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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
3章

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3-4 馬鹿みたいな話

「ふう」


 仰向けで倒れる。

 ジルケが俺の部屋にあった大量のワイバーンを圧縮させた……何?とりあえず形容しがたいそれがなかったら厳しかった。

 あれは奇跡の1つ。身代わりの場所を俺と交換することができる奇跡だ。迷宮の外に置いてたからこうして脱出することができた。良かった、念の為に準備しといて。


 あの奇跡は最近ジルケに習ったものだが、同規模の魂の場所を交換する、というのが正確な内容らしい。俺の魂のサイズはどうやら、あの山積みのワイバーンと同程度あるらしい。なんで?

 確かにこの奇跡のことがあるなら、魂のサイズが大きいとデバフと言ったジルケの言葉も分かる。


『大丈夫?』


 デヴィンが明るく、しかしやはり少し不安そうに聞いてくる。武器らしくないなと縄になっているデヴィンをひとまとめにして撫でる。


「大丈夫じゃねえかも……」


 どうしよう。普通にさっきの男にかけられた術が解けていない。そりゃ俺は頑丈だし、普段の状態なら他の親切な探索者を待つこともできるだろうが……。


 魔力回復を待てば魔法陣まで辿り着けるか?家に帰れさえすれば、多分いるだろうジルケにこの術も解いてもらえそうだ。ただ……それまで俺の意識は保つのだろうか。


『大丈夫だよ』


「デヴィンが言うならそうなんだろうな」


 頷く。


『回復できないの?腹の傷とか』


「そうだな……」


 俺は奇跡が効きにくいので、治すことを諦めてさっきの奇跡の発動に集中しながら逃走していたわけだが、今なら時間もあるしいけるかもしれない。


 傷に集中する。初歩的な、治癒力を高める奇跡を自分に行使した。俺の最大出力だ。


 傷が塞がっていくのを感じる。

 もう大丈夫か、意識を手放しても。しばらく寝よう。


「なんかあったら起こして……」


『ちょ、ラウル!?』



 ▫



『起きて!起きて!』


「ん?」


 目を覚ますと、……何?空?


『やっと起きた……。何回も呼んだのに起きないし!』


「悪い」


 下を見ると山が見える。つまり俺は山よりも高いところにいるわけで、飛んでる、のか?

 意識がはっきりしてくると、どうやら俺は何か大きい生物に鷲掴みにされているらしいことが分かってきた。


「なあ、これどういう状況?」


『ボクに聞かれても』


「デヴィンも分かんねえか」


 ということはいきなり掴まれてそのまま飛んでる感じ?餌扱い?嫌すぎる。


 俺を掴んでいる手を見ると、緑色の鱗が見える。光の加減で赤く見えたりする。爬虫類で大型、空を飛ぶ。なるほど、多分ドラゴンだな。これだけ大きいなら長く生きているだろうし意思疎通もできるかもしれない。

 ……なんて声をかければいいんだ?


「もしもし、話せます?」


 間抜けな声かけになってしまった。


『それは……私に言っているのか?』


 よし、意思疎通可能。

 声からすると雌だろうか。


「そうです。なぜおr、私を持って飛んでいるんですか?」


『無理に敬語で話さなくていいぞ』


「あ、はい」


 ドラゴンに気を使われている。


『そろそろお前も成人した頃だろうと思ってな』


「はあ」


 成人は随分前にしたけれど。

 俺が知っているドラゴンなのだろうか。ドラゴンの知り合い……いたようないなかったような。


『探すのに苦労したぞ。あの穴は私でも見えづらい』


 このドラゴンが迷宮関係者という線は消えた。なんなら親しみすら感じるので、俺に危害を加えるつもりはないのかもしれない。


「どこに行くんだ?」


『私の家だ』


「へー。そこでパクっと?」


『何を言っている?』


「いや、冗談だ」


 バツが悪いので俺は目を逸らした。


『そうか。お前には話さなくてはいけないことがある。お前の家はもってのほかだが、あの場所でも私は目立つからな。場所を移動する』


「なるほど。……ちなみに強いドラゴンは変身能力があるって聞いたことがあるんだが」


『?なんで私がわざわざ変身しなくてはいけないんだ?』


 俺もその通りだと思う。このドラゴンとは気が合いそうだ。


『何納得してんのさ、誘拐だよ!』


 流されそうになっている俺を見かねてかデヴィンが言った。言われてみれば確かに。


『……ん?これは……。さっさと捨てた方がいいぞ』


「いや、友達なんだ」


『なら仕方ないな。気をつけておくんだぞ』


「はーい」


 親かな?

 まあデヴィンが呪いの武器なのは今更なのでサクッと流す。


 上空から山々を見るのは新鮮な気分だ。1人で見て回れるならもっと最高かもしれない。


「着いた?」


『ああ』


 幻想的な場所だった。深い霧に包まれていてよく見えないが、大きな集落でもありそうだった。


 その場所に急加速で突っ込んで行く。


 止まった?


『ここだ』


「大きい家だな」


 当たり前だが。

 俺を顔の前で降ろしてくる。こうやって見ると、誇張なく山のような大きさだ。


「で、俺に要件ってのは?」


『うん。お前、ステータスは見えるか?』


「ステータス?」


『……。まあ今のは気にしないでくれ。とにかく、現生人類にはメインになる主属性と1部表出する副属性ってのがあってな、それを知ってるかって話だ』


「知らないけど」


 主属性と副属性。


『お前はドラゴンの子孫だって話は聞いてるか?』


「知らねえな」


 ああでも昔、アンばあちゃんが、セインは竜の末裔なのよ!とテンション高めに言ってたっけ。じーちゃんが竜の末裔なら俺も竜の末裔だよな、よく考えたら。


「つまり?」


『普通は主属性も副属性も同じことが多いんだが、血が混ざるとそうでも無くなってくる。これが現生人類の特徴だ』


「うん」


『私も昔はヤンチャでな。人間に変身した状態で人間と交配できるか気になったんだ』


「はあ」


 いつ本題に入るのか。

 長々と始まるドラゴンの自分語りを聞き流す。


『ってことで成功したんだが……聞いてたか?結構革新的な研究結果だぞ?』


「生物系は専門外なもんで」


『そうか?まあその子孫が人間として今も活動してるわけだ、主属性:人、副属性:竜みたいな感じで』


「へえ」


『お前はその主属性と副属性が逆転してるんだ』


「へえ。……。…………ん?」


 それもう人間じゃなくてドラゴンじゃないか?


『ここまで血が濃く出たことはないから驚いたぞ』


「え、俺ってドラゴンだったのか?」


 腕を見るが普通に人間の腕だ。少し変わったところがあるとすれば、頑丈なのと治癒力が高いのと魂の大きさがジルケ並にあるってことくらいで……うーん俺はドラゴンなのかもしれない。


『どちらかと言えばそう』


「……」


 アーキネーターかな?


『今は私がかけた魔法で人間の姿だが、お前は最初竜の姿だったんだぞ』


「えー……」


 母親からそんなこと一言も言われてねえぞ。


 竜か。翼が生えてきたりするのだろうか。


『一応人間から産まれてるからな、しばらくはその方が便利だろうという私の老婆心だ』


「それは……ありがとう」


『いいよ。どうだ?人間の生活には馴染めてるか?』


「まあそこそこ」


『そうかそうか。やはり副属性が人間だから純血の竜とは勝手が違うな!』


 嬉しそうだ。

 馴染めてる、か。まあ生活できてるし露骨に嫌われてるわけでもないから馴染めてるでいいんじゃないか。


『じゃあ人化の魔法をお前に教えておこう』


「助かる」


 話が分かるドラゴンだ。


『今お前にかかっている魔法はお前自身の魔力を消費する設定にしておいた』


「へー……」


『ええと、8割くらいに設定したんだったか?』


「……」


 率で設定してんのかよ。雑すぎねえか。まあ絶対的強者であるドラゴンは細かいことを考えなくてもいいのかもしれないが。俺は絶対強者じゃないからもう少し詳細に設定してほしかったなーそこまで贅沢言えないか。


 一応俺自身にかかってる術を探ってはみているが、上手いこと隠されているのか見つからない。今度あのエルフに聞いてみるか……。あの居酒屋に行けば会えるって分かってるし。


『細胞1つ1つを変質させていくんだ。お前は副属性が人だから、具体的に指示を出す必要はないし切り替えるイメージだけで良い』


「……」


 なんだそのめんどくさそうな魔法は。


『じゃ、練習のために今までかかっていた魔法は消すから』


「えっ」



 ▫



「な、なんとかなった」


 少々鱗が残っているが、服で隠せる範囲だ。

 維持のために消費する魔力を率じゃなくて量で設定したので、魔力回復ポーションを飲めば一時的に全快する、はず。多分。と言ったって俺が問題あるのは魔法を使うためのパスの方だから焼け石に水ではあるが多少マシになるかもしれない。


 魔力枯渇で死にそう。もう2度とやりたくない。


『人と混ざってるだけあって器用だな?体躯は小さかったが見どころがありそうだ』


 体躯が小さいとか生まれて初めて言われた。

 そりゃ大きな山1つ分くらいありそうなドラゴンに比べりゃ小さいだろうけど。


「それどうやってしゃべってんのか気になるぜ。竜の口で言葉を話すのムズいな」


『音だけ鳴らせばいい。口は開いてないだろう?』


「確かに」


 このドラゴンが教えてくれる魔法は俺によく馴染む。


「そう言えばここって集落だよな?」


 上空から見たら文明がありそうな感じだった気がする。


『む?見て回りたいのか?』


「せっかくなら。……俺、余所者扱いでパクっといかれたりはしないよな?」


『同族食いか。しないやつがいないわけでもないな』


「そんくらいならいいや、行く」


 大蛇になったデヴィンが俺の首に巻き付く。そう言えばしばらく会話がなかったな。なにか不満でもあったのだろうか。つつく。


『ショックかなと思って言ってなかったのに、あっさり順応してるしー』


 ……。


「よしよし」


『さてはめんどくさくなったなー!?』


 あの、首締まりそうなんですけど。


「なんで蛇?」


『蛇はトカゲを食べるからね』


「ふーん」


 トカゲ……ドラゴンのことか。俺と張り合おうとでもしているのだろうか。可愛いヤツめ。


『私が連れて行ってやろうか?』


「……」


 それっていろいろどうなんだ。なめられたりしないのだろうか。今更かもしれないが。


 とはいえ羽だけなら出せそうな気も。

 肩あたりの細胞を変質させていく。魔力という不純物を取り除いて元に戻していく。


 いけた。飛べ、る!羽が風系統の魔法を自動的に使っているのが分かる。ってことは重ねがけしていけば───────痛ってぇ!


「痛い」


『岩壁に思いっきり行ったね』


「だな」


 速度はきちんと制御しよう。

 速度を落として円になるように飛ぶ。


「これで行く」


『器用だな』




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