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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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幕間

 黒っぽい銀髪を短く切り込んだ背の高い男がこちらに向かって歩いてくる。


 私が言えたことでもないが、目立つ男だ。明らかに一般人ではない出て立ちに、通行人は恐れるような目を向けている。


「エミルさん!」


 鋭く細められている赤色の目がこちらを向いたと思えばパッと笑顔になった。

 見た目に似つかわしくない、敬称付きの呼び方に少しおかしくなって口角を上げる。


「ええ、ルドルフさん。お久しぶりです」


 あれから酒場に行ったらしく、私宛の手紙が残っていたのだ。そこに書かれていた場所で集合した。

 お洒落な喫茶店だ。


「エルフの女王に会いたいという話でしたか」


「ああ、まあ。端的に言うとそうだな……」


「遠慮はいりませんよ。私とあなたの仲じゃないですか」


 そう言うと、ルドルフさんは一瞬嬉しそうな顔をした後隠すようにニヤリと口角を上げた。


「そりゃ良かった。俺の出自を明らかにしたいと思ってな。身内でやれよって思うだろ?竜の女王に掛け合ったんだが、そういうのはつまらんと拒否されてしまった」


 堂々と人間のフリをしている太祖竜の男は、なんでも無さそうにそんなことを言った。

 竜の女王。伝説上の存在だ。天の使いに届きかけた不遜で傲慢な竜の始祖。まだ生きているというのも驚きだが、それを身内と言うのも驚きだ。


「いいですよ」


「本当か!?」


「ええ、手紙を出しましょう。……まあ、返事が来るのは100年後とかかもしれませんが」


「それは……困るな。せめて10年くらいにまからんか?」


「なるべく急ぐよう伝えておきます」


 誰か出自を伝えたい相手でもいるのかもしれない。


 しかし、改めて顔を見て思うが、わざわざ人に化けるならもっと目立たない見た目にすればいいのに。

 一見すると相手を見下してる印象すら与える顔が怪訝そうな表情になる。

 実際見下してはいるのだろうけど。それくらい竜とその他人類の強さは隔絶している。


「竜から人化するくらいですからこのまま子どもの姿になれたりとかもするんですか?」


「変身魔法ってめんどくさいんだぞ。細胞を1個1個人間に変えていく辛さがお前に分かるか?」


 嫌そうな顔をしている。本当に大変らしい。


「まあでも、体格変えねえならなんとかできるかもな。光が当たる加減を変えればいいわけだから……」


 と言いながら、目を黒くしたり白くしたりしている。私は目を丸くした。

 金色になったと思ったら、スプーンに映る自分の目を見て満足したらしい。じっくり眺めた後そこで止めた。


「エミルさんもやるか?」


「や、やりません」


「そうか?」


「はい」


 私の目の色も変えれるのか。ちょっと興味はあるが、目は生命線だ。簡単には頷けない。ただでさえ竜は丈夫な生き物なんだ。彼が無事だからと言って貧弱な私も無事な保証はない。


「目自体に操作はしてねえんだけどな」


 パンと手を叩くともとの赤い色の目に戻った。

 食後にと、店員が持ってきた紅茶を飲んでいる。

 さっきプリンを食べてる時も思ったが、似合わない。

 さっきも紅茶とコーヒーを取り違えて渡されて、2人で無言で交換した。


「正直助かる。入りたかったんだが俺1人だと入りにくいし。女友達でもいりゃ良かったんだが」


 私が考えていることがスナック菓子感覚で読み取られている気がする。


「男2人も入りにくくないですか?」


「くくっ、そうだな」


 店員の方を見ながらニヤニヤ笑っている。

 私の外見を利用したと隠そうともしないところは好感が持てる、かもしれない。


「俺になんかやって欲しいことあるか?助けてもらうばかりってのもな」


「あ、じゃあ竜の女王を紹介してもらえませんか」


「そんなことでいいのか。今日は近くにいるし出たら行くか」


「え」



 ▫



「これがそうだ」


「これとはなんだ、これとは」


 腰ほどまでもある長い銀髪をひとまとめにした、背の高い女性が私の目の前に立っている。

 ルドルフさんによく似ている。

 人間味のない冷めた金色の目を細めて私を眺めている。


「デミエレメンツか。久しぶりに見たぞ」


「なんですかその呼称」


 ゾワゾワする呼称だ。


 改めて見る。私よりも背が高く、厚みもずっとありそうだ。当然だが、1回殴りを入れられただけで私はひとたまりもないだろう。


「昨日は人間の気分だったからルドルフに付きあってもらって地下迷宮の攻略行っていてな」


「この前リスの気分だとか言って生態系破壊してたらしいからな……。変身すんならそれに合わせた生活をしろと言っても聞かねえし」


「真面目だなあ」


「んなこと初めて言われたわ」


 不服そうなルドルフさんと、それを見て朗らかに笑う竜の女王は確かに身内のように見える。なんなら親子のような……。実際の年齢は知らないが、せいぜい520歳くらいにしか見えない若々しさだ。それで子持ち。


「どうした?」


「い、いえ。見蕩れていただけです」


「おお、そりゃありがとう。デミエレメンツとは思えないくらいいい子だね」


 確かに私はエルフの国でも変わり者扱いだったが。慈愛のこもった眼差しに母性を感じる。


 私は密かにガッツポーズをした。ルドルフさんと仲良くなっておいて良かった……!


「名前を聞いてもいいですか?」


「んー。最近はセスティーナって呼ばれることが多いかもな」


「セスティーナさん!現在ご結婚は!?好きなものとかあります!!?」


「お前……思ったより面白いやつだな」


 ルドルフさんには聞いてない。いや別に知ってるなら全然教えてくれてもいいけど。


「結婚?してないぞ。好きなもの?肉はいつ食っても美味いよな」


 クールな顔をしているから笑うと余計にギャップがあって魅力的だ。可愛い。


「猟奇的な笑みじゃね?」


「フンッ!」


「痛え!」


 鋭い肘鉄。健康的で素敵だ。



 ▫



「まあ……満足してもらえたみたいで良かった」


「ええ。聞いてもらえますか?私がどうして年上の女性が好きなのか……」


「いや聞いてねえ」


「くふふ」


 うわ騙されたとでも言いたげな友の顔を見て笑う。

 心の友だ!この人について行けばあの人とまた会える!


「……ちなみになんでだ?」


 恐る恐る聞いてくる。


「理由とかないですよ。若々しい母親って男の夢の1つじゃないですか?」


「う、うーん。そうか。そうかな……そうかも?」


 もう一押しで行けそう。

『あの女の子の恋愛成熟は厳しそうだな、母親が理想ってんならワンチャンある?いやそれって失恋挟んでね?』とかなんとか小声で呟いている。エルフは、と言うより私は耳がいいので全部聞こえる。

 あの女の子。ふむ、マリーナのことだろうか。私に好意を向けていたはずだ。幼い子供は分かりやすいものだ。……人間の正確な年齢は分からないけれど。


「そもそも男ってのは母親を求めるものです」


「え?ま、まあそうかもな」


「そして異性に若さを求めるのもまた自然の摂理」


「……」


 何か言いたげだ。あの女は若いのか?と言いたいのかもしれない。私が若いと言えば若い。だって私の話なのだし。


「だから私の嗜好も一般的!いいですね!?」


「暫定な」


「そんなこと言うならルドルフさんも教えてくださいよ!女性の好みってやつを!」


「酒はその辺にしとけよ」


 屋台で買った安酒で、そこまで酔うはずがないじゃないか!だって私はエルフだぞ。

 酒を押し付けるとルドルフさんは嫌そうな顔で押し返してきた。


「酒は好きじゃねえ。安酒なんて特に酔えないし不味いし」


「そんなことより!言ってみろよ、お前の魂の叫びを!」


「……足の裏が好き」


「え?」


「足の裏が好きだって言ってんだよ!!」


 キレ気味に答えてくれた。


「スレンダーな方が余計な肉がついてなくて足の裏がエロいから好きだ。そもそも足の裏ってのは普通見れないものであると言うシチュエーションと足から上にかけてローアングルで見ることになるという構図セットで魅力的なものだから、手に届かないような品格があって、脚全てが目に入るよう邪魔にならないスレンダー美女の方が……何言ってんだ俺は?」


「ちょっと気持ち悪いですね」


「言わせておいてお前なあ……!」


 私よりよほど特殊じゃないか。

 それとも竜の間では一般的だったりするのだろうか。


「東洋の方では結構メジャーらしいぞ。本で読んだ。というかそれで知った」


 そんなことはなかった。


「そういうところで見識の広さ見せなくていいですから」


「……」


 目を見開いてそのまま黙り込んでしまった。

 見た目にそぐわず知識がある。居酒屋の集いにも難なくついていけたようだし、竜というのは思ったよりずっと頭がいいのかもしれない。


「酒飲みましょうよ、ほら」


 私が差し出した酒をふんだくって飲み干す。


「まっず!……これ度数高くね?うわっ原液って書いてある!おい、吐き出せ。人が飲むもんじゃねえ」


 なにか慌てたように話している。なんの話だ?

 あれ、こんなに世界って揺れてたっけ……。


「おい!」


 視界が暗転する。



 ▫



「すみません……」


 頭が痛い。どうやら休憩所の椅子に座らせてくれたらしい。


「いや、あれは売った方が悪い。間違えて原液出しちゃいましたとか抜かしてたし。器ごと売ってた時点で確信犯だろ」


 高くつくだろうによくやるぜ、と言いながら水を渡してくる。


「とりあえず全額返金させた」


「別にいいですよ。私が舞い上がって不注意だっただけです」


「じゃあこの金は俺がもらっていくが……」


「もらいます」


「ああ」


 ニヤニヤしている。

 相手を見下してないとできない行動に少々苛立ちを覚える。今回は私が全面的に悪いので、何も言えないが……。


「1人で歩けそうか?無理そうだったら領主を呼ぼう」


 なんで領主様の連絡先を知ってるんだ。


「いえ、大丈夫です。1人で歩けますから」


「そうか。気をつけてな」


 顔を見るが、本当に私を心配しているようだ。拍子抜けした。何を考えているかさっぱり分からないが悪い人ではないのかもしれない。


「ええ、また今度」


 私がそう言うとルドルフさんの口角が上がる。


「ああ、またな!」

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