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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
1章

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1-6 怪しげな美女と遭遇

「ほらほら!」


「アルマのバカ!本当にバカだろ!バッカじゃねぇの!!?」


「褒めても何も出んよ」


「褒めて、ねえ!」


 5階層からものすごい勢いで急降下している。

 振り落とされていないのを褒めてほしい。


「アハハハハ、こんなに楽しいのは久しぶりだ!」


「良かったな……」


 追尾してくる木の枝が見える。きっと引っかかってめちゃくちゃになってるんだろうなと思うとなんとも言えない気分になった。


 アルマはそれを横目に哄笑を上げながら煽るように避け続けている。


 俺は悲鳴をあげながらなんとか地下迷宮を見る。


「8階層までじゃねぇか」


 目視でなんとなく見えたが、最下層は8階層らしかった。木があったのが7階層だったから、つまり8階層は根に占拠されている階層だ。この分だとあるかもしれない魔導書はボコボコになってそうだな。


『どうやって侵入するのさ』


 デヴィンが淡々とした口調で聞いてくる。


「あー……」


 どうしようかな。

 この様子だと7階層から無理やり降りても大して結果は変わらなさそうだ。


「まあいいや。魔導書とかもう存在しないだろ」


「……ふーん?」


 アルマがちょっと怖い。

 俺は無駄なことはしない主義なので、アルマが怖かろうとここは最善の選択肢を取りたい。


「デヴィン。さっきの日記にアルマを強化できそうな情報はなかったか?」


『えー?えー。分かんない』


 よく考えれば、デヴィンはアルマの情報をほとんど持ってないし分かるわけもないか。


「んー。じゃああの木については?」


 魔導書も端末になるものもある。そもそも端末ってなんだ?って言われると説明が難しいが、それがあるだけでそこに書かれた魔法が使いやすくなるものは端末分類になるようだ。


『そこに知的生命体が関わったという情報さえあれば未来過去現在に干渉して徹底的に破壊できるって触れ込みだね』


「へえ。いいじゃん」


 やっと水平になったホウキの上に立ち、俺はデヴィンに大剣になるよう伝える。そのままアルマに向かって伸びてくる枝を切り落とし、手に取った。

 ホウキに無理やりねじ込むようにして、横向きに座るアルマの横にまたいで座る。安定しないが、さっきよりはマシだ。


「はいアルマ。これが魔導書の代わりな」


「……あのねぇ」


「アルマなら解析できるだろ?」


 うねうねしている枝を気持ち悪いなと思いながらアルマに押し付ける。動力源から離れているからか切り離された枝は、それ以上伸びる様子がない。


「……そうかもね」


「だよなぁ!さすがアルマ。1回帰ろうぜ」


 アルマが少し複雑そうな顔をしていた気がする。なにか言いたいことがあるのかもしれない。しかし俺はそれを見なかったことにして、帰りを促した。


「……今日は学院に泊まっていくといい」


「りょーかい」


 了承しといてなんだが、もしかしてアルマは1日で解析を終わらせる気なのかもしれない。

 そしたら俺どうなるんだろうなぁ。もしかして傭兵ギルドの依頼も不履行か?まあいいや、未来のことなんて。大事なのは今。今の俺が楽することだ。


 そして当然のようにアルマは俺を連れて猛スピードで帰るのだった。


 個人的なことを言うと、ゾンビにちょっと当たりながら飛んで行くのはやめてほしかった。アルマは全く気にしていなさそうだったが。


 迷宮から脱出した後もアルマはホウキを置かないので、俺たちはそのまま飛び続けた。

 空を飛ぶ俺たちを道行く人々が困惑した顔で見上げている。アルマなんだからそれくらいやるだろ。そんなに驚かなくても。



 ▫



「ここで寝るように」


 アルマにそう言われたので、俺は案内されたその部屋を見回す。俺たちは学院に戻ってきていて、ここは学院の中の一室だ。アルマはさっさとどこかに行ってしまった。


 置かれているランプに光を灯す。


 使い古された部屋だ。棚にはいつ購入したのか分からない薬品が並んでいる。

 よく見るとホコリも被っている。しばらく使われていないようだ。


 研究室っぽいが寝る場所、あるか?仮眠室でもあるのだろうか。適当に散策する。


 ……。

 見なかったことにしていたが、そろそろしっかり見るか。

 床にとんでもない美女が転がっている。この辺りではあまり見ない光を吸い込むような黒髪が特徴的だ。というか現時点だとそのくらいしか分からない。服は……メイド服か?手足が長くて、出るところが出ている。スタイルがいいな。


 目を閉じていても目が惹かれる派手な美女の顔を上から見下ろしていると、俺に気がついたのか目が開かれる。今まで見たことがないくらい真っ黒な目だ。思わず息を止めて見入ってしまうくらい美しい。思わず手を伸ばしたくな……ふむ、この感情は魔法に焚べれそうだ。


 魔法による検証の結果俺の考えが正しいことが証明されたので、デヴィンを剣に変えてその女の首元に向ける。


「悪魔とか初めて見たぜ」


 地の底には魔界が存在すると言われている。まあ存在は確認できているのだが、そこに行くまでの経路が確立されていないので、本当に地底にあるかは分からない、といったところだ。

 で、魔界がなんだって話だが、どうやら人間とは別の人型種族が存在する地域ということらしい。探検家の類が未知のロマンを求めて魔界に行って廃人になって帰ってくる、というのがお決まりの流れだ。そんでその魔界にいる別の種族というのが悪魔ってわけ。


 なんで俺がその悪魔に剣を突きつけるかと言えば、悪魔の目撃例があれば大抵重大事件も付いてくるというのが通説で、悪魔は人類の敵だと見なされているからだ。見つけ次第即刻殺せってな。


「不敬ですよ」


 女にしては低めの心地よい声だ。声も綺麗だなと思った瞬間視界が下がりそうになったところをどうにか持ちこたえる。やべーな、精神干渉できるのか。完全に不意打ちだった。攻撃によって即死させられる可能性もあったのかもしれない。

 悪魔ってこんなに強いのか。知らなかった。今更ながら怖気が走る。それを誤魔化すように口角を上げた。


 さっきまでの優位性は完全に消えた。俺が動揺している間に、悪魔は立ち上がっている。不機嫌そうな顔も美人だな。まあこの精神に侵食してくるようなそれこそ人外の美しさとしか言いようがない美貌のおかげで目の前の女が悪魔と気づけたわけだが。


「めんどくさいですね……」


 悪魔がスカートの中から短い杖のような物を取り出した。じっと見つめる。


 長いスカートで首元もしっかり隠れたクラッシックなメイド服だ。その服を選んだ誰かがいるのだろうがその誰かを褒めたたえたい。よく似合っている。


「別に俺もお前を殺そうってわけじゃない。ただ悪魔は警戒しろって教えられてるもんでさぁ」


 剣を改めて突きつける。俺がこれだけ目を惹き付けられてるってことは、相当力の強い悪魔なのだろう。悪魔は人を魅了し惑わすと言う。


「なにごと?」


 悪魔の後ろの方から男の声が聞こえる。


「マスター」


 悪魔がマスターと呼ぶその男の方へ振り向く。なるほど目を逸らしても俺をどうにかできる自信があるらしい。まあ俺も、マスターとやらとは仲良くでくるかもしれないので攻撃するつもりはないのだが。


 奥から出てきた男は、俺より、なんなら女の悪魔よりもずっと背が低かった。魔女みたいなアルマよりも黒が多い服を着て、口元は上着で隠している。怪しいなんてものじゃない。


「お前は……その悪魔の飼い主か?エロい女を床に寝かすとはいい趣味してるな」


 ああ、これじゃあ穏健な人間でもキレるよな。俺は自分の口の悪さを改めて自覚して嘆く。


「女?ああ」


 男は悪魔をチラ見して頷いた。

 ……思ったより怒ってないな。


「お前、どうしてヘイデンを悪魔だと思った?」


 男にしては高めの声でそう聞いてくる。襟元は手でしっかり伸ばしていて、口元は見えない。


 ヘイデン。目の前の悪魔のことか。


「どうしてって。調べた肉体の情報が俺の持ってる悪魔の情報と一致していたからだが」


「……」


 沈黙して固まる男を見て、どうやら目の前の悪魔は、悪魔と分からないようにしかけがしてあったのかもしれないな、と思った。


「あー。俺魔法の素質ないからな。ちょっとした裏技を使ってるんだ」


「そうか。で、お前はどこの誰なんだ?」


 目の前の男が聞く。


「俺はアルマ……ビュトナー学長の古い知り合いでな。この部屋を使っていいと言われたんだ」


「ほお。信用できんな」


「……」


 ダメだったみたいだ。名前を言った方がいいのか?いやでもなぁ。悪魔に名前は教えちゃいけないとか本に書いてあったし……。


 アルマー。助けてー。


 俺は顔を引き攣らせながら剣のままのデヴィンを構える。俺の味方はお前だけだ。


「やはり盗賊の類か」


 うるせぇな。俺は確かに威圧的だなんだとよく言われるが、さすがにそこまで悪そうには見えな……いよな。うん。大丈夫。俺の顔を思い返すがそこそこかっこよかったはずだ。


 男が手を伸ばして氷の塊を放ってくる。先が鋭いので殺意はありそうだ。嫌だなぁ。

 というかやると決めてから魔法を放つまでの時間が短すぎる。アルマ以上じゃないか?

 とりあえずデヴィンで薙ぎ払う。


 悪魔の方はケリ付けとくか。ということで、一瞬盾にしたデヴィンをぶん投げて倒した。デヴィンは鳥になって帰ってくる。可愛いヤツめ。


「とりあえず氷漬けになれ」


 目の前の男がそう言った瞬間、嫌な予感がした。

 俺はポケットの中の宝石を砕いて、今できる最大の結果を生み出せる魔法を使った。


「な……」


 驚いた顔をしている。良かった。合っていたらしい。宣言してくれたおかげで氷をそもそも形成させないように振動させたのだ。そしてそれは成功した。

 しかし男は驚きこそすれまだ余裕がありそうだ。もう一度同じことをされたら俺はもう為す術がない。


 そこで部屋の扉に外から手がかけられた音がして、そのままゆっくりと扉が開く。


「おいラウル。枕くらいはいるだろうと思って持ってきてやったぞ……これはどういう状況だい?」


 きっと今の状況の理由の一端を担っているだろう学長……アルマが無表情のまま首をかしげた。





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