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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
4章

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4-3 ドロップ

 イーディスさんの勝ち誇った顔を思い出すと踵を返したくなるが、好奇心の方がギリ勝つ。そこまで読んでそうで大分嫌だ。


『新しい迷宮楽しみだね!』


 いつの間にかクワガタになったデヴィンが明るい声色でそう言ってくる。

 それを撫でて辺りを見回す。


「人多いな」


 新しくできた地下迷宮は入るために集まった人の群れをかき分けなければいかないようだった。


 最近できた新しい地下迷宮はこの国だけでもこれで3つ目だ。今までじーちゃんのおかげで迷宮は増えていなかったから異常事態と言える。


 それはそうと、人が殺到するだけの理由があるらしい。金をかけてきちんと整備されている入口に向かう。


「領主様の許可証だ」


 偶然守衛の人の前に来たので、許可証を見せるとスムーズに迷宮に入ることができた。渡された時はなんでこんなもんがいるんだと思ったが確かにこれは必要だわ。


 中も人がたくさんいる。こんなにいるとモンスターも倒さなくて良さそうというか、何もできなさそう。


「……」


 モンスターが現れたと思ったら人が集まって来て一瞬で倒された。その後モンスターが消えて何かが落ちた気がする。それを巡ってか殴り合いになっている。

 ……さすがにここで横取りすんのはお上品じゃないよな。


「デヴィン、何を取り合ってるか見えるか?」


『武器だね。魔剣かも。Aクラス相当はありそう』


 Aクラスって何?そんな段階評価あんの?


 魔剣って言うと、姉貴が持っている剣がそうだったな。魔力を流し込めばあらかじめ設定された効果が発動する剣のことだ。姉貴は魔力量が多いから使えるが、俺は使えない。いや、ポーション飲めばいけるかもだが一撃しか使えないだろうしコスパ悪すぎだな。やはり俺じゃなくて姉貴の剣だ、あれは。


 じーちゃんの倉庫に無造作に置かれた魔剣の山を思い出す。魔剣は取り合いになってることから分かる通り希少品で高価だ。それを忘れさせるくらい雑な扱いをしていた。


 ここは魔剣が手に入りやすい迷宮ということだろうか。

 確かに俺の手で魔剣が手に入るならぜひとも欲しい。よし、他のモンスターが出現したし参戦しに行くか。


「失礼する」


 俺の横を高速で通り過ぎる何かが来たと思ったら、狙っていたゴーレム型のモンスターが粉砕されていた。その前にはさっき一瞬目が合った背の高い女性が立っている。背だけじゃなく体格もいい。モンスターは消えたが、そこには何も残らなかった。なるほど、魔剣か何かは知らないが、アイテムが手に入るかは運ってことね。

 背の高いっつても俺より当然低い、短髪の赤毛の女性が深くため息をついた。と思ったら俺を見た。何?視線が俺の肩に来る。……デヴィンか。そりゃ肩にクワガタ乗ってたら誰でも見るよな。うん、俺でも見るわ。

 そのままこちらに向かって歩いてくる。


「あまりにも軽装すぎないか」


 俺に話しかけてきてる?


「比較的安全なダンジョンだからと言って慢心は危険だぞ」


「あー……まあ俺丈夫なんで」


 普通の金属より全然頑強まである。冷静に考えたらそれっておかしいよな。姉貴がぶっ飛んでたからそう言うもんかと思ってたけど。

 見たとこ同い年くらいか。無理して敬語は使わなくていいかな。


「切りかかって試してもいいぜ?」


「……そうか。いや、切りかかりはしないぞ」


 む。天井からぶら下がってる石像が地味に動いたな。よしデヴィン行け。クワガタを投げて石像にぶつけた。粉々になり消え失せたがアイテムは何も落ちなかった。残念。

 クワガタいいな。わざわざ変形しなくても武器として使えるし。


『いきなりビックリしたよー!?』


「悪い」


 飛んで返ってきたデヴィンに軽く謝罪する。


「そ、それは自走するのか?」


「ん?うん」


 ベリーショートの女が俺の肩に顔を近づけて聞いてくる。あれ?思ったより興味がありそうな感じだな。実力者っぽいしデヴィンの所持者チャレンジしてもらってもいいかもしれない。


「すごい。メタリックなクワガタだ……。譲ってもらうわけには……いかないよな?すまない……」


 デヴィンの魔性の魅力は今日も健在だ。


「持てたらいいぜ、ほい」


 デヴィンを飛ばす。羽を動かして、その女の肩に乗る。一瞬破顔した後、そのまま倒れた。


 ……ダメだったらしい。



 ▫



「おーい生きてるかー」


 なんてジョークだが、迷宮の中にある休憩所で俺は赤毛の女を寝かせて話しかけてみた。迷宮に休憩所があること自体はない話でもないが、ちょっと盗聴した感じ、人が整備したわけではなく最初からあったんだと言うから驚きだ。

 デヴィンはそれを心配そうに眺めながら俺の肩に乗っている。目がどこについてんのかは知らない。


「は!」


 早い。起き上がるまでにかかった時間は今までで最速記録かもしれない。


「お前はデヴィンの所持者としてふさわしくなかったらしい」


 俺が口角を上げてそう言うと、女は眉をしかめた。ふむ、怒ってこないか。


「ま、俺も慣れただけで正式な所持者じゃないんだ。何回もやれば俺よりよほど上手く扱えるかもしれない」


 こんだけ体力があるなら慣れるまで何回も試せそうだ。


『ゴリ押しはあんまり好きじゃないよー』


「俺は?」


『ゴリ押しだね!』


 うん。


「俺が持つより女性に持ってもらった方が良くないか?お前のことも好きそうだし」


『えー?ボクのことを好きってのは確かにいいなー。お手入れしてくれそうだし』


「その意気だ」


 普段なら、お手入れなんていらないだろ、なんのための変形機能だ?くらい言っているが、今回はお口チャックだ。


『でもダメだよ!さすがにそれは危険だよ。ラウルじゃないんだから』


 俺だったらいいんかい。


「しゃ、しゃべるのか?」


「ああ、ついでに変形機能付きだ」


 俺がそう言うと、目を輝かせる。

 デヴィンに超ふさわしそうな人引いたんじゃないか、これ。


「この魔道具はどこで手に入れたんだ」


「ん?」


 魔道具ではないが……。


「お前ってどこの地下迷宮にあったんだ?」


『んー、分かんない』


「悪い。俺も何分もらいもんでな」


「いや、いい。うん。そうだな。私は自分で彼みたいな武器を探すことにするぞ。デヴィン?はお前といい関係を築けているようだ、それを引き離す真似はしない」


 そうやって話す横顔は凛々しい。劇で見るイーディスさん役の女優のようだ。昔のイーディスさんはこんな感じだったのかもしれないな、と思った。俺は彼女の評価を上げた。


「うーん。使った感触からして高度科学文明の頃の武器のようだから、そんな感じの遺産が出るところがいいかもな?」


 尊敬できる人間だと認識したのでちょっとしたサービスだ。

 俺がまじまじと見ていたのか、赤毛の女は少し居心地が悪そうに目を逸らした。


「名前を聞いていいか?」


「ジエンだ」


「……てーと、天使の試練を最前線で攻略してる女?」


「そうだぞ」


 ジエンは赤毛の男女だったと言っている傭兵がいたっけ。赤毛で、見た目も言われてみれば男に見えるかもしれない。背も男だったとしても高いくらいだしな。人間態のサンと良い勝負か。


「それは……会えて光栄だな。俺の名前はルドルフだ」


「!12層までの地図を提供していたルドルフ?」


「うん。てかもう見てるんだな」


 地図を傭兵ギルドに渡してそう経っていないはずだ。


「私は特例でな」


 そりゃそうか。

 攻略最前線の彼女に、優先的に地図を渡すのは合理的だ。


「あんな範囲の広い正確な地図、どうやって作ったのか気になっていたんだ」


「俺はああいうのが得意なもんで」


「それはさっき見ていただけで分かったぞ。私よりも早くモンスターの出現に気づいていただろう」


「そうかもな」


 見る目も一流らしい。

 今の時代にも英雄になれそうな人間はいるもんだなと感心する。


「提案だ、このダンジョンで私とパーティを組んでくれないか?」


 ……初めて言われたな、そんなこと。


「いいぜ。アイテムは山分けな」


「いいだろう」


 さっきまで伸びてたくせに、そうと感じさせないようにジエンは片方の口角を上げて笑った。



 ▫



「今んとこ落ちたのはこの槍の穂先だけか」


 デヴィン曰く、魔槍の類ではあるが穂先だけだし性能はあんまりだとか。俺的には記念品になって目的達成とも言えそうだが、山分けする約束なのでもう1個くらいほしい。これは本気でアイテムを狙うなら運が良いやつもパーティに入れなきゃ厳しいんじゃないか?


 弱い者でも良い武器が手に入る可能性があるってのがこの地下迷宮が人気な理由ということなんだろう。つまりジエンはこの迷宮に潜るのはさっさとやめて他の高難易度の迷宮に行くべきだってことだな。


「さっきから思っていたんだが、どうやってモンスターを見つけてるんだ?」


「魔法だよ魔法。俺、こう見えても魔法使いなんだぜ?」


「そうか、魔法か。じゃあ私には真似できないな……」


 俺から方法を聞いて真似しようとしていたのか。意外と抜け目ないな。


「お、あそこにモンスター」


 俺が指を指すとジエンが走ってモンスターを倒す。

 宝石か。小さいから使いどころはあまりなさそうだ。


「分けるのがめんどくさそうなもん落ちやがって……ん?」


 この地下迷宮、平面にだだっ広いのだとばかり思っていたが、下層もある感じか?

 階段があるようだ。


「下層に降りるか?」


「……下があるのか?」


「え?」


 俺の地図も真っ先に見ていた、つまり俺と違って下準備をしっかりしているであろうジエンが知ら、ない?


 走って、その場所を見る。床だ。俺は片足でその床を破壊した。階段がある。


「……?」


 やっぱあるよな。


「…………。あるな」


「ああ」


「…………行く」


「うん」


 さすが攻略最前線にいるだけある。

 探せば地図もあるかもしれないのにここで進むことを選択するなんて。

 ここで足引っ掛けたらどうなるかなとか考えて首を振った。そういうのはもう少し関係性を築けてからだ。冗談を言い合える友人くらいに。まあ難しいだろうけど。


「髪はなんで短くしているんだ?」


 聞いた後、不躾な質問だった気がするなと後悔したが、今更だしそのまま返事を待ってみることにした。


「意味はないぞ。あえて言うなら便利だから?」


「へえ」


 良い答えだ。

 地下迷宮の攻略者は皆こうあるべきなのだ。だから俺は向いていない。


「2階層目はあまり大きくないかもしれないな」


 大きいゴーレムらしきものに当たった。


「モンスターがこの先にいる」


「了解」


 そのまま突っ込んで行って、ボスらしきゴーレムが粉砕された音が聞こえる。

 急いでそこまで行く。案の定モンスターは消えている。高価そうな腕輪が落ちているだけだ。


『SSランクはあると見たね』


 SSランクって何?


 何はともあれその腕輪をジエンに譲り、俺は宝石と槍の穂先を受け取るということでまとまった。


 よし、イーディスさんに報告だ。





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