4-4 高性能
「って感じで、現代の英雄ジエンとパーティを組んで攻略できたわけですよ」
「それはすごい。ここに招待しても良かったんだよ?」
「俺もイーディスさんがそう言うかと思って聞いてみたんですけど、このまま次の地下迷宮に行くらしいっす」
「体力あるな」
「ですよねえ。道を開く勇者とはこういうものかと勉強になりましたよ。若い頃のイーディスさんもこんな感じだったんです?」
「……。私は英雄なんて大層なもんじゃないさ。いつも必死だった」
「ふーん」
ビュッフェ形式のディナーをつまみながら話す。
色々もったいないんじゃないかと思ったが、残ったぶんは使用人たちが食べるらしい。というか使用人がビュッフェしたいからという理由でこの形式になったらしい。すごく自由でいいと思う、うん。
「私は若い頃上背があったから、武闘派だという認識が今もあるのだな。近接戦闘はしたが基本セインに任せていたよ」
「意外かもしれないです」
騎士団の団長だかもやっていた気がするから余計に。
「よく言われるよ」
イーディスさんが自嘲するように笑った。
「私は幼い時、手がつけられないくらい気性が荒くてな。理解のある両親は私に剣を教えた……いや、強い剣士に私の性格を矯正してほしいと思っていたのかもしれない」
「師匠がじーちゃんの師匠といっしょだったとか?」
「話が急に飛ぶな。そうだよ。私の剣の師匠が、1番見込みがある剣士として紹介したのが彼だった」
「なるほど」
最初は、イーディスさんがあまりに増え続ける地下迷宮に違和感を感じて、その謎を解き明かそうと1人で攻略していたんだった……はず。最初の仲間がじーちゃんだったわけだったが、そういう経緯だったのか。確かに大貴族のイーディスさんと実際の血筋はさておき当時ただの平民だったじーちゃんが一緒に冒険ってのは不自然な話だ。物語とかだとじーちゃんの剣筋を見て惚れ込んでスカウトって流れが多い気がする。変わり種だと異性として一目惚れという設定の話もパラ見したことはある。
「私はどうにも性格がな。すぐ頭に血が上るせいで師匠の言うことも素直に聞けなくて。この歳になっても治らなかった。その点セインはいつでも冷静で尊敬している」
「見えませんが」
「セインのことか?まあ確かに子どもっぽいところはあるが、咄嗟の判断力は一流だ。私の話だったら忍耐を身につけたんだよ」
俺がしたいのはイーディスさんの話だったが、両方説明してくれるとは優しい。
忍耐か……俺に1番必要なものかな?
「今日行った地下迷宮の攻略は続けた方がいいですか?」
「話を聞く限り今日昨日で変化するようなことはないと思うが、一応明日も行ってみて欲しい。2階層までね」
「分かりました」
明日も行けと。やっぱりこのために俺を呼び出しただろ。
さて、用意してくれているらしい寝室に向かうか。この家の寝室で寝たことないんだよな。ちょっと楽しみかもしれない。
ここは使用人の部屋か。よし、どれどれ、中の話し声を聞いてみようじゃないか。
「あの男見た目の割に礼儀があります、ね」
俺のことか?最近敬語が下手くそだのなんだの言われ放題だったので、褒め言葉に聞こえる。
「ははは、いや、バカにしたわけじゃなくてね。ルドルフ様の幼い頃を知っていないとそう見えるのかと思っただけだ」
「幼い頃、ですか?」
「ああ。子どもの時もヤンチャだったが、賢い子だったよ。親の葬式を1人で成立させたりね。それからだ、ご主人様がルドルフ様を気にかけるようになったのは」
「気にかけるって言うか監視じゃないですか」
「しっ」
監視?俺イーディスさんに監視されてんの?
さっさと移動するか。
ふむ。まあ俺が特段イーディスさんに気にかけられていると思ったことはない。責任ある立場を目指していた姉貴の方がよほどたくさん話しているだろうし。
姉貴の次に、って話ならそうかも?くらいの感じだ。
「うーん」
『ラウルは頭の使い方が上手いタイプだから、そこ補正できるボクを使うには微妙なスペックしてるんだよね』
「なんの話だ」
『もうちょっと処理能力上げない?ラウルなら行けるって。がんばれがんばれ』
「無理」
あれか?デヴィンなりに励ましてくれているのだろうか。
『そう言うと思って用意しておいたんだよ?処理能力向上プログラム。そのためにボクがシステム組んだんだから。ちょっと脳に負荷はかかるけどラウルなら大丈夫!』
「なんも大丈夫じゃねえよ」
これ普通に言いたいこと言ってるだけだな。
なんか最近静かだなと思ったらそんなことしてたのか。相変わらず武器に必要ないくらいハイスペックだよなこいつ。
『旧人類が使ってたプログラムより簡単だよ?』
「やらねえって」
イーディスさんも言っていたが、最近俺は貴族のパーティーに行った。
テオが行っても不自然じゃないようまずは俺が……という狙いもないわけではなかった。イーディスが変に勘ぐっていたのはそこだろうが、別に最優先ではない。
ただ単に、貴族連中の俺への評価が知りたかったのだ。俺は上背があるおかげで着込めばそこそこ見栄えがする。ファーストインプレッションは悪くなさそうだった。姫様を直接救ったってのも1部の貴族は知っていたようだしな。
もちろん護衛していた貴族のおまけでしかないので、そもそも視界にすら入ってなさそうなことの方が多かった。街中歩いてるだけでも視線を集める俺を無視するとは……なんてのは冗談だが、俺の視線を受けながら身じろぎ1つしないとは貴族ってのは胆力があるんだなと思ったものだ。
まあ悪ふざけだろうが、一緒にパーティーを抜け出さないかと声をかけてくる淑女もいた。面倒事は嫌なので断った。
それくらいパーティーに行った結果が悪くなかったので、デヴィンでも披露すればさらに人気者になれたかもしれない。貴族を失神させるわけにもいかないし封印したが。
そう言えばエミルも見たな。俺と同じく護衛だったのだろうか。多くの人に囲まれていたので頻繁に目に入る。その度に微妙な顔でもしていたのか同行させてくれたハンクに気づかれてからかわれる始末だった。ついでに、エミルはエルフの大賢者でどうやら偉い身分らしいと得意げに教えてくれた。ハンクは気さくで明るく話しやすい男だ。商売で成功しているだけある。まあ俺が最初に会った時は失敗続きで護衛料は貸しにしておいてほしいと土下座してきたのだけど。
にしても大賢者ねえ。そう呼ばれるくらいならデヴィンにも耐えられるだろうか。あまり興味はなさそうだった気もする。そもそも見せてなかったっけ。
「ここが寝室か」
シンプルだが、いい素材が使われた高そうな扉を開けると、天蓋が付いた大きなベッドが置いてあった。
すごい。派手さはないが、凝った刺繍が施されており、肌触りもこの上ないくらい良い。まるで触っていないみたい……ってのは変か。
そこに思いっきりダイブする。
シワひとつなかった布団に俺の形のシワがつく。背徳感。
「寝る前に水浴びしないとな」
『普通布団に突っ込む前に行かない?』
「それだと背徳感が足りない」
『えー……』
納得がいかなそうなデヴィンを横目に、バスルームに繋がる扉を開ける。客用に単体で用意されてると聞いていたが、広いな。基本大浴場を用いて、こちらは1人で入りたい時用程度のものだと思っていたから驚きだ。上質な大理石が使われている。大きい風呂桶には俺のために用意したのだろう、お湯が張ってあった。大人数での入浴は衛生面の問題から少々抵抗感があるが、1人なら入りたい。でも一人で入るのが勿体なさすぎる大きさ。
「デヴィンも入るか?」
『入るー』
嬉々とした声が返ってきた。
風呂に入りたがる武器。錆とかいいのかよと言いたいところだが、こいつは錆、傷、破損とは無縁だ。だから俺もデヴィンの手入れをしない。しなくてもいつもピカピカだ。
「お前温度とか分かんの?」
『視覚も触覚も自由自在なボクだよ』
「すげー……」
デヴィンの高性能ぶりを把握したところでバスルームに入る。
デヴィンも一応石鹸で洗っとくか。今は手乗りサイズの猿の気分らしいデヴィンの背中を洗い流す。機嫌が良さそうに背を丸めた。
さて、どうやって風呂桶に入れようか。
手の上に置くか……。
恐る恐る足を入れてみる。よし、行ける。
「ふむ」
久々の入浴だが、気分が悪くなることもない。良い水を使っているのだろう。
「どうだ?デヴィン」
『良い湯加減!』
「ユカゲン?良いなら良かった」
俺はあんまり温度は分からないので、デヴィンが分かって良かったかもしれない。
『見て見てー平泳ぎー』
「溺れないようにな」




