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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
5章

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5-9 見学

「すまなかった」


 ヘリング先生が帰ってきた。

 前見た時よりガリガリだし顔色も悪く見える。体調悪化してそう。


「とりあえず元気になったんだよな?次の講義できるんだよな?」


「大丈夫ですよ。マスターは健康です。休んでいる時も元気はありましたからね」


「勝手に答えないでくれるか?」


 とにかく悪魔の軽口に反発できるくらいには回復したらしい。良かった。


「ヘリング先生がいない間いろいろ大変だったんだぞ!授業1人でやらされるし、なんか派閥?に巻き込まれるし!」


 俺は基本我関せずで1人でいたのでそんなに巻き込まれていないが、あのピリピリした空気はキツかった。1人でいる俺を蔑むような目線も出てきたしそろそろ限界だなと思っていたところだ。


 ヘリング先生が来てくれれば、俺も講師として相応の扱いになるだろう、きっと。壁になってくれヘリング先生。俺のために。


「す、すまない」


 俺の勢いに負けたのかヘリング先生が謝る。

 ちょっと罪悪感があるような。1回話変えるか。


「結局なにが問題だったんだ?親族からのプレッシャーだってんなら俺が始末つけといてやろうか?一公爵家程度なら潰せる目処はついたから安心してくれ。なんなら皆殺しにしてみせる」


「い、いや、それはやめてほしい」


「やだなぁ冗談すよ」


 そんなに冗談でもなかったが、ヘリング先生が引いているので笑って誤魔化す。

 いろいろ実験して遊びたい気分だったのでちょうどいいかなと思ったが、本人が望まないならステイしよう。


「ヒナタのことなのだが」


「ん?」


 俺の誤魔化しをとりあえず受け入れることにしたらしい、少し顔色は悪いが表情は真剣だ。


「その、仲間になってやることはできないのか?」


「え?……随分仲良くなったんすね」


「そういうわけでもないが」


「へえ?」


 価値観を一新するような出来事があったらしい。

 ついでに異世界人であるヒナタにも会っている、と。

 ヒナタが落ちてきた時何か分かったんだと言っていたような気がするが、何が分かったのだろう。この感じだと、サポートする方がいいと思ったとか?この世界を乱すから殺せと伝わってんだから、乱さないよう導けとか?考えても分からんな。


 どちらにせよここまで価値観を変化させるのは大きなストレスだろう。だから寝込んでいたのか。寝込んでたっつーか机に引っ付いていたというか。まあどうでもいいか。


「実験d、王子からバフの内容聞いたが、全体的にスペック上がる感じぽいな。ただちょっと精神に異常出てそうだったんで俺的には遠慮したい」


 別に強くなりたいわけじゃねえしな。頭脳スペックは上げたいが。


「今アントニオ王子のこと実験台って言おうとしなかったか?」


「気のせいじゃないすかね」


「……そうか」


 元々俺とは考え方が合わないやつではあったが、あそこまで気色悪いやつではなかった、と思う。この前会ったら、ヒナタのことを女神だとかなんとか言っていた。女神のために戦いを捧げるのだと。


 ヒナタ好き好きになる精神異常があるとすれば、頭脳スペックが上げられてもあんまり意味がない。俺がやりたいことがやれなくなるわけで。というかそんな俺って本当に俺だと言えるのか?

 しかも、ヒナタのバフをもらうということは、世界を救う責任がきっと多少なりとも付いてくるわけで……。


「戦力が欲しいって話ならリーヌスでも連れて行ってくれ。剣に関しては俺より強いし断然戦力になるぜ?」


 暇してそうだったしちょうどいい。

 あの精神異常もリーヌスを多少マトモにしてくれるような気がする。世界を救うなんて大それたことは、マトモじゃない人間じゃないとできないのだ、とか言って。俺も別にマトモなわけじゃないが。


「おれの家を潰せると豪語するお前よりか?」


 ヘリング先生が疑うように目を細める。口調的に軽口ではあるのかもしれない。


「はは!あれは冗談だって言っただろ?俺はヘリング先生のことを本気で尊敬してるんだ、嘘はつかない」


 俺はやっぱり魔法が好きだし強い魔法使いへの憧れがある。あんな無法みたいな魔法を見せられてワクワクするなって方が無理がある。

 そんなヘリング先生のことを俺は尊敬しているし、強さという一点においては嘘をつきたくない。


 俺は俺の信じる正義のために、ヘリング先生には強くあってほしいと思う。強くなるための障害は全て俺が消しておく、ってのも苦じゃない。

 どうでもいい話はさておき。


「とりあえずヒナタに会わせてみるか」


 ヘリング先生は俺の曇りなき眼を見てか一応考えることにしたようだった。

 腰につけているベルト型のデヴィンが俺をガシガシつついている気がするが気にしない。え?目が怖い?うっせ。


「今日ヘリング先生授業だよな?俺も見に行っていいか?」


「もちろん。迷惑もたくさんかけたからな。同僚としてお前には勉強して行ってほしい」


「やった」



 ▫



「はい。おれが今風魔法使ったの分かったか?分からなかったら肌で感じろ。今回使ったのは上方向の魔法だ。下から魔力波が認識できたはずだ」


 教科書をつかみきれなかった生徒達の教科書が宙を舞っている。……なんかオモチャとかも飛んでんな。

 俺の通ってた学校なら回収されて廃棄処分だぞ。


 生徒が1人ピンとまっすぐ手を挙げる。


「分かりません」


「なぜだ?」


「……」


「しょうがないな。風に色をつけてやろう」


 ……。

 授業でこの規模の魔法をポンポン使えるのやべえなヘリング先生。生徒達が置いてきぼりなのが気になるけどこれはこれでいいかもしれない。実践的だ。


「上方向の魔法は、下に魔法を敷いて、威力の方向を上にするだけでいい。まとめて設定した方がいいぞ。めんどくさいからな」


 黒板に悪魔が図を描いている。詳細で分かりやすい。なるほどこの悪魔はこうやって使えば良かったのか。


「次に下方向の魔法だ。これは少し面倒になる。使う機会もあまりない。天井に魔法を敷く感覚を掴めるのが1番楽だが、おれ以外にやってるやつは見たことない。魔力消費量が上がるらしいのでな。じゃあどうすればいいのかと言う話だが、起点を決める必要がある。座標を正確に設定したい人は教科書356ページを開け。そこに載ってる」


 俺とは何もかも真逆だが、俺みたいな人間も考慮してくれるいい先生かもしれない。



 ▫



「どうだった?」


「俺にはできない授業で面白かったし参考になった」


「そうか。実はおれも本格的な授業は初めてなのでな」


 そういえばヘリング先生は半年前からの勤務だったか。授業スケジュールが前期に詰まっているならそういうこともあるだろう。


「ヘリング先生!いい授業でしたよ。生徒たちも優秀な魔法使いの魔法を知れて嬉しいはずです」


 あ、初日に俺に喧嘩売ってきた爺さん。


「チッ」


 俺が見ていたのに気づいたのか舌打ちして去っていった。感じ悪すぎだろ……。


「ありがとう追い払ってくれて」


「……」


 追い払ってねえです。

 そんなに俺の目つきは悪いのか。

 思わず顔を触る。


「迷惑かけたお詫びと言ってはなんだが、なにか望みはあるか?」


「ないかな」


「む。それではおれの気が休まらない」


「……じゃあ俺資料研究のために行きたいとこあるんで、行ってきていいすか」




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