表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/41

3-7 一本釣り

「へー」


 アーベラインのやつヨナスを気に入ったらしい。


 テオ待ちで手持ち無沙汰っぽいヨナスと話しているとそこそこ驚きの情報が手に入った。


 俺をクビにしやがった女こと、アーベラインは姫様を迷宮に飛ばした謎の傭兵団、黒狼を潰そうと躍起になっているらしい。個人でヨナスを雇っていろいろやっているんだとか。今はアンばあちゃんも休業中だしちょうどいいのかもしれない。


 姫様、つーか王族と相性が良さそうな気がしたから護衛にねじ込んだわけだが、教会のお偉いさんとも相性はいいらしい。てか、アーベラインが姫様と友人とか初めて知ったぞ。結構年齢差あるよな。


 ちょくちょく話すようになって分かってきたが、どうやらこいつはすごく流されやすいらしい。真面目だし人当たりもいいから地位の高い女性につけるのが1番いい活用法だよな、なんて俺は思っていたわけだがそんな単純な話でもなかった。真面目だからこそ人の話を聞くが、真面目が故に自分を疑い、思考放棄して他人の発言をそのまま素直に受け入れてしまうのだ。

 散々おもちゃにした俺にこうやっていろいろ話してしまっているところがもうだめだ。最近辛そうだけどなんかあった?だけで話すんじゃねえ。多分口止めされてるんだろうに。


 どうやらアンばあちゃんが以前言っていたあの噂も、人に流された結果なんだろう、という気がしてきた。多分アーベラインに告白でもされたら普通にOK出すと思うぞこいつ。

 姫様と知り合わせたの失敗だったか?いやまだ分からない。ここから大勝利する可能性もあるかもしれないし。何を持って勝利とするのかは不明。


「で黒狼の全容分かったのか?」


「無理だ。俺には……」


「そっか」


 ここで、しょうがないよ1人だけじゃ限界あるって!とかなんとか言って、俺の協力を取り付けて教会に恩を売ることは可能だろう。


 でももう俺が功績にこだわる理由なくなっちゃったんだよな。

 テオと姫様が結婚するためには身分が最大の壁だ。だから俺は家を出た後もいろいろと手を尽くしてがんばっていたわけだが、他のアテができた。

 前までだったら他の五大名家に功績を奪われるわけにはいかないと躍起になっていたのだが、もはやヘイマーの名を上げる必要も無くなった。


 今回聞いた内容からするに、教会と王家は一筋縄じゃないらしい。まあ本拠地この国じゃないからある種当然だけどな。

 ヘイマーと教会の関係ってじーちゃんのおかげで最近は良くなっているが、元々最悪だった。だからこそじーちゃんと姉貴を重用している王に無断で捜査してんだろうし、ここで無理に関わってもろくなことにはならなそうだ。


「まあ1人じゃ限界あるよな?お前はよくがんばったよ」


 ヨナスの肩に手を置いて言う。


「……そうか?」


「ああ、そうだ。教会も自分でやれって話だよなあ?」


「それは……そうかもしれない。そうだな。俺は努力した」


「よくやったよ」


「ああ」


 さっきのが嘘みたいな晴れやかな顔を見て、俺は内心ため息をつきたくなった。


「アンばあちゃん一本釣り、デヴィンナイス!」


『うん』


 話も終わったしちょうどいい。

 若干冷めた感じのデヴィンにお礼を言ってアンばあちゃんのところに向かう。バッチリ扉の前だ。


「なあなあ、出歯亀して?逆さ吊りになって?パンツ丸見えで?恥ずかしくねえの?」


「恥ずかしいに決まってるじゃない!!?」


「ははははははははは!」


「早く外して!」


「しょーがねーなー」


 とりあえず降ろす。


「まあだいたい考えてることは分かるから聞かねえけど」


「……バレてた?」


「うん」


 超バレバレだ。アンばあちゃん分かりやすいから。


「アンばあちゃんはさあ、もうちょっと他人をしっかり観察しようぜ」


 多分アンばあちゃんとヨナスの相性は最悪だ。まあ今更価値観を変えろって言っても無理だと思うので、それだけ言っておく。


「俺はアンばあちゃんが考えてるよりずっとカスだよ」


「え?」


「ばーちゃん!ほら見ろ俺の言った通りだろ?」


「そうね」


 ばーちゃんがアンばあちゃんを後ろから見下ろすように現れる。そんな怖い登場の仕方しなくても良くね?


 この屋敷で話す以上ばーちゃんの耳に入るのはほぼ確実なので事前に予定は話している。

 そろそろアンばあちゃん聞き耳立てに来ると思うけどどうする?って言ったら、さすがにそんなことしないでしょと言ってきたので、アンばあちゃんが来るかどうか勝負していたのだ。


「俺が勝ったから一室もらえるんだよな?」


「そうね……」


 ばーちゃんすっげえ不服そう。

 まあ確率だけで見れば分の悪い賭けだったしな。


「パウラ……どうしてここに……?」


 アンばあちゃんの顔は蒼白だ。


「私の屋敷よ。どこにいたって私の勝手だと思わない?」


「はい……」


 アンばあちゃんとばーちゃんの力関係が見えるようですね。


「これはどういう?」


 さすがに不審に思ったのか見に来たらしいヨナスが聞いてくる。


「俺たちは稀代の魔道具技師、アンヘルム・ハーバーがあらぬ誤解をしていないか試したんだ!な?」


「え?……そうかもしれないな?」


 そんなわけないだろ。意思をもっと強く持て。

 俺があまりにも堂々と話すからって思考放棄するな。


「恋愛脳のアンばあちゃんをおちょくろうとしたことを認めよう……」


「わざわざヨナスの肩に手を置いて目をまっすぐ見てたのってそういうこと!?」


「そうだよ」


 それはあんまり関係ないかな。


「たまにコソコソ話してたのも!?」


「……」


 そうだけど、俺の心象が悪くなるからここで言うのはやめろ。今更?それはそう。


「なにやってんの兄さん……」


 疲れた顔のテオがばーちゃんの後ろに立って怪訝そうな顔で俺を見ていた。



 ▫



「姉貴たちは今日泊まるってよ」


「いやそんな話は聞いてないんだけど?」


「まあそうだな。お前定期的に姉貴んとこ行ってるしな」


 鍛錬がてらな。あっちが当主の家だからその類の設備は向こうの方が充実しているのだ。


「なんかアンばあちゃんに好きな人いないだのなんだの言ってたらホモだって勘違いしたっぽいんだよな」


「えー……兄さん女嫌いの女体好きじゃん」


「女嫌いではねえよ!?」


 すっげえ不名誉なこと言うな!?

 ばーちゃんの護衛のクリスタが俺を侮蔑の目で見ている。……割と前からか。


「ってことで遊んでみた」


「相変わらず最悪だね兄さん。楽しかった?」


「まあそこそこ」


「そう……」


 テオが目を細めている。なにか不満がある時によくする顔だ。


「そんなのはどうでもいいんだよ」


「良くないわよ!?」


「いいじゃん拘束解いたんだから」


「それは感謝してるわ!」


「うん。俺は天使の試練って言う地下迷宮に行ってたんだが、そこで迷宮主らしきヤツの襲撃を受けて死にかけたんだ。そう言えばこれギルドに報告した方がいいのか?」


「じーちゃんが報告しといたよ。もちろんラウルの名前で」


 いないと思ってたらいつの間に。


「……なんで大迷宮に?兄さん最近迷宮攻略してなかったよね」


「ああ。この前王女様が転移させられた事件あっただろ?」


 そういやあれ表彰とかされんのかな。新聞に事件解決に尽力した人間の1人に俺の名前が載ってるのは見たけど。やるにしても事件が解決してからじゃないとさすがにないか。


 テオの顔を見ようとするが、長い前髪に隠れて表情は読み取れない。


「ちょっと気になることがあってな。あれはどう考えてもこの国が使ってる魔法体系じゃありえない現象なんだよ。だから少しでも近づけば何か分かるかと思ったんだが……それどころじゃなかった」


「それを俺に伝えてどうしたいわけ?」


「お姫様と仲良いだろ?お前」


「そうだね」


 声色からしてだいぶ苛立ってるな。思春期だしな。


「まあお前も巻き込まれるかもしれねえし気をつけとけよ」


「……分かった」


「よし」


 黒髪から覗く金色の目が俺をじっと見ている。

 黒髪はこの国では珍しい。だから黒髪の吟遊詩人を見て一瞬弟を思い出して動揺した。

 母が黒髪だったのだ。長い癖のない黒髪で、薄い灰色の目をした女性だった。とても頭が良くて、そして俺のことを強く嫌悪しているようだった。


 まあそんなことはどうでもいい。今は目の前にいる弟のことだ。


「どうした?」


「兄さんは今幸せ?」


「は?」


「いいよ答えなくて」


 突然どうした。

 幸せ、幸せね。

 思い返すと楽しい瞬間もそこそこあった、かもしれない。思い通りにいかないことばかりだが。


「んなこと考えたこともねえよ。これからも考えねえと思う」


 というのが、俺が持ち合わせる1番誠実な答えだろう。


「……へえ」


 相変わらず何を考えているか分からんな。

 じーちゃんが少し距離を取りながら緊張した面持ちでこちらを見ている。話しかけてくる気はないようだ。……なんかじーちゃん、昔からテオに苦手意識ありそうなんだよな。


 ばーちゃん、アンばあちゃん、ヨナスはさっきまでの間に退室したので今ここにいるのは3人だけだ。


「テオはどうなんだ?学校は楽しいか?」


「……。楽しいよ」


「そりゃ良かったぜ」


 俺は学校楽しくなかったからな。

 テオはさっきまでの不穏な様子を霧散させて微笑んでいる。もう大丈夫だろう、じーちゃんを見るが変わらず話には入ってこない。


「そういや俺のファンっつってた友達は俺のプレゼント喜んでたか?」


「喜んでたよ。すごく。サインがないのも硬派でかっこいいとかなんとか」


 硬派?俺とは程遠い言葉だな……。まあ満足したなら良かった。


「俺のことどこで知ったって?」


「なんかRTA?とかの記録を見て知ったんだってさ。昔の兄さんの発言とか聞いてファンになったって」


「あー……」


 1番嫌なパターン。俺が過去一イキってた時期のファンか。俺を倒せるもんなら倒してみろとか言ってたっけ。できるだけ会わないようにすれば問題ないか?


「そういやなんで引退したんですか?って聞いてほしいって言ってたな」


「いや、普通に就職したからだけど」


「……」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ