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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-6 実験と料理って似てる気がする

「やっと終わった」


『おめっとー』


 この溶液作るまでに1日かかってるが、本題の液体はちゃんと作れるのか。一応グリフォンの羽根は3枚あって予備分もあるし、さっきアンばあちゃんに渡されたメモ通りに調合してみるしかないか。

 その前にこの溶液渡すか。成功しているか確かめるには、1滴取り出して、魔法で調べんのが1番楽だよな。うん、本末転倒。どうやって調べるんだ?とりあえずアンばあちゃんを呼ぶか。


 工房の扉を開ける。作業しているアンばあちゃんが目に入る。


「どこまで終わったんだ?」


 俺が覗き込んで聞くと、顔をこちらに向けた。


「1つ終わったわ」


「このペースなら5日以内で終わるな」


「……。並行してやってるから時間がかかってるの!」


 ってのはさておき。


「で、俺の作った溶液は機能するのか?」


「さっき見た感じだと大丈夫そうだったわよ。後で取りに行く、わ?」


 アンばあちゃんが俺の方に向き直った後固まった。


「持ってきてるぞ。どこに置いとけばいい?」


「……力持ちねぇ」


「姉貴ほどじゃないけどな」


 未だに腕相撲で勝てないしな。出産直後の姉貴にも勝てなかったのはなんとも言えない気持ちになったぞ俺は。

 そう言えば甥っ子に久しく会ってないな。もう俺のことなんて忘れているかもしれない。……もう1人増えたとか言ってたような言ってなかったような。


「そこに置いといてくれる?」


「分かった」


 床の上でいいのか。


「代わりの鍋は?」


「そこのを使っていいわよ」


「助かる」


 持ち上げる。さっきよりは軽いな。


「これ運んだら寝るか」


『それがいいと思う』


「だよな」


 俺の歩幅ならすぐだ。ってことで、鍋をセットする。そういやどこで寝るべきか聞けばよかったな。昨日は作業場で寝たが今日もというわけにはさすがにいかないだろうし。邪魔するのも悪いし宿でも取るか?

 ひとまず外に出る。気分転換がてら散歩するのもいいだろう。


「ねっむ」


『お疲れだねー』


「そういやデヴィン。お前若い時のじーちゃん知ってんだよな?」


 じーちゃんが集めてきた武器の一つなのだから、じーちゃんの若い頃も見ているはずだ。


『んー。どうかな』


 知らなさそうだな。まあ回収されて鞄に突っ込まれただけだろうしそんなもんか。


『ラウルのおじいちゃんってどんな感じなの?』


「じーちゃん?どんな感じって言われても難しいが……。ロマンチストで敬虔者で案外ノリがいい?って言っても孫の俺から見たじーちゃんだからあんま参考にならないかも」


『そうやって言われたらそんな感じだった気もするけど……なんか違う気がするんだよねー』


「何が?」


 そんな会話をしながら探索しているが、宿屋が見つからない。こりゃ船着場近くまで行かないとないんじゃないか。

 計画性がないからこうなるんだよな……。


「今夜は野宿かもなぁ」


『椅子見つけなきゃね』


 考えなしの俺は学生時代はもっと考えなしだったので、宿なしはよくあることだった。おかげでデヴィンも当たり前のように野宿を受けいれている。今と変わんねえじゃねえかって?そうだね。


「……大人しく帰るか」



 ▫



 さて、遅めの朝食もとったことだし、今日も調合をはじめていくか。


「えーとメモに書いてあるのはグリフォンの羽根、精霊樹の根、上質な霊石の欠片、水、中和液、ドードーの爪ってとこか?」


 昨日作ってたのと比べると材料費がかさんでいる気がする。工程も多く、難易度が高そうだ。初心者がやるもんじゃない気がするんだけどまあいいか。


 まずグリフォンの羽根を粉砕すると。磨砕用のすり潰し器ですり潰していく。これある程度切ってからの方が良かったんじゃないか?若干後悔しながら潰す。

 粉になっているとは言い難いが多分最終的に液体になるから大丈夫だろ、知らないけど。さて、これを1g入れればいいのか。量りはこの小さいやつでいいかな。分銅を片側に置いてと……1とは書いてあるが、単位が分かんねえな、まあいいか。

 グリフォンの羽根1/5くらいを鍋に入れる。14回失敗できるな。


 で、精霊樹の根は……メモに書いてある通りの物を探す。なんか見たことある気がするんだよな。どこでだ?植物を干したものが並んでいるここの棚か。ガサガサ中を探っていると、精霊樹と書いてある紙に包まれている木の枝が入っていた。根じゃねぇけどまあいっか。どうやって入れるか書いてないな。量は適当でいい感じ?1本取って鍋に入れる。


 高価な材料を使ってるだけあって、量は少しでいいらしい。……これ、少量で1回作ってから希釈した方が楽なんじゃね?まあいっか。

 水桶から水を汲んで鍋に入れていく。


「順調だな……」


『ほんとかなあ』


 さてここから1時間かき混ぜてっと。この待つ過程が思ったよりキツイ。失敗したら最初からやり直しだからな……。錬金術とは忍耐なのだなぁ。


「中和液ってのはこれか」


 鍋の近くに置いてあったそれをドバドバと入れる。まあこんなもんだろ、多分。


 で、また1時間と。……だるい。で、ここでドードーの爪が使えるかどうか確認するって?ほう。


 この作業にも時間がかかるのか……。別に確認しなくてもいいか。後で投下しよ。


『ラウルって時々バカだよね』


「うっせえな」


 まだ1時間経ってなさそうだけどいいか。いつからかき混ぜてたか忘れたし。

 本来だと高価な時計がたくさん置いてあるのはさすがアンばあちゃんと言ったところか。よし爪を入れてと。


「なんかヤバい色してんな」


 形容しがたい色をしている。匂いもヤバいな。


『石入れてないけどいいの?』


 デヴィンが聞いてくる。


「まあこれは飲みやすく?するための材料らしいからいらないだろ」


 忘れてただけだが。……緩衝材に飲みやすさ?


「もう暗くなってきたな」


 俺は夜目が効くのであまり気にしていなかったが、夜になっているようだ。夕飯どうしようかな。昨日は遅めの夕飯を出店で買って食べたのだが、海の近くだけあって海鮮が美味しかった。


「そうだ、出店で買った謎の葉っぱを煮詰めてみるか」


 八百屋にあったから全部食える葉っぱだろう。初めて見たから買ってみた。名前は忘れた。鍋は……よく洗って昨日調合に用いてたヤツを使おう。多少身体に悪い物が入ってたとしても俺なら大丈夫だ。


 どんな液体ができあがるだろうか。そう言えば八百屋のおじちゃんがその野菜を取るなんて男前だな兄ちゃんとかわけのわからんことを言ってたな。どの葉っぱか忘れたけど。目の前の食べ物が辛いのか苦いのか、ワクワクしてきた。


「雑草みたいな匂いがするな!」


『テンション上がってるねー』


 デヴィンが何故か塩だ。

 手を洗った後、俺は鍋に手を突っ込んで、葉っぱを1枚食べてみた。意外と普通……いや苦い!遅れてくる苦さだ!


『ニヤニヤして気持ち悪いんだけど?』


「そっか。デヴィンはこれ食べれないんだもんな。可哀想に」


『食べれたとしても食べないと思う……』


 本気で嫌がってそうなデヴィンに珍しいなと思いつつ、その様子も楽しみながら葉っぱをつまむ。む、雑草みたいな匂いがしたのはこの葉っぱか。匂いもなかなかキツイな。


「何を食べてるの?」


 扉を少し開けてアンばあちゃんが聞いてきた。


「アンばあちゃんも食べてみる?」


「いいの?」


 そのまま入ってくる。


「……トングとかは?」


 グツグツ煮えたぎる鍋を見てアンばあちゃんが言った。


「……」


 俺だけなら問題ないから用意してないな。


「手渡しでいいか?」


「いいわよ」


 チャレンジ精神旺盛でいいと思う。が、よく考えたら手渡しでも熱さ問題は解決していないことに気がついた。おたまみたいな器具があるので、それをよく洗って渡す。衛生的にどうなんだと思わなくもないが、受け取ったのでいいのだろう。


「……苦いわね」


「だろ?」


「……。よくこんなものひょいひょい食べれるわね」


 苦々しい顔でアンばあちゃんが言った。


「普通の飯じゃ最近満足できてなくてさ。アンばあちゃんなんかいい解決策ない?」


「食事は栄養補給だと割り切ることね」


「なるほどなぁ」


 こういうことに関しては俺側の人間な気がしたので聞いてみると、含蓄がありそうな答えが返ってきた。


「ライ麦で作ったパンが安いし腹にたまるしオススメよ」


 不健康な生活送ってんな。


「たまにご褒美にステーキを食べるの!それがまた美味しいのよ」


「ご褒美はたまに。いいなそれ」


 この苦い汁も今は満足できるが、度々食していたら飽きるのは目に見えている。たまに食べることで、その時期を遅らせることができるかもしれない。


「そういえばアンばあちゃん。緩衝材作ったんだが、できたか見てくれないか?」


「緩衝材?」


「ほらこれ」


「ああ。えーと……薄いわね。これじゃ使えないわよ」


「えー……どうにかまからない?」


「まからないわよ」


 もう1回やり直しかよ……。


「気を落とさないで。また作ればいいのよ」


「はあ……」


 もう寝よう。明日になってもやる気が出る気は全くしないので、気分転換にどっか行くか。アンばあちゃんの仕事が一段落ついたら緩衝材は作ってもらおう。


「じゃあ行くわね」


「依頼の品は終わりそうか?」


「……」


「うん」


 ダメそうだな……。作ってもらうのは無理かもしれない。

 無言で去っていったアンばあちゃんを見ながら俺はそう思った。


 この床で寝るのも3回目か。野宿よりはマシだから全然いいけどな。


『明日はボクを天日干ししてほしいな』


 寝そべって寝る体勢に入ると、デヴィンがそんなことを言ってきた。


「なんで?」


『変形って体力使うからねー』


「お前って、日光で動いてたのか……」


 初耳だしすごいなそれ。

 デヴィンを日光に晒すことを約束して、俺は寝た。




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