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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
1章

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1-7 就活(知らない)

「アルマー」


 俺は情けないと言われようがアルマに助けを求めた。


「落ち着きなさい。それでヘリング先生はどうしてここに?」


「……私が働く予定の場所を見に来たんです。副学長に許可は取りましたよ」


 男は少し黙り込んだ後、そうやって言った。なるほどヘリング先生とやらは、ここで勤務する予定らしい。しばらく使われていない研究室を所属場所にするということか。アルマの知り合いみたいで良かった。


「なるほどようやく状況が飲み込めてきました」


 アルマが無表情のまま言った。ヘリングという男も無表情なので、きっと安心した顔をしているんだろう俺の方がおかしい気がしてくる。


「ここにいるヘイマーは私の……古い友人みたいなものです。彼は今職に困っていまして。結構有能なのですがね」


 アルマと俺の関係を一言で言い表すのは難しい。簡単に言ってしまえば、俺の祖父母の友人ってことになるのだろうが、それだけで全てを言い表せているわけではない。なるほど友人。アルマは俺のことをそう思ってくれていたのか。だから呼び捨てにしても許してくれているのかもしれない。


 俺が職に困ってることは別に言わなくて良かったんじゃないかなとは思ったが。


「ええ、対峙した時間は少しですが分かりますよ」


「本当に頭が痛いことです……。副学長と話がすれ違ったのでしょうね。私はこのヘイマーに、使われていないこの部屋を1日貸出したのです」


「そういうことですか。ようやく納得がいきました」


 ああ、お金が無いから泊まらせたことになってる?アルマが連れ回したことは言わないつもりか。ズルいぞアルマ。

 まあ男の俺に向ける目は同情的になっているので、さっきまでの行いは無かったことにできそうだが。


「いや。俺の名字で分かると思う、思いますが俺は金に困っているわけじゃな、ありません」


 敬語は使い慣れていないのでガタガタだ。俺が務めていた研究所は教会の支援で成り立っている場所だったから基本平民しかいなかったし、俺の立場なら敬語だとむしろ嫌がられたくらいだ。


「敬語はいらない。今更だ」


 男は口元の布を引っ張りながらそう言った。

 ヘイマーという名字は俺の家以外でも使われているが、この文脈なら何を意味しているかは伝えられたはずだ。俺が金に困っていないことは分かったようで、じゃあどうしてだとじっと見てくる。無表情だが目で訴えてくるタイプらしい。分かりやすいのは助かる。


 アルマを見ると、頷いている。別に俺が事情を話しても問題ないようだ。話をスムーズにするために意図的に誤解させてたってことか。アルマは面倒くさがりというか意外とそういうとこあるよな……。


「アル、ビュトナー学長の依頼を受けて俺は地下迷宮の探索をしていた。依頼品は魔導書。手に入ったから今はビュトナー学長がその魔導書を調べているところだ。俺はそれを待ってる、ということになる」


「へえ。……もしかして、私の研究室に1人雇うかもしれないと言っていたのは彼のことですか?」


「お察しの通りです」


「え?」


「最近、魔法使いの働き口として傭兵が選ばれることも増えてきただろう?おれの研究室はそういう魔法使いを育成できるところになるらしい。おれはダンジョンのことは全く詳しくないからな……。なるほどどうして、傭兵、ヘイマー。確かに適任だ。ヘイマーに魔法使いがいるとは聞いたことがなかったがな」


 男……いやもう先生と呼ぼう。先生は俺に対して、親切に説明をする。どうやら同僚として俺のことを認識したらしい。待ってほしい。俺は全く理解が追いついていない。


「俺が魔法使い?幼少期、アルマに少し習ったことはあるが……」


 アルマがため息をつきながら首を振った。

 これは……俺の物言いにというわけではなさそうだな。普通に俺の才能のなさに呆れてるだけだ。ひどい。


「へえ。まあいい。魔法使いじゃなくても魔法のことは教えられる。そういいことですね?ビュトナー学長」


「ええ、そういうことです」


 どうやらそっちの話は解決したらしい。


「えーと、で、結局どういうことなんだよアルマ」


 俺の方は解決してないぞ。


「さっきの話の通りだよ。ヘリング先生は忙しいからね」


「王立研究所の所長ってことだよな?」


 俺が就職しようと思った時、第一志望は王立研究所だった。国の予算が注ぎ込まれているだけあって、この国では1番研究が進んでいると言っても過言ではない。ああ、まあ魔法に限るならこの学院の方が上だけど。

 その所長も名前は知っている。クヌート・ヘリング。公爵家の長男で氷の魔法を得意としているとか。男で魔法使いになれる人間は少ないうえ、氷魔法なんて使う人はそうそういないし、魔法を使われた時点でなんとなくそうかもなと思っていた。そんな人を雇うとかすげえなアルマ。


「そういうこと。研究室に1人じゃ機能しないから、1人講師を雇おうってことになったんだよ」


「引退した傭兵の魔法使いとかの方が良かったんじゃないか?」


「それじゃあ巷の魔法学校と同じだろう。世界有数の魔術学院なんだから新しいことをやらないとね」


「ああそういう」


 要は傭兵ギルドとかが運営をやっている、戦闘に特化した魔法使い養成所の後追いをしたくないってことなんだろう。面子の問題で。巷とか言えるほど魔法使いの学校はない。魔法を使えるというのはそれだけで才能なのだ。


「じゃあ俺が地下迷宮に行かされたのは、実績作りのためってことか?」


「そういうこと」


「なるほどなぁ……なるほど」


 それを功績にされて職に就いたら、俺はずっと地下迷宮に行かなきゃいけないんじゃないか?だいぶ嫌だぞそれは。


「良い話だけど講師の話はなかったことに……」


「え?なんて?」


「講師の話はなかったことに……」


「なんて?聞こえないねぇ」


 なかったことにできないらしい。

 とりあえず後で話そう。きっと書類とかあるだろうし。


「はあ、で、そこでのびてる悪魔は?」


「悪魔?」


「ほら」


 アルマに事情を知ってるんだろ?と聞くと、なんだそれはという態度を取られた。ええ……。

 倒れている女を指さすと、アルマは今気づいたとでも言うように目を見開いた。目を袖で擦っている。

 そしてそのまま手をかざして燃やそうと。


「いや待て待て」


 さっきの俺と同じじゃねぇか。


 若干止めるのが間に合わなくて服がちょっと焦げている。先生の方を見るが変わらず無表情のままだ。


 しかしアルマも騙すとはすごいな。俺に驚いていた理由がなんとなく分かった。


「ヘリング先生、この悪魔はどういうことなのか説明をもらっても?」


 仕方がないので、俺が本人に聞く。


「うん。おれの従者だ。一応王から許可証もある」


「!それは話が早い!その……見せていただいても?」


「無理して敬語使わなくていいから。んー、この辺に入れていたはずだが。あった。はいこれ」


 ズボンのポケットからクシャクシャの紙を取り出して、俺に渡した。


 扱いが雑すぎるだろ。


 まあ判子も、じーちゃん宛の手紙に押されていたのがこんな感じだった気がするし本物っぽいか。紙も高そうだなぁ。


 アルマが横から見てくる。


 えーと、クヌート・ヘリングと契約した悪魔はその契約によりほぼ無力化したとみなしたものとする。って感じか。


「これは失礼いたしました」


 アルマが謝罪している。俺も謝罪するべきだろうか?


「いや……当然のことだと思います。気にしないでください。えーと」


 俺の方を見ている。


「ルドルフ・ヘイマーだ。どうぞよろしく」


「ああ、よろしく。おれの名前はもう分かってるみたいだが、クヌート・ヘリングという。親しみを込めてルドルフと呼ばせてもらおう。いいな?」


「どうぞ」


「ルドルフも気にしないように」


「ああ、はい」


 もう同僚になるの確定みたいな。光栄ではあるがまだ決まったわけではないから。という言葉はさすがに言えなかった。


「どうやって悪魔と契約したんだ?」


「……どうやって?」


「悪魔と出会う機会なんてほとんどないだろ」


「ああ。……おれに会いに来たと言っていたかな」


「なるほどなぁ」


 どうやらヘリング先生ほどの魔法使いになると、悪魔の方から従いに来るらしい。素直にすごい。羨ましい。

 しゃがんで悪魔の頬をぺちぺち叩く。意外と言うべきか悪魔らしいと言うべきかひんやりしている。


「……」


 何故か先生がえっ、という顔をしている。いや、事情を聞くために起こさないとダメなんじゃ……無力化してるんだから起こしても大丈夫だよな?その表情をするってことはもしかして無力化できてない?


「なんですか」


 だいぶ前に意識は取り戻していたのか、悪魔は目を開いて、不機嫌そうな顔で聞いてきた。


「どうしてヘリング先生と契約したんだ?」


「……なぜそれをあなたに説明しなければいけないんですか?」


「教えてくれないならそれでいいぞ」


「いえ。説明しないとは言っていません」


「そうか?」


「そうです」


 悪魔を見ると、興味深そうな顔で俺を見ていた。どうやら俺が昏倒させたことについては気にしていないらしい。彼女にとっては大したことではないのかもしれない。


「マスターは世界で5番目に強い魔法使いです」


「へえ」


 アルマの下だろうがすごいな。とか考えていたらアルマの手刀が俺の頭に当たった。アルマが呆れた顔で首を振っている。俺の考えを読んでることには今更突っ込まないけど、何?


「基準は?」


 アルマが半目で悪魔に聞いた。


「現世界で存在している生物で、魔法使いと呼べる存在全てを戦わせた時に残る最後の5人に入る、と言うことです」


「はあ」


 つまりその魔法使いには人間以外、例えば悪魔も入るってことか。悪魔が魔法を使えるのかはよく知らないけど。

 とすると、アルマが5人の内に入るの確かに厳しいか。思いつく限りでもアルマの上に7人くらいいる。そもそも人間って魔法を使うのにあんまり向いていないからな。


「その条件だとあなたも入るかもしれませんね」


 悪魔は俺を見ながらそう言った。


「お世辞とかいらないから」


「ですね。いらないことを言いました」


 悪魔が悪魔らしくにんまり笑いながらそう言った。からかわれてるな。ため息をつく。


「マスター以外は交渉すらできませんから。強い魔法使いを私の味方にしたかったんです」


「どうして?」


 アルマが眉を上げて聞く。確かに答えによってはあまり良くない話かもしれない。


「悪魔も一枚岩ではないってことです。マスターの近くにいれば早々死ぬようなことはありませんからね」


 先生がこの悪魔を守っている様子はなかったような気がするけど。そうだ。


「なあデヴィン。お前から見てヘイデンさんはどんな感じに見える?」


 今まで大人しく俺のブローチのフリをして引っかかっていたデヴィンに聞いてみる。


『ボク!?ん、んー?現生人類とはやっぱちょっと違うかも?いわゆる魔力の構成割合は大きい気がする、かな。なんとなくね!』


「ふーん」


 ってことは生命維持装置として先生を利用してるのかね。


「……そのしゃべる飾りは一体?」


「あー。こいつはデヴィン。俺の相棒だ」


「そ、そうか」


「さっき使っていた盾もデヴィンですよ。高性能多機能武器なんで」


『ふふん!』


「さっき現生人類とか言っていなかったか?もしやそれは古代文明の……頭が痛くなってきた」


「ロストテクノロジーってやつですね」


「触って見てもいいか?」


「えっ。いや……」


 デヴィンを見るとみんな触りたがるのは何故なのか。魔性の武器?

 デヴィンを触ると気絶するのもセットだ。渡すわけにはいかない。


『世界で5番目に強い魔法使いなんでしょ?ボクに耐えられる脳してるかも!』


「ノウって何?」


 また古代の知識とやらか。


「楽観的すぎないか?」


 まあアルマに装備してほしいと言わないだけ前よりマシかもしれない。実際使いこなせる人間がいるに越したことはないしな。


「慎重に触ってくれ。下手をすると昏倒する可能性が……」


 説明している最中にふんだくってきた。そしてそのまま先生はバタリと倒れた。ああ……。

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