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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-11 悪巧み

「何を作るんだ?」


 手袋は別に爆発しないと分かってすっかり気が抜けて俺は、机の上でへばっていた。あ、ヨナスだ。手振っとこ。


 ヨナスを見てると、彼を口車に乗せて動かせばなんかいい感じで楽しめそうな気もする。せっかくだし昨日会った怪しげな謎団体に送り込んでみる?いや、意外と腕っ節強そうだし傭兵やらせてみるのもいいな。おっと、これはかなりいいんじゃないか?あとで適当に説得しよ。

 うん、すごくいい考えのような気がしてきた。傭兵は強さこそ正義みたいなとこあるしな。まあコネクションがないのは厳しいかもしれんが。


 待てよ?お姫様が地下迷宮攻略に護衛を欲しがってるって姉貴が言ってたな。俺としてはテオに行かせたかったんだが、アイツ変なプライドでも邪魔してるのか行きたがらなかったんだよな。今からヨナスを育成すれば護衛にできるか?というかお姫様自体普通に強いから護衛なんて形式上のものでいいわけで。護衛ついでに強くなってもらうと。ありだな。あのお姫様とは結構相性が良さそうな気がする。


 アンばあちゃんの弟子なんだから戦える魔道具士になれた方がいいだろ。知らんけど。


「えいっ」


「いてっ」


 アンばあちゃんの手刀!俺に1ダメージ!


「何すんだ」


「分かってきたわ!その顔は悪巧みしてる時の顔ね!」


「悪巧み……悪巧みか」


 あんまり否定できなかった。

 驚いた姫様の顔を拝むために盗聴だけじゃなくて映像も見れるようになんなきゃなとか考えていたところだった。さすがにやめとくか。


「それより手伝いの内容は?」


「今ラウルが耳につけてる通話用魔道具を作ります!」


「おおー」


「依頼主は録音機能つきをご所望なのよ。なにか案はあるかしら」


「今?」


 設計すらまだしてないのか。こりゃ先が長いぞ。


 そもそも魔道具ってやつは魔法ありきのもんだから、元になる魔法がないと今すぐどうこうってのは難しい。魔法でできないことをするってのが魔道具士の1つの命題なんだかとかなんとか。


「音を記録する魔法か」


 俺は音というか振動に関する魔法が得意なので、それに属する魔法は古い文献を引っ張り出してきたりして結構知っている方だ。

 音を記録する魔法、ある。というかそこそこメジャーな魔法だ。なんなら振動の魔法の中では通話の次に使われているんじゃなかろうか。

 今までその手の魔道具がなかったのが不思議だ。


「音を振動として亜空間に保存する魔法がある。ってことで、音を振動として保存出来る代替品があればいいんじゃないか?」


「その仕組みを使った録音する魔道具はあるわよ」


「あるんかい」


 あるらしい。当たり前か。


「通話と合わせるってのはあんまり見ないのよね。いっしょに搭載しただけじゃ2つの魔道具を同時に使ったのと変わらないし、ちょっと工夫したいなと思うのよ」


「さすがというかなんというか」


 やってることはすごいが締切をオーバーしてからやることでもない気がする。……依頼主は今の方が喜びそうだな。そもそもアンばあちゃんが期限を守ってんの見たことないしな!


「……。鳴らされても取れない場合に録音したいってことだよな?」


「あ、ああ〜そうよ」


 なんだその動揺した顔は。今まで気づいてなかったのか。


「通話が繋がらなかったら録音するように切り替えりゃいいんじゃないのか」


「そうね!」


「そう簡単に行きますか?」


 ヨナスがここで初めて会話に参加してくる。


「んにゃ。……。一定時間呼び出し音が鳴ったら自動的に録音機能が起動する感じにしようかしら」


「今日のアンばあちゃんは神がかってるな」


「依頼の期限が過ぎた師匠は真髄を発揮しますね!」


「どうしたの?めちゃくちゃ褒めてくれるじゃない。ちょっと怖いわね」


「普通に受けとめてくれ」


 なんでアンばあちゃんは微妙に自己肯定感が低いんだよ。


「デザインはもう完成してるのよ。もう少しシュッとできそうね!」


「ん?うん」


 シュッと?よく分からないけど良かった。


 アンばあちゃんが置いた模型を見る。模型だから何分の1スケールとかだと思うが、それでも大きい。


「さすがに耳につけんのは無理か」


「そこまで小型の通話用魔道具は高価だし、まだまだこの形が主流のはずだ」


 ヨナスが言った。なるほど。だから俺が耳に魔道具をつけててもイマイチ目的を果たしてくれないのか。


「やることが決まったんなら俺が手伝えることもあるよな?」


「もうだいぶ役に立ってくれたけどね。通話用魔道具の方を作ってくれるかしら」


「おーけー」


 材料は、あるな。ないわけないか。


 石を使って板を振るわせるってのがこの魔道具の仕組みだ。その振動を宝石で発生させればいいってわけ。宝石から抽出した力を磁力に変えて石の振動数を操作し、その振動数を合わせることで対話を成立させる。


 ってことでこれとこれと針金と、よし、これを組み立てればいい。魔法と違って、魔道具は通話する相手を選べない。ということで1セット用意してある。


 黙々と組み立てて行く。飽きてきた。



 ▫


「終わったー」


『おめっとー』


 俺は魔道具を組み立てる前と同じように机に突っ伏す。

 コール音の数で録音と切替える仕組みはアンばあちゃんが作ってんのかね。何しろ俺が1番早く作業が終わったらしい。暇だ。と思ったらヨナスが来た。


「手伝おうと思ったんだが……」


「終わってるぜ。なあヨナス。お前傭兵に興味ない?」


「ええとそれはどういう?」


 ただ困惑する様子を見るに、既に傭兵をやってるってわけでもなさそうか。


「優れた傭兵をそこそこ出してるヘイマー的に言わせてもらうと、お前は戦う才能があると見たね」


 机に突っ伏したまま決行だ。成功率は下がりそうだけどまあいいや。成功したら俺が楽しいってだけだし。


「お前アンばあちゃんの弟子だろ?やっぱ自分で素材を取りに行ってこそだと思うわけ」


 右手をあげて一本指を立てて揺らす。


「しかし、傭兵ってのは仲間がいないとなかなか厳しいもんだ。生存率しかり依頼の受注しかり」


「ああ」


「俺はヘイマーだからな。最強のコネを持ってる。ってことで、お前の──ヨナスの良いステップアップになりそうな依頼を持ってんだよ。受けるって言ってくれるよな」


「それは……俺が受けていいものなのか?」


 さすがにこれだけじゃ首を縦には振らないか。

 昨日の怪しい勧誘に、簡単に乗ってきそうな雰囲気だったから今回も行けそうだと思ったんだがなぁ。アンばあちゃんに何か言われたのかもしれない。


「さあね。でも多少は戦えるんだろ?アンばあちゃんの弟子だし」


「それは……そうだが」


「じゃあ大丈夫だ。大して危険じゃないダンジョンのただの護衛依頼だよ。護衛対象は強いしお前は立ってるだけで良い。傭兵なら誰もが飛びつくような条件だ」


 良かった。戦えないとか言われたら今までの流れが全否定されるところだった。

 顔を上げて俺はヨナスに軽く笑いかけた。


「分かった……受ける」


「そう言うと思ってたぜ?これが依頼内容な」


 その辺に落ちていた紙に、俺が意図的に隠した情報以外をササッと書いて渡す。ヨナスはそのまま考え込むように、この部屋からいなくなった。


『ラウル楽しそうだねー』


 昨日よりもちょっと大きくなったデヴィンが巻きついていた腕から頭をもたげて興味深そうに言った。


「ラウル、完成したかしら?」


 ほとんど入れ替わりで来たアンばあちゃんがデカイ何かを台車で引いて持ってきた。


「うんまあ一応」


「よーし、じゃあこのまま完成させるわよー!」


「うん頑張ってね」


 よし、俺は昨日のリベンジでパン買いに行くか。

 ……。


「もしもしアルマ」


 俺は部屋から出て、こっそりと耳につけている通話用魔道具を起動した。ついでに付けた機能を使う時が来るとは。

 ワンコールでアルマが出た。


「「どうしたんだい?」」


 反響したような音が聞こえる。

 音量はそこそこあるが、アンばあちゃんは今集中しているので、気づかれないだろう。一応見える位置で立ちながら電話を続ける。


「今暇?」


「「暇だね」」


「あのさ、アンばあちゃんに対してパン転送してくれない?おいしいやつを1ヶ月常食できるくらい」


「「サプライズ好きのアンにサプライズをするってわけか。いいよ」」


「わーい、アルマ大好き」


「「はあ」」


 そして向こうから通話を切られた。

 次の瞬間大量のパンが置かれた籠が作業をしているアンばあちゃんのすぐ後ろに落ちてきた。……あの、速すぎません?


「なんの音!?」


 当然驚くアンばあちゃん。


「……アルマからのプレゼントだよ。代金は俺が払うかもしれないけど」


 俺はまともな説明をすることを諦めて、ちょっとカッコつけながら言った。


「そ、そう……ありがとうって言っておいてくれるかしら」


 さすがのアンばあちゃんも顔を硬直させている。そうもなろう。今の作業が終わってから説明してそれからパンが降ってくる流れが理想だった。


 まあでもアンばあちゃんも動揺しつつも高速で手を動かしてるし、支障になってるわけでもなさそうだしいっか。さっさとアルマに頼れば良かったな。……でもなぁ。


「お、終わった!終わったわ!」


 それからしばらくして、半泣きでアンばあちゃんが叫ぶように終わったと言った。感極まっている。


「おめでとうアンばあちゃん」


 俺は昨日読んでた本の続きを読んでいたわけだが、そんなことは微塵も感じさせないような笑みを作り、アンばあちゃんにハイタッチを促した。ハイタッチを返してくる。


「間に合った!間に合ったわ握手会に」


「……」


 あったなそんなのも。


「もちろん着いてきてくれるわよね!」


「えっ」


 俺が女性が大量に押し寄せるイベントに巻き込まれるまであと数時間───────。





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