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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
1章

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1-4 危機感の欠如

 3階層はゾンビがたくさんいるようだ。リビングデッド。動く死体。ううむおぞましい。強さ自体は大したことないし、速くもない。1番嫌なのは匂いと言う人もいるだろうが、俺は見た目の方が嫌だ。死体と言うだけでもかなり嫌悪感があるが、腐敗死体なんてもっと嫌だ。人の死体なら尚更だ。


 どうやらこの地下迷宮は嫌がらせに長けているらしい。

 ゾンビと言っても色々あるが、多分ここにあるのは、元々埋葬されていた死体だろう。土の中で腐敗している時のような特徴がある。


 地下迷宮においては、いわゆるモンスターが現れることがある。明確な基準があるわけではない。さっきのガーゴイルもその区分けに入れる人もいるし、倉庫で襲ってきた武器もモンスターだと言う人はいるだろう。

 しかし基本は、地下迷宮におけるモンスターとは地下迷宮に入った人類を攻撃する生き物である、とされている。つまりゾンビは……ゾンビって生きてるのか?


 地下迷宮に現れるモンスターは大別して3種類ある。この壁にかかったロウソクのように地下迷宮の一部であるもの。

 それから元々この地にいた生物が迷宮化の影響によりモンスター化したもの。これはジルちゃんの武器になったレイチェルとかがそうなるのかな?モンスターだったと言うならだが。

 最後に、迷宮にいるモンスターが使役しているモンスター、だ。多分ここのゾンビはこれだろう。魔法が使える何かがいるのは確定か?


 きちんと埋葬された死体を掘り起こして人を襲う化け物にして操る……最悪だと思う。


『ラウル不機嫌だね』


「当たり前だろ」


『そりゃそうか。靴汚れるもんね』


「そういう話か?」


 やっぱ武器は武器だなと思いながら短剣になっているデヴィンを小突く。デヴィンは武器だが靴に対して思いやりでもあるのだろうか。


「いよいよ城みたいになってきたな」


『だねー』


「アルマ、この地下迷宮はどういうものなんだ?」


「ん?そういやお前は迷宮研究をしているんだったね。金にならないものをよくもまあ」


「そういうのいいから」


「魔法使いが人為的に作ったダンジョンだって言われてるねぇ。発生時期は200年前。機械仕掛けの侵略者が作ったダンジョンじゃないから人を呼ぶ仕掛けもない。つまり宝物もないってわけさ」


 前言撤回。盗賊も入りたがらない地下迷宮だ。閑散としている理由がよく分かったぞ。


「魔導書が出てくるって話は?」


「魔法使いが作ったんだからダンジョンを作るそれ相応の理由があるって考えるのが自然だろう?それが魔導書って考える人が多いって話だよ」


「はあ」


 つまり確定で手に入るわけじゃないと。

 この地下迷宮を攻略しても解放されない可能性が高いってことじゃねぇか。


「……よく考えたらこういう時こそアルマの出番なんじゃないか?燃やそうぜ」


「はあ。ま、この辺が潮時か」


 アルマが背伸びしながら俺の頭を撫でてくる。しゃがんだ方が良かったか?

 そのままアルマはホウキを構えた。優秀な魔法使いは杖を選ばないのだ。


「『燃やせ』」


 そして火が辺りを包みこみ、アルマの目の前は床しか存在しなくなった。塵すら残らない。


「このままダッシュで行こう。せっかくだしな」


 そう言った瞬間アルマがものすごいスピードで飛んで行った。うん。やっぱアルマ1人で攻略できそうだな。俺は疲れた顔をしながら走った。

 アルマが止まったので、確認すると階段がある。迷宮とは言うがここの迷宮は道が入り組んでいるわけでもなく、大きい部屋が1個あるというだけなので、階段はかなり見つけやすい。……つくづく俺向きじゃないな。


 階段を降りた先には、さらに豪奢な部屋が広がっていた。床には大きい魔法陣が書いてある。おお、これが召喚魔法陣の実物か。じっくり調べたいところだがそうもいかない。なぜならここは地下迷宮だからだ。なんてね。


「4階層でボス級は珍しいかもな」


 おそらく強いモンスターが出現するのだろうが。


「ここは何も出て来ないよ」


「ええ……」


『んー。あ、分かった』


「何が?」


『ちょっと見ててよ』


 デヴィンが鳥になってそのまま飛んで行く。今気づいたが天井に〇がある。そのど真ん中に逆さでとまった。


 ……なんか魔法陣光り始めたんだが?


「デヴィンの馬鹿、バカバカバカ、バーカ!!」


『なんだよーそんな馬鹿って言わなくてもいいじゃん』


 デヴィンがしょんぼりしているがお前は馬鹿だ。ここで仕掛けを起こさなければ何事もなく次の階層に行けたのに。


「……その武器は燃やした方がいいんじゃない」


「デヴィン、アルマに今すぐ謝れ!」


『ご、ごめんなさい!』


「そもそもそれはなんだい?所持者を昏倒させる武器なんて聞いたことないよ」


 デヴィンを持った人は俺以外例外なく倒れる。しばらくすれば目を覚まして回復すれば元通りになるが、デヴィンを見ると怯えるような目線を向けてくるんだよな……。なんで?


 アルマを見るといつも通りだったので、燃やすのは冗談だったのだろう。


『ボクは高性能武器だからね。この時代の人間だと処理能力が足りないんだよ』


「ってことらしいな。ちなみに俺は処理能力が高いとかじゃないからそもそも使えてないらしいよ」


『ラウルは特殊なスキルを持ってるからね』


「へえ」


 アルマがいつも通りなので忘れていたが、そういえば魔法陣から何かが召喚されるところだった。結構時間がかかっている。何が召喚されるんだ。


 ……鳥?見たことのないモンスターだ。


「デヴィン、とりあえず弓で」


『りょーかい』


 この通り、俺が変形させてると言うよりデヴィンに頼んで変形してもらっているという感じだ。最初から使おうとしなければいいだけなんだよなと俺は思うのだが、他の人はそうもいかないらしい。


 矢を放つ。


 刺さってるし効いてる。遠くから弓でちまちま削ろうかな。


「便利だねぇ」


「そんなこと言ってないで助けてくれないか!?」


 当然鳥も攻撃してくる人間をそのままにしてくれるわけもなく、俺は追いかけられている。走りながら俺は叫ぶ。撒けるような遮蔽物もないし必死だ。


「お前の武器の不始末だろう?」


「そうだけど!」


 しょうがない。あれをやるか。


「デヴィン!」


『高火力砲だね!』


 高火力砲とは、現時点で存在する量産型武器の最高峰であるえーと名前は忘れたけどその大型銃を3つ合体させたロマン武器である。つくづくデヴィンの物理法則がどうなっているのか知りたい。


「装填!」


『いいねいいね!!』


 デヴィンのテンションは爆上がりだ。

 そもそもデヴィンは現実に存在しない武器を存在させるためのものらしいので、本来の使い方に近い使われ方をされて嬉しいのだろう。その代わり俺の負担もまあまあ大きいけどな!


 照準を定めて。


「よし」


 そのまま光の束がデカイ鳥を貫いた。

 良かった。倒せたらしい。そして俺は脳疲労のせいで倒れ……はしないけどアルマがいるから安心して寝た。



 ▫



「はっ!ここは!?」


「……気絶じゃなくて寝ていたようだけど?」


 アルマのホウキにぶらさげられていたようだ。もっと丁重に扱ってくれてもいいんだぞ?


 場所はさっきと変わりないようだった。意味をなくした魔法陣だけが見える。


「見ろ」


「ん?」


 アルマが真っ黒なローブから何やら取り出す。もう本人も魔女って呼ばれるの楽しんでるだろ。


「この石の価値がお前なら分かるだろう?」


「……大きいな」


 大きい宝石だった。魔法の触媒にすれば山を欠けさせることすらできそうだ。もちろんアルマが使ったらの話だ。


「さっきの鳥が落ちたものさ」


「そりゃすごい。見直したぞデヴィン」


『ふふーん』


 いや待て。この宝石程の触媒であれば、そもそも魔法を引っ張り出してきている異次元世界に一瞬くらいなら行けそうじゃないか?もちろんこれもアルマが使ったらの話だが。


「これアルマにプレゼントしたらノルマ達成ってことにならないか?」


「ならないよ」


 ええー。


「そもそも私にそんなものは必要ない」


 不満そうな感情が顔にでも出ていたのかアルマが続けてそう言った。


「倉庫にでも入れときな」


「もったいな」


 投げてパスされた。扱いがぞんざいすぎる。あとこれ俺が持てってことか。了解です。


 そのままホウキから落とされたので、急いで体勢を整えて着地した。


 石は……うーん。とりあえず指の上で回すか。


「相変わらず無駄に器用だねぇ」


「うるさいな」


 この階層は他に何も出て来ないのだろうか。アルマは他に何も出ないという話をしていたわけだが。


 というかこんなお宝を落とすモンスターが出る階層なんだからここが本命なのでは。もうちょっと探索したいという欲求が湧きあがる。いやでも今回の目的はアルマの魔導書だし……魔導書があるとすればそこはおそらく迷宮の製作者がいる場所で、製作者がいるのは基本最下層だろう。こんな誰も守ってくれなさそうなところにはいない、と思う。いる可能性の方が低い。


 アルマの手を煩わせるわけにもいかないので、俺は振動魔法を糸のように引き伸ばし、辺りを探ることにした。


「隠し通路がありそうだぞアルマ」


「……お前は本当にそういうのを見つけるのが上手いね」


「知ってる」


 一応俺の言うことを聞いてくれるようなので、先導する。


 この辺りだ。壁を叩き壊して正常に仕掛けが発動するとも限らない。近くの壁画に触るとどうやら移動できるようだった。横にずらす。魔術用語らしき文字が見える。なんかちょっと違う気もするけどギリギリ読めなくもないか。えーと、象形を存在するべき場所へ?……分かんね。


「アルマー」


「ふむどれどれ。これは」


「どうした?」


「癖がすごいね」


「癖……?」


「ルールもめちゃくちゃ字もめちゃくちゃ。こりゃ独学だね」


「へー」


 ちょっと違うなと思ったのはその辺の違いか。やっぱかじった程度だと分からないことも多いな。


「おそらく文章を完成させればいいのだろうけど、作った人間の書き方に依存しているから……」


「つまり?」


「壊せ」


「了解」


 結局そうなるんかい。という言葉は飲み込みつつ、俺ってよく迷宮の壁を破壊してるな、と遠い目になった。


『ハンマーでいい?』


「ああ」


 ハンマーになったデヴィンを力任せに振るう。……破壊できない、だと。

 というか中に何があるか気になるし先にそっち優先するか。


 ハンマーで叩くことで、壁の中で音が反響する。その波形を使い中を探るために、俺は異次元世界に呼びかける。

 魔法は取引だ。俺はそこに何があるのかという緊張を渡す。そして俺は『波形を観測する』という行動を魔法で代用した。


「どうやら下につながる穴があるみたいだ。壁に穴を開けたらそのまま落下してたわけか……」


「そうかい」


「そうかいじゃねぇんだよなぁ」


 俺にある程度の慎重さは、……まあ無かった気もするが、調べてなければ相当危険だったわけで。


「この階層で鳥呼び出して下に降りればショートカットできたってことか?いやもしかしてそれが正規ルートなのか。じゃあそもそもこの迷宮は迷宮じゃなくて何かを隠すための」


「ボソボソ何を言っているんだ」


「あ、ああそうだな。うん。なんでもない」


 使えないショートカットに意味などない。考えても仕方のないことだ。


「アルマ。俺が今からこの壁を破壊してみせるから、俺を連れて指示を出すまで下まで飛んでくれ」


「……はあ。いいだろう」


「センキューアルマ。愛してるぜ」


 緊張の感情を消費しすぎてなんだかハッピーな気分だ。それを無駄にしないために、俺はハンマーの振動を目の前の壁に適したように調節する。壁がパラパラと呆気なく崩れ落ちる。


「頼むぜアルマ」


 そのまま落ちていく俺を呆れたような顔をしながらアルマがそのままキャッチした。






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