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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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3-6 おつかい達成

「ってわけで姫様を引っ張って来たのがルール違反?とかだったらしくて、推定迷宮主に殺されかけたんだよ」


「じいちゃん理解が追いつかないよ」


「てかごめんじーちゃん。あのマント落としちまった」


「それは……別にいいよ。もう1枚あるし」


「ええ……」


「どこにしまったっけな」


「ええ……」


 貴重品の扱いじゃねえ。


「確かに報告書を読んで天使の試練80階層付近からどうやって帰ってきたんだと思ってたけど、ラウルがやったんだな?」


「ああ」


「すごいな、さすがじいちゃんの孫。すごすぎない?本当に俺の血か?アルマの血じゃない?」


「国家予算並の宝石使ったけどな!」


 そうかお金を管理してんのはばーちゃんだから気づいてないのか。話した当初はあれ使ったの?と少し機嫌が悪そうだったが、お姫様を救ったと知ると超ご機嫌になっていた。ばーちゃん的に良い使い方だったらしい。


 とりあえずお金は3割返ってきたが、あまりにも金額が大きいから用意できしだい返されるとのことだ。


 一応あれ1個で家の資産の何割使ったんだ?すぐ運用できる資産の9割分くらいはあったわけだが、宝物庫には迷宮産の物品がたくさんあるからな……。5割ってとこか?


『お前の孫なのは私が保証しよう。竜の女王のお墨付きだぞ』


 眠そうにサンが言った。

 いきなり攻撃されたことを根に持っているらしい。


「女王様って気づかなくてすみませんね」


『ふん!』


 不機嫌そうに目を細めて体を丸めた。もう話しかけてくるなと言いたげだ。


「話通りなら天使の試練の迷宮主は少なくとも迷宮内ならどこでも移動できそうだ。そんなの初めて聞いた」


「ふーん」


「ああいや、話通りってのはほら、幻術とかかもしれないだろ?1階層だと思ったところが最下層だったのかもしれないし、な?」


「1階層だと思ったら最下層だった?」


 俺の機嫌を取ろうとしてめちゃくちゃなこと言ってるぞじーちゃん。もしそうだったら面白いけど。


「多分だけど、あれ分体だったんじゃねえかな。肉体的にはあんまり強くなさそうだったし」


 分体をモンスター扱いにしてあの場所に配置した、と。ギリギリありそうな話だ。迷宮主の権限がどれくらいあるかにもよるけど、10層ごとのボスを自由に動かしていたみたいだし余裕だろう。


「20階層ボスはどんな感じだった?」


 最初に聞くのがそれか。さすがだな。俺があんまり覚えていないのがあれだが。


「うーん無我夢中だったからな。基本的には貫くような水の攻撃か触手を伸ばす攻撃をしてきたような。今思うとマップごとで攻撃が違うのかも」


「ジエンの言い分と一致する、か……20層を越えたのは本当っぽいな」


「今1番攻略が進んでるって言う?」


「そうだね。……驚いたな。ラウルはもう迷宮には興味ないとばかり思っていた」


「いやあの……俺の研究分野分かってる?」


「魔法じゃないのか?」


「違うけど!?」


 迷宮だよ!


「アーベント魔術学院に就職するんじゃないのか」


 そっちは知ってるわけね。アルマから聞いたのか。

 俺のことは気にかけてくれているらしい。


「するけどさ。……俺の書いた論文読んだ?」


「じーちゃん活字読むの苦手なんだ」


 そう言えば前に言ってたな。前俺が児童書読んでたら本が読めてすごいなあとか言われたっけ……。じーちゃん普通に頭いいと思うんだがなぁ。


「一応俺は迷宮の研究者ってことになってんだよ。迷宮だけじゃ仕事ねえし迷宮攻略用の魔法を教えに行くわけ」


「はーすごいなラウルは」


 雑。

 もちろん、跡継ぎじゃない人間にここまでしてくれるのは優しいって分かっている。


「そんで死にものぐるいで迷宮を脱出したら、そこのドラゴンに回収されたって経緯」


「なるほどな」


 納得しきっていない顔だ。複雑な表情だ。葛藤が見える。


『大事なことを言っていないぞ』


「うん。どうやら俺はドラゴンの血の方が濃いらしいぜ。ってのを伝えたかったんだってさ」


「ん?……そういや俺って一応竜の末裔だっけ。いやいや、あれはお袋が適当言ってただけだろ?」


「……」


 そういう理解だったのか。

 だから俺にも伝えてなかったと……いや重要だろ。


「入婿だし、俺の祖先の情報とかいらなくない?って判断だったんだけどなあ。まさか本当だったとはなあ」


 俺の抗議の目線が伝わったのか、目を泳がせながら言い訳してくる。


「じーちゃん大概人外寄りなのにそんなことある?」


 その不自然な若さは気にならなかったのか。

 ついでに言えば金色の目とかじーちゃんとテオくらいしか見たことない。

 まあ銀髪だけならぼちぼちいないこともないかな。


「竜ならさ、俺にもっと恩恵欲しかったよ」


「……」


 だいぶ恩恵受けてる側じゃね?

 ほら帰ろうと言いたげに背中を指し示すじーちゃんを見てそう思った。もしかして俺を背負うつもりか?身長差大分あるけど。


『またな』


「うん、また」


 サンはお別れモードだ。しゃーない、背負われるか。



 ▫



「ってことがあったわけ」


「へー」


 ばーちゃんはもうちょっと俺に興味持ってくれてもいいんだよ?


「これ爪な」


「まあ、ありがとう」


「うん」


 達成感がまるでない。すごくいつも通りだ。もう少し心配してくれてもいいんだぞ。

 じーちゃんはばーちゃんのどこが良かったんだ……。


「セイン、仕事はどうしたの?」


 ああ、俺と同じこと聞いてる。俺がいないことは門番の人にでも聞いたのかね。


「ラウルが行方不明だって言ったら帰してくれたよ」


「そう」


 ドタバタと走ってくる音が聞こえる。

 バンっと勢いよく扉が開かれた。


「ラウルは無事だったのね!」


 あ、家燃やして居候してるアンばあちゃんだ。後ろでヨナスが気まずそうに会釈している。


「無事、だった、のかな?」


「今元気なんだから無事だろ」


「そうか?」


 じーちゃんは納得が行っていなさそうだ。


「そう言えばアルマの学院に物を直せる魔法使いの先生がいた。頼めば直してくれるかも。名前はブシェだったかな」


「心配しなくてもあの家は頑丈だから大丈夫よ。本当に1部しか壊れてないし。あと1週間もすれば直せるみたい」


「それなら良かった」


「それより、ユヴィドも来ているの、よ。あれ?」


 姉貴来てんの!?そこまで大事になっているとは。

 テオは……まだ学校か。


「ユヴィドー?」


 後ろを向いて姉貴の名前を呼んでいる。


「ん、来たぞ」


「ひゃっ」


 わざわざアンばあちゃんの死角から手を肩に置いていた。なんか姉貴はアンばあちゃんと仲良いんだよな。


「お久しぶりです。ルドルフさん!」


 あ、姉貴の2番目の夫もいるやん。

 相変わらず人好きのしそうな爽やかな笑みを浮かべている。名前……なんだったっけ。


「ルカですよ!」


「そうだった。ルカさんはどうしてここに?」


「……え?ルドルフさんが心配だったからですよ?」


「そう……」


 全然関わりなくてほぼ他人なのにマメだな……。


「おじちゃん!」


 ルカさんの後ろから男の子が顔を出す。


「ん?……。あ、もしかしてレオンか?」


 しばらく会っていない甥っ子の名前を出す。

 俺の言葉にブンブン首を縦に振って駆け寄ってくる。とりあえず頭をぽんぽんと軽く撫でる。

 見ない間におっきくなったなぁ。


 ……てか俺のこと覚えてんの?前会った時ってまだ歩けるようになったくらいの頃だったよな。記憶力良くね?


「いっぱい食べていっぱい大きくなるんだぞー」


「そしたらおじちゃんみたいになれる?」


「俺か。うん。なんならおじちゃんより強くなれるんじゃねえかな。鍛錬がんばろうな」


 気恥ずかしくて目を泳がせながらそんなことを言うと、ルカさんが俺の肩をぽんと叩いた。

 耳元で囁かれる。


「適当なこと言ってレオンを期待させないでください」


 ……。


「ま、俺は最強だからな!お前が強くなっても叩きのめしてやるよ」


 これでいいのか?

 うぐ。レオンは目をキラキラさせている。

 ルカさんは……変わらんな。どういう感情だそれ。


「お前賢そうだから、よく勉強しておくことだな。強くなるのに役立つぜ」


「勉強?」


「ああ、戦いってのはその場の対応力が求められるもんだ。賢い者は歴史から学ぶって言うだろ?知識があれば咄嗟の判断に迷わなくなる」


「……」


「ま、今はピンと来なくてもいいさ。おじちゃんがなんかそんなこと言ってたな、くらいに思ってくれ」


「勉強する」


「え?」


「する!おじちゃんが言うなら絶対正しい!強くなる!」


「お、おう」


 そればっかじゃダメだからな?ちゃんと体力つけるんだぞ?


 姉貴を見るがアンばあちゃんと楽しく話している。ここで見るべきはルカさんの方ってことね。理解した。つかこいつ多分3番目の夫の子なんだよな、見た目的に。あいつなー……強くはあるんだけどキモイんだよな。いや姉貴の夫の中で1番誰が好きかって言われたらあいつだけど。面白いし。


「姉貴ー、最近娘生まれたってマジ?」


 姉貴に話すなら目線で訴えるとか小手先の手段に頼らずに、自分から行かなきゃな。


「最近?エマが生まれたのは半年前だよ」


「最近じゃねえか」


 俺に連絡くらいくれてもよくね?

 そういやテオが家を捨てたんだとと思ってたとか言ってたな。縁が切れた扱いだったのか。まあ俺も連絡してなかったしな。


「レオンお前兄貴になったんだな」


「うん」


「……。…………。レオンはラウルのファンなんだよ」


「へえ」


 俺のファン?姉貴が話盛ってるだけ?いや、姉貴はそんな気遣いができる女じゃねえよな。じゃあマジ?……保留で。


「すごく猫かぶってる」


 あ、レオンが姉貴の脛に蹴りを入れた。




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