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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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過去3

 俺は途方に暮れていた。


 森の中で仲間たちとはぐれてしまったからだ。

 多分親切なおじさんに教えてもらった正しい道を進んでいるとは思うんだが、この場合、道に迷ったのはどちらになるのか。俺以外の全員が道迷ったのか。俺だけが道に迷ったか。4:1。アルマも向こうにいる。うん。これは俺が道に迷ったな。


 川が流れている。遭難した時は水辺の近くにいるといいんじゃなかったか。とりあえずここで1回休憩しよう。最悪アルマが俺を回収してくれることだろう。


 俺が川辺で涼んでいると、馬の駆ける音が聞こえる。注視すると、亜麻色の長い髪の乙女が乗っているのが見えた。すごく華奢な女の子だ。丸く大きい薄紅色の目はその純粋さと快活さを示すように煌めいている。


「私を連れて逃げて!」


 え、俺?


「あなたよ!」


 いや、そんなに馬を扱うのが上手いなら、俺連れなくても良くない?

 そんな考えはもちろん気にされるわけもなく、俺は強制的に馬に乗せられた。……俺、軽い方とはいえ、片手で持ち上げられるのはショックなんだけど。


「どういうこと?」


「私はパウラ!今兄に追われてるの!」


「……俺はセイン」


「ああ、あなたがあの。良いから私を逃がしなさい」


 高圧的な物言いに胸がときめく。俺は生来騎士というものに憧れがあった。田舎生まれの俺には縁遠いものだとは分かっていたが、長い髪で愛らしい姫君を守り戦うことこそ騎士の本懐。彼女みたいな可愛らしい女の子にかしずき従うのは俺のささやかな夢の1つだった。


 とはいえ。


「えーと、具体的にはどうすれば?」


 俺がやることないよな?


「兄が近づいてきたら叩き切ればいいのよ」


「……」


 物騒。



 ▫



 結局その兄とやらに見つかることはなく、目的地の家にたどり着いた。


「汚いけどいたし方ないかしら」


「ええー?」


 普通に住めそうなのに。ってことは彼女が普段住んでる家ではないのか。別荘だろうか。確かに凝った髪の結わえ方は、そう細工する使用人がいるお嬢様であるという証左なのかもしれない。

 俺はどこまで行っても雑な人間なので服の善し悪しは分からないが、足元まで届くロングスカートには綺麗な布が使われていることが分かる。


 俺はとんでもないことをしたんじゃないかと少し不安になって、切るのが面倒で伸びてしまった長い髪を片手でいじる。


「セインと言ったわね。あなたはどういう家の息子なの。銀髪で金色の目なんて初めて見たわ」


「分からない。俺が気づいた時にはもう父はいなかったし……」


「ふーん。つまり平民ってことかしら。じゃあ私がこき使ってもいいわね」


 俺の目を覗き込むように薄紅色の目が近づけられる。鼻と口は配置が良く印象に残らないので、その輝くような目が強烈な印象を残す。俺はその目が持つ魔力に逆らえない。


「いやそういうわけにも。俺今仲間とはぐれてて」


 そうは思うが、今足止めをされるわけにはいかなかった。俺は絶賛迷子中なのだ。


「そう。ここまでついてきてくれて助かったわ」


 小首を傾げて言ってくる。声まで可愛いから少々無遠慮な物言いでも全然許せてしまう。


「名前を聞いてもいいか?」


「レディに名前を聞く時はまず名乗るものよ」


「む。確かに」


「気にしていないわ。ほら、早く言いなさい」


「セイン・ミハロフ。君は?」


「私はパウラ・ヘイマー。剣の名家ヘイマーの長女」


「へーなんかかっこいい」


「ふふ、そうでしょう。そうね。あなたが困っているなら私が助けになるわ。私、人探しは得意なの」


「ほ、本当か!?」


「ええ」



 ▫



 そして連れて行ってもらった先にはアルマ達がいた。俺はパスラにお礼を言って別れた。名前が分かったんだ、きっとまた会える。


「セイン。なんで急にいなくなったの?」


 アルマはいつも通りの無表情だが、少し怒っているような気がした。


「はぐれただけです……」


「……馬鹿なんじゃない?」


 幼く感じさせる美貌が蔑むように変化した。

 言い返せないな……。


 アルマは黙っていれば国外まで名が知れた社交界の華になれそうなほど美しく可愛い。悪い意味でもいい意味でも男らしい中身とのギャップが凄まじく、よく驚かれているのを見る。

 本人は、顔とそれっぽい話し方ができるだけで商売に成功した父の血を受け継いでるんだから当然だよ、と無表情のまま言っていた。


「さっきの女の子は誰!?」


 アンが俺の肩を掴んでガシガシ揺らしてくる。

 見ない間に随分力が強くなったな、アン……。

 俺が見ない間に努力してきたんだなと改めて実感する。


 昔から可愛かったが、垢抜けてさらに可愛くなった。女の子らしいよく変わる表情も相まってすごくモテるんだよなアンは。

 日に焼いて脱色した金髪に見えなくもない茶髪を、寝る時はカールを巻いてフワフワにしてるんだとアルマに言ってるのを前聞いた。彼女はオシャレも努力家だ。アルマは鬱陶しそうにしていたが、それはそれ。


 まだ俺を揺らしている。なんで怒ってるんだろうな?


「なんかどこかで見覚えがある気がする。あまり触れてはいけないような……」


 イーディスが難しい顔をして唸っている。

 彼女は俺より年下のはずだが、そう見えないくらい大人っぽい。俺より背が高いってのもそうだが、雰囲気がやはり普通じゃない。大貴族の娘だからだろうか。鮮やかな水色の髪を長く伸ばして後ろでひとまとめにしている。まっすぐで美しい長い髪だが、お嬢様と言うより騎士っぽい。物語に出てくる姫騎士と言うやつか。俺と足の長さが違いすぎて若干コンプレックスが刺激される以外は良いやつだ。


「……分かった!ヘイマーの娘だ」


 生命力を感じさせる声をジルケがあげた。

 色白で、陽の光に弱いらしく常に頭には布を被っている。今日は山の中だから特に辛かろうに、そうと感じさせないほど元気だ。

 聖職者らしく切りそろえられた金髪が揺れる。

 見ていたのに気づかれたのか、誠実そうな印象の顔をこちらに向ける。


「パウラ・ヘイマーと言うらしい。道に迷っていたところを助けてもらったんだ」


「ヘイマーか。うーん。助けてもらったんならいいのか……?」


「何かあるのか?」


「それに関してはジルケの方が詳しいはずだ」


「ん。ヘイマーは剣で有名な家系。この国は医術が優れているが、その知識を用い強い戦士を作ろうと試み4つの家を作った。その1つ」


「へー……」


 彼女は武器を持っている様子はなかった。


「四家は確かに強いけど、強くすることを優先しすぎたせいでそれぞれ精神に重大な欠陥を抱えていると言われている。ヘイマーは、共感性の欠如、だったか。反社会性が顕著に見られる彼らを教会は特に危険視している」


「ジルケがいっぱいしゃべってる」


「他の人の言葉をそのまま言った」


「他の家は?」


「シュトルツが現実検討能力の低下、ハーツが強い強迫観念、カーロが自己同一性の混乱、らしい。あまり詳しくない」


「……分かりにくいな!」


 俺は理解するのを諦めた。


「とにかく教会との関係があんまり良くない家の女の子ってことか」


「ん」


「品の良さそうなお嬢様だったよ」


「ん。私も家で考えるなんてバカバカしいと思ってる」


 良かった。ジルケはそこんとこ柔軟なようだ。





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