を即座に解ける処理能力あるならお前が自律して動かせば最大スペック発揮できるだろって話だもんなぁ!!
これができるなら、持てるだけで使うのに向いてない俺のスペックをわざわざ上げようとあの手この手を仕掛けてくるわけないだろ。持ち手とかいらないじゃん。冷静になれよ俺。
「真面目にやるか。デヴィン、地図になれ」
『お安い御用さー』
床に置いていたデヴィンが金属の板になったかと思うと、そこに凹凸を地図のように浮きださせた。へー、デヴィンってこんなこともできるのか。便利。
そしてそのままメタリックな地図が俺の目の前にふわりと浮かぶ。タツノオトシゴだっけ?の時と同じ仕組みかな。
うーん。
ここをこう行くと、当然行き止まりか。じゃあ逆にここ……ゴールに着きそうだが、遠回りな気がするな。ここ怪しくね?俺の探索に使っている魔法からもなにか違和感があると伝わってくる。
そう、俺の今立ってる場所のすぐ目の前。
「なんかな」
こういう迷路、解いたことある気がする。どこでだったか。
「よいしょ」
壁のブロックを思い切り外すと、目の前の壁が回転する。
この後は、床か?くぼみを踏む。天井から縄が垂れてくる。
これ、多分制作者がショートカットするための通路だよな。迷宮に制作者とかいるのか知らないけど姑息なことするな……。縄を掴む。
「ははっ」
迷路の上を通過している。あんなに頭を悩ませた壁も全部俺の下。
たまたま上手くハマっただけだが、深く考える必要なかったかもな。
さて、次の階層へ、と。
……。
これあと30階層?嫌すぎる。なんだこのチマチマチマチマ、解けても爽快感も何も無い虚無迷路は!
『こういうのずっとやれる人もいるんだけど、ラウルは無理そう』
俺がイライラして頭を掻きむしってるのを見てか、デヴィンが明るい声出そう言った。
「俺のことよく分かってるな」
『そりゃね!』
じゃ、さっきと同じように床破壊するか────。
「させるわけないだろ!?」
声が聞こえる。
思わず顔を上げると、そこには肩口まで伸ばされた光を吸収するような黒髪と、薄暗い迷宮でもギラギラと輝くような金色の目が特徴的な、というか俺の弟がイラついたような顔で俺を見ていた。




