幕間
メリークリスマス!
「じゃーん、解放されましたー!」
後輩を引き取るよう言われたので迎えに来ている俺だ。
「そう言えばお前名前ってなんだったっけ」
「わ、ひどい。わたしの名前覚えていないんですかー?」
「俺の名前言ってみ?」
「…………。先輩」
「後輩、無罪放免で良かったな」
俺と似た者同士の後輩の、変わらぬ様子になんとなくほっとする。
「親とかいないのか?」
普通迎えに来るのは親とか、いなくても孤児院の人間とか、いろいろあるだろうに。ちょっと前に職場が同じだっただけの人間は、やはりふさわしくない気がする。
「そういうとこですよ、デリカシーないの」
「知らなかったのか?」
「その返し!普通謝ると思うんですよねー。ま、わたしは先輩のそういうとこ好きですけど。もちろん人として」
「はいはい」
「人ってさ、どういう人が良い人で、どういう人が悪い人か、とかないと思うんですよね、最近」
「急にどうした」
「その人に合うか合わないか、ぶっちゃけそれだけじゃないですか?先輩みたいなデリカシーゼロで距離感バグってる人も、わたしみたいにちょっと他人を見下してて日々を適当に生きている人も、別に生きてていいと思うんですよ。変えられないんです。それを責められる謂れもない。合わないんだったら黙って消えろ、これがわたしたちの生き方なんですから……ってね」
「急に13歳みたいなこと言うじゃん」
「13歳ですからね!」
癖のある赤髪に囲まれた顔が子供らしくくしゃりと歪む。
「まあ実際他人に配慮できるかどうかって結構才能だよな……」
俺は後輩と違って努力は怠らないので、若干心外だがいいだろう。俺はこいつと違って大人なのだから。
他人にペースを合わせてると尋常じゃないストレス負荷がかかる。体調を崩すレベルで。他の人間もそうなのかと言えばそうじゃないから、やはりその人の資質に左右される部分はある。できる努力みたいに言われるのはちょっとしんどかったりする。
「で、親は?」
「……。チッ、煙に巻けなかったか」
「そういうのいいから」
「親は生きてるらしいですけどね。最後に見たのは3歳の時だったかなぁ……」
うん。
「わたしの頭の良さが手に負えきれなくなった両親は、わたしを学者の家に預けました」
「良い親だったんだな」
「先輩らしい言葉ですね」
「才能を活かす選択は子供のためになる」
「あは、向いてないことはしないって言ってた先輩らしいですね」
「そりゃな」
「その学者が天文学者でしてね。分かります?ずーっと空見てるんですよ。来る日も来る日も」
「ああ。らしいな。会ったことはないけど」
俺は後輩くらいの年齢の時、いやもう少し上か?とりあえずいろんな本を読んでいた。何をやってもすぐ飽きるので、飽きたら次の分野に移る、なんてことを繰り返していた。だから天文学者が何をやるかも知識としては知っている。結局俺は色んな色の星がある程度の知識しか身につけられなかったけど、必要な学問には違いない。世界の成り立ちが分かるとかで教会も全面バックアップしている。そういう面でも良い親だな。子供が食ってけるようにってとこまでしっかり考えている。
「わたし思ったんですよ。遠い空を見るよりもっとやることがあるだろって。そう言ったら絶縁されました」
それだけで絶縁ってのは厳しすぎる気もするが、天文学を学ばないなら早いうちに手放した方がいいという判断だったのかもしれない。
後輩の顔を見ると少し寂しそうだった。
「まあ、なんだ。……お前のことを思ってのことだった、のかも?」
「なんでそんな自信なさげなんですか」
「いやだってお前の養家がどんなんだったか知らねえし」
「……先輩変なとこ真面目ですよね。そういうとこ好きですけど」
「俺も後輩の軽率にそういうこと言う脇が甘いとこ好きだぞ」
「それ褒めてます!?」
「褒めてる褒めてる」
俺よりはるかに弱いんだからそういうの気をつけた方がいいぞと思いつつ、まだ子供なんだからこれくらいでいいかとも思う。大人っぽいからついつい同じ目線で考えてしまうな。その方が後輩も嬉しいかもしれないが。
とりあえずここまで話を聞いて、後輩が大学までスムーズに卒業できたのに職に困っている理由がなんとなく分かった。
「これからどうするんだ?」
「どうしましょうねぇ」
「孤児院に行ってもお前の年齢ならギリギリ受け入れてくれると思うぞ」
「は?嫌ですよ!なんで今更同年代の子達と話さなきゃいけないんですか。いーやーだー。もうあの疎外感味わいたくなーいー!」
「お前……大変だな」
多分話合わねえんだろうな。俺とはまた違った人生のハードルがあるのだろう。頭が良いってのもすぎれば苦労するらしい。
「どっかに弟子入りするのが丸いんじゃねえの」
「あーまあそうなりますか。学び直しかー」
「なんか俺が見張らなきゃいけないらしいし、魔術学院来るか?」
「え、なんで?」
「悪の道に染まらないように?」
「なんですかそれ」
顔を見なくても分かる。呆れられている。
「いやそもそもわたし魔法使えないんですけど」
そう言えばそうだった。
「まあ俺の弟子って感じなら……いや俺給料出せねえわ。うーんアルマの弟子?ないか」
アルマがきちんと監督してくれるとは思えん。
「そうだな。……ちょっと来い」
後輩を掴んで飛ぶ。
「は?、え!?」
「いい景色だろ」
と、思ってもないことを言う。
後輩は今この状況を理解しきれないらしい、怯えた顔をしている。
「お前戦えたっけ?」
「戦えるわけないですよね!?」
「えー、マジで頭脳だけで生きてきたのか」
「普通そうだと思いますよ!?先輩がおかしいだけです!」
「まあいいや、荷物持ちくらいにはなるだろ」
言ってて思ったが、後輩の細腕でなんの荷物が持てるのだろうか。
っと、目的地。
あ、まだ人混みの前に立ち往生してた。良かった。
「ジルちゃーん!!」
「え何?」
上から降りたら人混みが一斉に俺を見た。気まずいからやめてほしい。見るのは当たり前だろって?そうだね。
目立つからすぐ分かるジルちゃんに話しかける。
「ジルちゃん、ジルちゃん。ちょっといいか」
「いい」
「ジルちゃんさ、地下迷宮攻略初めてだよね?」
「うん」
「地下迷宮攻略ってのはマッピングが大切なんだ」
「?」
「迷ったりしないように記録しないといけない」
「……たしかに」
ジルちゃんなら記録しなくてもなんとかしそうな気はするけどそれはそれとして。
「で、さ。ここで紹介したいのが俺の後輩!」
「よ、よろしくお願いします」
「俺より頭いいから記憶できるよな?」
「多分?」
「そういうことでどうだろう。記録係を雇うってのは」
「ふむ……あり」
「やったぜ。ほれ後輩。困ったことあれば俺に連絡しろよ」
連絡できる魔道具を渡す。
「えっ、もしかして置いてく気ですか!?ちょ、」
俺は後輩の言葉を最後まで聞かず飛び立った。
ジルちゃんに預けたんだ。どうにかなるだろう。とりあえずジルちゃんその他あの婆さん達に振り回されてくれよな、俺はそんなことを思った。




