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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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3-5 じーちゃん到来

「うわドラゴンがいっぱいいる」


 隣のドラゴンよりは小さいが家くらいはあるドラゴンがたくさんいる。アンばあちゃんが狩ってたヤツは馬車くらいだったからもう少し小さかった。確かにこの中だったら俺は小さい方だな。


「そういやご先祖さまはなんて呼べばいいんだ?」


『ご先祖さまって私のことか?』


「ああ」


『ふむ。名はたくさん持つが……サンと呼んでくれ』


「サンな。了解」


 ジルちゃんにボコられて以降初めて会った相手はさん付けが癖になっているが、ドラゴンだし、俺の親戚みたいなもんでもあるしいいだろ別に。呼び捨てに移行すんのダルいし。


 さて、しばらくここで様子を眺めるか。

 俺も彼らから見れば小さいだろうにジロジロ観察されている。


『なんだお前』


 お、声をかけてきた。見た感じ俺を食いに来たわけではなさそうだな。


「観光に来たんだ。仲良くしてくれると嬉しい」


『ふーん、一応戦っとくか?』


「へーそういう世界観なんだ。経験がてらやっとこうか、な!」


 まだ了承しきってないのに攻撃してくるやつがあるか!

 降ってきた腕を上空に飛んで避けながらそう思った。


 このドラゴンに対して俺は有効打を与えられるのだろうか。内部から破壊すればいけそうだが、本気で殺しに行くのはあまりよろしくない。俺は彼らと友好的な関係でいたい。向こうもある程度手を抜いているようだし。


「デヴィン!」


 首に巻きついた蛇が大剣になる。そのまま落下の衝撃を利用して振り下ろす!

 当然手で受け止められるので、俺はそれ以外で準備していた糸をドラゴンの体を締めるように操作した。


『な』


 そのまま持ち上げていく。

 抵抗するがデヴィンは切れない。釣り上げドラゴンの完成だ。


「って感じでいいのか?」


『……』


 黙っている。あっさり負けて精神的にダメージを負ったか、割と卑怯な手を使ったので屈辱に打ち震えているか。ドラゴンの表情のデータは収集してないからよく分からん。


『そいつは弱いのに戦いを色んなやつにふっかけてるヤツだから。他もそうってわけじゃない』


 他のドラゴンが釣り上げられたドラゴンを見ながらそう言った。


「へー。そうなんだ。まあいいや、それより俺は観光に来てるんだ、ここに住んでるドラゴンが普段何食べてるかとか教えてくれ」


『別に。それぞれ好きな物を』


「同族を食べるやつもいるって聞いたけど」


『いる』


 あんまり答えてくれなさそうだな。俺の勘違いを修正しに来ただけだろうし贅沢は言えないか。


 強いやつが好かれる世界観でもないらしい。さっきまでの戦いで俺への目線の質は特に変わっていないからだ。


 デヴィンにひっかかっているドラゴンを眺める。赤い鱗で、体は平たい。弱いらしいが、普通に強そうに見える。


『なんで人間の姿をしてるのー?』


 子どもなのだろうドラゴンが俺に話しかけてきた。

 子どもなのに俺がドラゴンよりの生物だって分かるのか。それとも俺がドラゴン以外だという考え自体がない感じだろうか。どちらかと言えば後者っぽい。


「そりゃ普段は人間の国で生活してるからだが……」


 そう言った瞬間、様子をうかがっていたドラゴンたちの目の色が変わった。


『人間のことをよく知っているのか!今は馬を使わない馬車があると聞くが本当か?』


「まあ王族が使ってんのは見たことあるけど」


 多分馬という不確定事項を排除したいから使ったのだろうが、動かすだけでも相当な金額がかかるそれはまだ実用的とは程遠い。すっげえ遅かったし。


 ドラゴンはあまり人里に出てこないからあまりそういうことには興味がないと勝手に思っていた。好奇心が旺盛のようだ。


 じゃあそうだな。


「俺はこの前気球に乗ったぞ」


『ききゅう?』


『空を飛んでたあれじゃないか?人間が乗っていた』


『わざわざ乗り物に乗るのか』


『人間は羽がないから』


『それで空を飛ぼうという発想になるのが面白いところだ』


「ああそうだ!俺はその気球に乗ってきたんだ!手が空くから鳥もスナイプできるし、持っていけばティータイムだって楽しめる。ちなみに操縦士に聞いたんだが、熱で飛ぶ仕組みらしいぜ」


『熱?蒸気が上に上がる現象を利用しているのか?』


「そう!そういうこと!」


『それは面白いな』


『そこまでする必要はあるのか?』


「ロマンを理解しないやつめ」


 不満げな丸いドラゴンの前で指を振る。

 なんか……普通に傭兵とかと話すより楽しいかも。


『食べ物を聞きたいんだったっけ?私はたまーに近くに住んでるゴーストを食べたりするかな』


「へ、へー?」


 あんまり食事とかいらないのかもしれない。

 まあ確かにこんだけ巨体のドラゴン達が獣を狩りまくってたらすぐに何もいなくなってしまうだろう。


『冷たくて美味しいんだってさ。俺は絶対食べる気になれないけど。触ったら叫ぶんだぞ!?』


「だよな……」


『俺はたまに山から降りてゾウを食べる!食いごたえがあって良い』


「ゾウか」


 騒ぎに気づいたのか後から飛んできたドラゴンが俺に話しかけてきた。ゾウを食べるのはドラゴンっぽい。

 味はどんな感じなのだろうか。


『今度取ってきてやろうか?』


「む」


 俺には取って来れないとでも思われたか?

 まあくれるんならもらうが。


「そういやお土産にドラゴンの爪欲しいんだけどいらなくなった爪とかない?俺と遠い属性のやつ」


『セスティーナ様が連れてきただけあってどうかしてんねお前』


 とりあえず話しやすそうだから本題に入ったらさすがにいきなりすぎたのか渋い顔をされた。いや、実際の表情はわからんけど。


 セスティーナ様……サンか。どうやら様付けで呼ばれる立場らしい。この中でも一際大きいもんな。


「仕方ねえか」


 釣り上げていたドラゴンを降ろす。


「センキューデヴィン」


『your welcomeだよ!』


 手に持ったままの大剣をそのまま振り下ろして爪を切断した。


「俺が勝ったんだしいいよな?」


『いいんじゃない』『いいよいいよ』


 他のドラゴンたちが同意してくれる。

 言葉を話したデヴィンに興味があるのか見ているドラゴンもいる。


『いいわけあるか。事後承諾じゃねーか……』


「えー。ちなみに名前なんて言うの?」


『アンガス』


「アンガスな。俺はルドルフ。今後ともよろしくな」


 肩、らしき部分を叩く。なんか気が合いそうだし仲良くしていきたいところだ。


『え……』


「そういうんじゃねえから!」


 搾取続けたりとかはしねえよ。もう1回同じ手が通用するとも思えないし。


「サン、他の場所も見たい。イマイチ生活感がないというか」


『仕方ないな』


 サンが俺を掴んで運んでくれる。その間にも人間の食い物は?とか戦争の状況は?とかドラゴンたちが並走しながら聞いてくるので俺は答え続けた。



 ▫



 1日以上観光した後、俺は集落に別れを告げた。来るもの拒まず去るもの追わず。別れはあっさりしたものだったが、また来てもいいらしい。すごく居心地が良かった気がする。

 今は最初に来た家に戻っている。


「いろいろ助かった」


『ん。また来てもいいぞ』


 サンが眠そうに体を縮めながら言う。


 結構楽しかった。惜しむらくはこの体験を話せる相手がいないことか。


 俺は切り落とした爪を糸になったデヴィンで引っ掛けて背負、う?


 俺は動きを止めた。


 轟音が聞こえたからだ。しかし白い煙で前が見えない。上から何かが落ちてきた。……奥に見えるのは人影か?


『うわっ』


 サンの焦ったような声が聞こえる。


 煙が落ち着いてきて少し様子が分かるようになってきた。天井に空けられた穴の分の石が落ちている。何かに切り落とされたかのように。


『振動シールド!』


 名前適当すぎるだろ。

 人影がサンに切りかかっているのが見える。もう少しでハッキリ見えそうなんだけど……。


「……じーちゃん?」


『おい、待て。お前と私は会ったことあるだろう。ちょ、シールドを破壊しないで!振動シールド5重!!』


 シールドをスパスパ切ってるじーちゃんが見える。目を擦る。じーちゃんだよな。


「じーちゃん!」


 とりあえず走って駆けつける。

 意図が分からない以上、俺に攻撃してくる可能性もあるので警戒はしながら。


「ラウル?」


 じーちゃんが止まった。と思ったら剣を落として俺に駆け寄ってきた。戦闘中に武器を落とすなよ……それ国王からもらったやつじゃねえの。


「良かった、ラウル。生きてて……。お前まで死んだら俺はどうしようかと……」


 俺に縋りつくように崩れ落ちる。ここまで全速力で駆けて来たのだろうし疲労もあるのだろう。


 近くで見るじーちゃんは、せいぜい30くらいにしか見えないほど若々しい。


「じーちゃん、仕事はどうしたんだ?」


「あのなぁ!俺はお前を心配して駆けつけたんだぞ!」


「それは……ありがとう?」


「ああ。はあ、帰って来たらお前はいないしばあちゃんはドラゴンの爪を取ってこさせたと言うし……」


 良かった。王に頼まれた仕事は一段落ついてから来たらしい。そうじゃなければ罪悪感が少しあったかもしれない。俺はこの通りピンピンしているし。


 じーちゃんは糸が切れたように呆けている。死にかけたけどなんとかなったし、とか言えなさそうな雰囲気。


 そうだな、父と母が死んだ時、1番動揺してたのはじーちゃんだったな。


「もしかして泣いてる?」


「な、泣いてないやい」


「ははっ」


 俺とは似ても似つかない金色の目から涙が溢れている。俺にその感情は理解できないが、俺のために泣いてくれていることがどれだけ貴重か分からないわけではない。


「俺は頑丈だからそうそう死なねえよ」


「うん……」


「そういやじーちゃんドラゴンの末裔なんだって?」


「ん?うん」


「それ先に言えよ……」


 なんでアンばあちゃん経由で知ってるんだよ俺は。


『もう落ち着いたか?』


「誘拐犯め」


 じーちゃんがキッとサンを睨む。

 うーん否定できない。


「まあまあ、迷宮で死にかけてた俺をここにつれて来てくれたわけだし?」


「死にかけた?」


 あっ。




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