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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-7 天日干し

「っつうことで、何する?」


 アンばあちゃんの家に大量に置いてあったフランスパンをかじりながらデヴィンに聞く。


『いい日差しだねぇ』


 今日は外に出ている。エネルギーが必要なデヴィンの天日干しも兼ねてだ。


 予定は特に考えていないが、あの店に籠っていてもやることがないので外に出ている。魚や外国の花瓶なんかが売っていて多少新鮮だ。


「んー。迷宮行くのもありか。この辺に1回行ったことある迷宮あるし」


『いいねー!店に戻って魔道具借りてこよーよ。どれだけタイム縮められるか興味あるかも』


「いいなそれ、天才か?」


『でしょー』


 今日はイグアナの気分らしく、肩にひっかかっているデヴィンを撫でる。


 セルフRTA。いやまあRTAってそもそもそういうもんだけどな。


「俺が履けるか知らんけど加速する靴はマストだろ?」


 アンばあちゃんが使っていた靴を思い出す。あの靴を使ったアンばあちゃんは俺より速かった。期待できる。


『だねー。どこのダンジョン行くの?』


「俺らが3回目に行ったとこ」


『おー。何故か日差しがあったとこだね?』


「そうそう」


 よく覚えてるな。

 その地下迷宮は地下にも関わらず昼間のように明るいことが最大の特徴で、植物系モンスターが多かった。

 どうやら物知りなデヴィンでも地下迷宮の中で日が照っている理由は分からないらしい。


「そこでもエネルギー補給できるんだろ?」


『うん。ラウルってば最高!超かっこいい!』


「ようやく分かったのか?」


 早朝だから人通りは少なく、俺達が話していても気に止める人はいない。気軽で身軽。早起きした人間の特権だな。


 歩くと分かる。俺は恵まれた人間だってことが。夜歩けば宿無しの子供達が1つに固まって寝ているのが目に入った。この街は治安も悪くないと思うのだが、それでもそんなもんだ。


 祖父の物とはいえ、金がある。身分がある。生きていく術がある。

 この国は平和だが、少し出れば戦争がある。


 ……分かってるさ、俺が甘ったれなんだってことは。人通りの少ない今スリをやろうとした勇気ある子供を蹴飛ばしながら思った。見るからに強そうな俺に立ち向かって来るとか本当に勇気あるな。それともあまりスリに慣れていない?仲間もいなさそうだし、ここに来たばかりなのかもな。


「靴磨きとかから始めろよ」


 俺は呻く子供に首を傾げながら言った。目線を合わせるために屈んでやったりはしない。向こうもそれを望んでいないだろうから。


「すぐに金が必要なんだよ……!」


「ふーん。なんで?」


「病気の妹が……」


「どこにいんの?」


「こ、こっち」


 怯えたような少年の後ろを着いていく。警戒心の欠片もないな。俺が子ども2人を捕まえて売っぱらう悪い商人かもしれないのに。いや、警戒心がないのは俺も同じか。案内された先で、大勢にボコされる可能性だってある。そんなことしてなんの得が?とも思うが、幼い頃の俺はちょくちょくそういうのに巻き込まれた。だいたい姉貴の敵だったけど。テオは上手くやってるといいな。


 こんなことをして俺にも得はないが気まぐれだ、その勇気に免じて話くらいは聞いてやろうじゃないか。本当に病気の妹がいるのかは知らないけど。これも俺が強いからこそできる手段だよななんて思いつつ。着いたらしい。


 狭い路地に長い髪の華奢な少女が重ねられた紙の上に寝かせられていた。


 少女は顔が赤く息が荒い。どうやら少年の言っていたことは正しかったらしい。しかし見たところ思ったより悪くなっていなさそうだ。生育環境の良くない孤児ならこんな病気はよくあることじゃないのか?そう疑問に思うが、俺には関係のないことなので、何も言わないことに決めた。

 俺は無言でその少女に“奇跡”を使った。これくらいなら俺でも治せる。少女の息は落ち着いて、肌色も良くなった。


「これでひとまずは大丈夫だろう。困ったら教会でも行くと良い。信心深い子供には優しいからな」


「へ、ヘルタ!?大丈夫か!?」


「に、兄……さ、ん」


 感動したように抱き合っている。少女は意識がなかったのかもしれない。その様子から見るに俺の言葉が聞こえているかも怪しいが、別に構わない。大したことは言っていない。


 俺はそのままそこから立ち去った。


 地下迷宮に行かないといけないしな。準備もあるんだから時間はあればあるほどいい。

 今から行くのはRTAに使われていた初心者向けの地下迷宮の1つだ。


『人助けなんて珍しいね』


「……そんなことはないんじゃないか?」


『いやー。あんまり自主的にはしないでしょ』


「まあそうだな」


 キリがないしな。あれもこれも人のためにって行動するのはなんだか無責任な気がするのだ。

 人は平等には生きられない。万人に奉仕をしようと思っても、好かれやすく愛嬌があり見るからに哀れな人間を皆助けてしまう。本当に助けが必要な人間は誰にも助けてはもらえない。それは平等じゃないし、やはり無責任だと俺は思う。


 今回のあの少年は俺を楽しませたからその対価にサービスをしたというだけの話だ。これなら対等だ。


 とか言いながら歩いていると、アンばあちゃんの店に着いた。俺はあんまり道に迷わないので、道草を食っても目的地には辿り着く。思ったより近かったな。


 庭先にいたヨナスさんに会釈しながら入る。


 アンばあちゃんがいるのはこの部屋かな。昨日アンばあちゃんが寝室として使っていた部屋の戸を開ける。


「ん?帰ったんじゃなかったの?」


 キョトンとした顔のアンばあちゃんが出迎えてくれた。

 そういえば1回気分転換に外へ出てるって伝えてなかったな。


「いや、溶液混合の再チャレンジはするよ。あのまま帰ったりはしねぇよ、さすがの俺も」


 手袋の件全く解決してないし。

 弁明は済んだところで、本題に入る。


「今から地下迷宮行く予定なんだが、装備を貸してくれないか?」


「えー……」


 露骨に渋られた。タダじゃ無理か。


「ほら、その謎の液作ったじゃん?俺」


「そうね。謎の液というか、油よ。取り扱いには注意しろって言った気がするんだけど……ま、いっか」


「うん」


「確かによくできてたわね。とはいえさすがに全部貸すわけにもいかないわ」


「まあそりゃそうだ」


 ジルケだったら言えばなんでも貸してくれそうだが、アンばあちゃんはそうではないだろう。プロ意識が高くていいと思う。


「この前見せてもらった空中を歩ける靴。俺はあれが1番欲しい」


「ああ、あれね。うーん、サイズが合わないわよね」


「そうか……」


「ん?そう言えばヨナスに合わせて作った気もするわね」


 ヨナスさんは俺より身長が低い、とはいえ体格はいい方だ、ギリギリ履けるかもしれない。……ギリギリ履ける靴を履くってのはちょっと気が引けるな。壊しそう。


「待ってなさい、この棚にあった気がするから」


 あ、ヨナスさんのってわけじゃないのか。じゃあいいか。


「あとは懐中時計とモンスター避けができる何かをアンばあちゃんにねだろう」


『懐中時計ってラウル持ってなかったっけ?』


「持ってるけど今から家に帰んのはな」


『ボクがストップウォッチやるよ』


 ストップウォッチって何?文脈からするに時計の代わりになってくれるということだと思うが。


「んじゃモンスターの遅延行為を避けるために何が必要なのかってのを考えないとだな」


 そのままアンばあちゃんに言えばどうにかなるか。


「持ってきたわよー」


「ありがと」


 持ってきてくれた靴を借りて足を入れてみる。ヨナスさんの足が大きいのか意外とピッタリだ。良かった。


「モンスターを避けるためには何をすりゃいいかな?なんか道具ある?」


「?なんで避けるの?倒せばいいじゃない」


 聞き方がまずかったかな。


「身を隠して攻撃しに行きたいんだよ」


「?なんで身を隠すの?真正面から攻撃すればいいじゃない」


「あ、はい」


 せっかく嘘をついてまで訴えたが、脳筋のアンばあちゃんには全く意図が伝わっていないようだった。ジルちゃんもアルマも大概脳筋だからな……やはりこういう時はイーディスさんしかいないか。って言ったって忙しいからなかなか会えないんだけど。


「この虫除けスプレー?だけ借りるわ。体にかければいいんだよな?」


 虫系モンスターもたまに見かけるしな。


「いいわよ」


「センキュー。じゃ、行ってくる」


 服にかけて、と。デヴィンにも一応かけとくか。小さく呻くような声が聞こえる。イグアナになっているとは言え、デヴィンには感覚とかほとんどないはずなので、ただのノリだろう。可愛いやつめ。撫でる。


 スプレー缶を机に置き、俺は意気揚々と外に出た。


「あのおっきいトカゲみたいなものはなんだったのかしら……?」


 後ろから聞こえる声は聞かなかったことにした。



 ▫



「この靴扱いづらすぎる……!」


 この靴を履いて早々に俺は若干後悔していた。転ぶまではいかないが、塀にもたれかかってなんとか歩いている状態だ。


「いや、歩くんじゃなくて滑るのか?」


 摩擦力が少ないなら、俺がかける力の量も少なくてすむわけで、最初の一行動だけ力を加えればいいんじゃないか。


「おおっ」


 転びそうだが、なんとか耐える。足を外に向ければ力が安定してかかるから予想外の進行方向に行くこともなさそうで、うむ。当たりっぽいな。これは……楽しい。が、平面じゃないとなかなか厳しそうだ。階段とか大変そうだな。


『速いよ!』


 デヴィンに言われる。デヴィンも楽しそうだ、俺も楽しい。アンばあちゃんの庭で調子に乗って俺は円を書くようにクルクル回る。


「こりゃいいな」


 これだけで1日遊べそう。


『これで迷宮攻略する人はきっとラウルが初めてだ!』


「うん」


 いたらビックリだよ。


「よーしこのまま迷宮に向かうぞー!」


『おー!』


 通行人に見られながら俺は走った。




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