4-8 街
「ここかぁ」
思ったより時間はかかったが無事ついた。
イーディスさんが止めなかったのであんまり心配していなかったが、空を飛んできた俺を現地民が攻撃してくることもなかった。
イーディスからの紹介状もあることだし、傭兵ギルドのカードもあるし、気楽に行こう。
……確かに男しかいねえな。
なんか中年男性に話しかけられているが何を言っているのか分からない。異国だからね。
デヴィンー。
『獣人なのかって聞かれてるよ』
センキューデヴィン。やっぱ持つべきものはデヴィンだね。
上空から拾った声を全部デヴィンに学習させてみたら翻訳してくれるようになった。
「ドラゴンだぞ」
俺がそう言うと、単語が共通しているのか大袈裟に驚かれる。
『竜人は初めて見たって』
「そりゃ良かった。クヌート・ヘリングがどこにいるか聞いてくれ」
上空からなんで声を拾っていたかと言えば、ワンチャンすぐに見つからないかという期待が大きかったからだが、ヘリング先生のことについて話している人はいなかった。そう簡単にはいかないらしい。
『知らないって』
「ふーん、そんなもんか」
『見た目は?って聞いてるよ』
おっと。どうやら協力してくれるらしい。着地点に親切な人を引いたようだ。
「んー、身長は低くて細くて、顔の下半分をローブで隠してる魔法使いだ」
髪は……赤茶色って言うのかあれ。うっすい赤黄色みたいな色。
『高い声の男かって』
「そうそう!」
『風魔法をよく使う?って』
「いやー……」
ヘリング先生といえばやはり氷だろう。
とはいえ現状なんの情報もないわけだし、その人に会ってみるのもいいのかもしれない。
「とりあえず会ってみたい」
『じゃあいるかもしれない場所に案内するって!』
「おお!」
▫
「デヴィン、これ本当に大丈夫そうな感じ?」
『大丈夫じゃないけどラウルなら大丈夫!』
「大丈夫じゃなさそうだな……」
俺は何をされても無事だと思ってそうなデヴィンの言葉を信用できるほど自分を過信できない。
薄暗い路地に誘導されている。
背後に人はいないが、不意打ちで後ろから殴られそうなシチュエーションだ。
『ここだって』
「ええ……」
手狭なスペースに店がある。見るからにヤバそうな雰囲気を漂わせているが、本当に大丈夫か。
『ここでよく飲んでたんだって』
「ヘリング先生は豪胆だな」
まあ入るか。しょうがない。危なそうならアンばあちゃんお手製の爆薬でも投げ込んで逃走しよう。安全性は謎だが俺に傷1つつけられないことは確認済みなので暴発したら俺が踏み潰す予定。
扉を開いてくれているので入る。……言葉に表せないが異様な雰囲気。
店内を見回すがそれらしい人はいなかった。
『今日はいないみたいだな、だって』
「じゃあ退散する」
肩は届かないのか背中を掴まれる。
「な、なんです?」
『飲んでいきなよ。店長がなにか知ってるかも、だってさ』
今んとこ言動だけ見ればめちゃくちゃ親切だな。この店から悪寒がすることを除けば。
とりあえず一息ついてあたりを観察する。異国だからか服の文化が違うらしく、俺の国じゃ普通着ないような装いの客が多い。
常連しかいないのか、そうじゃない俺をチラチラ見てくるが、俺の鋭い目つきを見てすぐに目をそらす。
「この店で1番強い酒を」
なかなか奇抜な格好の店長にそう言うと、ニヤと笑った後、デンジャーマークがついた酒瓶とコップが俺の目の前のテーブルに置かれた。とりあえず1杯入れて一気飲みして見せる。
驚いたように目を見開いたので、今度は俺が口角を上げた。これが飲みニケーションってやつなのだろうか。勉強になるな。
「クヌート・ヘリングという男を探している。背は低くて、華奢で、顔の下半分を隠していて、ああ、あと悪魔を連れている」
そういえばあの悪魔は女の見た目だったしここには来れないのだろうか。
「翻訳機は使わなくていいわよ。分かるから」
「む。学識深いのか」
ツマミなしで酒を飲みながら感心する。独特の辛味があっておいしい。飲まず嫌いだったが意外とありだな酒。酔っぱらえる気は全然しないけど。
少々イントネーションに不自然な部分があるが、異国人なのだ細かいことは言うまい。
「惚れたかしら」
「尊敬はする」
「なんでその男を探しているの?」
「ヘリング先生は俺の上司だ。あと悪魔も野放しになるといろいろまずいんで……」
イーディスさんの名前は多分出さない方がいいよな?ってことでそれだけ話す。
「それだけ?」
「…………」
貴族だとかも多分言わない方がいいんだよな。聞き出すのあきらめようかな。めんどくさいし。
「酒寄越せ。こんなんで足りるかよ」
今更ながら面倒な依頼を聞いてしまったものだ。イーディスさんからこの国の金はもらっているので使い尽くす勢いで飲んでやろう。
「ヘリング先生は強大な魔法使いだ。それが行方不明になった、気になる。うん、結局はそういうことだな……」
「なるほどねぇ」
「それらしい人物はいたのか?」
「ええ。いたわ。真っ黒な服を着た子で、背の高い恐ろしいくらい美形な執事を連れていた」
執事?……まあ聞こうじゃないか。悪魔の生態なんて俺には分からないのだから。
「赭色の髪に緑っぽい不思議な虹彩の目で半分しか見えないけど童顔だったわね」
それは合ってるな。
「この国にある魔法陣を調べに来たとも言っていたかしら」
そこまで一致しているなら本人な気がする。風魔法の件は、まあヘリング先生ほどの魔法使いともなれば得意魔法以外も十全に使えるのだろうってことで。
「最後に来たのはいつだ?」
「うーん2週間前くらいかしら」
結構長い期間滞在しているようだ。
ここからは移動している可能性が高そうだな。1回この辺りで帰ろうか。
「お酒強いのね」
「ああ、まあ……」
ここまで酔えないと逆に不便だと思うが。
姉貴はほどよく強くて羨ましいものだ。
「ありがとう」
連れて来てくれた男に通じないだろうがお礼を言っておく。
立ち上がると俺を見ている目線が増えていることに気づく。
「なんで俺こんなに見られてんだ?」
『かっこいいから見られてるらしいよ』
「確かに俺はかっこいいが」
だからと言ってここまで視線を集めることはそうないぞ。冷めた雰囲気のせいで近づくのに1段階壁があるとかなんとか俺に言ったのはイーディスさんだったか。
なんか不自然だなぁ。
「おい、デヴィン。さっさと隠してることを吐け」
『ちぇー。しょうがないなー。ここは同性愛者の街だよ。魔法陣ってのは同性で子どもが作るためのものなんだってさ』
……。
「おい!そういうことはさっさと言え!」
それならそれでそういうものとして観光したのに!
同時になんとなくあった嫌な雰囲気の正体も分かった。
「ヘリング先生は外部妊娠が可能な魔法陣を調べに来たわけか」
確かにそういう用途じゃなくてもいくらでも使い道がありそうだ。
多分これはそういう誘いだなと思われるものを続けて断りながら散策する。
マジで最初に引き当てたのが親切な人で良かった。
ついでに魔法陣の場所まで教えてくれた。
『モテモテだね』
「うるせぇなあ」
男な分、女より危機感薄めだからってことか?嬉しくない。
「デヴィン、鳥になって俺の頭に止まれ。できるだけ可愛いやつ」
『んー?分かったー』
返事とともにデヴィンは真っ白いふわふわの小鳥になって俺の頭に降り立った。
歩く。
よし、声をかけられなくなったぞ。
「ふっ。小鳥を頭に乗せた筋骨隆々の成人男性はさぞかし怖かろう」
『考えるねえ』
とはいえ目線は減らない。居心地が悪すぎる。さっさと帰りたい。
「何?俺モテる見た目でもしてんの?」
つってもヨナスに対してはそうでもなさそうだったが。
『傭兵の女性にはモテるじゃんラウル』
「見た目だけな」
『それと同じでは?』
「はーん」
粗暴な女には、見た目だけなら男らしくてかっこいいと評判な俺だ。中身は最低だとも言われたがな。中身が普通でさえあれば一夜の誘いとかいっぱいあったのかね。まあ今もないこともないが、ふざけた態度なので中指を立てて追っ払うのが基本だ。
「教会」
魔法陣は教会にあるらしい。つっても俺が馴染みのあるそれではないらしいが。
見たことない建築様式だが、荘厳さを感じる建物に着く。ここか。
「たのもー」
ばんっと勢いよく扉を開けると、白い衣服に身を包んだ男が俺を見て、勢いよく後ずさった。
「……危害加えたりとかしねえから」
「い、いえ。そういうことではなく。でもそうですね。なにか御用ですか?」
「人を探してんだ。身長は低め、ガリガリ、顔の下半分を隠してて、悪魔を連れている男」
「ああ、それなら知っています。クヌートですね」
名前も一致。ビンゴだな。
「2週間前に帰ると言っていましたよ。それから会っていないので僕も帰ったものだと思ってましたが……待ってください。クヌートとどういう関係ですか?そういうのに興味無いとか抜かしたのは嘘だったのかぁ!?僕の好みを知って騙してたんだ!いらん気づかいしやがって……」
「待て待て。ヘリング先生は俺の上司だ。名がある学者なんだぞ」
どうやら随分仲がいいらしい。
あまりの剣幕に意味の分からないことを言ってしまった。
「じゃ、じゃあ貴方はフリーなんですか?」
「はあ?……まあそうなるのか?」
「やったー!ありがとうクヌート!お前最高だよ!」
「は?」
「す、すみません。そうですよね行方不明なのに」
教会の中を観察する。壁にも魔法の術式が細かく書かれている。魔法陣以外にも何か魔法の仕掛けがあるのだろうか。
「クヌートの部下だけあって魔法に興味がおありです?壁まで含めて魔法陣です」
「……そりゃすごいな」
デヴィンを触ると頷いたような気がした。
「そ、そのー……腕とか触らせてもらえませんか?」
「は?嫌だよ気色悪い」
「ぐっ」
急に蹲って呻いている。
……俺の拒絶は当然の権利だよな。なんならこのまま蹴り飛ばしたっていいくらいじゃないだろうか。
俺が静かに見下ろしていると、ギラギラした目で見られた。元気そうだな。
「ここの魔法陣って全て見れるのか?」
「メインはさすがに関係者しか見れません」
「そりゃそうか……」
それでも十分見る価値はありそうだ。ヘリング先生が強引に見に来たのも分かる。
目の前にいる男も最後に見たのは2週間前だと言っていたし、ここから移動した先で何かがあったと見るのが自然だろう。
ここの治安は案外良いようだし。
「そういや俺の言語も話せるんだな」
「僕は13ヵ国語話せますからね」
「そりゃすごい。……本当にすごいな」
異教徒にも優秀な人間いるじゃねえか。教会の教えに若干の不信感を覚えつつ俺は感心した。
「関係者しか見れないということは僕の関係者になればいいということです。ってことで関係者になってくれますか?」
「一時的になりゃ良いってことか?なんかこう突然生えてきた親類とかにならねえの」
「そういうこうとじゃなく……いえできます……」
「やったね、じゃあ案内してくれよ」
俺の顔が活きる時もあったらしい。
「名前聞いていいですか?……あの、書類書く時必要なんですよ」
「ルドルフ・ヘイマー」
「了解です。あ、僕の名前はライスです」
「はあ」
ヘイマーの名前にワンクッションなくて新鮮だな。
「魔法使いなのにどうしてそんなに鍛えているんです?」
「……」
「僕は免職になるかもしれないことしてるんですよ。それくらい教えてくれたっていいじゃないですか」
「まあ迷宮探索もぼちぼちやってるからな。俺は魔法使いっつうよりどちらかと言うと迷宮の研究者だ」
「じゃあ魔物をこうズバーンと?」
「ああ」
外観がでかかったから分かっていたことではあったが中心部まですげえ遠い。
頭上で俺を見ているだろうデヴィンに動きはない。
「おいデヴィン」
『なにー?』
「ほら適当な武器になれ」
『えー?しょうがないなー』
デヴィンが祭事などに使われそうな彫刻があしらわれた剣になる。聖職者の前だからかいつもより気合い入ってんな。
「こうやって武器にしてサクッと切るんだ」
「へー」
あれ、興味なさそう?
デヴィンもこころなしかしょんぼりしている気がする。
「強いんですか?」
「まあそこそこ強いんじゃないか?一応国では名の知れた探索者らしいぞ」
「なんで他人事なんですか」
「あんまり興味ねえから」
魔法陣の中心にたどり着いた。すごい書き込みだ。人1人の人生を賭けたってここまでは書けない気がする。
デヴィンを触る。また頷いたように見える。よしこのまま記憶してもらおう。
「ヘリング先生はこれ見たのか?」
「見てるわけないでしょう」
「……」
ありがたいがちょっと不気味だな。まあいいか。




