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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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3-8 会議

「……」


 俺のことを他の4人が無言で見つめている。

 すごく気まずい。



 ▫



「お前のためにここまで来てやったんだし、私の頼みごともひとつ聞いてほしいな?」


「え?」


 嫌だけど?

 姉貴のお願いとか絶対ろくなもんじゃねえだろ。


「そろそろ五大名家が集まる時期なんだよね。てか明日。その名を高めた武芸を競い合って戦うならまだしも話し合いだけだよ?私が行く必要なくない?」


「いや俺が行く必要もないだろ。むしろ俺が行っちゃだめだろ」


 明日かよ。


「ラウルこういうの得意だったじゃん?私、公爵と会う予定が明日入っててさー」


 スケジュール管理ミスってんぞ、姉貴の1番目の夫!

 近くにいたルカさんを見るとニコリと微笑まれた。わざとってことね。今度鬱憤を晴らしに行くか。


「得意ではねえよ」


 姉貴よりはマシってだけだ。真面目に。


「それこそ姉貴の夫の誰かで良くね?1人くらい空いてるだろ」


「あんな危ないところに行かせられないよ」


「俺ならいいって?」


 大きく頷かれる。はあ。


「しゃーねえな。1回だけだぞ」



 ▫



 というわけだった。


「姉貴……当主代理のルドルフ・ヘイマーだ。よろしく」


 なんで姉貴がいないんだという視線をひしひしと感じる。引き受けたのは間違いだったかもしれない。


「どうしてユヴィドがいないの?」


 他の3人はよく知らないが、今質問してきた女が誰かは知っている。弓の名家、シュトルツ家の長女。現当主の妹。

 それだけ聞くと俺と似たような立場な気がするが、彼女はあの家で1番強いのでこの場所にいるのはむしろ必然とみなされる。家のルールと、この会議のルールは別なのだ。

 シュトル家は家に代々伝わる弓を引けるかどうか、が当主になるための条件だ。彼女はその条件を満たさなかったので、当主にはなれなかった。しかし、家で1番強いので、五家集まれば代表とみなされる。どこの家も強さを重視するのは変わんねえからな。今更だがリーヌスもやつも引っ張ってこりゃ良かった。口を塞いでおけば置物として大層役に立ったことだろう。


「当主は国王からの依頼を相談するために公爵家と会食中だ」


「な。我らを見くびっていると言っているようなものだぞ!?」


 知らんおっさんが声を荒らげる。多分、槍の家。


「冷静に考えてもみろよ。姉貴がこの場にいたらいつ斬りかかられるか分からないスリリングな会議になるだろ?俺、姉貴と比べればすげえ話しやすいと思うけど」


「……」


 黙った。うすうす思っていたことではあったらしい。

 まあ姉貴が他の家を雑に扱ってんのは事実だと思うよ。


「女に当主の座を奪われるような男が当主代理というのはどうなんだ」


 今度は俺より少し年下くらいの男だ。


「奪われたんじゃなくて俺が後ろ盾になったんだが……まあいいや。俺の家の内情とかどうでもいいよな?俺の強さはそこの、えーと」


「カサンドラ」


「カサンドラから聞いてくれ。弓で一勝取ったこともあるんだぜ?」


「100回やったうちの一勝!」


「その通り!」


「もー」


 カサンドラは俺と同い年で俺と同じ学校に通っていたこともあって顔見知りではある。まだ結婚してなかったというのは驚きだが、結婚するイメージが湧かないのもまた確かだ。


 ちなみに外野からだとなんか仲良さそうに見えてるかもしれないが、俺もカサンドラも距離感が死んでるのでそう見えるだけだ。大して話したこともない。

 優等生だったってのと、胸が大きくて男友達が多いってことくらいしか覚えてない。向こうもそんなもんだと思う。


 俺の強さを疑う発言をした騎馬の家の人間だろう男は、この状況じゃ分が悪いとでも思ったのか、黙った。まあカサンドラも敵に回しかねない発言だったしな。


 後ろについている人達が、姑息な手段で地位を上げたくせに図に乗りやがってとヒソヒソ言っているのが聞こえる。というか魔法で盗聴した。

 今この家がここまで力をつけてんのはどう考えてもじーちゃんのおかげだしな。言えてる。

 そんなに悔しかったら天使の試練の攻略最前線にいる女を妻にでもすれば?とも思うが、もちろん言わない。


 俺以外も自己紹介してほしいんだけど……まあ無理か。諦めよう。どうしてもという時はばーちゃんから借りたエルザを頼ろう。アレクも俺よりは事情を知っているはず。


 何を話し合うかも正直よく分かっていないぞ。


「まず定期報告をしよう」


「私の家は欠員ゼロ、増員もゼロ。特に変わりなし」


 なんの話?

 エルザの方を見る。


「この1年での死者数と誕生数ですね。ルドルフ様は欠員ゼロ、増員1と言っていただければいいかと」


 頷いて、そのまま話す。

 他も大して変わりない。戦争もしばらくないしな。


「ヘイマーが死者ゼロとは。珍しい」


「……言われてみればそうだな」


 俺の家は増えるのも早いが減るのも早い。分家筋はちょくちょく亡くなっている。理由はまあ……金があるのに迷宮攻略に乗り出すなんて正気じゃないし。


 ……。五大名家。世間一般では四大名家と呼ばれている。剣、弓、槍、騎。ここまではいい。最後の1つってなんの家なんだ?俺も知らねえ。


「増員53、欠員39」


 ずっと黙っていた最後の一人が口を開いたと思ったら、そう口にした。


「エルザ!?」


 小声で呼びかける。


「暗殺や諜報など受け持っている家です。孤児なんかを集めているので増員も多いんです。組織みたいな感じですかね?」


 なるほど。だから世間一般には公表されてないわけね。

 まじまじ見るが、真っ黒い布を被っていて年齢どころか男か女かもよく分からない。


「随分人を入れているな?」


「……」


 会話になってない。


「えーと、最近話題の黒狼傭兵団に備えてって感じか?」


 俺がそう聞くと小さく頷いた。はあ、もしかして結構殺されてる感じか?傭兵団とは言うが思ったよりきな臭い集団だな。


「お前、ヘイマーにしては頭が回るな」


 年下の男が俺に言ってくる。失礼なやつだ。


「ある程度の頭がないと剣なんて使えねえよ」


 これはマジ。リーヌスも勉強嫌いだけど教えれば教えるだけスポンジみたいに吸収するし。姉貴もあれで頭は良い。パズルが特に得意で瞬間的に解いてしまう。

 じゃあ何が人を侮らせるかって言えば……短絡的なところかな。衝動的で躊躇うことをしないのだ。そこでブレーキがかかるようなやつは巨大なモンスター相手に剣なんて振るえないってのもまた真実。


「ルドルフは入試の学力成績3位だし」


 なんだその俺も知らない情報。1位じゃないからここで出すのも微妙だし。


「それで首席入学取られたんだから!」


「お前は首席で卒業したんだからいいだろ」


 首席で卒業の方がはるかにすごいと思うよ俺は。


「同窓会はその辺にしてくれたまえ」


 槍の人が言う。

 そうだな。気を引き締めていこう。何を話すのかよく分からないけど。


「定期報告は終わりだ。さっき話が上がったテロリスト共の話をしたい。聞く話によるとヘイマー家が抜け駆けをしてるという話だが……」


 ああ、もしかしてこれが面倒で姉貴は俺に投げた?


「そうだよ」


 普通にゲロった。別に隠せって言われてねえしいいだろ。


「王命で姉貴とじーちゃんが駆り出されてる」


 観察する。

 弓はムッとした表情。自分に自信があればこそだな。

 槍は困惑しつつも俺の話の続きを待っているって感じか?

 騎は意図を図りかねてか眉を顰めている。分かりやすい。

 もう1人は……分からん。


「今のままじゃいつまで経っても終わらねえからな。優先すべきは王女様の安全、だろ?」


 片目をつむって笑いかけてみたが反応は芳しくない。


「真面目な話をすると、ヘイマー家はディンフェルト公に話をつけてみようと思っている。国全体を動かさなければ逃げ切られそうだからな。動機すら分からない傭兵団ごときにそんな無様を晒していいわけがない」


 俺が巻き込まれたからか、じーちゃんも本気だ。姉貴も一応俺のことを心配しているらしく、それで今日公爵に会いに行っているのだ。こういう面倒見の良さが人に好かれる秘訣なのかもしれない。


「ぼちぼちそちらにも協力要請が来るだろうから。抜け駆けってことにもならないと思うが……どうだ?」


 みんな黙っているので今の間に、エルザからここにいる面子の名前を聞く。


「カサンドラ・シュトルツ様は顔見知りでしたよね」


「うん」


「まあ素直。あちらの壮年の男性はハインツ・カーロ様、槍の名家の当主です」


「うん」


「向かいに座ってらっしゃる気難しそうな青年はニコラス・ハーツ。騎乗で名を上げた家の当主です。彼はグリフォンに好んで乗るようですね」


「ふーん」


 グリフォンか。この前少し話した女性に聞けばなにか分かるかもしれない。


「最後の1人、は」


「分かりません」


「だな」


 そう簡単に名前は分からないよな。


「1つ聞いてもいいか」


「どうぞ」


 えーと、ニコラスだったか、が聞いてくる。こういう場でさん付けはむしろナメられそうなので呼び捨てでいいだろ。


「だからお前がこの場にいるのか?」


 なんの話だ。

 姉貴と違って会話できそうだからって変な期待をするな。


「かもな」


 まあ姉貴の1番目の夫はその辺有能なので、なんのことかは知らないがそれくらい考えていてもおかしくはない。お前が行けよとも思う。護衛くらいなら全然やってやるから。


 他に話すことはあるのだろうか。


 一代前の国王が超有能だったおかげでこの国は長い間平和だ。今の国王は悪くはない、という評価だ。外交はなかなか良くて内政が少し苦手か?ただ人の話を聞くのでそう酷いことにはならない。

 さきの誘拐事件以外、国防に関してはとりあえず問題ない、と思う。


「戦う場所がほしい……」


「分かっている」


 ん?雲行きが怪しくなってきたな。


「しばらくこの国は平和だ。我々は争いがなくなり、その存在意義を失った」


 ……ああ、当主はそうなるのか。傭兵ギルドにはこれらの家の出身者もいた気がするが、当主はそうもいかないだろう。金があるのに地下迷宮に行くのは正気じゃない。身分があればさらにそうだ。


 とはいえカーラー家は俺んとこと同じく結構護衛として雇われてないか。そうでもない?


 カサンドラは嬉しそうに笑っている。好戦的だなあ。

 こういう戦いたくて仕方がない人間のために武を競う大会や決闘があるのだとばかり思っていたが、彼らを満足させるには足りなかったらしい。


 まあここにいる家はそうなるよう血を積み重ねてきた家系だしな。好戦的なのも仕様か。こんな家を作った先祖を恨めってな。


 一般市民の王や貴族に対する不満+軍事に長けた家系の鬱憤……なんか嫌な予感がするな。ガス抜きはした方が良さそうだ。国内の平和を崩すのはやはり違うし、そう思うと外部の戦争に噛むのが1番無難か?今は支援程度におさめているが、内戦を繰り返して治安最悪な国を……みたいな。うーん、脳内のイーディスさんがなんとも言えない顔で俺を見ている気がするぞ。口に出すのはやめておくか。


「……報告文を良い感じに調整すれば国から資金もらって地下迷宮攻略、できるんじゃないか」


 もらえるもんはもらった方がいいに決まってる。これで迷宮攻略が進むならその研究をしている俺からしても願ったり叶ったりなのだ。


「天使の試練は現在3カ国が領有を主張している」


 迷宮は現在分からないことが多く、金をかけてもその分の利益が返ってこないから研究は進まない。

 金目の物が取れるような主要な迷宮はだいたいじーちゃん達が攻略したか、侵略機構の撃退により消失した。利があるようなことを言っているが、近隣住民の被害の方が深刻だったので、消失した方がいい。というか難易度が高く誰も攻略できないから総取りできたわけでだな。


 現状発見されている迷宮では、1つだけ例外がある。天使の試練だ。比較的入口付近の階層であっても、誰も目にしたことのないような珍しいものが見れる。しかも奥へと誘うように低難易度だ。だからこそまだ見ぬ宝物を求めてあらゆる国が、人が、期待している迷宮でもある。俺はこの迷宮に紐づけて研究費をもぎどっていたわけだ。そこへ下手に名があるせいで運用できない戦力を割り振る。上手くいっていない研究者よりよっぽど早く成果が出せそうな気がする。


 国からバックアップをもらって迷宮攻略。すげえ良い運用方法な気がする。ただ、このまま言うと多分反感あるんだよな。良い言い方、難しい。悪ぶった言い方が癖づいてるもんだから。


「迷宮を舞台に擬似的な領土戦争を行うよう進言するわけか」


「そう、そういうこと!カーロさんが主張すれば権威もあってちょうどいいんじゃねえかな」


 どうにかなりそう。俺はできるだけがんばったぞ、姉貴。




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