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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-9 管理が杜撰

 ってことで日を改めて、俺は手順通りに、いや煮詰める時間に他の作業を行うという改変くらいはしたものの真面目に溶液を作った……が、普通に失敗したのだった。


 多分なぜか床下にあった精霊樹の根が劣化してんじゃないかと俺は思った。



 ▫



「結局まだ依頼は終わってないのか」


「うっさいわねー」


 濃い隈の目をしばたたかせながらアンばあちゃんが言った。

 3日が期限って話があってから4日目なんだよなぁ。結局間に合ってないじゃねえか。


「そういや精霊樹の根ってなんで根を使うんだ?」


「ん?ああ、今ラウルがやってるやつね。精霊樹に入っている成分を使いたいんだけど、乾燥させると根くらいにしか残らないのよ」


 新鮮なら枝でもいいってことか。じゃあ引き出しにあったあのかっさかさの枝は元々新鮮な枝だったのかもしれない。


「なんで床下に入れてたんだ?」


「根って土の中にあったものでしょ?自然と同じ状況に置いた方が持つと思うのよねー」


 なんてずさんな管理なんだ。俺も人のこと言えないけど。そういやワイバーンをお土産に持ってった方が良かったか?


「……最近精霊樹の根使ったか?」


「使ったわよ?」


 アンばあちゃんが使うとキチンとその効能を発揮するらしい。ああ、そういや俺の作った溶液は薄いんだっけ?じゃあ慣れてるアンばあちゃんが使えば使えるのかもな……俺は慣れてないからなんか薄くなるってことで。しかし精霊樹ってどこにあるんだ。この辺の屋台じゃ見なかった気がするが。


「精霊樹ってどこに売ってんの?」


「売ってないわよ?貴重素材だし」


「え?」


「あれは私が取ってきたのよ!」


「すっご」


 傭兵ギルドでもゲットできないんだろう素材を単騎で取ってくるアンばあちゃん。


「どこにあんの?行けそうなら行くわ」


「んー。あんまりオススメはしないわよ。精霊界と人間界の狭間にしか生えていない木だからね。私もさすがに最近は行けてないわ」


 どこだそれ。とりあえず危なそうだということは伝わった。1日や2日じゃ行けなさそうだってことも。


「そういえばパウラに枝をあげたこともあったわね」


「ふーん」


 そういえばばあちゃんが育てていた木の中に今俺が持っている精霊樹の枝と似たようなものがあった気が……。…………。


「なあデヴィン。庭の山近くの右奥の方にあった木の枝とこれの一致率を教えて」


『んー。ん?うん。遺伝子99.9%一致だね!同じ種類の木だよ』


「なあアンばあちゃん。ばーちゃん精霊樹の植え付けに成功してるぞ」


「……え?」


「ちょっと取ってくるわ」


 返していない靴を使って全力ダッシュだ。

 ……いや、返すタイミングがなかっただけだから。



 ▫



「ってことでこれが取ってきた葉っぱ……」


 あれ、いない。そりゃそうか。アンばあちゃんは魔道具を作るので忙しいのだった。


 この葉っぱどうしようかな……。

 そうだ、根っこの代わりに溶液にぶち込めばいいんじゃね?


 めんどくさいし昨日の溶液に入れるか。

 大量にあるパンをひとつ抜き取ってかじりながら考える。


 プチプチ葉を取ってたら、ばーちゃんに普通に見つかって籠いっぱい分の葉をくれたからな。落ち葉だからいいとかなんとか。それ他の葉っぱも混ざってね?とは思うが、毒のある木は別の場所に隔離されてるはずなので溶液に入れても支障はないはず。多分。1回くらいなら全然失敗できる。量は……どうしたもんかね。


 とりあえず昨日の溶液捨ててなくて良かった。一からあれを作り直すとか発狂もんだ。錬金術師ってすごいな本当に。


 とりあえず中和液で1回混ぜてから投入、と。

 うむ。成功したかどうか全く分からないぞ。


「昼ごはん食うか」


 昨日はパンをかじって昼飯と夕飯を終えたが、アンばあちゃんに食いすぎだと怒られたのだ。その補充がてら何か食いに行こう。どこのパンがいいとかこだわりあんのかな。ヨナスさんに聞きゃいいか。


 探しながら歩くがヨナスさんが見当たらない。

 んー、とりあえず入口に向かうか。


「あ、ヨナスさん」


「すみません、ちょっとこの魔道具届けに行かないといけないので!」


「はあ」


 大きい鉄の塊みたいな物を担いでそのまま足早に去って行った。

 ……パンのこと聞けなかったな。まあいいか。


「俺が忠告無視したこと怒ってんのかな?」


『多分気にしてないと思うよ』


「ふうん。デヴィンが言うならそうなんかな」


『そうそう』


 なんて言いながら外に出る。

 武器に人の機微なんて分かるのかという話だが、俺よりは分かるんじゃないか。基本人気者だし。


 パンどこに売ってたかな。早歩きをしながら流れていく屋台たちを眺める。


「何かお探しですか」


 前方から声が聞こえたので思わず止まる。

 目線をそちらに向けると先日会ったエルフがいた。あれから数日経っているし帰ってきててもおかしくないか。


「ああ……」


 めんどくさいな。そう言えば俺、人外だってことになってるんだったか。ついでに危なそうというか新しい思想持ちでそれを否定せずスルーした。仲間意識でも持たれているのかもしれない。


 いや、少し考えろ。この男と仲良くなればワンチャン他のエルフも紹介してもらえるんじゃないか?仲良く……できる気は全くしないが。


「昼食を」


 パンの話はダサいのでしない方針で。ポケットの中で小さい蛇になって俺の指に巻きついているデヴィンが動揺したように動いた。最近はデヴィンの中で爬虫類がブームらしい。


「そうなんですか。私もちょうど食べようと思っていたところでして。同伴しても?」


 ……。名前も知らないのになんで?ああ、でも居酒屋とかだと初対面の人と一緒に酒を飲みながら話したりするんだったか。俺には馴染みがなさすぎるがそういうこともあるか。


「別にいいが名前を教えてくれ。ああ、俺の名前はルドルフだ」


「エミルです」


「馴染みの店でも教えてくれるのか?」


「そういう話でしたね。いいでしょう。私の友人がやっている店です」


「ほお」


 今のところ怪しさしか感じないが、まあなんとかなるだろう。いざとなったら走って逃げよう。

 デヴィンが抗議なのか俺の爪をガジガジ噛んでいる。


 話すこともなく、無言で……エミルさんか、の後をついていく。

 しかしさすがエルフ。目線が集まる集まる。なるほど、エルフから見えてる世界ってこんな感じか。勉強になるな。好奇の目、崇敬の目、好意や嫉妬。


 俺がその様子を興味深く見ていると、目が合った人からスっと目を逸らされるのは結構こたえるがいいや。いいということにしておく。


「ここです」


「へえ」


 居酒屋か。昼からやってるのが気になるくらいであとは普通だ。路地裏にあるので少々怪しさはあるが、俺が入りやすそうな店で助かる。


「いらっしゃいませー」


 10代半ばくらいの可愛い女の子が扉を開けて迎えてくれる。……居酒屋には似つかわしくない。


「エミルさん、お久しぶりです!」


 どうやらこの女の子はこのエルフにゾッコンらしい。目がハートになっている気がする。エルフと人間ってそういう仲になれるっけ。ああでもハーフエルフとかいるって言うしいけるのか。ってのは下世話だし野暮だな。恋する少女はいいものだし、俺は裏から応援するくらいに留めようじゃないか。


『またラウルが気持ち悪いこと考えてる……』


 なんか声が聞こえる気がするが気のせいだろう。


「こちらは?」


 当然のようにその少女の目線は俺に移る。


「ただの知り合いだ。この居酒屋は俺も利用できるんだよな?」


「もちろん!」


「良かった」


 食い入るように言われて俺は若干引いた。

 案内されるまま椅子に座り、メニュー表を見る。

 普通だ。特に気になるものもないので、無難に量が多そうなものを頼もう。


 店の中を見渡すと、昼なのに客が結構入っている。……あんまり居酒屋っぽくない客層だな。上手くは言えないが、大学生のような雰囲気の人間が多い。学があるというか頭でっかちというか。

 おかげでどれが量が多いのかよく分からない。


 そういえばこの店に入ってから目の前のエルフを見る目が少ない気がする。やはり常連以外お断りの店なんじゃないのか。


「どれが量多い?」


「ここは居酒屋なのでどれも量はあまり多くありませんよ」


 ……。そりゃそうか。酒を飲むこと優先で、腹を満たすことはあまり考えない方がいいな。酒か。


「じゃあこの海鮮のソテーで」


 頼んでいる人が多そうだったので頼んでみる。


「私はサラダでお願いします」


 エルフってのは燃費がいいんだなと思いつつ、注文が終わったので盗聴を開始することにした。雑音が多くて拾いにくいな……「ルドルフさん?」


「へ?」


 どうやら呼びかけられていたらしい。


「お酒はどうしますか?」


 夕方にさしかかっているとは言え昼から酒か。どうやら目の前のエルフは酒豪らしい。


「いや俺酒はちょっと」


「このアルコール度数が高い酒はどうですか?」


「……飲む」


 サラマンダー。名前からしてヤバそうな酒だな。注意書きがある。アルコール度数98%!?そんなのもう酒じゃなくてアルコールだろ。

 俺は酒を飲んでも一切酔えないので飲まないのだが、これは好奇心が刺激される。


「何で割りますか?水?」


「ストレートで」


「え?」


「ストレートで」



 ▫



「ここは富や地位の差のあり方を語るを場所なんです。もちろん1週に1度くらいですけど」


「へー……」


 そんな場所に俺を連れてくるな。


 酔いが回ったらしく興奮したように言うのを俺は興味深く見た。

 実際それは間違っていないようで、早口でまくし立てる学者もどき、いや学者なのかもしれないが、なんかが散見される。


 貴族廃止論だなんだと結構過激思想だな。今摘発されたら俺ごと捕まるんじゃないだろうか。

 家名伝えなくて良かった。


「……全然酔っ払ってませんね?」


「いや、いつもより頭が冴えてるから多分普通に酔ってる」


 余計なことが考えられなくなっているとも言う。

 ここまで来るのにかなりの量を飲んでいるから再現は難しそうだが、俺も酔えると分かったのは収穫か。


 立ち上がって隣のひょろ長い男と、背の低い女性の組み合わせに話しかけることにした。


「主権は人民が持つべきだって?詳しく聞かせてくれないか?興味がある」


「そうだ、1度民が主権を握り、あり方を考え直すべきだ。今の王家じゃ意味のない税とわけの分からない領の分け方で人民は苦しむだけだ。隣国みたいに新しい王を引っ張って来るのもいい」


「なるほどそりゃいいね」


 適当な相槌を打っておく。


「今の階級社会じゃあの名高き英雄アンヘルム様が認められることもない!本を書くことだって許されず、魔道具技師として生活する他ないなんてあんまりだよ!」


 女の方が言った。そう、この言葉が聞こえたから話しかけてみたのだ。


「身分が高いからと言うだけの理由で、あの功績はイーディス・カリデアとその一行としか書かれてない!それってあんまりじゃない?」


 そんなことになってるのか。って俺も学びはしたんだが、軍事教育だからだとばかり。そうか、田舎の平民生まれのアンばあちゃんは立場が弱いんだ。学もないから論文も出せない……。


「それをお前が変えるんだろ?」


「当たり前」


「いいね。嬢ちゃん。このレディにワインを1杯」


「はーい」


 店員の女の子を呼ぶとすぐ来てくれる。店がこんなことになってて本当にいいのか。


「あの子は親がいません。有志がお金を出資してそのお金を元手に店を開いているんです」


 口にでも出ていたのか、俺の疑問にエミルが答える。


「その有志ってのはお前か?」


「いいえ。一食客程度にそんなお金はありませんよ。この店を開くにあたって少し手助けはしましたが……」


「ふーん」


 なんであの女の子に惚れられてんのかなんとなく分かった気がする。


「生きていくために場所を貸してるってわけか」


 苦労してんだな。

 そこそこ空腹も紛れたしそろそろ外に出るか。

 あ、そうだ。


「なあ、俺アンヘルム・ハーバーと知り合いなんだけど家来ない?」


「はあ?」


 さっきの女性にそうやって言ったら怪訝そうな顔で睨まれた。……ナンパだと思われたな。






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