5-4 怪しい研究所
なるほど。……デカイな。
研究所に入ってまず思ったのはそれだった。
「資産家だったのか?」
「さあな。辺境伯の娘だったようだが」
「資産家だなぁ」
辺境は防衛の要であり、王の手が届きにくい場所である。そこを治める辺境伯は実質その地の王のようなものだ。資産も当然たくさんある、と思う。俺の常識では。
「……ん?女だったの?レオニ博士って」
「そこ今重要か?」
「ええ?」
ハンクの言葉に適当に返しつつ、探索する。
アンガスは森に置き去りだ。
中は薄暗い。俺以外はきちんと見えてんのか気になりつつ探索する。
「ほらフェリスヴェルタ。光源だよ」
「ありがとうございます。お手を煩わせてしまって申し訳ありません……」
「大丈夫。私は今まで何もしてないからね。このくらい大したことないさ。魔力は回復してきたかい」
「はい……!」
まあなんか楽しそうだしいいか。
というかアルマまで名前呼びとは、よほど家名で呼ばれたくないらしいな。
研究資料なんだろうが、動物の死骸が散乱していて、衛生的には良くなさそうだ。一応まだ人間には手を出していないようだが、時間の問題のように見える。
こっそりデヴィンを伸ばして辺りを探る。
若い女を探せばいいわけだ。おっと、早速ヒット。
「こっちに誰かいる」
……離れていて誰も反応しない。
大声で呼ぶべきか、1人で行くべきか。そうだな、とりあえず1人で行くか。俺が危険な目に遭うなんてそうそうないのだし。
「あ、後輩!」
くしゃくしゃの赤い髪が特徴の背が低くガリガリの女が目に入る。
俺が1番仲良かった後輩だ。なんでこんな所に?
「せ、先輩!」
泣きそうな顔で俺に駆け寄って来る。
いつも調子の良い後輩の見たことない姿に俺は少し狼狽した。
「どうしてここに?」
「せんぱぁい、職場が燃えて、私新しい職場探したんですけど、私の年齢だと受け入れてくれるとこどこにもなくてぇ」
「そう言えばお前12歳だったっけ」
「この前13歳になりました!」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
話してると全然そんな感じしないから忘れてたぜ。
俺よりよほど職場に馴染んでたしな。
年齢で受け入れてくれないってのはよく分からんが、学術機関だとそういうこともあるのか?大学まで出てるのにな。
「そう言えば先輩は仕事どうなったんですか?」
「俺は魔術学院の講師として雇われてるよ。なんか、今魔法使いの中で迷宮攻略がホットらしくてな。言ってなかったが多少魔法が使えんこともないからな」
「魔法使えるならそりゃあ仕事に困ることないでしょう。魔術学院ってのは良い上がりすぎて羨ましいですけどぉ……。なんであの時あんなに絶望してたんです?」
後輩の呆れたような視線が刺さる。まあじーちゃんのコネがあるし、本気で職に悩んでいたわけではない。
「そりゃ愛着ある職場をクビになりゃショックだろ。てか俺の話はいいじゃねえか。どうしてお前はここにいんだよ」
「そうでした。職探ししていた私はここに辿り着いたんです!研究分野も近くてお給料も良いし、最高の職場だと思ったんですけどぉ」
「ここで働いていたのか」
「ですね」
この場所のヤバさに関わってから気づいたということだろうか。
「とりあえず捕まっとくか?」
「やっぱり私捕まるんですか!?内乱罪ですか!?死刑ですよね?嫌だー!!!!」
「暴れんな暴れんな」
いつも人を小馬鹿にしたような余裕のある態度だった後輩もさすがに取り乱している。俺でも同じ状況なら取り乱すからしゃーないね。
「まあ今から協力してくれるなら減刑されるだろ」
「ですかね……?」
「どんだけ関与したかにもよるな」
「……」
「ダメかもな」
結構手貸してんなこれ。
まあ俺と仲が良かっただけで良い奴ってわけでもなかったしな。俺と仲良かった時点で分かりきってる?うるせー。
「そう言えばその首にひっかかってる獣はなんですか?」
「ん?俺の武器だけど」
「すごいですね初めて見ました。金属製ですか」
『本物はフサフサだよ。ナマケモノだよ』
「うわ喋った!」
後輩が子供みたいにはしゃいでいる。いや子供なのか。
「デヴィン久しぶりに話すじゃん?」
『ナマケモノはあんまり動かないからね!ボクもしばらく話さないよ』
そのこだわりはなんなんだよ。
「どうせ死刑になるんです。このくらいもらってい……取れない!」
「バカ」
とりあえずアルマよろしく手刀。
あれ、頭を抑えて蹲っている。力加減を間違えたか。まあ国家内乱罪の容疑者相手だからいっか。
「デヴィンは俺のもんだぞ」
「えーケチー」
「くははは!……お前なら扱えるか?おいデヴィン。そうそういい子」
本当に何も話さねえなこいつ。
後輩にそのままデヴィンを持たせてみる。
あ、倒れた。
▫
「女の子俵抱きにしてどうしたんです?」
偶然遭遇したフェリスヴェルタさんがジト目で俺を責めるようにそう言ってくる。
どうやら個人行動を取っているらしい。ハンク以外はそれでも問題なさそうだしいいか。ハンクはアルマが多分見てくれてるだろう。
……確かに今の俺は傍から見たら事案か。
「協力者らしいから拘束した」
「幼い女の子が?」
「非合法の組織なんだから子供も雇ってんじゃねえの」
「言われてみればそうですね。可哀想に……」
良かったな後輩。無罪にできそうだぞ。
「さて」
もう1人いそうなんだよな。
おい、デヴィンもう1回糸になれ。嫌?そうか。
……ナマケモノってのはいったいどんな動物だったんだ。
「多分音的に、こっちに誰かいそうなんだよな」
「あなたの仲間かもしれませんよ」
「ええ?こんな足音のやついたか?最低でも100kgはありそうっつうか」
「足音分かるんですか」
「ああ」
「正直ちょっと気色悪いですね」
オブラートに包まれない暴言。
100kgあるってことは俺と同じくらいか?今の正確な体重は知らねえけど。
うーんでも接地面は小さそうだな。身長は俺よりずっと低そうだ。単純に太ってるのかもしれない。
「レオニ博士ってのはメタボなのか?」
「私に聞かれても知りませんよ」
「じっとしてりゃ向こうから近づいて来てくれそうだな」
「それまずくないですか?私達のことどうにかできる自信があるってことでしょう」
「何心配するなフェリスヴェルタさん。俺とお前がいりゃそうそう負けやしないさ」
「そういうのフラグって言うんじゃなかったでしたっけ」
「言うね」
とかふざけたことを言い合っていると足音がすぐそこまで近づいてくる。
さて推定レオニ博士のご尊顔は。
……背が低く、太っている。俺はここまで脂肪のついた人間は見たことがなかった。身体は重そうで、歩くことすらままならない様子だ。その姿は彼女が裕福な生まれである何よりの証明である気がした。顔面はニキビで荒れており、分厚いメガネをかけている。
「侵入者、ですね」
声は高い。女性なのは確定。
「レオニ博士で間違いないか?」
「はい」
「大人しく捕まってくれるか?」
「いいえ」
……会話に応じてくれるようだ。
「ヘリング先生を信用するなら王都に攻め入るって話だが、本当か?」
「はい」
素直に認めるのか。不気味だな。
「そこの女性は?」
フェリスヴェルタさんを見ている。
俺じゃなくて?
「私ですか?私はこちらのルドルフさんのお祖母様に雇われている魔法使いです」
「そう、ですか。所長とはなんの関係もないんですね」
「ええ。今日初めてお会いしました」
フェリスヴェルタさんもさすがに様子がおかしくないかと俺の方をチラチラ見てくる。
「そうなんだ、来てるんですね、所長……」
「あの、ルドルフさん。私逃げたいんですけど」
「おいもっと小声で言え」
「なんか嫌な予感がします」
「俺もする」
光悦とした様子のレオニ博士を見て、俺たちは2人で顔を青くしていた。
なんだか分からないが悪寒がある。なんで俺のことは興味無いんだよ。パッと見の脅威度はどう考えても俺の方が上だろうが。
「聞こえてます、よ?」
「ああ、悪いな。今のなし。とりあえず捕まえるぞ!」
「了解しました。幼い子を利用するなんて研究者の風上にも置けません。大人しくお縄についてもらいますよ」
フェリスヴェルタさんもやる気だ。
なんかちょっと勘違いしてるの可愛いな。
「そうですか」
レオニ博士が何かの装置を弄ると、天井が開き、その中からスライムのような何かが出てくる。これは……音なかったよな?俺が気が付かないとは。
「おいデヴィン」
『えー?』
「とりあえずなんか武器になれ武器に」
『しょーがないなー』
そしてデヴィンは金属製の長い筒になった。
「……なにこれ」
『鉄パイプ』
「だー!もう!」
とりあえずその鉄パイプとやらでスライムを叩きに行く。ああ全然効いてる気がしねえ。ふにふにする。俺に対しての攻撃は大して痛くないというか、パワーで勝ってるので、引き剥がし可能。負ける気はしない。
「……あの、助けてください」
フェリスヴェルタさんがスライムに捕まっている。足からぶら下げられるようにスライムが絡まっているようだ。ローブの下はズボンか。うーむ、ちょっとエロいな。
「ああ待ってろ」
とかやってるウチにレオニ博士に逃げられそうだ、な……逃げてないな。直立不動で俺たちを見ている。不気味だ。
「スライムの弱点って知ってるか?」
「……スライムの弱点は知りませんが、このサイズなら外のドラゴンで無力化できそうですよね」
「確かに。名案じゃね?あーでも衝撃で分裂するタイプだったら生態系に影響出るか?」
「今、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
「それもそうか」
「転送」
俺に聞く必要あった?と思うほどノータイムで謎のスライムはアンガスの元へと送られた。




