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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
6章

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幕間

「迷宮の成り立ち〜」


「お〜」


 ぱちぱち。

 ノリで手を叩いてみる。なんだこの状況。


 目の前には男か女かどっちかよく分からない人形が教師みたいな服を着て立っている。指が球体関節だ。


「僕だよ僕」


「誰?」


「天使の試練のさ」


「ああ〜」


 言われてみればこんな感じだったような気もする。この前俺を殺そうとしてきた男がどうしてここに。

 ほんとになんで?これ俺の夢だろ?


「まあどうせ起きたら忘れるんだけどさ」


「そうなんだ」


「夢への干渉は現人類には耐えられないからね。とはいえ、君は器だけなら最高クラスだし、意外と思い出せるかも?ってことで授業を行いまーす」


「おおー」


 よく分からないけどそういうことらしい。


「まず地下迷宮の成り立ち」


「侵略機構が作ったって聞いたけど」


「まあそうだね。精霊界ってあるだろ?あそこは現人類に協力的だよねぇ。前、ああ旧人類のことね、に対しては厳しいところもあった気がするんだけど、そこは人類全体の思想の違いかな?」


「……」


 旧人類についてまた知らない情報。デヴィン曰く旧人類は魔法が使えなかったって言うのはその辺の話が理由なのだろうか。


「とにかく精霊界っていうのはこの世界とうすーく繋がってる別次元の世界なのだけど、それ以外にももちろん世界って存在するわけ」


「言われてみりゃ確かにそうだな」


「そう。仮に迷宮界って名前にしようか。その迷宮界は何があったか知らないがこの世界を侵略しに来た。それが侵略機構地下迷宮ってわけだね」


「はえ〜」


 これ起きたら忘れるってマジ?世間の迷宮研究者が泣いて喜ぶような情報なんだけど。

 まあでも俺の夢だし俺が適当考えてるだけか……。


「どうやら彼らの食事はその世界の文明らしくてね。ほら、価値あるとされているもの……金銀財宝とか珍しい書物とかさ。そういう情報を過去現在未来から参照して引っ張り出し分かりやすく置いておく。それが宝箱だったりモンスターだったり。まあモンスターは見張り代わりだったりするようだけど」


「ふうん。なんで地下に作るんだ?」


「いい質問だね。精霊界の住人が自然とか天候の変化を好むように、迷宮界の住人は地下を好むんだろう。ついでに狭い場所もね」


 なるほど。精霊の話も初めて聞いたけどな、俺は。詳しい人には既知の話なのかもしれない。


 というか侵略機構の食事って人の欲望とかじゃないんだな。今の研究ではそちらの方が主流で、だからこそ地下迷宮に心を囚われていると言える地下迷宮の研究者は白い目で見られてたりすんだけど……。


「まあ侵略って言ったってじわじわと、って感じでさ。僕も間借りしてる立場だし見逃してたんだけど、ある時急速に増殖しだした」


「それがじーちゃんの時代……」


「そういうことだね」


 しかしなんで?


「今は比較的魔法が使いやすい時代だよね」


「らしいな」


 あんま恩恵感じねえけど。


「精霊界が近いんだよね今。重なっている部分が厚くなってるって言うかさ。そういう時期なんだよ。迷宮界も近いんだろうね。だから今がチャンスだとばかりに侵略を進めてきた」


「それをじーちゃん達が食い止めた、と」


 確かにそれは英雄だわ。


「そういや、お前に頼みたいことあるんだけどさ」


「なーに?」


「俺ルール違反って話だったじゃん」


「ん?ああ、強制的に迷宮から脱出させたやつね。探索者の意思関係なくああいうことするのはルール違反だよ。今度からしないようにね」


「あ、はい」


 地下迷宮の探索にルールとかあるのか。


「じゃあさ、強制的に迷宮に入れたやつもルール違反なんじゃねえの」


「ああ、そういう話か。なるほどね。説明するから待っててね」


 雰囲気作りのためか持っている棒を顎に当ててうんうんうなっている。


「迷宮ってさ、入るのは簡単だけど出るのは難しい。そういう風にできてるんだよね。というかそういう風に僕が設計したんだ」


「……ん?」


「だから強制的に入る分には問題ないんだ。じゃなかったら初心者パーティで、入口で怯えて縮こまってる子を無理やり連れて行く……なんて行動もルール違反になりかねないだろ?それは楽しい迷宮探索にふさわしくない」


「いや待て待て、なんか聞き逃せないこと言ってなかったか!?」


 地下迷宮を目の前のこいつが設計した!?

 でもこれ俺の夢なんだっけ。


「いやまあ単純な話で、僕は作った迷宮、まあここの最下層なんだけど、それがちょうどいいと思われたのかな。僕の迷宮を模倣する感じでどんどん侵略機構が迷宮を広げ始めたんだよね」


「お前が元凶じゃねえか」


「ええ……?迷宮自体は僕の以外のもあったよ?たまたま僕のを気に入っただけじゃん?」


「そ、そうか」


 とりあえず流すか。


「それにね、あの優勝者の女の子が持っていた転移陣は、ランダム性の強いものだ。どこに飛ぶか分からないからこそ作成者の行ったことない場所にも行けるっていうね。あの少女に否はないよ」


「そりゃそうだろ」


 あの盗賊の少女を罰して欲しいわけではない。まあ全く否がないとは言わないが。王女と行動すると姫様も伝えていなかったようだし騙された被害者側でもあると言える。


 ランダム性の強い転移陣ってのは知らない。そんなものあるのか。


「それを仕組んだヤツに否はねえの?」


「あーね」


 その男が口角をギリギリと上に上げる。


「僕個人は嫌いだけどルール違反はしてないって答えになるかな?まあ待ってなよ、もうすぐ死ぬより酷い目に遭うから。あはは!」


「そうか」


 じゃあいいか。


「待ってるって、王の襲撃には間に合わなくね?」


「王の襲撃なんてあるの?」


「……」


 その辺は把握してないわけね。


「それよりさ!君に見せたいものがあるんだ!」


 そいつが指を鳴らす。


 豪奢な、そうあるのが過剰であるくらい装飾過多な、四角い白い箱がその男の後ろに見える。今までなかったはずなのに、まるで最初からそこにあったかのように。ああ多分あれは棺だな、俺はなんとなくそう思った。


「これは僕の親友だよ、特別に中身も見せてあげる」


 その男はニコニコしながら棺を開けていく。

 中に入ってんのって多分死体だよな……腐りかけとかだったら嫌すぎるぞ……。


「開いたよ」


 指さしてそう言うので仕方なくその男の後ろに行き、中を覗く。美しい金髪の女性がそこに眠っていた。そう、眠っていたとしか言えないほど、生きているようにしか見えない死体。


「僕はね、彼女がいつか目を覚ますって信じてる。だからわざわざ生き長らえている、人類が滅んでもずっと。きっと僕の迷宮を気に入ってくれるはずだと信じて」


 ようやく分かった。最初の地下迷宮は、この美しいお姫様の墓だったのだ。見せたがりの制作者が、お姫様の美しさを見てほしくって入りやすい作りにした。そして離れにくいように……これ以上は野暮だな。


「だから魅力的なんだな」


「分かる?リードって魅力的だよねぇ」


「ああいやそっちじゃ……なんでもない」


 俺はそれ以上言わなかった。迷宮に対する賞賛は、きっと目の前の男が望んでいる言葉ではないと思ったから。


 俺はただ、棺の中の女性を見つめた。

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