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伝説の婆さん達は今日も騒がしい  作者: 神谷洸希
1章

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1-11 傭兵ギルド

「何も無くて暇だー」


「安全でいいじゃないか」


「そりゃないぜ。そういやモンスターって食べれなくもないらしいな」


「……らしいね」


「どんな味すんだろうな。ちょっと気になる」


「あまりオススメはしないよ」


「アルマもしかして食べたことあんの!?」


「……」


「なあ味教えてくれよ。俺別に食べたいわけじゃなくて味を知りたいだけなんだよ」


「はいはい」


「本当に食べるからな!」


「やめときなよ……」


 そんなことを言いながら探索を続けているが、何もない。モンスターの死骸が転がっているだけだ。本当に何もないんじゃないかこれは。そもそも何かがあるという確証があるわけでもなかったしな。


「しかし、本当に狩りつくしてるな」


「お前がやったんじゃないのかい」


「それは……そうなんだが」


 全然実感がない。偶然の産物でしかないし。

 奇跡とやらも俺は才能があるらしいとジルちゃんからお墨付きをもらっているが、ジルちゃんのことだから適当言ってそうだし何より仕組みが分からんからあんまり使いたくないんだよな。


「デヴィン、もう1回やろう」


『もう敵いないじゃん』


「探知用だから。それに警戒してるだけでまだいるかもしれないだろ?」


『しょーがないなー』


 糸になったデヴィンをもう1回手袋に巻き付けて、見えざる手で引き伸ばす。


「こうやったってわけだな」


「これは……」


 アルマが若干引いてる。心外だ。


「っと。そっちは糸張ってるから気をつけて」


「……」


 アルマが無言ですーっと方向転換をした。何か言ってくれ。

 モンスターが糸に引っかかている感じはしない。


「このまま糸ごと移動すれば早く見つかるかも?」


「……そうだね」


「気に食わなさそうだな」


「どうして糸って発想になったの?」


「へ?いや……蜘蛛型のモンスターは糸で獲物を見つけているようだったから参考にしてみたんだが」


「なるほどねぇ」


 アルマが何かを考えている様子で指を回す。失望されたわけではないようだ。


「このまま加速すれば万の大群でも殲滅させられそうだね」


 と思ったらとんでもないことを言ってきた。それは……ちょっとしか考えなかったけどそうだね。


「私は蜘蛛の糸を見て思っていた。蜘蛛に羽根があり、糸がもう少し頑丈でありさえすれば、空の覇者になれたのに……と」


 なんかアルマが馬鹿なこと言ってる……。

 うん。なんか嫌な未来が見えそうなので俺は首を振った後口角を上げた。


「帰ったらじーちゃんを使って試そうぜ」


「む。お前は試させてくれないの?」


 やっぱりな!俺もアルマに何回も振り回されて分かってんだよ!


「俺はほら、もう実行してるようなもんだろ?これを他の人間ができてやっと技術として確立したって言えると思うんだよなー」


「理にかなってる。そうだね、帰ったらセインで試すことにするか」


 勝った!

 ごめんなじーちゃん。可愛い孫のためだから許してくれるよな?


 目を輝かせてニンマリ笑うアルマを見ながら俺はなんとも言えない気分になった。


「ようやく半分くらいか」


 ここは小規模の地下迷宮だが、じーちゃんが今まで攻略してきた地下迷宮には100階層まであるものもあったと聞く。8階層だけの迷宮で飽きている俺には気の遠くなるような話だ。


 宝石を取りに行く時間があればもっと早く終わったんだがなぁ。


「宝石を取りに行く時間があればもっと早く終わったとでも思ってるのかい?」


「……」


 一言一句俺の考えている通りのことを言われた。


「それじゃあ金を使うばかりだろう。お金は有限だ。いつまで経ってもセインを頼ってちゃいけないよ」


「それは……そうか」


 言われてみれば確かにその通りだった。宝石を砕き続けてるようじゃニートを返上しても穀潰しのままだ。


「魔術学院の講師の件っていつまでに答えりゃいい?」


「やる気になったのかい?」


 アルマが無表情のままだが嬉しそうな顔になった。何を考えているかはよく分からないので、質問に対し素直に答えることにした。


「いや……ちょっと色々考えようと思ってな。このままだと俺が教えられることもねえだろうし」


「ふむ。できれば2ヶ月後には答えて欲しいが、10ヶ月後でも構わんよ。それが限界だけどね」


「猶予は10ヶ月……」


 その間に俺はなんとかして魔法使いを名乗れるくらいには魔法が使えるようにならなきゃいけない。どうしたもんかなと考えながら、おっと。


「何かあったみたいだ」


「へえ」


「場所はここのすぐ下だな。デヴィン、帰ってこい」


『りょーかい。全く武器使いが荒いんだからー』


 デヴィンが鳥になって帰ってくる。鳥の姿が結構気に入ったらしい。


 アルマが気を利かせて絨毯を下に降ろす。

 ここの床が外れそうなんだよな。……本?なんか禍々しいけど。とりあえず手に取る。


「魔導書だね」


「はーこれが。ってことは依頼完了?」


「だね。ありがとうね」


 アルマが絨毯の上に立って俺の頭を軽く撫でた後、手を上に挙げて転移魔法を使った。やっぱ杖いらないんじゃねえか。


「ここは傭兵ギルド?」


「そうだよ。並ぼうか」


「なんでこんなに混んでんだ?」


「昨日でかい地下迷宮が見つかったからねぇ」


「はー大変だ」


 なんでそれを俺と一緒にずっと行動してたはずのアルマが知ってるんだという問いは飲み込んだ。


 地下迷宮の出現でここまで傭兵ギルドが動くのは、実は結構珍しい。じーちゃんの時代はそりゃ迷宮もたくさんあったが、それでも戦争で雇われることの方が多かったと聞く。

 領域外にまで影響が及ぶ規模の迷宮は国に1つあればいい方だ。出現したってだけなら1パーティだけで探索に行けば良い。


 ちょっと興味が湧いたから情報収集してみるか。音を魔法で拾って、と。



 ー


「「ダンジョンでどっかの貴族の令嬢が行方不明になったらしいぞ」」


「「へー。じゃあ依頼主の貴族ってのはお嬢様の恋人か?」」


「「さすがに父親じゃないか」」


「「そりゃそうだ」」


「「いやー、どうやら依頼主がダンジョンを見つけたらしいからな。案外恋人ってのも間違ってなかったりして」」


「「ま、金くれるならなんでもいいがな」」


「「違いない」」


 ー


 ふむ。貴族の依頼か。……もう少しやるか。


 ー


「「聞いた?」」


「「何を?」」


「「新しいダンジョンってのは金が取れるって話だよ!」」


「「そりゃすごい。で、ソースは?」」


「「ない」」


「「あはは!」」


 ー


 次次。


 ー


「「依頼を受けるやつがこんなにいて俺らは報酬を受け取れるのかよ」」


「「問題ないさ。見てみろよ。掲示板を。あのダンジョンが見つかってからこの通りだ」」


 ー


 遠くの掲示板を見ると、確かに紙がびっしり貼ってある。……そもそも掲示板なんてあったんだ。文脈からして依頼が貼ってあるのか?


 1番俺が求めていることを話していそうなそのグループの会話を続けて聞く。


 ー


「「どうやら最初に依頼を出した貴族ってのがその界隈では有名人らしくてな。面白がって他の貴族も探索依頼を出してんだ」」


「「はあ、なんだってまた」」


「「なんだったけな。未来予知ができる男、だったか?そいつがまだ見つかっていないダンジョンのドロップ品を持ってくるよう依頼を出したんだってさ」」


 ー


 ドロップって言うのは地下迷宮で手に入る宝物とかモンスターの素材とかそういうものの総称だ。この話が正しいなら、随分変な話だ。


 ー


「「その男が言うには、今回見つかったダンジョンにはどんな願いも叶えうる古代文明の遺物があるんだってさ」」


「「へえー。お貴族様はそれを探してるってわけか」」


「「そういうこと。でもそんな依頼じゃ誰も受けたがらないからな。こうしてなんでもいいから持って来いって依頼を出すわけ。そんな宝物があったら見つけたヤツが使うだろ?」」


「「違いない!」」


「「酔狂で金が手に入るなら安いもんだ!」」


 ー



 なるほど。今までの中で1番信憑性が高そうな話だ。まあ未来予知ってのは胡散臭いが。


 しかしどんな願いでも叶えうる古代文明の遺物?なんかどこかで聞いたことがある話なような……。


「おい、順番だよ」


「あ、ああ悪い」


 どうやら考え込んでいる間に俺達の順番が回ってきたようだ。傭兵ギルドでこんなに律義に並ぶのはこの国ならではだよなとぼんやり思う。別の国のギルドじゃ押しのけ合いだったぞ。あれはあれで楽しかったけど。


「依頼を無事完遂した。依頼主のお墨付きだ」


 俺がそう言うとアルマが頷く。


「分かりました。依頼完了、ですね」


 何らかの書類に書き込んでいる。


「ありがとう」


「いえ、……この依頼でAランクに上がれますがどうしますか?」


 ……Aランクって何だ。聞きたい気持ちに駆られるが、後ろからの目が痛い。


「アルマ、これって上がっていいもんなのか?」


「好きにしなよ」


 ええ……。

 無条件に上がっていいものじゃなさそうだな。


「保留ってできます?」


「ええ」


「じゃあそれで」


 俺はもっとゆっくり考えられる時に決めることにした。こうやって先送りにするから俺は今ニートをやっているんじゃないかと思わなくもないが、考えないことにした。


 列から出る。


「ギルドにランク制度なんてできたんだな」


「……。私が若い頃からあるけど」


「そんなのあったんだ……」


「依頼を受けるに値するかどうかの信頼度みたいなもんだよ。お前は評価が高いらしいね」


「うーん」


 子供の時は父に言われて渋々依頼を受けていたってのと、後RTAの時に練習がてら利用したからそん時か?


「ちなみにアルマは何のランクなんだ?」


「Sだよ」


「へえ」


 ランクの順番が分からないから、聞いてもよく分からなかった。


「1番上だよ」


 分からないという顔でもしてたのか、アルマが続けてそう言った。


「すげ。さすがアルマ」


「本当に思ってる?」


「ごめん。アルマなら当然だろと思った」


「……はあ」


 呆れたように首を振られた。そんな流れだったか今。


「私は地下迷宮の侵略機構を倒すという依頼を達成した傭兵だからね。1番上で当たり前なんだ。私のことを本気で尊敬しているならそれくらい知っておくように」


 思わず目を見開く。


「ふん」


 アルマがそんな俺を見て少し愉快そうに鼻を鳴らした。


「ちなみにAランクになると何が起こるんだ?」


「指名依頼が来るようになるよ」


「いやすぎる」


 保留にしておいて良かった。







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