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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-10 真相

「あーパン買えてねー」


『ラウルって時々とんでもなくアホだよね……』


「違いない」


 若干ぼんやりする。食事の代金はもちろん払った。俺は彼らに別れを告げ、1人で帰るところだというわけ。

 門の前まで来た。


「どうしたのラウル?」


 後ろから声をかけられたので振り返るとアンばあちゃんがいた。


「や、昼飯食いに行っててな。アンばあちゃんこそどうしてたんだ?」


「私はステーキを食べに行ってたのよ!魔道具もあと1つだからね!」


 気合いを入れるためにってことか。昼飯はアンばあちゃんについていきたかったな。まあ今度連れて行ってもらおう。


「溶液を見てくれ。一応?完成した」


「いいわよ」


「助かる」


 無言で歩く。


「いつもと様子が違う?なんかあった?」


「お酒飲んできたから」


「そっかー。もうそんな歳だったわね」


「だいぶ前からな」


 着いた。水を汲んで一気飲みをする。少しマシになった。


「どう?」


「んー。完成って言っていいかも」


「本当か!?」


 この長かった戦いがようやく終わるのか!


「さすがねぇ数日でここまでできるようになるなんて」


「はあ」


「じゃ、私の方を手伝ってちょうだい」


「え、手袋は?」


「依頼が終わってからに決まってるじゃない。ルチアーノ様に会うためにがんばってるのよ!」


「……」


 あの吟遊詩人か……。様づけか……。


「そういやこの辺で黒髪って珍しいよな?」


「そうね。それがまた神秘的で美しくて……」


「はいはい」


 若干気持ち悪いアンばあちゃんの発言を雑に流す。男に美しいって表現普通使うか?そういや握手会の券並ぶ時に言ってる女がチラホラいたような。俺の知らない文化だがそういうこともあるだろう。貴族の生活が書かれたノンプライバシーにもほどがある雑誌とかだとそんな表記も見たような気がする。無くはないのか。


「で、手伝いって何するんだ?」


「酒が抜けたら説明するわ」


「了解」


 そのままアンばあちゃんは手を振って工房に帰って行った。


 俺は1回寝ろってことか。

 まだ夕方だから寝るには早いがどうしようかな。

 本でも読むか。

 今日は市民を救う正義心に溢れたカエルの話でも読もう。さっき帰りがけに買ったんだ。少々値が張るらしいが、それに見合う価値はある。



 ▫


 コメディだと思ったが結構重い話だな……。


 海底の王国から来た王子らしいこのカエルは、滅んだ故郷と同じ目に遭わないようにと人間世界を守っているらしい。カエルが海ってのもよく分からないが、そんなのが気にならないくらい面白いぞ。ベストセラーなだけある。

 スーパーパワーで怪物と融合した悪の領主をなぎ倒すところなんて特に最高だ。

 領主の城の庭にいたカエルのお姫様と落ちる恋──なんてのも物語を彩る良いアクセントだな。幼い頃はこういう物語の恋愛シーンは楽しいアクションシーンや冒険パートに挟まるつまらない話だと思っていたが、今じゃ普通に楽しめる。他人の恋路はエンタメだと学んだのだ。やっぱ物語は緩急あってこそだよな!これが大人になったってやつか。


「ソファに座りませんか?」


 1人でうんうんと頷いていたら、後ろから話しかけられた。振り向くとヨナスさんがいる。


「ああ、じゃあお言葉に甘えて」


「それは最近流行りの小説ですか」


「ええまあ。子ども向けと言われるかもしれないけど俺は昔からこういうのが好きで」


「いえ。俺も好きなので」


「後で貸そうか?」


「ぜひ」


 おお、これは仲良くなれそうな流れじゃないか。

 これくらいで仲良くなれたら苦労しないんだけどな。


 ソファに座る。ヨナスさんは座らないらしく俺の前に立っている。


「そういやお兄さん……って俺と同い年くらいか。ヨナスって呼んでいいか?」


「え、ええ」


「お前もタメ口でいい。ヨナスがあの弓作ったんだよな?あの黒いやつ」


「そう、だ」


「いいね!才能あると思うぜ?」


「い、やそんなことは」


「おいおい、俺の言葉が嘘だって言うのかよ?」


 ヨナスが首を振る。


「組み合わせにパターンがあると見た、量産可能なように作ってるな?」


「う、分かるか」


「分かるぜ?他の人でも再現できて、同時にたくさん作れる。比較的安価に作れる。これってすげえことだと思う。自分で商売として立ち上げてみないか?その伝手は俺が引っ張ってくるか、ら、って何すんだアンばあちゃん!」


 話途中だというのに、首根っこを掴まれている。


「ちゃんと鍋に蓋をしているか見に来たのよ」


「してるが」


「見てきたわ。えらいえらい」


「うん。で?なんで俺はそのまま引っ張られてるわけ?」


「……本当に誰にでもあんな感じなのね」


「はあ」


 なんだあの怪しい商売人みたいな誘いは、と怒られると思っていたので少し気が抜ける。


「もう少し距離感考えなさいってのも違う気がするし……ユヴィドとはまた違った厄介さがあるわね……」


 アンばあちゃんが何やらブツブツ言っている。まあ俺とアンばあちゃんは関わりがあまりないので知らないこともあるだろう。


 しかし何故姉貴の名前が?姉貴よりもコミュニケーションは取れるが親しくはなりたくないと一族の間で評判なのが俺だ。その辺の話かな。まあ姉貴はなんだかんだ身内には優しいから。


「その、ね。ヨナスは……同性愛の疑いで1回捕まったことがあるのよ。証拠不十分ですぐ解放されたけど」


「……。あー」


 昔色々あって実家を出るはめになったとか、腕がいいのに店が成功しなかったとか、街の人の目線がなんか怖かったのとかそういうことか。なんか納得いったわ。

 それを勝手にバラしていいのかとも思ったが、どうせ俺が本気で調べればすぐ分かることだ。


「まあ男娼を買った、とかじゃないならいいんじゃね?」


 同衾したら刑事罰になるからな。それで知り合いの知り合いが牢獄送りになったとか聞いた。


「あんまりあの子を勘違いさせるようなことしないでね!」


「はあ」


 アイツそこまで恋愛主軸に生きてるタイプじゃないだろ。

 アンばあちゃんの恋愛脳もここに極まれり、か……。

 ……それが高じてか後ろ指さされまくってんだろう弟子をこうして匿っているのだろうからあんまり責められないが。


「デヴィンー、そこんとこどう思う?」


『えー?別にいいんじゃない?』


「だよな」


「……。とりあえずもう寝なさい」


「床で?」


「床で」



 ▫



「はよー」


 酒は多分抜けた。

 昨日は酔っ払って少し慎重さが欠けていたかもしれない。前から?それはそう。


「おはよう」


 もう起きているアンばあちゃんが挨拶を返してくる。

 そしてついてきなさいと言って歩き出したので、眠気まなこを擦りながら俺もついていく。


 俺が溶液を作っていた部屋についた。


 アンばあちゃんが覚悟を決めた顔をして、蓋が閉じてある鍋を指さす。俺ががんばって作った溶液だ。

 アンばあちゃんが真剣な表情で口を開く。


「この液体ね、実は緩衝材じゃないの」


「へ?」


 なんだって?


「その手袋にはそもそも反応して爆発する液体なんて入っていないわ」


「はあ!?」


「当たり前でしょう。液体は振動に弱いもの。そんな馬鹿なことしないわよ、私だって」


「……。じゃあ俺が必死こいて作ったこの溶液は……」


「あ、それね。魔力回復ポーションよ。ほら、アルマがよく飲んでる」


「なん」


「そんな感じの色してるでしょ?」


「い、言われてみれば……」


 液面に顔が映るまで鍋を覗き込むと、確かに俺がこの前飲んだ液体と同じく形容しがたい色をしている。


「私なら本当に爆発させると思った?」


「はい」


「そんなすぐに認めなくてもいいじゃない!失礼しちゃうわ」


 あの、日頃の行い。

 グリフォンを本気で狩ろうとしてたの忘れてねえぞ。あれほとんど犯罪だろ。俺の手袋を爆発させる方がはるかに罪軽いだろ。


 そこで1つおかしいことに気づく。いや、これがあったから俺は、ちょっとおかしいなと思っても手袋に爆発物が仕掛けられていると本気で信じたのだ。


「ジルちゃんが嘘つくとは思えねえんだけど」


 ことの始まりは、ジルちゃんが俺に話してきたことだろう。ジルちゃんが、この手袋にイタズラがされていると伝えてきたから俺は疑わなかった。


 ジルちゃんが嘘をついているところなんて見たことがない。2人で共謀したにしても人選が謎すぎる。


「?私が嘘を伝えただけよ」


 ……。ああ〜、この倫理観をどこぞに置き忘れてる感じ、アンばあちゃんだ。古くからの付き合いの、それも嘘を嫌うジルちゃんに意図的に嘘を伝えさせるとか最悪にもほどがある選択。自分が今やりたいことをするためなら、未来の自分がどうなってもかまわないとすら思っていそうな行動。

 そういうところ嫌いじゃないけど。


 ジルちゃんを選んだのも、あくまでその方が俺が信じやすいからって考えて手段を選んだだけなんだよな多分。アンばあちゃんは基本的に悪気がないから。


 それはそれとして。


「なんで俺を騙してわざわざポーションを作らせてんだ」


 俺が魔力不足に悩んでると知って気を利かせたんだろうが、普通にレシピを教えてくれるだけで良かっただろ……。


「んー。そっちの方が面白いと思ったからかしら。どう?化かされた気分になったんじゃない?楽しかったでしょう」


「ぐ……」


 実際かなり楽しませてもらったので、悔しいが俺はアンばあちゃんのその言葉を否定できない。


「自分が騙される立場になりたいだなんてなかなか屈折してるわよねー、ラウルも」


「?」


「こっちの話」


 うふふとアンばあちゃんが笑った。

 続けて聞きたいような気もしたが、その笑みを見て、答えを聞くのは野暮だなと思った。教えてくれるとも思えないし。


「それに、ポーションが自分で作れて悪いことはないでしょう?」


「それはそうだが……」


 俺が魔力不足に悩んでるのは事実だ。このポーションを自分で作れるようになれば、多少状況はマシになる。

 結果的に見れば、確かに俺のためになってるのは間違いない。まさしく化かされた気分だ。


「ちなみに依頼の締切が重なってんのは?」


 あれも狙い通りだったりする?


「……」


 ああ、うん。アンばあちゃんがスッと目を逸らした。その反応で分かるわ。あれは俺へのイタズラとなんの関係もないわけね。うん。あのさぁ。





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