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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
2章

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2-5 調合

「珍しいですよ、男性のお客さんなんて!」


 人気の吟遊詩人と言えど、チケットは本人が配っているらしい、嬉しそうに言われた。申し訳ない。俺は代理だ。


 最近アンばあちゃんが推しているらしい吟遊詩人はサラサラの黒髪が目立つスラッとしたイケメンだった。なんかアンばあちゃんの好みが分かってちょっといや大分嫌だ。まあ好みに関しては元から知ってたけど、多分俺より年下だよなこのイケメン。引くわ。


 今更だが握手会ってなんだ?吟遊詩人ってのは歌を聞かせる人のことを言うのではないのか。

 どうやら人気のイベントらしく、長時間並んでいたが、やっとこうしてゲットできた。人気の吟遊詩人は話しかけられることも多いだろうから、統制を取る必要があるのかもしれない。それが握手会ってことだろうか。


 アンばあちゃんに体良く追い払われたのかもしれんなぁ。とか思いながら歩く。もう街並みを見ても心が動くことはない。さっき通った道であり、今まで暮らしてきた街と大差ないと知ってしまったから。どうして新しい街だと人は楽しむことができるのだろう。

 出店を眺める。目新しいものは特にない。

 さっさと帰るか。


「なあデヴィン。お前もしかして錬金術に詳しかったりするか?」


『んー。まあちょっとだけね』


 ふと思い至って、デヴィンに聞いてみるとそんな答えが返ってきた。そう、デヴィンは魔法に関することは全くと言っていいほど知らないが、それ以外はとても詳しい。


「そもそも魔道具ってのは錬金術から派生したもんらしい。錬金術は金属を溶かすことが頻繁にあるが、それには熱がいる。その熱を維持するには魔法を使わなきゃいけないんだが、魔法は才能がいるからな。そこで作られたのが加熱鍋で、それが1番最初の魔道具だったってわけ」


『へー。魔道具ってそういう物だったんだ』


 その時代では今より魔法はずっと使いにくく、選ばれし者しか使えなかったと聞く。

 宝石を消費しながら、事前に道具へと組み込まれた魔法を誰でも扱うことができる。人類最大の発明の一つだろう。


「今じゃ錬金術の方が下火なんだから分かんねえよな。水銀から金なんて作れないに決まってる」


『水銀から金は作れるよ?』


「は?」


『しっかし思ったより化学も進んでるんだねー』


「カガクってなんだ?」


『……なんだろう?』


 俺が聞いてるんだが。

 とはいえ、賢者よりも物を知ってそうなデヴィンに何かを教えるってのは気分がいいな。良い気分転換になった。


 そんなことをしていたらいつの間にやらアンばあちゃんの店に着いていたらしい。


 門近くで休憩していたらしいヨナスさんが困惑したようにこちらを見ているのが見える。まあさっきの俺はひとりごとをブツブツ言ってるヤバいやつにしか見えんか。いや、通話できる魔道具を使っていただけかもしれないじゃん?実際はそんなことないけど。


 俺は振動を使った魔法が一応得意分野ではあるので、その関係で通話できる魔道具は作れる。そんで前作ったやつは気に入ってるので、今も耳に引っ掛けている、まあデヴィンとの会話を聞かれた時の言い訳用でもあるが。


 ってことで俺が耳に着けている魔道具を指さすと、ヨナスさんは納得したような顔をした。


「師匠は今集中しているので、邪魔をしないようにしているんです」


「へえ」


 俺はヨナスさんを無視してそのまま彼の後ろにある扉を開けた。


「アンばあちゃん、握手会のチケットもらってきたぞ!期日は1週間後だ」


 大股で歩きながら大声を出す。俺の声はよく響くので、どれだけ集中していても聞こえるはずだ、多分。


 いるとしたらここだろうか、扉を開ける。ビンゴ。椅子もあるのにわざわざ体操座りで魔道具をいじっているアンばあちゃんがいた。さっきの俺の言葉は聞こえてなさそうだ。


「握手会1週間後だってよ」


 耳元で最大音量の声を出すと、アンばあちゃんが飛び上がった。


「な、なに?」


「やる気出た?」


「ちょっとだけ」


「えー俺が女の集団に揉まれながら頑張ってきたのに?アンばあちゃんは自分の不始末も片付けられないんだな。がっかりだぜ」


 多分こういうことを言って欲しかったんじゃねえかなと思うんだけどどう?


 アンばあちゃんを見ると、目に闘志の炎が宿った気がした。俺に敵意を向けられても困る。手を動かせ。


「で、もう1回聞くが俺に手伝えることはあるか?」


 アンばあちゃんをやる気にさせることに若干飽きた俺はそう言った。


「……相変わらず何考えてんだか全く分かんないわね」



 ▫



「ここはこの混ぜ方でいいのか」


『いいんじゃない?』


 俺はアンばあちゃんが走り書きしたメモ通りに溶液を作っていた。

 走り書きだが整理された文章で分かりやすい。


 こうやって鍋をかき混ぜていると物語に出てくる魔女みたいだな。とか考えながら混ぜる。最終的には手袋に必要な溶液を俺自身で作ることが目標らしいが、とりあえず簡単な調合から、ということを言っていた。


 アンばあちゃんの魔道具は宝石のエネルギー変換効率が抜群に良いが、こういう地道な作業が生きているのかもしれない。

 メモも上手かったし、研究論文も書けばいいのに。


「あっ」


 入れる溶液の量間違えた。失敗か。幸い材料費は高くないらしいので、廃液として捨てる。


「結構難しいな」


『だねー』


 デヴィンも手伝ってくれている。こんなざまでアンばあちゃんの助けになる気は全くしないが、割と楽しい。


「よし、今回は成功だ」


 2回目だからスムーズに終わった。

 メモによるとこの後温めながら2時間かき混ぜなければならないらしい。


「……」


 魔法の代替が魔道具なら、魔道具の代替は魔法で行えばいいのでは?

 俺は鍋の中の溶液を、魔法を用いながら振動によりかき混ぜた。あー魔力が持ってかれるー。


『そう言えば、なんでラウルは魔術学院に就職できるの?通ってたのって武術関連の学校だったよね?』


「ん?ああ。俺が通ってた学校は正確に言うと、王立の軍事指揮官養成学校だ。エリートなんだぞ、俺は」


『エリートなのは知ってるよ』


 おや、それは意外だ。


 軍事指揮官養成学校は、基本的に学費は免除されるし平民でも稼ぎがいい仕事ができるってことで、人気がある。倍率も高い。当然のように筆記試験もあるので、入れた時点で一定の教養は保証される。ってのはさておき。


「まあ端的に言ってしまえば、俺の通っていた学校は一応大学扱いなんだよ。だから講師としてならねじ込めるってわけ」


『もしかしてそれが狙いで学校選んだの?』


「そうだぞ」


 研究者になりたかったからな。当時の俺は、まだヘイマー家の跡継ぎって扱いだったから、その役割から逸脱した学校には通えなかった。

 剣に関しては俺より強く、本来なら当主に選ばれるだろう又従兄弟は性格面に難がありすぎた。

 性格に関しては俺も大概不適なんだが、リーヌスよりはマシってことだ。


 まあ当主問題が解決した後、就職に大変難儀したのだが。


 そんなことを話している間にも魔力がゴリゴリ削られているので、さっき取りに行った手袋をはめて鍋に手を当てた。振動させる。


「それ熱くないの?」


 いつの間にか後ろにいた、眠たそうに目を擦るアンばあちゃんが聞いてきた。


「熱いが」


「ええ……」


 多少の熱では火傷しないので、リスクはゼロに等しいってことで。


「……聞いていい?」


 アンばあちゃんがなんとも言えない顔で聞いてくる。ああ、多分デヴィンとの会話聞かれてたな……。


「嫌だ」


「さっき服の中あたりから声が聞こえていた気がするのだけど」


 俺の拒否は当然のように無視された。


「気のせいじゃね?」


「じゃあ誰と話してたの?」


「友達と」


「……あんたに友達なんていたっけ?」


「前の職場でできたんだよ!俺にだって友達の1人や2人くらい……いる」


 こうやって若干キレながら不快そうに眉を顰めれば大抵騙せる。と、俺は今までの経験から知っている。恥さらしもいいとこだが、今回は良しとする。どうせ俺の幼い時の恥ずかしい行いも知ってんだろうし今更だろう。


「ふーん」


 あんまり納得のいっていなさそうな顔だが、一応納得してくれたらしい。


「でもラウル、意外と嘘つくの上手いのよね」


 あんまり納得していなかった。


「しょうがねぇな。デヴィン、鳥になってくれ」


『りょーかい』


 ナイフになっているデヴィンを取り出して、鳥になるよう頼む。


『ピュイ』


「ってことだ。はあ」


 隠し通すってのはなかなか難しいものだ。今回の場合、絶対隠し通し続けなければならないわけではなかったので、余計に気を抜いていた。


「それは?」


「じーちゃん家の倉庫にあった武器」


「セインはそれ知ってるの?」


「持ち出したことは伝えたけど、こいつがなんなのかは知らなそうだった」


 俺がリーヌスにコテンパンにされて打ちひしがれていた時に偶然見つけたのがデヴィンだった。見つけたってか話しかけられたのだけど。

 誰とも話したくなくて、そういう時はあの倉庫がうってつけだった。


「結局友達って言うのは嘘だったのね」


「いいや、デヴィンは俺の友達だから」


『ピー』


 デヴィンがノリよく翼をあげてくれる。

 俺はデヴィンのことを相棒かつ友達だと思っているが、デヴィンがどう思っているかは分からない。相手は武器だ。俺のことなんてただの台座くらいに思っていてもおかしくない。


「まあ職場で仲良くなったってのは嘘だけどな」


『だねー。結構長い付き合いだよボクたち』


 アンばあちゃんは俺達を奇妙なものを見るような目で見た。


「デヴィンのこと気になったりしないのか?」


「……。気にならないと言ったら嘘になるけれど、その彼?は魔道具ではないみたいだからね。専門外の私が触って壊しても嫌だから見るだけでいいわ」


「へえー」


 宝石も使用されておらず、魔法が組み込まれた形跡もない。どっからどう見てもデヴィンは魔道具ではないが、誰かにそう言われたわけでは無かった。

 今魔道具ではないと、しっかり技術が保証されている魔道具技師に言われた。やはり違ったらしい。じゃあなんだと言われても分からんが。


 しかし、デヴィンを見せてもこういう反応だったらさっさと伝えておけば良かったな。アルマの方がよっぽど危険じゃね?アンばあちゃんの方がマッドなイメージだったからなるべくデヴィンを見せないようにしていたわけだが、未知の物への興味はアルマの方が上ってことかな。


 ……。俺が幻が好きって昔アンばあちゃんに言ったら、謎の歩行器とゴーグルをつけた姉貴がグルグル歩かされてるのを見せられたのを思い出した。俺が困惑していると、ユディトはまっすぐ歩いているつもりなのよと楽しそうに言われたっけ……なんのつもりだったんだあれ。


「頼まれてた溶液だが、まだまだ時間はかかるぞ?」


「知ってるわよ」


 アンばあちゃんが半目で言った。




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