3-1 達成
「できた!」
魔力感知ができた!俺は喜びのあまり床を転げ回った。
……なんで俺はこんな奇行を?
『よく分かんないけどおめでとうラウル!』
「ありがとう」
デヴィンも祝福してくれる。
周りにはポーションを飲みまくった後の瓶の残骸がたくさん転がっている。魔力感知を成功させるために消費したものだ。いいんだ、自作できるようになったから。
「見てたよなアルマ?」
「見てたよ」
「本当に?」
本読んでるようにしか見えないけど。
「見ててもよく分かんないしねぇ。主観でしかない魔法だ。とにかくおめでとうラウル。その瞬間に立ち会えて嬉しいよ」
アルマが少し目尻を下げてそう言ってくる。どうやら適当に言っているわけでなく、本心で言ってくれているらしい。
「だから、その……学院の講師の件、受けようと思う」
「そうか!今すぐ手配しよう。うん。ああ、でも勤務は学期初めからだからあと5ヶ月待ってもらうことになるよ」
「いいよ、そんくらいなら全然待てる」
むしろ就職まで暇な期間があるってのは嬉しいくらいだ。それだけ準備する期間があるってことだから。その間に俺の枠消滅しないか?くらいが懸念点。
「ほら、資料にサインして」
「はい」
わざわざ魔法を使って取ってくるのシュールだな。
▫
「ってことで晴れてニートは卒業したぞ、ばーちゃん」
「あらあら」
まずは家主であるばあちゃんに報告してみた。
アルマは俺がサインをした紙を持って学園に帰った。ばーちゃんには挨拶だけして帰って行った。らしいっちゃらしい。
「良かったわね、ラウル」
ティーカップを口元に寄せながら微笑みかけてくる。ばーちゃんは今日も深窓の令嬢みたいな言動をする。若い頃は本当にそんな感じだったんじゃないかと思わせる。
「ああ」
「あの、当然のことですよ?いつまでもパウラ様に頼ってないで自立してください」
今日の当番はアレクか。相変わらず辛辣だなぁ。挨拶代わりにお土産のペンを投げると、ため息をつきながら指2本で掴んでいた。本気で怒っているわけではないらしい。
ばーちゃんに向き直る。
「講師って給料少ないらしいから、しばらくはここに住むと思う」
「いいのいいの、いつまでもここにいなさい」
「さっすがばーちゃん」
「うふふ。あっそうだ、ラウルに頼みたいことがあったの!」
シワだらけになった顔でも輝きが一切失われない目がキラキラとこちらを見つめている。
「どうした?」
「私、今絵を描くことにハマってるでしょう?」
「そうなんだ」
初耳だねえ。
「次に描く題材はドラゴンにしたいのよ。せっかくなら爪はドラゴンの爪を削って作った絵の具で描きたいじゃない?」
「うーん」
ちょっと雲行き怪しくなってきたな。俺は後退るが、そこにアレクがいる。逃げられないらしい。
「取ってきてくれないかしら!」
ばーちゃんの目はキラッキラだ。全く悪意が無さそう。
「じーちゃんに頼めよ」
ばーちゃんの無茶ぶりを振られるのは基本的にじーちゃんの役目だ。惚れた弱みってやつなのかもしれない。
「今セインは大切な仕事でいないから……」
アレクを見る。
「先日の王女様誘拐事件があって国王様も警戒しておられます。大々的に調査を行っており、セイン様はその調査に加わっているのです」
「大変だなじーちゃんも」
60を過ぎた今でも機動力に関しては他の追従を許さないので、未だにこういった仕事も回ってくる。国王からの信頼が厚いからかもしれない。普通国王が娘と同い年だからってほとんど平民の男の子と遊ばせたりしないよな。そういうのもあったおかげでヘイマー家はなんとか建て直せたのでありがたい話ではある。
「ね、ラウル。おばあちゃんの頼みを聞いてくれるわよね?」
「ええ……」
嫌だ……。
「姉貴は?」
「今子育てで忙し……くはないわね。見てくれる夫が3人もいるものね。でも産後にあまり戦ってほしくないの」
「先日賞金首を捕らえていました」
「相変わらずすげえな姉貴は」
やはり姉貴の家は俺が知ってる時よりもう1人増えているらしい。1回くらい見に行かないとな。
「それこそアレクに頼めば良くね?」
アレクは俺の少し年下の剣士だ。とても強いので、どうして若いうちから名を上げることを捨てこの家の使用人をやっているのか不思議だ。クリスタは分かるんだがな、精神的にもろすぎるし安定を求めるのも分かるって言うか。
「ぐっ」
「どうしてそこで歯噛みするんだよ」
何があるのか知らないがアレクはドラゴン討伐に行きたくないらしい。
「まあ俺が行ってきてもいいけど、成功するとは限らないから他の人にも頼んだ方がいいんじゃないか」
俺はしぶとさに関しては自信があるので、無謀な挑戦も好奇心が刺激されるまである。あるが、1人でドラゴン討伐なんて成し遂げられるなら、それは英雄の類である証明足り得る。俺がその域に達しているかと言うとそんなことはないと思うので、やはり厳しい。
「傭兵ギルドに頼むのはマストでー、あとリーヌスも引っ張り出そうぜ?あいつこそ穀潰しだろ」
「リーヌスくんは少し苦手なの」
「そうか?分かりやすいやつだと思うが」
「パウラ様にあの狂人の相手をさせるつもりですか?」
「いや、さすがにそこまで言われるほどじゃねえと思うんだけど」
何?俺が知らない間に悪化した?
リーヌスがどんなやつだったか思い出す。精神が不安定すぎるのと幼女に対して異常な執着をしているのと、あと他人の話を全く聞かないで言葉をまくし立ててくることくらいしか覚えてないけど狂人呼ばわりされるレベルだったか?そりゃ姉貴と当主の天秤にかけて姉貴を選ぶレベルで人格破綻者ではあったが……。
「じゃあリーヌスの父親のえーと……名前忘れたけどギャンブル中毒のあの……人って俺から見たらなんて呼ぶんだ?」
「フワッフワですね」
「従伯父って言うのよ」
「はえー」
ばーちゃんが頬に手を当てて教えてくれる。
勉強になるけど名前は教えてくれないんかい。
「従伯父のおじさんには頼めないのか?」
「私疎まれてるみたいなの」
「さもありなん」
本当は従伯父のおじさんが継ぐはずだった地位をばーちゃんの差し金でじーちゃんに継がせたって経緯だったはず。それでやさぐれてギャンブル中毒になったとかなんとか。一応そちらは分家扱いなので金をせびりに来たことはないらしい。プライドが許さないだけかもしれないけど。
「まあドラゴンは無理にしても、なんかそれっぽいの狩って来るわ」
ワイバーンが残ってりゃ良かったんだが、もう解体が終わってあらかた売り払い終わってしまった。
「ラウルはいい子ね」
「そんなこと言うのばーちゃんだけだぞマジで」
「なら私以外は皆目が曇ってるのね」
……言われてるのが俺じゃなくて、かつ言ってるのがばーちゃんじゃなければいいセリフなんだけどなぁ。
撫でさせろと言わんばかりに手を差し出してきたので、そのまま頭を向けて撫でられておく。
「行くわ」
「いってらっしゃいませ」
「がんばってね〜」
2人から見送りの挨拶を言われたので荷物……と言ってもデヴィンしかないが、を持って立ち上がった。
……。なんか庭の方から怒鳴り声みたいなのが聞こえる気がする。
無視だ無視。気になっては、ない!
「……なあばーちゃん。これ放置してて大丈夫なやつか?」
「そう思うならラウルが会いに行ってくれてもいいのよ?」
「それは嫌だな。アレク、今日当番じゃないやつで雑用担当の人いねえの?」
「……。紹介すると思いますか?」
「しないだろうな。というかそんなこと言ってる場合じゃなくなったな」
バンと大きい音がして扉が開かれた。門番のドリスさんとデニスさんは突破されたか。
「おいパウラ!なんでオレの仕事がねぇんだ!?オレはこの前オークの大群を全滅させてきた!こんなことできるやつがオレに他にどこにいるってんだ。これで仕事が来ないのは、ヘイマー家の全権を握るお前の責任だろ!?」
ばーちゃんがニコッと笑いながらアレクの方を見た。アレクの顔は硬直している。ギギギと俺の方を見たので、笑顔でグッドサインを向けたら愕然とした顔をしていた。がんばれー。
「そもそもなぁ、親父が落ちぶれたのも元はと言えばお前の責任だろうが。どう責任取るんだよ、ああ?無視してんじゃねえよクソババア!」
「リーヌス様、その辺にしてください。いい加減にしないと追い出しますよ」
「へえ、誰かと思えばアレクじゃねえの。この前オレにボコボコにされたの忘れたか?」
「そ、そんなの前の話だ。今回は」
「オレに1回も勝てたことねえのに?オレが39戦39勝だったよなぁ?記念すべき40勝目をオレにくれるってか」
「……」
アレクが下を向いてプルプルしている。表情が見えないから何を考えているかまでは分からないが、戦える雰囲気じゃなさそうだ。アレクじゃダメか……。
「はあ、あのなぁリーヌス。久しぶりに会ったお前にこんなこと言いたくないんだが……」
「ルドルフ?影が薄くて気づかなかったぜ」
しばらく会わなかったから忘れてた辺りで暴言を吐かれると思ったので少し意外だ。まあその辺突っ込んだらリーヌスにも刺さるか。
リーヌスに止められなければ、自分で仕事取りに行けよって言おうとしていたが俺にもブーメランのようにその言葉が刺さることに気がついてしまったので言うのはやめておこう。
「ありがとう。とりあえず1回武器を下ろせ」
腰に剣を携えて門番の制止を振り切ってくるのはいくら親族でも普通に襲撃者だろ。
「そう言ってオレを拘束するつもりだろ。これだから本家の連中は!剣の家のくせに卑怯で陰険だな」
「……」
そうだったな。リーヌスは昔からこんな感じだった。これでコイツも悪意はないのだ。
本気で自分は悪くないと思ってるし、それで責められるのは相手が悪いからだと本気で思ってる。勘違いしてるというより精神構造からして人間社会を生きるのに向いてないので、正気を保つために無理やり見たくないものを見ないようにしているというのが正しい。
これで教師みたいなノリで反省を促そうもんなら精神不安定になり塞ぎ込むし、正義感のもと現実を教えれば多分コイツは耐えきれなくて死ぬ。
「何流されそうになってるんですか」
顔を青くしたアレクが俺の腕を肘でつついてくる。
「悪い」
俺は大抵この辺でめんどくさくなって立ち去るのだが、そうだ、今は俺1人ではないのだった。
「オークじゃなくてドラゴン倒しにいけよ。実際の大変さなんて貴族は見てねーよ。アイツらが見てんのは箔だよ箔。竜殺しならお前の性格でも護衛依頼来るんじゃねえの?」
俺が口角を上げながらそう言うと、リーヌスが口よどんだ。納得がいったならいいが、さて。
「なんでオレをそんな目で見るんだ?お前もオレが悪いとでも言うつもりか?鬱陶しいってか!?そうなんだろう、なあ!!?」
「落ち着けって。誰に対しても公平なのが俺の信念だ。お前も知ってるだろ。それを否定する気か?」
ヤバいな。俺もちょっとイラついてきている。おかげで今全く会話が繋がっていなかった。俺は流されやすいのが欠点で、そのせいでリーヌスの怒りに染まってきているようだ。
「……。セインがいればいいのに」
ほら、ばーちゃんから戦力外通告が来た。
俺は今のやりとりの中魔法でコッソリリーヌスの剣を糸で掴んでいたので、それを手の中に引っ張り上げる。
「なっ────」
はい驚くリーヌスの間合いを詰めて右ストレート。
ワンパンで沈んだ。まあ剣を持ってないリーヌスなんてこんなもんだ。
「剣を持ってても俺に拘束されるなんてな。しばらく会わないうちに弱くなったんじゃないか?って聞こえてないか、くくっ」
部屋の前で待機していたらしい使用人達が縄を持ってきたので、それを使って縛っておく。
「疲れたけど今度こそ行くわ……」
「ふふっ、ありがとう。帰ってきたらケーキと紅茶を用意しておくわね」
「いらねー……」
毎日ケーキは飽きたって何度も言っただろばーちゃん……。




