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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
4章

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4-6 散歩ならぬ散飛

「って感じで、2階層までの通路の場所が変わってました」


 傭兵達が話している内容も聞いてみたが、内装が多少変わっていることには気づいていない様子だった。これ以上は俺じゃなくて、イーディスさん傘下の人間が長期的に調査した方がいいだろうと判断したので帰ってきた。


「……なるほど。思ったよりきな臭そうな迷宮だね」


「ですね。もう少し調査します?貸し切ってくれればマップも作れると思いますよ」


「とりあえず1回ストップだ」



 ▫



「あれ、吟遊詩人がいる」


 暇なので、イーディスさんの家周辺をかっ飛んでたら、アンばあちゃんが最近お熱の吟遊詩人を見つけた。

 ……刺されてる?華奢な女が憎悪の目線を向けながら短剣の柄に手をかけている。まああの場所なら死にはせんだろ……いや、傷口をえぐってる。このままだともっと刺しそうだな。止めるかぁ。女はデヴィンで拘束、と。黒髪の吟遊詩人には奇跡を使う。


「ふう。無事か?」


「ありがとう。……握手会に来てくれた人ですね」


 ……まあ覚えてるか。俺って目立つしな。


「とりあえずこの女は憲兵に突き出して来るわ」


「じゃあ僕もついて行きます。事情を説明できる人がいた方がいいですよね」


「そりゃそうだ。つっても傷塞いだだけだから無理すんなよ」


「はーい」


 元気そうだな……。

 相変わらず目を見張るようなイケメンぶりだが、当然顔色は悪く腹の血の跡もあって痛々しい。声色は全くそう感じさせないのは吟遊詩人のスキルなのだろうか。


「で、どういう状況だったんだ?あれは」


「僕と付き合いたいと言われたので丁重にお断りしたら刺されました」


「あー……」


 職業柄避けられない感じの負傷か。俺の出る幕でもなかったか?いやでもなあ。


「色男も大変だな」


「ほんとですよ。この間も呪術師の女に呪いをかけられましたし……今思い出しても吐きそうです」


 言葉は軽いが青白い肌からさらに血色が失われガタガタ震えているところを見るに相当酷い目に遭ったらしい。


 デヴィンを巻き付けて引きずっている女が何やら喚いているが、話は詰所で聞こう。俺だけだったら飛んで行ったんだが、まあ好きな人と一緒にいれるしちょうどいいんじゃないか、知らんけど。そういやこの辺りの詰所ってどこにあるんだろう。デヴィンは使用中だししゃーねえ、最大出力の魔法で探すか。……思ったより近かった。


「そろそろ廃業した方がいいんじゃないか?」


「は?嫌ですよ。なんでこいつらのために僕が被害を被らなきゃいけないんだ」


「へえ」


 プライドが高そうだ。やっぱりちょっとテオに似てる。少し異国の感じがあるが、顔までなんとなく似ている気がしてきた。


「いつ死んでもいいってことか?」


 俺がそう言うと、吟遊詩人の男は少し嫌そうな顔をした。


「いいわけない」


「ははっ。ま、今度から護衛でもつけることだな」


「僕の味方なのか敵なのかどっちなんだよ」


「味方味方。今日1日は暇だから付き合ってやるよ。次の日からは自分で雇えよ?」


 頷く黒髪の男を見て思う。俺も握手会に来てたんだから、ヤバいファンの可能性もあるのに簡単に頷くんじゃねえよ危機感なさすぎか?と。


 さて、詰所だ。ここまで引きずって来た女は皮膚がズタズタで見れたもんじゃないので奇跡で治しておく。


「……」


 詰所の前にいた憲兵達が俺に怯えた目を向けている。ああ、今の俺って華奢な女性を引きずってきた目つきの悪い男になるのか。確かにだいぶ怖いな。その辺全く考えてなかった。


「この女がさっき俺の隣にいる男を刺してたんで連れてきました」


「その女性の扱いは?」


「治したんだからいいだろ」


「は、はあ……」


 これは、黒髪の男も連れてきて正解だったな。下手すりゃ俺が捕まってたんじゃないか?


「……。またですか?」


 俺の隣の男を見て憲兵が呆れたように言った。

 ああ、よくあることなんだなあ。というか流れながら生きていけそうな吟遊詩人なのに場所留まってんのか。自ら死にに行ってるとしか思えない。


「あなたは?」


「通りすがりに助けただけっす。刺されてたんで。ついでに治しちゃったんですけど傷跡残ってると思うんで証明にはなりますよね?」


「相変わらず悪運が強いですねアイファさん」


 アイファが本名なのか。通称はもっと違う感じだった気がする。覚えてないけど。


「背の高いそちらの人は聖騎士か何かですか?」


「ああいや、通りすがりの大学講師です」


 嘘はついてない。これからなる予定だし。


「……」


 口をあんぐり開けている。


「見えませんか」


「いえ……すみません」


 否定するなら最後まで頑張ってくれ。


「紐とかあります?今縛ってるのは俺の私物なんで」


「ええ、ありますあります。ちょっと待っててくださいね……」


 そう言って憲兵が1人詰所に入っていった。


「常連なんだな」


「う……」


「呪いって具体的にどんな感じなんだ?見たことないから気になってしょうがない」


「この流れでか?あれは、思い出したくもないが、助けてもらったよしみだし教えてやる」


「……センキュー」


 優位を取れそうだと見るや急にめっちゃ上からになるやん。


「僕があいつを好きになる呪いだった。僕はそういうのに対抗できる手段を知っていたから抵抗した結果……」


 顔がどんどん青くなっていく。


「結果?」


「あいつの首が落ちたんだ!!それも僕に怨嗟の言葉を吐きながら!」


「……怖いなそれは」


 ホラーかな?


「対抗手段ってのは?」


「僕の一族に伝わるまじないだ。糸をこう編んだ物を腕に結ぶ。池に近づいた時に少し正気に戻れたのが良かった」


「池」


「神聖な水辺だと言われている場所だったらしい」


 なるほど。興味深い。


「あの時はしばらく詰所から出られなかった……」


 呪術はこの国ではなかなか聞かない。おそらく専門家を呼ぶのに時間がかかったのだろう。


 にしてもちょっと恨みを買いすぎじゃないか。恋愛感情を使って商売するとこういうことになるのか。怖い世界だなあ。まあ俺には関係ないからいいか。


「持ってきました」


「ん」


 紐で連れて来た女を結ぶ。俺に怯えた目線を向けてくるので少しムカついた。目を細めたらさらに怯えられる。


「もういいですよ。とりあえずこっちで処理します。次から気をつけてくださいね」


 残っていた憲兵がめんどくさそうにアイファに向かって言った。


 俺はお疲れ様ですという気持ちで憲兵達に別れを告げた。


「刺された僕が言うのもおかしいけど、ちょっと女性に容赦なさすぎないか?」


「……」


 よく言われる。

 あんまり自覚がないから直そうとは思っている。女嫌いだとか変な誤解をされたくないからな。

 別に嫌いなわけじゃない。ブシェさんみたいな女性は尊敬しているし。


「強い女性とたくさん接しているからかあんまりピンと来ねえんだよな。その辺」


「へー」


 てか俺の所業を何食わぬ顔で見てたやつが言うことじゃなくね?


「なんで僕の握手会に来てくれたんですか?」


 ニッコリ笑って上目遣いで聞いてくる。

 ちょっとゾッとしたのでやめてほしい。


「まあアンばあちゃんの付き合いだが、最終的にはそうだな。俺の弟にちょっと似てたから、かもしれない。今反抗期でな」


「へー」


 マジで興味なさそう。


「お前と同じ黒髪なんだ。身長は少しだけ高いか。お前みたいにひょろひょろでもないな」


「黒髪しか共通点ないじゃないか」


「我が弟ながら凄まじくモテる」


「それは……僕に似てるかもしれないな」


「だろ?」


 とか言って笑ってたら矢が飛んで来たので手で弾く。……多い多い!


「なにこれ」


「僕に好きな女を取られたとか言って逆恨みしてくるやつがいるんだ」


「相当恨まれてんだなお前……」


 俺の弟は思ったより上手くやっているのかもしれない。


「つってもいくらなんでも多すぎないか?」


 さすがに全身で受け止めるのも数の関係上限界になって来たのでデヴィンを大盾にして防ぎながら言う。


「さすがにこんなに多くはなかった気がする」


「だろうな!」


 矢の無駄資源の無駄!

 爆薬を投げ込みたいけど畑に被弾しそうだから無理だなこれ。と言うか射手はどこにいるんだ?ここは穏やかな農村地帯で、建物がたくさん建っているわけではない。まあ住宅街で矢を射るなんて正気じゃないけど、今の状況が正気じゃないから誤差だ誤差。


「チッ」


 舌打ちと共に上空から人が降ってくる。矢も降って来る。とりあえずデヴィンをくの字に拡張して防ぐ。2人以上いるわけじゃないらしく前方からの矢は無くなった。

 なるほど矢を射るだけじゃ俺が倒せないと分かったか。……日を改めれば俺いないのになあ。


 デヴィンを元の大盾に戻して、上空から降ってくる男を弾き飛ばす。男は大盾を足場にして俺の後方に飛び降り……させねえよ。角度をつけて思いっきり振り払う。そいつは俺の前方に降り立った。


「叩き殺す」


 久々の対人戦だ。ちょっとだけテンションが上がる。守るのが淑女の恋心を食いもんにする吟遊詩人っつうのはイマイチ盛り上がらんが、迎撃戦は楽しいからなぁ!


「殺意高すぎだろ。獣か?」


「言ってろ。ミンチにしてやる」


 どうやら口数の多い襲撃者らしい。煽ってくる。

 襲撃者が1人しかいないんなら逃げればいいんじゃね?アイファを見ると首を横に大きく振っている。は?なんで?まあいいけど。


 降ってくる矢を全て盾で振り払う。なるほど、弓に矢を大量につがえて放ってるのか。曲芸みたいだな。矢は魔道具に入っているのかもしれない。無尽蔵と思えるほど大きいとなると相当高価なものなんじゃないか。


「硬すぎる!」


「俺に矢は刺さらねえぞ。傷つけたいなら最低でも爆薬を持ってこい」


「ねえわ!んなもん!」


 くすんだ金髪で背の低い貧相なチンピラみたいな男が叫んでいる。俺が盾を投げても余裕で避けるあたりなかなか強者のようだ。盾から出した糸で俺をそっちへ引っ張る。


「お前もしかしてルドルフ・ヘイマー?」


「そうだぞ」


 よく知ってるな。


「その武器で銀髪で背が高くて強いっつったらルドルフしかいねえって」


 その特徴だけならサンも当てはまると思う。

 大剣に変えたデヴィンを横なぎに振ると、剣の上に乗られたので、刃先が上向きの細剣にして上に振り払う。ふむ、避けられたか。


 頭上から男は剣を持って振り下ろしてくるので、腕で受け止めた。


「いくらなんでも硬すぎだろ!?」


「俺って有名人なのか?」


「今?調子狂うな。ま、でもそうだな。知ってる人は知ってるんじゃない?おれが気に入ってんのは調子乗ってる鎌使いのエドルから鎌を奪い取った話!」


 どういう仕組みだか分からないが、空をひらひらと舞うのでなかなか仕留めきれない。

 気の抜ける会話で戦いへのやる気も目減りするようだ。


「なんでそんなやつ守ってんだよ」


「こんなんでも知り合いなんで……」


「そりゃしゃーねえなあ」


「そっちは?」


「おれ?おれは依頼。傭兵だし。どこぞの貴族のお嬢さんがそいつを穴ぼこでもいいから捕まえて持って来て欲しいんだってさ。そこまで愛されるたあ羨ましいやつだぜ」


 ちっとも羨ましく無さそうに眉をひそめながら言った。

 死体でも良いから自分のものにしたいなんて感情俺だって向けられたくない。


 というかなんか聞いてた話と違くないか?……さっきの話とは別口なのか?背筋が凍る。だからここから逃げれないのか……。


「貴族のお嬢様の愛人か。確かに良いんじゃないか?」


「言いわけないだろ!」


「くくっ」


 まあそれはさておき。


「俺貴族と繋がりあるから、そのお嬢様を罪に問えるぞ多分」


「脅し?」


「いや、俺にこのまま殺されたくないだろ?って話」


「すんげぇ自信」


「ミンチにしてやろうか?」


「……ま、そうだな。一旦休戦するか。依頼取り下げがなかったらもう1回襲撃しに来るわ」


「やったぜ」


「代わりにサインくんない?」


「俺のファンなの?」


「いや、ダチが。サインもらって自慢してやる。悔しがる顔が目に浮かぶようだぜ!はーっはっはっは!」


 傭兵が機嫌が良さそうに笑うところを見て俺の最低なところって多分こんな感じなんだろうなあと思った。


「調子のいいやつだな」


「死にそうな目にあったんだから多少いい目見たっていいだろ」


「言えてる」


「さすがルドルフ」


「サインはあげないけどな」


「えー」


「ん?」


 矢が飛んできたので指でつまむ。


「何その技キモッ」


「おい俺はキモくねえ、偶然できただけだ!」


 ……。


「仲間?」


「いや?」


「別口か……」


 こっちが逆恨みの方かな?


「見せてみ?どこで買った矢かくらいは分かるぞ」


「ストップ。これ毒が塗ってある」


「はー、そりゃ穏やかじゃねえな」


 全然穏やかな調子で傭兵の男がおどける。


「えいっ」


 俺がその矢が飛んで来た方向に同じ矢を投げると悲鳴が聞こえて来た。


 これにて1件落着?




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